たった二人のロケ隊 ガース・ジェニングス 『リトル・ランボーズ』
近年老いてなお、活躍著しいシルベスター・スタローン。そのスタローンがまたも「ランボー」の新作をひっさげて・・・ ってアレ? なんか違う? 失礼しました。スタローンは特殊な出演のみの『リトル・ランボーズ』、ご紹介いたします。
1982年のイギリス。ウィル少年は規律の厳しい教会で育てられ、テレビや映画を見ることを禁じられていた。ビデオを使った授業の際、外に出ていたウィルは、教室から追い出されていた悪童リー・カーターと知り合う。ひょんなことから彼の家に行く事になったウィルは、そこで衝撃を受ける。シルベスター・スタローン主演のアクション巨編『ランボー』(盗撮もの)を見てしまったのだ。それ以来ランボーにとりつかれてしまったウィルは、リー・カーターと一緒に『ランボウの息子』という映画を作り始める。
この映画を見てまず思ったことのひとつは、「映画は魔物だなあ」ということでした。それまで映像と関わらないようにしていた少年が、たった一本の映画を見ただけで、朝も夜もそのことが頭を離れなくなってしまう。度合いもあるでしょうが、映画好きの皆さんは少なからずこういう思い出があるのではないでしょうか。別にそれほど入れ込んでいたわけでもないのに、ある一つの作品と出合ってしまったために、以来すっかり映画の虜になってしまったということが。ウィル少年にとってのそれが『ランボー』だったというわけ。ちなみにわたしの場合は20代のころ見た『インデペンデンス・デイ』でした・・・ あーはずかし
そして映画の惑溺性は鑑賞だけではなく「作ること」にもあるようです。おとなしく親の言うことを聞いていたウィルが、『ランボウの息子』を撮るためにどんどんなりふりかまわなくなっていきます。実際彼らがアリモノとアイデアを駆使して自由に映像を撮っているところは、すごく楽しそう。自主映画を撮っている方の中には稼いだお金を次から次へとフィルムに注ぎ込んでしまう人も少なくないようですが、なんとなく彼らの気持ちがわかるような気がします。ていうか、貧乏しながらもそういうモノを作れる人たちが、正直羨ましいですね。
あと一つ気になったのは、どうしてこの映画の主なモチーフが『ランボー』なのかということ。『ランボー』ってそんなに子供の憧れるようなヒーローではないと思うんですよね。特に一作目は。なんせ社会のはみ出し者が警官たちを敵に回して、最後は結局刑務所行きという話ですから(きゃっ ネタバレしちゃった)
スーパーマンやジェダイの騎士のほうが、よっぽど「ヒーロー」と呼ぶにふさわしい。百歩ゆずって、同じランボーでも二作目だったらまだ納得がいきます。
ではなぜあえて一作目の『ランボー』を使ったのか。時代設定のせいもあると思いますが、自分はそのランボーがウィルやリー・カーターにとって自分を重ねやすい存在だったからでは、と考えます。
ウィルは好きなことをやりたいだけなのに、「悪魔がついた」というようなことを言われます。リー・カーターも悪戯のレベルがハンパじゃないため、教師たちから悪魔呼ばわりされたりします。しかし彼らはもちろん悪魔などではなく、大切な人に自分の気持ちをわかってほしいとずっと願っている、そんな寂しがりやの少年にすぎません。
ランボーも町の人たちや警察から恐ろしい殺人鬼のようなことを言われますが、彼とて別にすすんで誰かを殺したいわけではありません。国のために戦ってきたのに、その国が自分を拒絶している。そのことが悲しくてたまらないのです。
大きなランボーの物語は昨年ひとまず決着したようですが、果たして小さなランボーたちの思いは、母や兄のもとに届くのでしょうか。
80年代のイギリスの学校を覗くという点でも、なかなか興味深い作品でした。うーん。20年前の英国の少年少女たちも、けっこういろいろやってますね(笑) わたしの小中学校のころよりも前の話なのに、ずいぶん解放的なように感じられました。あとこういう学校を舞台にした話というのは、あまり主人公以外の学年というのはそれほど話に関わってこないものですが(代表例:ハリポ)、この映画では下級生の目から見た上級生の姿というのが色々出てきて、その辺も面白かったです。
マメ知識をひとつ。作品のあるところで「ヤン・ピンカヴァ」という名前が出てきます。どっかで聞いたことある名だな・・・と思ったら、『レミーのおいしいレストラン』を途中まで作って監督を降りてしまった人でした。もしかしたら同姓同名の別人かもしれませんが、こんな変った名前の人そうそういないと思います。
『リトル・ランボーズ』は現在全国各地で上映中。東京まで見にいったのに、今日沼津でも上映することが明らかになりました。ま、いいのさ・・・
Comments
伍一さん、
こういう映画って面白いですよね。映画作っているのを映画にしているという。。。。。
伍一さんの初っ端とり付かれた映画って『インディペンデンス・デイ』だったのですね。意外。ガンダム系では無かったという。。。。
私は子供の頃、一人で居た夜に怖くない様にテレビつけていたのにもかかわらず観てしまったドラキュラは、今も苦手な映画です。ある意味とり付かれていたかも。
