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October 15, 2010

ゴローちゃんを斬る 三池崇史 『十三人の刺客』

101015_184033特にヒット作があったわけでもないのに、ここんとこやけに目立つ時代劇映画。今回はその中でも特に気合の入った一本をご紹介します。必殺映画人・三池崇史監督の最新作『十三人の刺客』でございます。

時は江戸時代後期。次期老中とされる明石藩主松平斉韶は、暴虐との評判高く、家臣や領民から多くの怨嗟の声が上がっていた。事態を憂慮した老中土井大炊頭は、密かに刺客を集め、斉韶を密かに亡き者にせんと謀る。刺客集団の指導者として選ばれたのはお目付け役・島田新左衛門。さらに新左衛門を慕う者や、泰平の世に士道を貫こうとする者、計十三名の武士たちが集結する。だが計略を察知した明石藩御用人鬼頭半兵衛は、主君の命を守るべく刺客集団の前に立ちふさがるのだった。

原作・・・というかオリジナルは1963年に作られた同名の映画。脚本には現在作家として活動中の池宮彰一郎氏が別名義で参加されています。オリジナルでは53人だった敵側が今回では300名ほどに膨れ上がっていたりと、いろいろ派手にはなっているようです。ただ少し前に三池氏がリメイクした『ジャンゴ』に比べると、かなりオーソドックスな時代劇に仕上がっていました(あくまで『ジャンゴ』と比べてですが)。この辺、三池氏の芸域の広さを感じさせます。

メインストーリーから想像するに、新旧のスタッフたちが意識したのは、恐らく『忠臣蔵』と『七人の侍』でありましょう。正義を貫こうとする者たちが、非常の手段をもって高い位の者を裁こうとする流れはまさしく『忠臣蔵』。違っているのは、『忠臣蔵』の場合決戦において浪士たちがかなり優位な立場にいるのに対し、こちらでは刺客側が人数的にかなり不利であること。新左衛門は様々な策を弄してハンデを埋めようとしますが、さすがに二百ウン十人の差はいかんともし難く、刺客たちの死闘に手に汗握ります。赤穂浪士たちが幕府に抵抗したのに対し、刺客たちは幕府の密命を受けて・・・というところも相違点ですね。
主人公のもとに個性豊かな面々が集ってくるところや、一つの村を舞台に壮絶な攻防戦が行われるところは、『七人の侍』を思い出させます。最後に刺客たちに加わるお気楽な山男・木賀小弥太は三船敏郎が演じる「菊千代」をイメージしたキャラクターでしょうか。新左衛門が名も無き農民の娘のために戦う決意をするところも、『七人~』を連想させます。ただ「七人」の向こうを張って倍近くの十三人にしたはいいものの、その分「そのほか」で済まされそうなメンバーが増えてしまったのは致し方なきことでしょう。

いろんなところで皆さん書いておられますが、スマップの稲垣吾郎君がバカ殿役を非常に上手に演じています。悪役にもいろいろいますが、ここまで欲望とか人間性を超越してしまった不気味な「悪」は、ここ最近の時代劇にはいなかったような気がします。恐らくこのバカ殿は、何をやってもゲーム感覚で現実感が感じられない、現在の一部の若者たちを意識したキャラかと思われます。
しかし実のところ、生きる目的を見失っていたのは刺客たちも一緒であります。戦うための存在でありながら、泰平の世でその意義を失っている武士たち。そんなところに命をかけるに値する戦場が与えられて、彼らは嬉々として戦いに参加します。新左衛門はじめ多くの者たちは、そこで美しい死を遂げることを願っているように感じられました。その姿もまた「異常」というほかありません。

この映画の売りである「ラスト50分の死闘」。序盤こそ興奮するものの、見ているうちにどんどん虚無感が募ってまいります。登場人物の一人が「くだらねえ・・・」と吐き捨てますが、おおよそ『水戸黄門』や『忠臣蔵』のようなカタルシスとは程遠いムード。忠義のためでもなく、正義のためでもなく、それでは男は一体何のために生きるべきなのか? 生き残った者たちが最後に帰るところが、三池さんの答えなのでは・・・と私は思いました。

