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October 30, 2010

ニコニコ漫画 ローラン・ティラール 『プチ・ニコラ』

101030_163212♪ぷちぷちにこら~ ぷちにこら~
なんでもおかしな ぷちぷちにこら~(『クレクレタコラ』の節で)


フランスで50年以上愛されている絵本が、先ごろ『モリエール 恋こそ喜劇』も公開されたローラン・ティラールの手により映画化。『プチ・ニコラ』ご紹介いたします。

ニコラは愉快なパパと優しいママに囲まれて育った、元気な男の子。学校の成績はそれほどよくはないけれど、友達たちと一緒に楽しい毎日を送っていた。ところがある日その生活に不穏な影が忍び寄る。どうやらママのおなかの中に新しい赤ちゃんが宿ったらしいのだ。「このままでは不要になったボクは捨てられる」そう思い込んだニコラは、仲間たちの手を借りて、なんとかして家にいられるようあれこれ策を練るのだったが・・・

前から度々言ってますけど、わたしは「大人の鑑賞に堪えうる子供映画」というのが好きでして。その理由のひとつは、子供たちの、私たちが思いも寄らない発想というのが非常に愉快だからです。例えばこの映画で言いますと、なんでか「弟が生まれたら自分は捨てられてしまう」と思い込んだり、そのせいでパパの顔がだんだんと悪鬼に見えてきたり。はたまたトラブルを片付けるために「ギャングの力を借りよう」とか言い出したり。
でも考えてみれば、わたしたちだって子供のころはそういう突飛で、ちょっとブラック風味の入ったことをよく思いついたものです。『プチ・ニコラ』はそんな幼少のころの懐かしい感覚を思い出させてくれます。

ニコラの友達たちというのが、また個性豊かで本当に楽しい。年がら年中なにかをもしゃもしゃ食べているアルセスト。子供のクセに眉がなく、言うことがいちいち極道がかっているウード。金持ちの息子でいつもコスプレをしているジョフロア。三歩歩くと全て忘れてしまう万年立たされ坊主のクロテール。そして成績優秀だけどクラスメイトの悪事をすかさず先生に言いつけるメガネ君アニャン。特にわたしは劣等生のクロ輝くんに親近感を覚えました。この天然ぶりは主人公のキャラを余裕で食っちゃってます。その対極にいるアニャン君もなかなかの逸材(笑)。どちらかと言えばいじめられっ子になりそうな設定なのに、知力と性格の悪さでもって、逆にみんなから恐れられています。こういう性格のひんまがった子、いいですよね~

これも度々言ってますけど、フランスというと我々からは縁が遠くて、何もかもが洗練されていて、世界で一番お洒落なトレビア~ンな国、というイメージがあります。しかし『プチ・ニコラ』はそんなフランスの人たちも日常生活においては我々と本当に大差ないことを教えてくれます。特に会社の社長にペコペコ頭を下げたりするパパや、社長夫人に負けまいといろいろ見栄を張るママの姿は、アサッテ君やフジ三太郎の世界と全く変わることがありません。難解で大人の揺れ動く感情を描いたフランス映画もいいものですが(←無理スンナ)、こういうかの地の人々を身近な存在にしてくれる作品もまたいいものです。

この手のエスプリが肌に合わない方もいるとは思いますが、わたしが見たときは劇場全体がずっと自然な笑い声で満ちていて非常にいい感じでした。本当にこれほど予告編から実際の楽しさが伝わってない映画も、ちょっと珍しいです。

101030_163247フランスのいま一人の国民的キャラクター「アステリックス
」も意外な形で登場する『プチ・ニコラ』は、現在都市部を中心に細々と公開中。昔『トム・ソーヤーの冒険』や『少年探偵団』にワクワクした人たちに、強くおすすめいたします。

