アスに向って蹴れ マシュー・ヴォーン 『キック・アス』
教育的な事情なせいかなかなか日本で公開されませんでしたが、封切られるや否や上映館が大盛況となっている『キック・アス』。この新感覚アメコミヒーロー映画を、本日は紹介いたします。
平凡なアメコミオタク少年デイヴはいつも疑問に思っていた。ヒーローに憧れる者は数多くいるはずなのに、どうしてこの世には「スーパーヒーロー」が存在しないのか。そこでデイヴは自らスーパーヒーロー「キック・アス」になることを決意する。だが何の特殊技能も持ち合わせていないもやしっ子のデイヴが、屈強な犯罪者と取っ組み合ったらどうなるか。答えは火を見るよりも明らかだった。しかしそれでも「ヒーロー」を諦めないデイヴ=キック・アス。ある時彼が強盗に苦戦している姿が、ネット上に公開されてしまう。キック・アスは一躍時の人となる。するとそれに呼応するように、何人かの「ヒーロー」が活動を開始しはじめる。一方で街を牛耳るマフィアは、キック・アスを仕留めることに血道をあげるようになっていく・・・
わたしはアメコミヒーローというのは、基本的に狂気をはらんだ存在だと考えています。まあアメリカはああいう成り立ちの国なので、警察だけには任せておけない、自分たちも犯罪と戦わなければ・・・・という気持ちになるのはわかります。ですが、ならばどうしてあんな派手派手なコスチュームを着なくてはいけないのでしょう。正体を隠したいならもっと目立たないようにするべきでは? 実際にあんな格好をしてみたいと思うのは、それこそ子供かコミックオタクくらいのものでしょう。
主人公のデイヴくんはまさしくそんなコミックオタクの一人。「なぜ誰もヒーローになろうとしない」と主張しますが、それは友人からもつっこまれているように、ほとんどの人には超能力もなければ莫大な財産もないからです。
しかし狂気にかられているデイヴくんには、その言葉は耳に入りません。すごーくゆるい特訓をしただけで「もう大丈夫だ」と思い込んでしまう。そして「ヒーロー」を実践するわけですが、このあたりは観ていて二重の意味で、すごく痛々しい。普通ならそこで懲りるはずなのに、さらにファイトを燃やしているのがキック・アスのすごいところ。やはり頭のネジが一本抜けているとしか思えません。
しかしまあ、ここまででないにせよ、十代男子というのは程度の差こそあれ、こんな狂気に駆られるものかもしれません。まったく根拠もないのに異常に自信に満ち溢れ、ついつい自分に酔ってしまう。あのころの姿をドキュメンタリーで見させられたなら、多くの人は恥ずかしさのあまり即死することでしょう(他人事のように)。そしてそうした情熱とか自己陶酔といったものは、彼女が出来て大人になってしまうと自然に冷めてしまうもの。キック君もその例外ではなく、この辺ちょっとさびしかったりします。
しかし映画はなんちゃってヒーローのお気楽話だけでは終わりません。ここで本当にいかれているヒーローが登場します。その名はビッグ・ダディ。犯罪者となれば容赦なく撃ち殺し、年端もいかない我が娘を殺人マシンに作り上げてしまう。そもそも戦う動機が人々の平和を守るためではなく、己の復讐欲を満たすためです。
多くのアメコミヒーローがそれほどいかれて見えないのは、彼らのほとんどが殺人を自らに禁じているからです。しかしビッグ・ダディにそんな常識は通用しません。本当に力を持つ者が暴走するととんでもないことになってしまう、いい見本。その前にキック・アスはなんとも無力に見えます。
そんなビッグ・ダディに寄り添うのが、彼の相棒でもあり娘でもあるヒット・ガール。やってることはお父さんと一緒なんですが、なぜだか彼女はいかれているようには見えません。それはたぶん彼女がまだ子供だから。大人が仮装パーティーでもないのにヒーローのコスチュームを着てたら、普通ぎょっとしますが、子供の場合はかえって微笑ましく見えたりします。そして子供は大人からほめてもらえると、どんなことでもひたむきにがんばるものです。本当に親の教育って大事だなあ、ということをしみじみと感じさせるキャラクターです。
かように、多くのアイロニーに彩られた『キック・アス』。それもそのはず、原作者は怪作『ウォンテッド』も手がけたマーク・ミラー(映画よりもっとぶっとんでます)。ただヒーローたちをおちょくり、皮肉り、こきおろしながらも、この映画からは彼らに対する愛情が感じられてなりません。なんて歪んだ愛情でしょう。
自分酔いが高じてヒーローをやり出したキック君。痛々しさのあまり目を覆わんばかりだった彼が、クライマックスではなんと雄々しく見えることでしょう。きっと原作者も監督のマシュー・ヴォーンも製作のブラッド・ピットも、「ヒーローなんて・・・・」と斜にかまえながらも、本当はなりたくてなりたくてたまらないのです。わかる! その気持ちは非常によくわかる! でもブラピ、家庭(特に奥さん)のことも大切にな!