Posted by: hino氏の義姉 | December 06, 2010 09:09 PM
私が初っ端取り付かれたのは『ライトスタッフ』か『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』かなぁ…。
子供の世界って大人が考えているより微妙なんですよね。この作品だって大人目線なら、別に仲間はずれにしてるわけじゃないし、仲良くやれよってなもんなんだけど、カーターからしたら仲間はずれ以上に疎外感を感じてたでしょうし。
ラストは反則です^^;
Posted by: KLY | December 06, 2010 11:10 PM
私が、映画に取り憑かれた作品はやっぱり「レイダース/失われたアーク」かなぁ〜。
インディに憧れたわけじゃないけど、考古学者にはちょっと憧れました(笑)
あと「スター・ウォーズ」はSF好きになったきっかけだったかも・・・。
さて、この作品子供たちが可愛かったですよねぇ〜。
なぜランボーなのかですが、もしかしたら2人とも父親が不在なので
めちゃ強い男!ってのを求めていたのかもしれませんね〜。
だから息子なのかなぁ〜って思いました。
Posted by: ルナ | December 07, 2010 12:03 AM
伍一くん、大寒波キンスコ☆
冷凍庫なみに寒いロンドンから・・・
「ランボウな息子」ちゃんたちの映画は、近くに森があったらもうランボーでしょうよ☆
スターウォーズじゃセットや衣装が大変だし、何しろ子供たちは機関銃が大好きだもの。
この週末息子の友達が4人泊まりにきて、そりゃあもう「ランボウな息子たち」でしたよ。
ビービー弾でお尻を撃ったり、プロレスやったり・・・
中1でこれだからねー
Posted by: ノルウェーまだ~む | December 07, 2010 05:42 PM
>まみっし姉さま
・・・とわたしも呼んでいいのかしら。一日遅れですいません
わたしもこういう先達にオマージュを捧げている作品は好きです。映画好きなら一層楽しめるというか。少し前のジャック・ブラック主演の『僕らのミライへ逆回転』という映画もそうでした。原題は『Be Kind Rewind』です
『ID4』はスクリーンで見た円盤のデカさに圧倒されてしまって。それ以来映画は基本映画館で見ないとな、と思ったのでした
姉様がおっしゃるのはとりつかれたというか、トラウマになった例ではないかしら わたしも幼い頃『マッドマックス2』を見て、軽くトラウマになったことがあります。今は『アポカリプト』なんかもノリノリで見られますが(笑)
Posted by: SGA屋伍一 | December 07, 2010 07:39 PM
>KLYさん
毎度ありがとうございます さすがKLYさん。渋い入り口だなあ。そしてすいません・・・ 両方見てません いや、絶賛の声はよく聞きますけどね。特に『ライトスタッフ』は
あ、そういえばウィルとカーターの友情のことは何も書いてなかったな。これもこの映画の重要なテーマなのに・・・
そう、子供って時々ひどく残酷になったりもしますよね。大人になってからそのことを後悔することもしばしば。この二人は後悔するようなことにならなくて、本当によかったです
わたしは最近は子供にいじらしいことを言わせるだけで反則と思うようになってしまいました。年を食うと涙もろくなるってことで・・・
Posted by: SGA屋伍一 | December 07, 2010 07:45 PM
>ルナさん
ご来訪ありがとうございます わたしは『レイダース』は見たのはけっこう大きくなってからだなあ。もしかしたら『魔宮の伝説』の方が見たのはやいかも
『スターウォーズ』は生まれて初めて劇場で見た映画ですね。その時はお話が全然わからず(^^; でも『ID4』と同じ年に「特別篇」三作を見たのは、映画中毒を決定的なものにしてしまいました
なるほど。ランボーは二人の理想の父親像だったってことですね。そういえばウィルの家によくあがりこんでいたあのおじさんは、ランボーとは正反対のような男でしたねえ(笑)
Posted by: SGA屋伍一 | December 07, 2010 07:51 PM
>ノルウェーまだ~むさん
猛吹雪ンスコ~ こちらは12月だというのにほんのりあったかいです。異常だなあ。どうぞあったかくしてお過ごしください
なーるほど~ そういえばウチのオヤジなんかは昔森でターザンごっこや「少年王者」(知ってるかなー)ごっこに興じたとよく言ってました
スターウォーズのライトセイバーなんかは交通整理の棒で割りと簡単に代用できるんですけどね。使えないムダ知識
中一のお子さんなんてまだまだそんなものですよ。全然普通です。その年でかっこつけてばっかりいる子のほうがむしろ気持ち悪いです。息子さんも楽しいお友達に恵まれてるようで、微笑ましいな~
Posted by: SGA屋伍一 | December 07, 2010 08:05 PM
これ、何故ランボーなのかは
やっぱり監督が大ファンだからでしょう!
