« ドーバー海峡冬景色 フィリップ・リオレ 『君を想って海をゆく』 | Main | 貨物線大爆破? トニー・スコット 『アンストッパブル』 »

January 31, 2011

下北沢は燃えているか 第二回下北沢映画祭グランプリ・準グランプリ作品上映会 片岡翔 『ゲルニカ』 今泉力哉 『最低』 ほか

110131_193859先日下北沢において、個人的に勝手に応援している自主映画作家・片岡翔監督の最新作が上映される機会がありまして、足を伸ばしていってきました。イベントの名は「第二回下北沢映画祭グランプリ・準グランプリ作品上映会」。秋に行われた同映画祭のグランプリ・準グランプリを取った作品の再上映と、各々の監督が撮った新作をあわせて上映しようという内容です。HPはコチラ。では順々にささっと紹介していきます。最初にあげてあるのが受賞作、二番目に書いてあるのが新作です。

今泉力哉 『最低』『TUESDAYGIRL』

『最低』はとあるストーカーと、三股をかけている男と、彼らを取り巻く女性たちの人間模様を描いた作品。『TUESDAYGIRL』は結婚を決意したカップルと、お互いが「当たり前」になっているカップルの心の流れを追った作品。軽妙な会話でゲラゲラ笑わせてくれましたが、ラスト直前でぴたっと音がやんで、見るものの心にグサッと棘をさしていきます。

明確な悪意があるわけでもないのに、その優柔不断さがいつの間にか誰かを傷つけてしまったり。一方が幸せになるとき、対照的に不幸になっていく者もいる・・・ 
そんなわたしには縁遠い男女関係の機微が非常にリアルに描写されていて、恐らく(本人は否定してましたが)今泉氏も相当経験を積んでおられるのでしょう。実際美人の奥さんがおられるようですし。
不可解なのは、その今泉さんも作中の男たちもヒゲをもじゃもじゃ生やかしたむさ苦しい風貌(すいません・・・)なのに、どうしてそんなにもてるのかということ。でも思い起こしてみれば、同級生の中にも時々いましたね。顔もぱっとしないし、とりわけ性格がいいわけでもないのに、なんかやたらとモテてたヤツ。世の中よくわからないことばっかりです。
あと先も述べましたが男の方が大体無精ひげを生やしていたり、女性の方も突然ばっさり髪を切ったり、ドライヤーでなびかせて嫌がらせしたり、そんな「毛」の使われ方がいちいち印象に残る二作品でした。
今泉監督はすでに商業デビューを飾っておられ、その第一作『たまの映画』が現在公開中であります。


奥田昌輝 『くちゃお』『オーケストラ』

こちらの二本はアニメ作品。『くちゃお』は年中口をくちゃくちゃさせている少年の日常と冒険を描いた作品。濁った色と奔放な輪郭、長唄のようなナレーション・音楽が愉快であるとともに、どこか不安をかきたてます。
個人的には伝説のトラウマアニメ『チコタン』に似たノリを感じました(『チコタン』はニコニコ動画で観られますが、これ本当にトラウマになるのでくれぐれもお気をつけください)
もう一本『オーケストラ』は個人ではなく、三人で共同で作った作品とのこと。こちらは『くちゃお』とは対照的に、簡潔な線がクラシック音楽をバックに上品なダンスを見せるアニメ。こちらはYOUTUBEで観ることができます。
現在修士課程を卒業を間近に控えた奥田監督は、近々ドイツで行われる児童映画専門の映画祭「キンダーフィルムフェスティバル」に招かれているとのこと。ただ卒業後の進路に関しては「なにも決まってない」そうで。この感覚、下北沢ですね。


片岡翔 『くらげくん』『ゲルニカ』

さて本命。『くらげくん』に関しては昨年夏にレビューしましたのでコチラをご覧ください。いや~、いい作品だとは思いましたが、その後国内の様々な映画祭で13個も賞を取るとは思いませんでした。

で、『ゲルニカ』の方。寒そうな歩道を歩いている少年と少女。少女はもうじき遠くに引っ越すと言う。寂しさを埋めるかのように、会話を交わす二人。その会話の節々に、人が住んでいない一軒の家に入っていく少年の姿が挿入されます。
片岡監督は「まったく違うタイプの映画を三本続けて撮ろうと思った」とのこと。うち一本が『くらげくん』。もう一本がさらにその前に発表された『Mr.バブルガム』
確かにムードはだいぶ違いましたが、『くらげくん』と共通しているところも色々あり。母の都合で遠くに行かなければならない幼馴染み。子供であるがゆえにどうしてやることもできない少年。ヒロインの衣装もどことなくくらげくんに似ています。二つの作品は、出発点を同じとして正反対に歩いていった、そんな関係にあるのではないかと(ついでに言うなら『Mr.バブルガム』も「○を決意したお父さん」というところでつながってるかも)。