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October 26, 2010

荒野の子連れモグタン アレハンドロ・ホドロフスキー 『エル・トポ』

101026_184110最近「伝説の名作」という言葉に弱いワタクシ。そんなわけで昨年から『地下鉄のザジ』『ミツバチのささやき』『動くな、死ね、甦れ!』『不思議惑星キン・ザ・ザ』など観てきましたが、これもそうした一本。ジョン・レノンやアンディ・ウォホールを熱狂させたカルト映画の傑作が、製作40周年ということでデジタル・リマスター版となって帰ってました。『エル・トポ』紹介いたします。

「エル・トポ」とはモグラの意味。モグラは光を求めて地上まで穴を掘り進むが、太陽の下に出た途端そのまぶしさのあまり視力を失う。
荒野を素っ裸の息子を連れて旅する漆黒のガンマン、エル・トポ。訪れた街でひどい虐殺の有様を見たエル・トポは、その犯人たちを血祭りにあげることを決意します。
そんなプロローグとともにこの映画は始まり、以下「創世記」「預言者たち」「詩篇」「黙示録」と題された章ごとに話は進んでいきます。以下バンバンとネタバレしていきますので、「既に見た」「たぶん見ない」という方のみご覧ください。

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お話は四部というより大きく前半と後半に分けられると思います。エル・トポが悪者の情婦にそそのかされて、最強のガンマン四人を次々に葬っていく前半と、改心したエル・トポが穴倉に閉じ込められた人たちのために、懸命にトンネルを掘り続ける後半。
あてずっぽうの解釈を述べさせていただけるなら、この映画は大きく見ると信仰(主にキリスト教)の葛藤もしくはジレンマを描いた作品のように思えました。

当初純粋な正義感に溢れていたエル・トポ。しかし自身の良心である息子を捨て、一人の情婦(権力?)と結びついたことから彼の堕落が始まります。彼が倒していくガンマンがそれぞれ中東、東欧、中南米、アフリカの装束を身につけているのは、教会がそれらの地域を次々に勢力下に置いてきた歴史を思い起こさせます。しかしやがてエル・トポが女に裏切られたように、教会もまた時代を経てその権力を弱めていきます。ここまでが「過去」の部分。続いて「現在」と「将来」についてホドロフスキー監督は語ります。

後半に入って再び良心を取り戻したエル・トポは、なりふり構わず貧しい人々を解放するため尽力します。彼がトンネルを導こうとする「街」は、現代の文明社会(主にアメリカ)の比喩のように思えます。貧しい者たちは虐げられ、道徳は崩壊し、怪しげな宗教がまかり通っているような環境。
下層階級のためにトンネルを掘るエル・トポの姿は、そうした人々の権利と自由のために身をなげうった活動家、キング牧師やガンジーなどを連想させます。しかし権利を勝ち取ったその先に何があるのか? 監督は恐ろしく皮肉の利いた結末をエル・トポにお見舞いします。

ちなみに表題に当てられている聖書の各書は、創世記・・・最初の人間の堕落に関する「失楽園」を含む書 預言者たち・・・堕落したイスラエル国民に対する警告 詩篇・・・神の栄光を讃える詩 黙示録・・・終末に関する予言 といった内容。それなりに映画の各部分にあてはまっているような。

そしてこれは、一人の人間の求道と彷徨を描いた作品としても見ることができます。道に迷っても、目標を見失っても、人はどうしても理想や「救い」を探し続けるもの。それを得たと思った直後に、手痛い目に遭うとも知らずに。本当にこのアレハンドロさんという監督の底意地の悪さは、計り知れないものがあります。

わたくし勝手にこの監督、これを撮ったきりどこかへ消えてしまったのでは、考えていたのですがcoldsweats01、調べてみたらその後も『ホーリー・マウンテン』『サンタ・サングレ』という映画を撮ったり、無茶な企画を立ち上げてはポシャったりしていたようです。日本の映画・アニメにも関心があるようで、特に『AKIRA』に関しては大ファンだそうで。面白いジイ様ですね(笑)

ちなみにこの方、先に話題になったチリの出身(人種的にはロシア系ユダヤ人)。『エル・トポ』の中にもえっちらおっちらトンネルを掘る描写があったことに、なにか不思議な符号を感じました。