20080330201111そんなニヒリズム漂う中、一服の清涼剤となっているのが山男役の「キャシャーン」こと伊勢谷友介と、宿場の村長である岸部一徳さん。特に一徳さんは先の『必死剣 鳥刺し』とは全然違った役どころで、これまた芸域の広さに感服いたしました。そんなわけで『十三人の刺客』は現在全国の劇場で絶賛公開中であります。


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Comments

小弥太が七人の三船敏郎の立ち位置って結構皆さん言われていているんですが、私はそれは三船敏郎への冒涜とすら思ってるんです。あの役とこんな下品な役を一緒にしちゃいけないと思う。小弥太のは洒落じゃないもの。
まあ、三池監督に全てを真面目にと言ったところでそれをやったら三池監督じゃなくなるし仕方ないんだけど。
50分間に熱中できるだけに惜しい部分が勿体無い気がしています。

Posted by: KLY | October 16, 2010 12:25 AM

>KLYさん

おはようございます。毎度ありがとうございます

「先祖は侍だ」と言い張ったり、物陰から木の棒でボカッと殴られたり、さんざん断られたあげく最後に味噌っかす的に加わったり・・・という描写をみますと、三池監督が「菊千代」を意識してるのはほぼ間違いないと思います

まあ三池さんはもともと悪ふざけが好きというか、完成されてるもの
をぶっ壊したがる傾向があるんで(『ウルトラマンマックス』の担当された回なんてすごいことになってます・・・)、『七人の侍』が好きな方がむっとされるのもわかります
ただあれだけしっちゃかめっちゃかやった『ジャンゴ』のことを思い出すと、今回はだいぶセーブしてるな、と思いました

Posted by: SGA屋伍一 | October 16, 2010 07:39 AM

こんばんは(^_^)
ゴローちゃんの悪行には、ちょっと引いてしまいましたが
>何をやってもゲーム感覚で現実感が感じられない、
現在の一部の若者たちを意識したキャラ、というのは
私も感じました。
お気楽な山男・木賀小弥太のはじけぶりもすごかったですが、
最後に現れた時は、さすがにええっ〜!と思いましたよ。
これも三池ワールドってことでしょうか?

Posted by: ルナ | October 17, 2010 01:36 AM

>ルナさん

こんばんは~ おいでくださりありがとうございます!
ゴローちゃん、たしかわたしと同い年だから、本当はもう「若者」とは言えない年代のはずなんですよね でも普通に頭の悪そうな若者に見えるあたり、大したものであります

そしてラストは三池ワールドの醍醐味だと思います。ずっと真剣に見ていた真面目な時代劇ファンはずっこけるでしょうね~
このとんでもぶりを超えられるのは、恐らく紀里谷和明氏をおいてほかにいないでしょう

Posted by: SGA屋伍一 | October 17, 2010 07:51 PM

SGAさんこんばんわ♪コメント有難うございました♪

三池監督のことだから悪ふざけ的な要素をふんだんに盛り込んでいる時代劇かなとも思って少し興味あったのですが、フタを開けたら確かにオーソドックスな時代劇でもありましたね。
それと自分オリジナルを観た事がないせいか、本作の全体的なイメージとして『七人の侍』より、ザック監督の『300』を真っ先に思い出しちゃいましたねぇ^^;13人対300人なんていう多勢に無勢感といい、暴君の討伐といい、策を打って有利に進めようとする展開といい、似過ぎてないか?とも思いましたが、『300』より本作のオリジナルの方が古いから真似たのはザック監督・・・いやフランク・ミラーかも・・?


でも斉韶を演じたゴローちゃんはホント凄かった・・。色んなメディアを通じて怖いとか残虐とか言われてますけど、個人的にはSGAさんと同じく不気味と言う印象が斉韶には当て嵌まりました。
まあ畜生な行いが目に余るバカ殿ではありましたが、地獄絵図のような殺し合い場と化した落合宿で活き活きとした表情を見せた辺り、あの人は生まれてくる時代を間違えてしまったんじゃないでしょうかね~?それこそ乱世渦巻く戦国時代だったらああはならなかったのかも・・?