現在と過去が交錯するにつれ、次第に明らかになっていく真実。孤独が狂気を産み、そしてその狂気がまた別の孤独を生んでいく。そんな哀しい連鎖が物静かに語られていきます。去る者も置いていかれる者も両方辛いのでしょうけど、きっと置いていかれる者の方が、ずっと辛いはず。これまた今泉監督とは別の形でこちらの心を深く突き刺していきます。そして21分という短さが、かえってその刃を鋭くしております。

少年は恐らくどうにもできなかったことを悔やみながら、この後の長い人生を歩んでいくのでしょう。それが少女との約束を果たすことになると信じて。少年が空き家で最後に見つけたもの。それは「本当は君とずっといたかったんだよ」という少女からのメッセージのように、わたしには感じられました。

110131_193934片岡監督は既に何本かの新作を準備中ですが、その前に下北沢の「トリウッド」において二月末より今泉監督と連動の特集上映が催されるとのこと。『Mr.バブルガム』『くらげくん』、そしてこの『ゲルニカ』が一気に見られるという大変オトクな機会ですが、HP見るとまだ予定に入ってないな・・・ ご興味おありの方はまめにのぞかれてみてください。
代わりといってはなんですが、それぞれの予告編を貼っておきます。
Mr.バブルガム
くらげくん
ゲルニカ


|

« ドーバー海峡冬景色 フィリップ・リオレ 『君を想って海をゆく』 | Main | 貨物線大爆破? トニー・スコット 『アンストッパブル』 »

Comments

伍一さん、

どうもありがとう。(近所の男の子の妹にサイトを教えますね。良い子達なので御安心ください。12年位知っている子達です。)

migちゃんの弟さんの映画、日本で機会があれば観に行きたいと思っていますが、レビューがあると予習出来る部分もあるし、ありがたいです。
hino氏のブログから、どんどんとリンクハシゴしてみたりして、色々な方のレビューを垣間見る事も出来て楽しませていただいています。
伍一さんのは活字系なので、日本語が多少難しく感じられるかもしれませんね。

Posted by: まみっし | January 31, 2011 10:43 PM

なんというか、『ゲルニカ』が1番商業作品ぽかった気がします。
役者さんがある程度プロだったってのもあるんでしょうけどね。
ところで『たまのえいが』どうしようかなぁ。w

Posted by: KLY | January 31, 2011 10:55 PM

伍一くん、下北ンスコ~☆
似てる!今回絵がとっても上手!!(パチパチ)
いい作品をいっぱ観られて、羨ましいです。
代わりにねえねが行ったけど、また遅刻したらしいね。(爆)
ちなみに私もいつも「遅れると思った」と言われる方です。
「ゲルニカ」いつか観られるかしら・・・・
ここで翔さんの特別上映をやってしまうとなると、当分見られないのかなぁ。

Posted by: ノルウェーまだ~む | February 01, 2011 09:05 AM

伍一くんありがとう
三時間の睡眠にるのにわざわざ来てくれて。
またもや淡々と、でも鋭く捉えたレビュー☆
なるほど、
翔は今日も撮影、来週札幌とめちゃめちゃ多忙だけど今度これも読ませてもらうわ
次回の宣伝まで感謝☆
一番にくるはずが乗り遅れてしまったわ、皆さん早い!
いまスタバなんだけど今泉氏の絵みて笑っちゃった!(^w^)
最後のゆうやくんも似てる☆
過去最高の出来じゃない♪
トリウッドの更新遅いわ
あ、2月のリストにこれも追加しておかなきゃ

あとでTBしまーす

Posted by: Mig | February 01, 2011 01:37 PM

>まみっしさん

毎度ありがとうございます それじゃわたしもその子の出てるハリポタを見ておいたほうがいいかな~ 今度良かったら何作目のどのへんに出てるか教えてください
翔監督の映画、これからもいろいろ公開されるので、ご帰国の際はきっと見られる機会あると思いますよ。migさんとこからもリンクしてあるけど、わたしも一応公式サイトのURL貼っておきますね

http://www.nekomefilm.com/

ブログで色々な人の感想見るのは楽しいですよね~ PC始めるまでは、映画ってただ見て終わりという、それだけの趣味でしかなかったなあ・・・ まあそういう楽しみ方も、それはそれでアリだと思いますが