わたし個人の感想としては、見ている間は「あれ? これ間違っちゃったか?」という時間もないではなかったですcoldsweats01 ただ見終わってから折にふれ様々なシーンが思い出され、ああも考えられる、こうも考えられると思索をめぐらすのがなかなか楽しかったです。とはいえショッキングで教育的によろしくない描写も多く、いわゆる「良識派」にはとても薦められない作品だと思いました。

101026_184139そんな『エル・トポ』はこれから全国の主要都市を細々と回っていくようです。しかしまあ、世の中には変な映画を作る人がいるもんですね(笑) 

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October 22, 2010

お前とオレとの兄弟墓場 アゴタ・クリストフ 『第三の嘘』

101022_18540115年ぶりの再読をしてみた『悪童日記』三部作もいよいよ完結編のレビューとなりました。第一部『悪童日記』、および第二部『ふたりの証拠』を読まないと意味をなさない作品なので、まずはそちらを読んでからトライされてみてください。この記事もまあまあネタバレすちゃってるので、できたら読了後に来てくれた方がいいかも。

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ではあらすじから。双子の兄弟を故郷に残し、国境を越えた男「リュカ」は何十年かぶりに帰国を果たす。だがそこに再会を熱望した兄弟「クラウス」の姿はなかった。そして男が「クラウスが書いた」と主張した日記は、すべて彼自身が書いたものであった。失意のうちに故郷をあとにする「リュカ」。だが彼は別の街で、生き別れた兄弟「リュカ」と思しき男を見つけ出す。

第一作・第二作と、おおむねクーセグの村で時間通りに進行していたお話ですが、この第3作では位置的にも時間的にも入り組んだ構成となっております。過去にいったかと思えば現在に戻ったり。舞台もクーセグ、国境の向こう側、そしてブダペストと転々と変わっていきます。お話の語り手も前半と後半で、バトンタッチしております。

また、一作目と二作目では衝撃的な結末でもってわたしたちを呆然とさせてくれたアゴタさんですが、完結編ではこれまでの謎に一応合理的な決着がつけられます。前二作のどこまでが真実だかわからなくなる、そんな幻惑的なムードが気に入っていた方には、この辺やや興ざめかもしれません。

『ふたりの証拠』では「置いていかれることの哀しみ」が描かれていました。対してこちらでは「故郷を失ってしまった哀しみ」が描かれております。どちらの方がより辛いのか・・・ それは両方経験した方にしかわからないでしょう。
ただ、作者クリストフ女史に近いのは、今回第一部の語り手を務める「リュカ」の方でしょう。政治運動に参加したために国外逃亡の道を選んだ彼女ですが、東西の壁が崩壊した後も、ハンガリーには戻っていないようです。生活そのほか色々な事情もあるのでしょうけど、かつての政権が滅んだとはいえ、もう彼女が愛したかつての故郷はそこにはない・・・ そんな風に感じているのかもしれません。ちょうど長年の歳月を経て再会した兄弟たちの絆が、元にはもどらなかったように。

わたし自身は十五年前読んだ時には、「三冊もかけたわりにはずいぶんとそっけないラストだなあ」なんて感じたものでした。しかし一応しそれなりに年を食った今読んでみると、不思議な安らぎが感じられるような気がいたしました。とても悲しい結末ではありますが、彼らが再び「家族」となるには、確かにこの方法しかなかったのかも。

アゴタ先生の第四長編『昨日』についても少し触れておきましょう。生まれ故郷の村を離れて異国の地で働く青年の、やるせない恋や日常を描いた作品。三部作と通ずるところも色々あり、訳者の堀茂樹氏は異国の地での「リュカ」の物語と考えることもできるのではないか、とおっしゃっておられます。ですが主人公の名前からして完全に違うので、やはりこれはこれで別のお話としてとらえるべきでしょう。三部作にあったような衝撃も、こちらにはなく、ただ淡々とお話は進んでいきます。でもまあこちらも読み返してみたら、また新たになにか発見できるかな?