Posted by: メビウス | October 20, 2010 10:39 PM

>メビウスさん

おはようござります おかえしありがとうございます
たぶん今回見ている人でオリジナルも見てる人はごくごくわずかなんじゃないでしょうかね~ わたしももちろん見たことないですし 「名作」として名前は時々聞きますが、『七人の侍』にくらべると、ネームバリュー的にはそれほどでもないかも

三池さんはわりかし最近の洋画もチェックされてるようなので、確かに『300』からの影響はあるかも? そしてミラー先生は『子連れ狼』などの時代劇コミックをリスペクトしてる方なので、もしかしたらそちらを経由してオリジナルに影響されているかも? ・・・さすがにここまで来ると妄想の領域ですね

あまり他のメンバーと比べて映画での活躍が目立たなかったゴローちゃんですが、この作品でかなり評価を上げたと思います。そういえば他のメンバーも一回くらいは異常殺人犯を演じていますね。大した国民的アイドルだわ・・・
メビウスさんの言い分もごもっともだと思います。信長や秀吉もけっこう残虐なことやってますからね。でもあの殿じゃ、たぶんあっと言うまによその大名から攻め滅ぼされてしまうような気がします

Posted by: SGA屋伍一 | October 22, 2010 07:59 AM

こんにちは~♫
いや~~~私、この映画が全然合わなくて・・・
結構皆さんの評判はいいんですよね~
ダメだわ~私。またまた少数派だわ~

稲垣さんの馬鹿殿は上手かったですね!
あの何を考えているか分からない、何も映っていないような目がいい。
だけど、、、どうもこの物語とあの馬鹿殿のキャラは合わない気もしたのよ~
とことん非情な殿だと思って観たかったんだけど、何だか殿に同情の余地がありそうなところに違和感があって・・・まぁ~勝手な解釈だけど♪

忙しくて映画を全然観に行けないのよ~
ブログも疎かにしているし・・・シクシク・・・
時々かまってね^^❤

Posted by: 由香 | October 31, 2010 05:06 PM

>由香さん

こんばんは~ お返しありがとうございます 最近またまたお忙しいようなので影ながら心配しておりましたよ

由香さんは『エクスペンダブルズ』もダメでしたっけ。両方とも男汁たぎるような超肉食系映画ですよね。脂っこいものが苦手な人はむかないと思います。まあわたしはギトギトしたお料理もそれなりにOKなんで

「殿に同情の余地あり」というのは良識派から怒られそうな気もしますが、わたしも思いました。たぶん蝶よ花よと超過保護に育てられて、何に対しても現実感というものがわかなくなってしまった、そんなキャラだと思ってます。誰かよい教育係でもいればああはならなかったのかな~ それとも根っからああいう性質だったのか?

多忙がなかなか切れなくて大変ですね。こちらこそ引き続きよろしくお願いします~

Posted by: SGA屋伍一 | October 31, 2010 08:28 PM

お!役所広司かっこいいー
こちらからおじゃますべきところをありがとうございます

三池さんの映画、たいして観てないけど
『ジャンゴ』と比べると(比べるものが特殊すぎるかもしれませんが)
かなり本気の時代劇でしたね。
でも三池的おふざけシーンもぬかりなくて。
キャシャーンと岸部さんにはさすがに目がテン
ふたりともよくやる。。。

とはいえ、キャシャーンのキャラけっこう好きだったから
最後生きててくれて嬉しかったです。
ゴローちゃんの「褒美に小太刀をくれてやった」にシビれつつも。
ゴローちゃんの鬼畜殿様は、きっと語り継がれる悪役になるでしょうね。

Posted by: kenko | December 29, 2010 09:07 PM

>kenkoさん

こんちは。お返しありがとんです
これ・・・役所さんに見えましたか。ああ、よかった
わたしも三池さんの作品、そんなに見てないです。ほかは同じくジャンゴと、ヤッターマン、それに妖怪大戦争。イロモノばっかり(笑)
三池ファンに言わせると、彼の真骨頂はもっと別の作品にあるそうです

>キャシャーンと岸部さんにはさすがに目がテン

その道の女子は大喜び・・・なのでしょうか。岸部さんは年末の『相棒』にも出ておられるようですね。今度はまた重厚な役で・・・

本当にゴローちゃんやキャシャーンのインパクトが強すぎて、役所さんの影が薄いくらいです。そういえば三池作品って、主人公より脇が目立ってる作品が多いような・・・

Posted by: SGA屋伍一 | December 30, 2010 02:46 PM

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