Posted by: SGA屋伍一 | February 01, 2011 06:33 PM

>KLYさん

毎度ありがとうございます
そうですね。今泉監督作品も大変面白かったですけど、あの独特なまったりとしたテンポは、やや人を選ぶところもあるかも?
『ゲルニカ』はテンポ・ストーリーテーリング共にさくさく進んでいきますからね。ただ21分一本では商業が成り立たないのが辛いところでありんす

KLYさんが『たま』をまだ見てないとは意外。よっぽど苦手なもの以外、新作は全部おさえてると思ったので~

Posted by: SGA屋伍一 | February 01, 2011 06:40 PM

>ノルウェーまだ~むさん

キャッツアインスコ~ こんばんはであります
いや~、本当まだ~むさんも一緒に見られたらよかったのにね
そうそう、ねえねちゃんともちょっとだけどお会いしましたよ。最初見ないと思ったらやっぱり遅刻してたのか(笑) 実は記念撮影では、わたくし図々しくも隣に写っております 一緒に「チムチム」というウサギのマスコットキャラクターを持ってね

まだ~むさんならDVDとかmigさんから回してもらえるんじゃないかな? でもその内またさらに大々的な特集上映とかあるといいですね~ 短編を集めたDVDも出るといいなあ

Posted by: SGA屋伍一 | February 01, 2011 06:46 PM

>migさん

スタバからわざわざありがとう! 最近は上京の日はこういうパターン多いから、全然大丈夫だよー
わたしも昨日そっちに行こうと思ったんだけどね、なんでか昨日は力尽きて寝てしまった・・・ あとで行くでやんす

翔監督は病みあがりなはずなのに、相変わらず忙しいようだね。でも間を置かずに新作見られそうで楽しみだな

絵も毎度ほめてくれてありがとう。実は今泉監督はかなり自信ありだ(笑) ご本人に見て欲しいような、見て欲しくないような不思議な気持ちであります

トリウッドの特集上映もなんとか行けそうな感じ。またよろしくね

Posted by: SGA屋伍一 | February 01, 2011 06:52 PM

伍一さん、こんばんは。おそくなりました(汗

いきなり今泉監督!笑いました〜!
そっか、わたし『Mr.バブルガム』未見ですが、3本とも繋がるとこあるんですね。観なくちゃだー。
新作も続いてるし楽しみですね☆伍一さんともまたお会いできそうですし♪
ゆうや君も似てる〜と思ったらくらげくんまで!笑

TBさせていただきました(*´v゚*)ゞ

Posted by: tomoco | February 03, 2011 08:03 PM

おはよう伍一くん

あ、まだ〜むには過去のは数作、父宅で観てもらってるんだけど
新作については映画祭や上映会でみてもらいたいのでってことで私にすらギリギリみせてもらう状態なのよ〜。

今泉氏の顔が戦場カメラマンにもみえてきた

で、下北の情報が出たので私のblogに載せたのでチェックしてみてね★
夕方からだから夜食べても遅くはならないよね、
トリウッドは下北映画祭とは違うので打ち上げはないので終電はダイジョウブよ(笑)
ゆきえちゃんもきてくれるって。

Posted by: mig | February 04, 2011 10:29 AM

>tomocoさん

こんばんはー こちらも一日遅れですいません
会場に入る時、「いかにも下北沢って感じ(映画人・演劇人風ということ)な人がいる・・・・」と思ったら、それが今泉監督でした(笑) 一度見たら忘れられない風貌ですね

とりあえず今月トリウッドの特集上映は参ります。来月の六本木のイベントもなんか行けそうな感じだ(笑) もしその節にお会いできましたら、また好きな俳優さんのお話などいろいろ聞かせてくだされ~

ゆうや君は映画とリアルのギャップが面白い子でした。くらげくんともども、これからも活躍していってほしいですね!

Posted by: SGA屋伍一 | February 04, 2011 08:09 PM

>migさん

またまたありがとん
なんか情報見ると監督ここんとこハードスケジュールで大変そうだね。migさんもいろいろサポートお疲れさんです
しかしもう来月に新作が見られるとは思わなかったな~ まだ~むには悪いけど、楽しませてもらおっと(笑)
というわけで六本木も今のところなんか行けそうな感じ。いい加減毎回毎回うっとおしいかもしれないけど

今度は翌日も休みとったので、終電でもそれなりに眠れそうだからご心配なく~ 
hinoさんとまたエビ会話できるのも楽しみだな。彼女はようやっと『くらげくん』が見られるわけだね

Posted by: SGA屋伍一 | February 04, 2011 08:23 PM

こんばんわ♪
諸事情により記事UPがとっても遅くなっちゃいました・・・

その節はお世話になりました。
打ち上げ参加できなくて残念・・・
山口監督目の前にずっといらしたのに(涙)
まぁ、ほとんどお話できなかったのだけど・・・

今泉監督のイラスト似過ぎ!(笑)