101022_185455今夏の読書は、この三部作の再読でなんとなく終ってしまいました。そんな暗い夏休みはちょっとイヤだなあ(笑) でもまた折にふれ手にとってみたいものです。この物語にはそんな魔法のような吸引力が確かにあります。ハヤカワepi文庫より今もなお発売中。

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October 19, 2010

フクロウは砂嚢で感じる ザック・スナイダー 『ガフールの伝説』

090825_164816えー。これも公開されてちょっと経ってますけど。
あの『300』や『ウォッチメン』の血みどろ残酷映画監督ザック・スナイダー氏が、子供を対象にしたフルCGアニメに挑戦。できんのか!?と思いましたが、はてさて結果はどうだったか。『ガフールの伝説』ご紹介します。

そこはまだ人間の手が触れていない深い森の中(てゆうか、人間いないっぽい)。メンフクロウの子供ソーレンは、兄弟や両親とともに平穏な毎日を過ごしていた。ある日兄のクラッドと枝渡りの競争をしていたソーレンは、謎のフクロウ集団に誘拐されてしまう。彼ら「純血団」の目的は首領メタルビークのもとフクロウ世界を征服することにあった。ソーレンは苦心の末、純血団から脱走し、この世に悪がはびこる時必ず現れるという「ガフールの勇者たち」を探す旅に出る。

まずツッコミどころから(笑)。いや、なんでこんなにこの世界ではフクロウばっかりなのか。まあ大空が舞台の話なので鳥が中心なのはよしとしましょう。でもハトとかスズメとかワシとか、もっと他の鳥類もいていいんじゃないでしょうか? その代わりにフクロウは「こんなのいるんだ」ってくらいありとあらゆる種類が登場します。なぜ?

あとこの世界のフクロウはものすごいです。高度な社会生活を営んでいたり、道具を使ったり、器用に製鉄までしてしまったりする(笑) ほんでかっこいい鎧を作って、それを装着して戦ったりします。
ううむ・・・ この感覚はなんか『少年ジャンプ』に近いものがありますね・・・ 戦士がかっこいい鎧を着込んでいるところは『聖闘士星矢』みたいだし、動物が言葉を話したり、正義と悪の陣営に分かれて派手なバトルを繰り広げるところは熱血男気犬漫画『銀牙』を思い出させます。

実は原作には「はるか昔に地球上を支配していた異生物たちは既に滅び去り、フクロウたちが高度な文化を育む」なんてそれなりに最もらし~理由が書かれているそうです。でも本当のところは、原作者が滅茶苦茶フクロウが好きだからでは?と思わずにはいられません。それくらいこの映画はフクロウづくしでございます。まさにお好きな方にはたまらない状態。フクロウが「ペリット」と呼ばれる毛玉の塊を吐くことや、「砂嚢」と呼ばれる特殊な器官を持つことなど、まず他の映画では出てこないような特殊な知識まで教えてくれます。

ですからこの独特な世界観に抵抗なく入っていける人・・・ 動物好きだったり、少年漫画に慣れている人だったら一応楽しめると思うのですが、現実離れした映画が苦手な人には、ちょっとむかないお話だと思いました。

CG職人ザック・スナイダーが監督を務めるだけあって、飛行シーンは大変見事であります。特に無数の水しぶきが舞う中、波間をすり抜けてソーレンが飛んでいくシーンは本当に美しい。このシーンだけでご飯が三杯はいけるってくらい素晴らしいです。3D映画も最近少なくないですが、個人的にこんなに3Dに感動したのはそれこそ『アバター』以来です。