(ってインタビューに書いてあったよ)
自分が思い入れある作品題材に撮るとしたら
同様に好きな映画にするよね。
コドモがランボーに憧れるって私も最初は疑問だったんだけど、監督本人がそうだったというならしょうがない?ね(笑)
とにかく、主演の子よりもカーターくんが良かったわ♪
次回、ハリポタじゃなくトワイライトじゃないし何だったかな、自分のとこには書いたんだけど
にも出るので、子役ウォッチャーとしては期待の新人くん!
Posted by: mig | December 08, 2010 11:10 AM
>migさん
こんばんは。お返しありがとう
そうか・・・ そんなに驚くべき意外な真相があったとは露知らず
じゃあボクも将来映画監督になったら、『リトル・仮面ライダーズ』とか、『リトル・キャシャーンズ』とか作っちゃおうかな!(むなしい)
やっぱり映画監督って羨ましいなあ。子供のころに憧れたヒーローを使って、こんな形でラブコールを送ることができるんだから
リー・カーターの子が今度出る映画は『ナルニア国 第3章』だと思うよ・・・ 眼中にないのね
「スタンド・バイ・ミーのころのリバー・フェニックスに似てる」という意見を聞いて、なるほどと
Posted by: SGA屋伍一 | December 08, 2010 08:17 PM
おいっす。
『ランボー』に関わらず色々パロディがあったように思います。
リーと出会いのシーン、
リーは『大脱走』マックイーンだと思うのですが。
他にもあったような気がしますが覚えてません。
映画に詳しい人なら分かるのかしらん。
ちなみにボクの初っ端虜映画ってなんだろう?
サントラ買ったり、ノベライズ読んだところを見ると
やはり『スターウォーズ』と『ヤマト』でしょうかな。
Posted by: かに | December 10, 2010 05:45 PM
>かにさん
どもー
『大脱走』か・・・ 一応見たことあるんですけど、そのシーンは思い出せない・・・ 他のシーンは色々記憶にあるんですけどね。チャールズ・ブロンソンがトンネル掘ってて参っちゃうところとか
フランスのかっこつけ君が悪者をなぎたおすのは、ブルース・リーの真似なんでしょうかねえ
>やはり『スターウォーズ』と『ヤマト』でしょうかな。
王道ですねえ。『スターウォーズ』は公開当時「期待はずれだった」との意見も聞きますが、その影響力はやはり大きい
Posted by: SGA屋伍一 | December 10, 2010 09:12 PM
ランボースコー
migちゃんの言う通り、
この作品、監督の監督のための監督による作品ってことでしょう〜。
そして、その世代が特に共感しちゃってるみたいな。。
取り憑かれコメ、楽しいね!
私が取り憑かれたのは、まさしくランボー。これは友達と初劇場観した作品だったの。
何度も言うけど、物悲しいテーマ曲が、ロッキーの曲より心に響いちゃってね(^^)
あとは、フィービーケイツとブルックシールズの作品に取り憑かれていました。
あ、娘が学校の授業で、E.T.を観たって!!
ナイト メア〜も観たそうよ。
今の学校、英語の時間にいいわね〜。
Posted by: hino | December 12, 2010 08:41 PM
>hinoさん
バイオレンスコ~
そうですね。監督の『ランボー』に対する愛情がビンビンと伝わってきました。こんなに愛されて、スタローンもランボー冥利につきるというものでしょう!
ほほー 友達と初めて見にいった映画がこれだったんだ・・・ もっとほかになかったのですか!?(爆)
でもそうですね。傷だらけになったランボーがあのテーマ曲とともに連行されていくシーンは、今思い出しても胸に迫るものがあえいますね。実は原作(『たった一人の軍隊』デビッド・マレル著)では結末が違ったりするのですが・・・ ご存知でしたかな?
英語の授業にETやナイトメアを見せるとは、イキな学校だなあ。それにしてもhinoさんとお嬢さんとは、だいぶ映画の趣味が違うようで(笑)
Posted by: SGA屋伍一 | December 13, 2010 06:49 PM