台湾極道青春記 ニウ・チェンザー 『モンガに散る』
本日は昨年台湾で映画最高動員記録を樹立し、先の東京国際映画祭においても好評を博した『モンガに散る』をご紹介します。
1986年、台北一の歓楽街モンガ。母の事情で学校を転々としてきた少年モスキートは、新しいクラスでさっそくイジメにあう。だがイジメに屈せずに懸命に抵抗する彼の姿が、学校を仕切るボス、ドラゴンとモンクの目に止まった。モスキートは彼らの義兄弟として受け入れられ、ケンカにあけくれるようになる。そうしている内にモスキートたちは、ドラゴンの父である極道「ゲタ親方」の組織で働くようになるのだが・・・・
台湾といえば日本において最も身近な国のひとつですが、そこの映画はほとんど見たことがありません。でもまあ最近のラインナップ・・・・『ホウ・シャオシェンのレッド・バルーン』『九月に降る風』『台北に舞う雪』『海角七号 君想う国境の南』(これだけ観た)・・・・の情報を読むと、あちらの方って甘酸っぱくて切なくて心ときめくような、そういうラブストーリーが大好きなんだろうな、と。この『モンガに散る』は暴力と血しぶきに彩られた映画ではありましたが、やはりそうしたスウィーティーでリリシズムなムードが全編に漂っております。
今まで親しい存在といえば母親ただ一人だったモスキート。ですがある日を境に彼は多くの絆を手に入れます。楽しい仲間であり兄弟であるモンクたち。怖い時もあるけれど、近づきやすくて頼りがいのある父親のようなゲタ親分。わたしも学生時代はそんなに周囲と打ち解けやすい方ではなかったので、ずっと欲しかった仲間を得て、毎日が愉快でたまらなくなってくるモスキートの気持ちはよくわかります。ただ、彼にとっての不幸はその仲間たちが暴力の世界に身を置く者たちだったということ。気がつけば華やいでいた周囲の景色には暗闇が立ちこめ、いつ殺されるともわからぬ恐怖に彼らは怯えることになります。
モスキートはどこで間違ったのか。最初にモンクから差し伸べられた手を振り払えばよかったのか。私がもし彼であったなら、そんなことは到底できません。彼にとって希望と言えるものはその「手」だけだったのだから、どうしようもなかったというほかないでしょう。
ある意味、主人公よりも強烈な光を放っているのが、メンバーの中でサブリーダー的な存在であるモンク。多くの才能に恵まれながら、ドラゴンへの愛情のため、全てを捨てて彼に尽くします。しかし別の義理やゲタ親分へのわだかまりから、彼の心はやがて大きく引き裂かれていくことになります。
そうした人間模様のほかに、目を引くのは80年代なかごろの台湾の描写。当時の日本の影響がちらほら見えます。それは『ビー・バップ・ハイスクール』そのまんまの荒れ果てた高校や、スーパーマリオブラザーズの効果音。モスキートも想像の中で「かめはめ波」を放っていたりします。そのころの台湾にとって日本は憧れの存在だったようで、伝え聞くところでは松田聖子や近藤真彦が大層人気だったとか。
一方で中国から流れてきた人々に対しては、蔑んだ眼差しを向けます。当時は中国の経済の改革解放が進み、台湾にその脅威が最初に押し迫っていた時代。その不安が、そうした気持ちをことさら強くしたのかもしれません。実際、それまでの台湾は(どこまで本当かわかりませんが)ヤクザ社会においても銃はご法度だった模様。男なら飛び道具は使わず、拳と刃物で戦えと。どっちにしろ暴力なのは変わりありませんが、確かに銃が入ってきたことによって、多少は仁義を重んじていた台湾の極道は滅んでいくことになります。この映画はそんな古いタイプのヤクザへの鎮魂歌とも言えるかも。
以下、ラストについて触れます。
この『モンガに散る』というタイトル、いささかネタバレの感もあり、確かに人も死にます。ただ散ったのは命というよりも、彼らの友情のことを言ってるのではないかと思いました。モンクに両手を広げたあとで、彼を刺すモスキート。一見理解に苦しむ行動ですが、モスキートにしてみれば彼なりの「心中」だったのかもしれません。
主人公の生死に関してはぼやかしたまま幕となりましたが、二十年以上経った今、もし彼が生きていていたらどうしているだろうとふと思いました。恐らく異国の地で、かつて愛した女性と帰らぬ友を思いながら、日々を淡々と生きているのかな・・・なんて。
さてこの『モンガに散る』、レビューがボヤボヤしているうちに東京方面では大体公開が終ってしまいました が、その他の地方都市においてはこれから順次回っていくようです。わたしのよく行く静岡東部の劇場でも来月から二週間限定でかかることになりました。新宿まで見に行ったんだけど・・・ 最近そんなことばっかりです。
Comments
あ、この間みたのかな?
結局やるんだ…^^;
台湾の青春映画ってほんとキラキラしてて眩しいんです。
何だか古きよき日本を思い出しちゃいます。
しかも、必ずと言って良いほど台湾映画は日本の肯定的な部分
を映し出してくれるのが嬉しいところなんですよね。
Posted by: KLY | January 28, 2011 11:38 PM
>KLYさん
毎度どうもー
そう、これは銀座で飲んだときに見たんですね。ここのところだいぶ遅れ気味ですが、見た映画は今のところ全部記事にしています
今のところまだ二本しか見てないですけど、台湾映画からは確かに近頃忘れ去られつつある「人情」が強く感じられます
『海角七号』を一緒に見た方から聞いたのですが、台湾は東アジアでは例外的に日本に好意的のようですね。なんでも統治下の時代の方がその後の政権より落ち着いてたとか・・・
Posted by: SGA屋伍一 | January 29, 2011 08:38 PM
こんばんは〜
どこがってわけじゃないんだけど、なかなか気に入ってしまってベスト10の次点にしちゃったのよね☆私。
そうそう、この中で皆やたら髪がダサイなぁって思ってたら80年代なんだよね。
確かに日本でも聖子ちゃんカットとか(私もやったわ)
マッチヘアとか横浜銀蝿(古!)とかリーゼントとか流行っていたっけ
義理人情で生きる私としては(笑)
この男達の友情が良かったなー☆
Posted by: mig | January 31, 2011 02:08 AM
>migさん
こんばんは。おかえしありがとー
うん、確かにこの映画ヤクザ系の話だけど、女性の心にも響くものがあると思う
聖子ちゃんカット、流行ってたね(笑) チェッカーズのあの前が見にくい髪型もそうだけど、「時代は一周する」っていうから、いつかまた流行り出さないとも限らないよ? ヤンキーがはいてたボンタンとか短ランとかも。しかしなんであんなものが、あの時は「かっこいい」とされてたんだろう・・・
モスキートとモンクの間は友情だと思うけど、モンクのドラゴンへの思いはなんか愛情っぽかったよね。この辺一部の特殊な女子が喜びそうな・・・
Posted by: SGA屋伍一 | January 31, 2011 10:26 PM