あと興味深かったのは「兄弟の相克」をテーマにしている点でしょうか。見ている時は「なんで兄貴のクラッドはここまで性格がまがってしまったんだ?」と思ってました。しかし兄弟というのは(特に年の近い男兄弟)、何かとお互いを意識して張り合ったりするもの。時にはそれがこじれて深刻な状態になってしまうこともあります。なんせ旧約聖書によれば人類最初の兄弟ですら一方が他方を殺しちゃったりしてるので。人間というのは本当に業の深い生き物ですね・・・ あ、映画はフクロウの話だったっけ。
あと、環境も遺伝子も大体一緒なのに性格が大きく違ってくるというのもよくあることですね。これまた兄弟の不思議なところであります。

091124_181222そんな見所もそれなりにある『ガフールの伝説』ですが、フクロウのキャラが独特だったのと、キモイ生き物も登場するのとで、子供受けは微妙なところだったようです。売り上げ次第では続編も考えられてたようですが、この調子だとそれはたぶんないかな・・・ ま、わたしはこれで終わりでも十分いいんんじゃないかと思いますが。
結論:ザックさんにはやっぱりキッズものはむかないということで。ちなみにザックさんは現在『サッカーパンチ』という、女子刑務所をロボがガンガン暴れ回る映画を作っているそうです。うわー、なんかすごい面白そう!


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October 15, 2010

ゴローちゃんを斬る 三池崇史 『十三人の刺客』

101015_184033特にヒット作があったわけでもないのに、ここんとこやけに目立つ時代劇映画。今回はその中でも特に気合の入った一本をご紹介します。必殺映画人・三池崇史監督の最新作『十三人の刺客』でございます。

時は江戸時代後期。次期老中とされる明石藩主松平斉韶は、暴虐との評判高く、家臣や領民から多くの怨嗟の声が上がっていた。事態を憂慮した老中土井大炊頭は、密かに刺客を集め、斉韶を密かに亡き者にせんと謀る。刺客集団の指導者として選ばれたのはお目付け役・島田新左衛門。さらに新左衛門を慕う者や、泰平の世に士道を貫こうとする者、計十三名の武士たちが集結する。だが計略を察知した明石藩御用人鬼頭半兵衛は、主君の命を守るべく刺客集団の前に立ちふさがるのだった。

原作・・・というかオリジナルは1963年に作られた同名の映画。脚本には現在作家として活動中の池宮彰一郎氏が別名義で参加されています。オリジナルでは53人だった敵側が今回では300名ほどに膨れ上がっていたりと、いろいろ派手にはなっているようです。ただ少し前に三池氏がリメイクした『ジャンゴ』に比べると、かなりオーソドックスな時代劇に仕上がっていました(あくまで『ジャンゴ』と比べてですが)。この辺、三池氏の芸域の広さを感じさせます。

メインストーリーから想像するに、新旧のスタッフたちが意識したのは、恐らく『忠臣蔵』と『七人の侍』でありましょう。正義を貫こうとする者たちが、非常の手段をもって高い位の者を裁こうとする流れはまさしく『忠臣蔵』。違っているのは、『忠臣蔵』の場合決戦において浪士たちがかなり優位な立場にいるのに対し、こちらでは刺客側が人数的にかなり不利であること。新左衛門は様々な策を弄してハンデを埋めようとしますが、さすがに二百ウン十人の差はいかんともし難く、刺客たちの死闘に手に汗握ります。赤穂浪士たちが幕府に抵抗したのに対し、刺客たちは幕府の密命を受けて・・・というところも相違点ですね。
主人公のもとに個性豊かな面々が集ってくるところや、一つの村を舞台に壮絶な攻防戦が行われるところは、『七人の侍』を思い出させます。最後に刺客たちに加わるお気楽な山男・木賀小弥太は三船敏郎が演じる「菊千代」をイメージしたキャラクターでしょうか。新左衛門が名も無き農民の娘のために戦う決意をするところも、『七人~』を連想させます。ただ「七人」の向こうを張って倍近くの十三人にしたはいいものの、その分「そのほか」で済まされそうなメンバーが増えてしまったのは致し方なきことでしょう。

