壁に意思あり 特別編 波多野貴文 『SP THE MOTION PICTURE 野望篇』
井上薫は要人警護官、ことSPである。幼い頃ある事件をきっかけに超鋭敏な感覚を得た彼は、その能力を生かして数々のテロを未然に防いできた。そんな井上にある日難題がふりかかる。尊敬していた上司の尾形が、「一緒に国家を転覆させないか」と誘ってきたのだ。先輩への義理とSPとしての義務。二つの間で板ばさみとなってしまった井上は深く思い悩む。
・・・・えー、みなさんもご存知でしょうが、かれこれ二年前に『SP』というドラマがありました。普段ドラマを見ないわたしも、脚本が『GO』『レボリューションNo.3』の小説家・金城一紀と聞いて、かかさずチェックしておりました。
それまでの金城氏の小説と違い、かなり娯楽性の強い作品ではありましたが、氏の映画・アクションへのこだわりなんかが伝わってきてけっこう楽しんで見てたんですね。
ドラマは衝撃的な結末でもって終了。直後に「映画化」のテロップが流れました。わたしは「またかよ」と思いながらも、続きを待ちわびておりました。ところが待てど暮らせど公開の情報が入ってこない。しまいにゃとうとう流れたのかとさえ思いましたが(実際流れかけたらしい)、この度スタッフの尽力によりとうとう二部作の全編となる「野望篇」の公開とあいなりました。心よりお祝い申し上げます。
尾形の陰謀を知ってしまった井上。動揺する間もなく、次なるテロが彼らの守る要人たちに襲い掛かります。
これはドラマでもそうでしたが、このシリーズでは「拳銃を撃たないアクション」が中心となっています。どこまで本当かわかりませんが、SPというのは「動く壁であれ」と命じられているらしいです。銃弾が飛んできたらとにかく身を挺して要人を守り、撃ち返すことなど考えるな、というわけです。
もっともそれではドラマにならないので、井上は果敢に犯人を追いつめます。しかしそんな血気盛んな井上ですら、「滅多なことがない限り発砲は不可」というお国柄を考慮し、できるだけ拳銃を撃とうとしません。ですから彼はひたすら生身と手近にある適当なもので凶悪犯と戦います。この地味アクションはもしかしたら『ボーン・アイデンティティー』のそれを意識したのかも。あるいは劇画の『MASTERキートン』か。そんな銃をバカスカ撃ちまくるよくあるアクションとは一風違うところが、この作品の魅力と言えるでしょう。
ただやはりモロ続きな話なのに、二年も間が空いてしまったのはまずかったんじゃないかと。今回普通に映画だけで楽しめると思ってしまった方も多いようなので、そういう方にはストーリーや人間関係がさぞわかりにくかったことと思います。
あと構成も一番冒頭の走行する荷台の上でのファイト、これが一番盛り上がった気がします。クライマックスのあたりもつまらなくはないですが、やはり徒歩でテケテケ歩いていく図は微妙にゆるかった気が(^^;
ただ、この映画はどうやら「つなぎ」的なポジションにあたるようなので、その分完結編が盛り上がることを期待いたします。
個人的には映画を見るまで完全に忘れてた、井上の友人のヌボーとした公安刑事が気に入ってます。ルックス的には岡田くんよりもはるかに劣りますが、なんとなく頼りになりそうな、でも食えない男。続編で派手に殉職したりしないとよいのですが・・・
『SP THE MOTION PICTURE 野望篇』は現在全国各地の劇場で本当に大ヒット上映中。ラクな仕事はないと言いますが、本当にSPの皆さんは大変だと思います。がんばって!
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Comments
伍一さん、
このレビューに対しては、何も口はさめないくらい分かっていませんが、『壁に意思あり』という初っ端のフレーズに、とある趣を感じます。壁って意思が強いよねぇ、ほんと。
Posted by: hino氏の義姉 | November 19, 2010 05:20 PM
こんばんは!(^_^)
トラックの荷台のシーンとかは迫力ありましたが、
私もあれだけ襲われてるのに、援助もなく徒歩でテケテケ歩いていくのは
ちょっと現実味がなさ過ぎると思いました!
井上の友人のヌボーとした公安刑事は、なにか知ってそうだし
なかなか要注意人物ですよねー。
とにかく続きがどうなるのか早く知りたいです!
Posted by: ルナ | November 20, 2010 12:17 AM
>hino氏の義姉さん
ども。ご来訪ありがとうございます
そうですねえ。意思(石)の弱い壁は壁としての役割を果たせませんからね~
金城一紀関連では『GO』という作品がおすすめです(映画・小説ともに)。気が向いたらごらんください
Posted by: SGA屋伍一 | November 20, 2010 09:07 PM
>ルナさん
こんばんは。お返しありがとうございます
まあ、たぶん車に乗ったら目立っちゃって狙撃されやすいのかな~とか、一生懸命脳内フォローしてあげながら観てました(笑) やっぱこのシリーズ好きなもんですから
井上君の友人は「革命篇」で、アクションスターも顔負けの大立ち回りを演じてくれるのでは、と期待して・・・ません(笑) たぶんまたいつものように物陰から現れて、ボソッとイヤミを垂れるだけでしょう
このままいくと辛い結末が待っていそうな気がしますが、できれば井上君には笑顔でラストを飾ってほしいものです
Posted by: SGA屋伍一 | November 20, 2010 09:14 PM