Posted by: maru | February 07, 2011 01:31 AM

>maruさん

おはようございます(時間差)
いやー、何もお世話してないのに恐縮です。こちらこそ楽しい時間をありがとうございました
打ち上げ行けなかったのは残念でした。翌日も用事あったので。なければカプセルホテルかネカフェにでも泊まって無理矢理参加したのですが。maruさんは終電逃しちゃって大変だったり楽しかったりしたみたいですね(笑)
山口監督の作品は、実はわたしも『クロマティ高校』しか見てません この方の作品もシネコンではほとんどかからないものばっかりですね

調子に乗って言っちゃうと、今泉監督ははっきり言って書きやすいです(爆)

Posted by: SGA屋伍一 | February 07, 2011 08:31 AM

書きやすい今泉です。どうも書いていただきありがとうございます。
新作「終わってる」が3/5からポレポレ東中野でレイトショー公開されます。同時期にトリウッドで片岡さんとの上映もあるし、なんやかんや嬉しいです。これからも何かありましたら、絵、かいてくださいませ。今泉力哉

Posted by: 今泉 | February 09, 2011 03:35 AM

>今泉さま

・・・・あああ~っ ご本人さまに見つかってしまった~ッ

どうか数々の無礼な発言、平に平にご容赦くださいませ。すべてはもてない男のひがみとゆうことで
m(_ _;)mm(_ _;)mm(_ _;)m(土下座三連発)

お詫びといってはなんですが、またいい機会ありましたらぜひ作品見たいと思います。ちょうどいま近場の小田原で『たまの映画』がやっているのですが、これなんとか見にいけたらいいな・・・と

Posted by: SGA屋伍一 | February 09, 2011 08:52 PM

Post a comment



(Not displayed with comment.)


Comments are moderated, and will not appear on this weblog until the author has approved them.



TrackBack


Listed below are links to weblogs that reference 下北沢は燃えているか 第二回下北沢映画祭グランプリ・準グランプリ作品上映会 片岡翔 『ゲルニカ』 今泉力哉 『最低』 ほか:

» 第二回下北沢映画祭グランプリ・準グランプリ作品上映会 [LOVE Cinemas 調布]
昨年の秋口に行われた第2回下北沢映画祭。そこでグランプリと準グランプリを獲得した作品と、それぞれの監督の新作上映会が行われたので参加してきました。場所は当然下北沢。当ブログのお目当ては当然ながら片岡翔監督の新作『ゲルニカ』。ピカソの絵の名前を冠したこの作品、一体どんな作品なのでしょうか。... [Read More]

Tracked on January 31, 2011 10:09 PM

» 「ゲルニカ」都内初上映 第2回 下北沢映画祭グランプリ・準グランプリ作品上映会 [我想一個人映画美的女人blog]
ランキングクリックしてね ←please click 以前告知した 昨年行われた下北沢映画祭での グランプリと凖グランプリ受賞監督作品と新作&過去作品上映会が 22日土曜日夜 北沢ホールにて行われて、行ってきました 「最低」(第二回下北沢映画祭準グランプリ作品)  ...... [Read More]

Tracked on February 01, 2011 02:15 PM

» 片岡翔監督作品『くらげくん』『ゲルニカ』 [まいふぇいばりっと ゆる日記]
先週の土曜日、 「第二回下北沢映画祭グランプリ・準グランプリ作品上映会」 に行ってきた。 その名の通り、去年の9月に行われた第二回下北映画祭での グランプリ&準グランプリ受賞作品と、 その3人の監督たちの新作の上映会。 私のお目当ては、 グランプリを受賞した... [Read More]

Tracked on February 03, 2011 07:59 PM

» 『第二回下北沢映画祭グランプリ準グランプリ作品上映会』 [・*・ etoile ・*・]
'11.01.22 『第二回下北沢映画祭グランプリ準グランプリ作品上映会』@北沢タウンホール とっても長いタイトルだけど、昨年秋に下北沢で開催された『第二回下北沢映画祭』でグランプリ、準グランプリを受賞した作品の上映会。各監督の新作も合わせて上映。昨年秋の映画祭には行けなかったのだけど、グランプリを獲得したのは、お友達のmigちゃんの弟さん片岡翔監督の『くらげくん』 なんと観客賞とダブル受賞 『くらげくん』は『PFF Award 2010』で1度見ているけれど、新作『ゲルニカ』が是非見てみたかっ... [Read More]

Tracked on February 07, 2011 01:21 AM

« ドーバー海峡冬景色 フィリップ・リオレ 『君を想って海をゆく』 | Main | 貨物線大爆破? トニー・スコット 『アンストッパブル』 »