いろんなところで皆さん書いておられますが、スマップの稲垣吾郎君がバカ殿役を非常に上手に演じています。悪役にもいろいろいますが、ここまで欲望とか人間性を超越してしまった不気味な「悪」は、ここ最近の時代劇にはいなかったような気がします。恐らくこのバカ殿は、何をやってもゲーム感覚で現実感が感じられない、現在の一部の若者たちを意識したキャラかと思われます。
しかし実のところ、生きる目的を見失っていたのは刺客たちも一緒であります。戦うための存在でありながら、泰平の世でその意義を失っている武士たち。そんなところに命をかけるに値する戦場が与えられて、彼らは嬉々として戦いに参加します。新左衛門はじめ多くの者たちは、そこで美しい死を遂げることを願っているように感じられました。その姿もまた「異常」というほかありません。

この映画の売りである「ラスト50分の死闘」。序盤こそ興奮するものの、見ているうちにどんどん虚無感が募ってまいります。登場人物の一人が「くだらねえ・・・」と吐き捨てますが、おおよそ『水戸黄門』や『忠臣蔵』のようなカタルシスとは程遠いムード。忠義のためでもなく、正義のためでもなく、それでは男は一体何のために生きるべきなのか? 生き残った者たちが最後に帰るところが、三池さんの答えなのでは・・・と私は思いました。

20080330201111そんなニヒリズム漂う中、一服の清涼剤となっているのが山男役の「キャシャーン」こと伊勢谷友介と、宿場の村長である岸部一徳さん。特に一徳さんは先の『必死剣 鳥刺し』とは全然違った役どころで、これまた芸域の広さに感服いたしました。そんなわけで『十三人の刺客』は現在全国の劇場で絶賛公開中であります。


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October 12, 2010

宇宙からの物体ELSE 水島精ニ 『劇場版 機動戦士ガンダム00 -A wakening of the Trailblazer-』

101012_180013テレビシリーズの終了から約一年半。満を持しての劇場版が、ようやく公開となりました。『劇場版 機動戦士ガンダム00 -A wakening of the Trailblazer-』ご紹介いたします。この長ったらしい副題、未だに意味がわかりませんcoldsweats01

ソレスタル・ビーイングの奮闘により、ようやく落ち着きを見せた世界。だが争いの火種は、まだいたる頃にくすぶっていた。そんな折り、はるか昔に地球を立った宇宙探査船が木星より姿を現す。そのままの針路では地球と衝突するため、連邦軍は探査船の破壊を決定。たやすく終ると思われた作戦だったが、いかなる攻撃を受けても、探査船には傷ひとつつかない。同じ頃、地球では電子機器が暴走したり、謎の金属が人々を襲うという事件が頻発していた。

テレビシリーズの適当なまとめ・感想はこちら
ファーストシーズン前半
ファーストシーズン後半
セカンドシーズン前半(というか水島精二論)
セカンドシーズン後半
総まとめ

いきなり中バレくらいしちゃうので、未見の方はご注意ください。
今回はなんと・・・
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ガンダムに宇宙人が登場してしまいます。
ま、正確には「人」からはおおよそ程遠いので「宇宙物」といった方がいいかもしれませんが。劇中では「エルス」と呼ばれるこの存在、なかなか独特な設定となっています。まず無数の固体に分裂できるものの、基本的には全体でひとつの巨大な生命体であるということ。そして液体金属のような体を持っているので、いかなる形にも変形することができます。そしてここが最も興味深かったところですが、エルス自体には地球を滅ぼそうという攻撃的な意思はなかったりします。ただこの物体はある目的から手近なものにどんどん融合してしまう傾向があるので、他の生物としてはたまったものではありません。

そこで我らがガンダムマイスターたちの出番となります。特殊な粒子を散布させることで、周囲一帯の意思を共有させることのできるマシン「ダブルオークアンタ」。テレビシリーズラストで「イノベイター」として覚醒した刹那は、この機体を駆ってエルスの核とリンクして、未知なる物体との「対話」を試みます。

