しみじみ飲めばしじみ汁 石井裕也 『川の底からこんにちは』
首都圏からけっこう遅れて上映。そして既に終了。先日おめでたな話題でちょっと話題になった映画、『川の底からこんにちは』。まいります。
田舎から出てきて、東京でさえない生活を送っているOLの佐和子。5人目の彼氏の健一は、バツイチで子持ちで自分に甘甘な、これまたさえない男。そんな佐和子のもとにある日叔父から電話がかかってくる。しじみの出荷工場を営んでいた父が倒れたので、佐和子にそのあとを継げというのだ。仕方なく田舎に帰って慣れない仕事を始めた佐和子だったが、そこで働いているおばちゃんたちはクセモノぞろいで、佐和子は心労のあまりついつい酒量が増えてしまうのだった。
・・・・このストーリーを読む限りそんなに面白い話とは思えず、別段興味もなかったこの作品。しかし周りのブロガーさんでは絶賛する声も多く、わざわざ近場でやってくれるということもあって、半分だまされた気持ちになって行ってきました。
で、やっぱり驚くほど斬新であったり、感激のあまり滂沱の涙を流したということはありませんでしたが、なんつうかこう、ふんわか~とした面白さや安心感がありました。そう、この味わいは超絶美味というには程遠いけど、飲むとほんのりあったまるしじみ汁のそれとよく似ています。ハリウッドのわかりやすい火薬映画の合間にこういうの見ると、けっこう新鮮だったりします。
この映画にはいろんな種類のダメ人間が出てきます。というか、ほぼダメ人間しか出てきません。特に男どものダメっぷりは著しいです。手近な女には片っ端から手をつけてしまったり、あるいは自分のダメさ加減を全部他人のせいにしたり。まあ種類は違いますけど同じくダメ人間な自分としては、見ていて頭痛がしてきたほどです。
主人公の佐和子もまた、「どうせ自分は中の下だから」とすべてにおいてやる気がない、そんな性格です。そんな彼女のターニング・ポイントとなるのが、中盤のあるシーン。
折り合いの悪かった父が、雨の中必死に彼女のために怒る場面があります。そんな父の姿を見たせいか、以後彼女は「ダメだからしょうがない」のではなく、「ダメだからがんばらなきゃいけない」と思うようになります。
劇中でしきりに佐和子は「中の下」と繰り返しますが、このキーワードが映画全体のカラーであり、また監督の人間に対する見方でもあるような気がします。人間は誰でもウンコをしますし、色々すくいがたい部分も持ち合わせています。でもそれぞれに、それなりにいいところがあるわけで。たとえ申し訳程度だとしても(笑)
そんな監督の人間観を反映してか、作品も決して高尚ではなく。一番感動的であるはずの先にあげたシーンでさえ、お父さんのヅラがポロッと取れてしまったりする。悲劇と喜劇の境目というのは、本当にちょっとの差なんだなあ、と強く思わされました。
そんなわけで下ネタ・下シーンも色々ありましたが、主演の満島ひかりや、健一の連れ子を演じる相原綺羅ちゃんの可愛らしさが、作品をさわやかなものにしていました。特に満島嬢は変顔を惜しげもなく披露していますが、それがまた微妙に可愛らしい(笑)。今後の活躍が一層期待されます。
・・・・それにしてもこの映画を見た三日後に、そのひかりちゃんと石井監督が結婚してしまうとはねえ。石井監督は世に出るきっかけとなった『剥き出し日本』を撮るために「青春を犠牲にした」と語っていたそうですが、その価値は十分にあったんでないかい?
ちくしょお! うらやましいぞ! このやろおおおおお!!
そんな『川の底からこんにちは』は、まだ一部地域を細々と巡回中。石井監督がこの作品に出てくる男どものようでないことを、心から祈ります。
Comments
もうね、見てから大分経つのに社歌歌えるよ、それもアカペラで!
これ見て気に入って石井監督の作品3本ぐらいみたんですが、
やっぱりこれが一番でした。
ユーロスペースで終わったらシジミくれたんですよ(笑)
勿論その日はシジミ汁♪
Posted by: KLY | November 09, 2010 10:46 PM
>KLYさん
おはようございます。毎度ありがとうございます
それじゃ忘年会でデュエットしましょうか(笑) 「倒せ倒せ政府」のところで明らかに違う方向に行っていると思うのですが、本来労働歌というのはこういうものだったかもしれません(『ワルシャワ労働歌』とか)
ユーロスペースさんも粋なはからいをするなあ・・・ わたしも飲みたくなってきましたけど、ダシをとるのが面倒なのでインスタントのを飲んでるところ・・・
Posted by: SGA屋伍一 | November 10, 2010 07:15 AM
伍一くんこんばんは、
観てたのね!