そんな『キック・アス』はまだまだ一部で絶賛上映中ですが、もう再来月中旬にはDVDが出ます。早ええ! 恐らく今後米国と公開のタイムラグがある映画は、どんどんそうなっていくことと思います。
監督マシュー・ヴォーンは現在X-MENサーガの新たなる幕開けとなる『X-MEN:ファーストクラス』を担当中。変化球だった本作に比べて、王道とも言えるこの素材を彼がどう料理するのか、興味津々で待ちたいと思います。あと配給会社のみなさん! 本国でこけた格闘ラブコメアメコミ映画『スコット・ピルグリムVSザ・ワールド』の公開を、どうぞよろしく!
Comments
どうも、伍一さん、
hino氏が忙しくてこんなに面白い伍一さんのレビューがまだ読めないなんて、、、可哀そう。
私、ハリポタの最後のもキックアスも観ていないのです。ハリポタは3か4を映画館で観た時に眠くなっちゃったもんで。。。。なので、いくら家の近所の男の子がちょい役で出ていても(一つ前のシリーズ)、その後観に行っていなくって。。。。。やばやば。
伍一さんの女の子のイラスト、素敵。今回といい、トロンのといい。。。
Posted by: まみっし(hino氏の義姉) | January 17, 2011 10:42 PM
あー、DVD買っちゃおうかなぁ。
久しぶりに萌え燃えヒロインに出会いました。
最高っす。あの空中リロードとか惚れ惚れします。
続編は早くしてくれないと、彼女が大人になっちゃいますw
Posted by: KLY | January 17, 2011 11:11 PM
>まみっしさん
毎度ありがとうございます
hinoさんは本当によく働かれますよねー 一方でわたしはこんなに映画ばっかり観ていてお恥ずかしい
ハリポタに近所のお子さんが出てたんですか! すごいな~ ちなみにわたしは1、2、4、5を劇場で、3をテレビで観ました。さすがに完結編くらいは劇場で見とこうかな、と思うのですが・・・
イラストはオカッパ二連発ですね(笑) やはりむさいオヤジより、かわいい女の子の方が描いていて楽しいです
Posted by: SGA屋伍一 | January 18, 2011 07:57 PM
>KLYさん
毎度ありがとうございます
DVD,初回版は6千円だそうですよ! 足元見てますよね!
正直わたしも最後にヒットガールちゃんがヅラをはずすシーンにはくらっときてしまいました。いかん・・・ ロリコンの道にはまってはいかん・・・
クロエ・モレッツちゃんはとりあえず『僕のエリ』リメイクでまた会えるようですね
Posted by: SGA屋伍一 | January 18, 2011 08:00 PM
伍一くん、アメコミンスコー☆
いやはや、ニヤニヤしながらクロエちゃんの絵を描く伍一くんが目に浮かびますわ。
やっぱり情熱が違いますねぇ。
これはDVD買っちゃうよね。
R15なのに、息子に見せたくてうずうずしちゃう私。
いけない母です。
機内映画でやっていたのに、おりこうに見なかった息子。
母だけが、ビッグダディだー
Posted by: ノルウェーまだ~む | January 20, 2011 09:48 AM
>ノルウェーまだ~むさん
キックアンスコー おはようございます
確かにヒットガールは描いていて楽しかったですけど、「ニヤニヤしながら」って、なんか変態みたいじゃありませんこと?
そりゃまあ確かにちょっとは変態かもしれませんが、あくまでほんのちょ~っとで人畜無害です。何が言いたいんだろう、自分
息子さんはマジメな子ですね。感心感心。でもたぶんもう三四年くらいしたら、部屋に成人向けの雑誌を隠し始めると思いますよ。がんばって探してください(笑)
Posted by: SGA屋伍一 | January 21, 2011 07:37 AM
こんばんわ★
『スコット・ピルグリムVSザ・ワールド』は面白いのかなぁー??
よくツイッターでもみかけるし、有名なアメコミなのよね?