SFといえど、これまであくまで地球人しか出てこなかったガンダム。そのガンダムに外宇宙からの物体が登場することに違和感を覚える方もいらっしゃるでしょうが、ある意味においては、これ、非常にガンダムらしい話だと思いました。ガンダム一作目には、「人は他者と理解しあうことができるか?」というテーマがありました。敵陣営の人間といえど、彼らとて主人公らと変らぬ感情を持っており、それぞれにポリシーがあったわけです。そして主人公アムロ・レイはクライマックスで敵側の少女と革新的な交信をするにいたり、全ての人がいつかわかりあえる時が繰るのでは、と期待します。
で、今回の『ダブルオー』劇場版。相手を殲滅しようとするためではなく、「話をするために、理解しあうために戦う」というところがいいじゃないですか。そういう意味では第一作の精神を確かに受け継いでいると思います。

もちろん、立場の異なる相手との相互理解は容易なことではありません。「どうしてこうもすれ違う」という刹那のセリフがそれを象徴しています。しかしどんなに道が険しくても、対話するための努力を続けることを作品は訴えます。その試練の中で、かつて父を呪ったアンドレイが、ガンダムへの復讐に凝り固まっていたグラハムが、そして「戦うことしか生きる道が見つからない」と言っていた刹那がそれぞれに「変っていった」ところに深い感動を覚えました。

欠点がないわけではないですし、ぶっちゃけテレビシリーズを見てないとなにがなんだかわからない映画ではあります。しかしテレビ版を見ていた人には50話分の重みがしっかりと味わえるでしょうし、「オレはこういうのが見せたいんじゃーッ!!」「わしゃこういうことを訴えたいんじゃーッ!!」というスタッフの本気力をビンビンと感じさせられました。

101012_181918個人的には『カラフル』と並んで本年度のベストアニメムービーでもある『機動戦士ガンダム00 -A wakening of the Trailblazer-』。現在全国の劇場で絶賛公開中であります。

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October 06, 2010

アリス・イン・ゾンビランド ポール・W・S・アンダーソン 『バイオハザードⅣ アフターライフ』

101006_170851「3」で完結と言ってたのに、悪びれもせず、あの劇場版『バイオハザード』が帰ってきました。まあいまどきそういうの、珍しくもないですけどね。そんなわけで最新作『バイオハザードⅣ アフターライフ』ご紹介します。「アフターライフ」とはどうやら来世とか、死後の世界をさしているようですが、なんか老後の保険みたいなニュアンスを感じるのはわたしだけでしょうか・・・ ではあらすじから

砂漠でのラオウ・・・ではなくタイラントとの激闘から五年(そんな経ってたのか・・・)。アリスは宿敵アンブレラ社の拠点である、日本は地階ツリーを襲撃。その首領であるウェスカーを追いつめるが、すんでのところで逃げられてしまう。戦いに疲れ果てたアリスは愛を求めて、人類の最後の安息の地と言われるアラスカを目指すのだったが・・・

今回は愚痴が多いかも(笑)
わたくし1が一施設、2が一都市、3がアメリカ大陸とどんどんスケールアップしていったので、今回は全世界か、もしかしたら銀河系くらいまでいってしまうのでは?と予想していたのです。ところが世界規模だったのは本当に最初だけで、そのあとは1と2の中間くらいにスケールダウンしてしまったのでした。

まあ今回は久々に第一作のポール・W・S・アンダーソンが監督に復帰したので、その辺もやむなきことかとは思いました。前にも書きましたけど、『バイオハザード』『エイリアンVSプレデター』『デスレース』とこの人の仕事を見てみると、どれもトラップだらけのけったいな施設を舞台としています。たぶん一施設よりも大きなスケールの話はできない人なんですよ、きっと。しかしそれならそれで、いつものこだわりぶりをもっと見せてほしかったんですよね。ボタンを押すとミサイルが飛んでくるとか、部屋が機械仕掛けで潰れるとか、通路を網目状のレーザーがスキャンしていくとか、そういうのです(余談ですけど、この人に遊園地とかプロデュースさせたら、きっとすごく面白そうなもの作ってくれそうな気がします)。

ところが今回はそういったアトラクション趣味もだいぶおとなしめ。ちょっとネタバレですが、中盤で「地下にはこんな秘密兵器があるんだぜ~」というくだりがありまして。「おお!」と胸をときめかせたら、これがてんで使えないという(笑) これほどな「肩透かし」感覚は、実に久しぶりのことあるよ!