わたしもその日はもちろんシジミ汁♪
それにしてもチュウのゲ、とか言ってるけど
満島ひかりちゃんのような可愛いお顔で言われても説得力無いわと思ったり(笑)
>「どうせ自分は中の下だから」とすべてにおいてやる気がない、
そうそうこれがわたしが最もイヤないい方で。
どうせ、とかヒガミとかそういう気持ちを持つってことが許せないの、もっと前向きにやる気ださないかいって(笑)
だから後半の頑張りには拍手喝采、で、
あのオバちゃんが良かったぁ。本物がショートフィルムの時に別の映画の舞台挨拶で見れて(オバちゃん)ちょっと嬉しかった
Posted by: mig | November 14, 2010 12:24 AM
>migさん
こんばんは~ ご来訪ありがとう
ほほう、migさんもしじみ汁作れるんだ。家庭的だな~
確かにひかりちゃんのルックスは上の中くらいはいってるよね(笑) その辺の無理っぽさを演技で一生懸命カバーしてたような気がする
わたしゃどっちかというと諦めモードというか、この作品に出てくる「健一」みたいなタイプなので、ひかりちゃんの説教やmigさんのお言葉が耳に痛かったりする
もっと前向きにがんばります~ そうそう、みんなやればできる子! マチェーテだってメール打てるんだし!
>本物がショートフィルムの時に別の映画の舞台挨拶で見れて(オバちゃん)ちょっと嬉しかった
へ~ でもあんまし羨ましくない(笑) それがひかりちゃんだったら話は別だけど
Posted by: SGA屋伍一 | November 15, 2010 08:06 PM
SGA屋伍一さん、ちょこっとお久しぶりです。
>なんつうかこう、ふんわか~とした面白さや安心感がありました。
今の時代ならではの“ゆるさ”と言うか、“普通に面白い”という印象でした。
昔はがむしゃらに頑張る事が美徳とされてきたけど、
今は大きな未来を夢見るよりも
現実の中で普通に頑張る人達が多い。
そういう庶民達への応援歌のように私は感じました。
P.S.
あの社歌は最高にスカッとしたけど、
さすがにあの歌詞では大手のシネコンで上映される事はないだろうな。(^-^;
Posted by: BC | November 20, 2010 10:17 PM
>BCさん
こんばんは。レスがちょっくら遅れてすいません
暗いニュースが多い時代ですが、わたしも元気を保つ秘訣を教えてもらった気がします。それこそ「来るなら来てみろ大不況」という心構えでいたいもの
石井監督も作品づくりにあたっていろいろ苦労されたようなので(資金捻出のために青春を犠牲にした、とか)、そういう庶民的な苦労が作品ににじみでていたと思います
あの社歌はブラックユーモアすれすれでしたね
あの飛躍加減というか一風変ったセンスが面白いです
Posted by: SGA屋伍一 | November 22, 2010 09:01 PM
伍一くん、しじみ汁~☆
(あ、キンスコにならない・・・)
ロンドンで日本映画特集を劇場でやっていたので、観て来たよー
この映画好きだわ。
私も中の下だから、納得なっとく~
バレンタインに「恋の独占禁止法」があったとしてもなかったとしても関係なかったうちの息子にもこの映画を見せてあげたかったよー
Posted by: ノルウェーまだ~む | February 15, 2011 07:05 PM
>ノルウェーまだ~むさん
川のキンスコからこんばんは(笑)
実はわたし、ふつーに面白かったっていう程度だったんだけど、みなさん大絶賛ですよね。たぶん映画に詳しい人や実際に映画を撮ってる人だけわかる「なにか」があるんだと思いまふ。翔さんも「すごい才能」とおっしゃってたそうだし
それはともかく、大英帝国でゴージャスなまだ~む生活を送っている人は決して中の下ではないと思いまふ
あとこの映画、いろっぽいお姉さんがパンツ脱いでるシーンがあったでしょ? 息子さんにはまだ早い!
Posted by: SGA屋伍一 | February 15, 2011 09:19 PM