グリーンホーネットはそれほどじゃなかったの。
ゴンドリーはどうなっちゃうんだろ。
ヒーローものとゾンビものとゾンビの方が好きでしょう?との質問だけど、
答えはどっちも同じくらい好き。
バットマンが一番すき。
ゾンビはロメロの全般。
ナイトオブザリビングデッドは是非ともみて頂きたいわ!
明日は映画もみるのかな?夜のも参加できるといいね〜★
Posted by: mig | January 21, 2011 11:56 PM
映画のこと触れ忘れちゃった、
ニコちゃんのことが書いてないよ??
あの真面目そうな風貌がまた良かった。
あっさりやられちゃったけど。。。
DVDは3月じゃなかったかな??
ゾンビランドもベストキッドもぼくエリも買わなくちゃ〜
お金大変!廉価版まで待とうかな、、、
Posted by: mig | January 21, 2011 11:58 PM
>migさん
わざわざ追加してコメントありがとう~
『スコット・ピルグリム』は劇中で女の子が「読んだ」って言ってたね。原作は『うる星やつら』のような話らしいのだけど(笑)、興行はともかく向こうで見た人たちの反応はかなり良かったらしいし、監督は『ホット・ファズ』のエドガー・ライトだから間違いなく面白いと思うよ!
『グリーン・ホーネット』もあんまり評判よくないけど、必ず見にいくっす
それにしても今年は『RED』がまずあるし、キャプテン・アメリカにマイティ・ソーにグリーン・ランタンにアメコミ映画だらけだ・・・ 『バットマン』もいよいよ新作に向けて動き始めてきたね
ニコちゃんは熱演してたけど、痛さではキック方が、かっこよさではヒットガールの方が目立ってたかな~ でも火出あぶられながら悶えてるところはやっぱりニコラスならでは、という感じだった(笑) 最近精神的に不安定みたいでちょっと心配・・・・
今日は『エリックを探して』を見てからやんわり下北沢に向います。すれちがいになっちゃうかもしれないけど、会えたらよろしく!
Posted by: SGA屋伍一 | January 22, 2011 09:40 AM
今更コメントでごめんなさい。
ビッグダディ親子はどうも
『キリングフィールド』のクメール・ルージュを思い出してしまい、
後味悪かったですね。
さわやかなラストでごまかすなっつて(笑)。
なるほど全編狂気にあふれた映画でしたか。
確かにそうですね。
>クロエ・モレッツちゃんはとりあえず『僕のエリ』リメイクでまた
!!あのロリエロ映画(非常にエロティックなロリ映画)をリメイクですと!?
Posted by: かに | February 24, 2011 07:17 PM
>かにさん
いやいや、こちらこそご無沙汰してる上に返事まで遅くなってすいません~
実はわたしもポル・ポトの側近の子供たちのことを思い出したりしたのですよ。子供は純粋であるがゆえに、時としていくらでも残酷になれるんですよね
この映画、決してダディ親子を肯定はしてないと思うのですが、その辺がひっかかった人も多いようですね
エリロリのオリジナルはDVDも出たいまごろ、こちらで公開しております。クロレッツチャンの将来が心配だ・・・
Posted by: SGA屋伍一 | February 27, 2011 07:53 PM
こんばんは!毎度のことながら遅レスごめんなさい。
その後、停電はどんな具合でしょうか。
アメコミヒーローの狂気はらんでる感が、原作のデイヴくんのキャラクターはもっと色濃いんですけど
映画のデイヴはなんとなくぼーっとした印象で影薄かったです。
その分、ヒットガールちゃんが最高すぎるので、まあいいんですけど。
上映してるうちにもう一回観ときたい!と思いつつ、ニュースにくぎ付けになってるうちに終わってしまった。
と思ったらもうDVD出てるし〜
あ、『ウォンテッド』の原作も読んでみたいなぁ。
Posted by: kenko | March 31, 2011 06:51 PM
>kenkoさん
こんばんは! いや、全然かまやしないのですが、kenkoさんちょっと元気ないのかな?と心配しておりました。それにわたしも少し遅いし(^^;
停電はいまのところ夜に二回あったくらいですね。このまま暖かくなればほとんどなくなると思いますが、問題は夏ですね~
そう、町山さんが帯でも書いてましたが、原作はもっとこうビチャビチャッと血なまぐさい話のようですね。アメコミ者としては読まねばならないのでしょうけど、まだ買ってません
最近本国では第二巻が出たそうですが、映画の続編の方ははやばやと暗礁に乗り上げたそうです(笑)
Posted by: SGA屋伍一 | April 02, 2011 06:28 PM