・・・と色々愚痴を言いましたが、作品がつまらなかったかというとそんなことはなく。不満もあるけど概ね満足という気持ちで劇場を出られたから不思議です。
確かに飛びぬけてものごっついものが見られたわけではありません。でもド派手なアクションとか、かっこいいミラ・ジョボビッチとか、あんまし怖くないゾンビとか、実にあっけない脇キャラとか・・・ いつもの劇場版『バイオ』の醍醐味は、本作品にも遺憾なくみなぎっております。秋がくればサンマが食べたくなるように、『バイオ』と来たら「そうそう、これこれ!」みたいな心地よさがありました。前作でのネタを強引ながらも全部回収してるあたりにも好感がもてました。2から3へのつなぎは、本当に取りこぼしだらけでしたからね・・・

特に今回良かったのはミラ演じるアリスの戦闘着?でしょうか。背中に二本の刀をバッテン状に差すそのいでたちは、まるで忍者のよう。これまでのシリーズの中で、一番スタイリッシュだったと思います。

第一作が公開されてから約十年。レディアクションものもちょこちょこ発表されてきましたが(ミラ自身も『ウルトラ・ヴァイオレット』とかありましたしね・・・)、この劇場版『バイオハ』のアリスほどみんなに親しまれているキャラはいないと思います。わたしが見たときはレイトショーだというのにけっこう劇場が込んでいて、「みんなバイオが好きなのね・・・」とほっこり暖かい気持ちになりましたよ。

ところが次回作はキャストが一新されてミラ自身も出ないと公言。かと思ったら来日時に「次の世代にバトンタッチするまでは続けます」とも言ったり・・・ どっちなんだよ・・・ み~ら~

101006_170744そんな『バイオハザードⅣ アフターライフ』は現在全国で大ヒット公開中。みなさんご存知でしょうが、冒頭で歌手の中島美嘉がJ-POP GIRLという非常に重要な役で登場します。本人の役とも考えられますが、これもしかしたらあの「NANA」のその後だったりして。そうか・・・ ナナを襲った悲劇ってこうゆうことだったのか・・・


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October 04, 2010

ロシアから愛をこめちゃったりして ラデュ・ミヘイレアニュ 『オーケストラ!』

101004_180044毎度おなじみ遅れ単館系映画のご紹介。パリーで『THIS IS IT』を抑えてオープニング1位を記録したという『オーケストラ!』ご紹介します。

物語はロシアより始まります。アンドレイはかつてマエストロとして名を馳せながら、政府に逆らったために今は劇場の清掃夫として働いていました。ある日パリから楽団に送られてきたFAXを見た彼は、かつての仲間を集めてボリショイ楽団になりすまし、憧れの場所で演奏することで自分の夢をかなようとするのですが・・・

原題の『Le Concert』はコンサートというよりコンチェルト(協奏曲)の意味が強いでしょうか。アンドレイが理想とするチャイコフスキーの協奏曲が、この映画を彩る重要なモチーフとなっております。

・・・・とは言うものの、わたくしクラシック音楽のことなぞでんでんわかりません(笑) だのにこの映画を見に行ったのは、音楽映画であると同時にお笑い映画であるという評判を聞いたから。あと「落ちぶれた男たちがもう一度夢のために立ち上がる」みたいなあらすじから、『少林サッカー』やドラマ『王様のレストラン』みたいなお話を想像したので。

見てみて特に興味深かったのは、ロシアという国に関するあれこれでした。共産主義が崩壊して約二十年。もうすっかりその思想とか忘れられちゃったのかな・・・と思っていたら、やっぱりまだ諦めていない人たちもいるんですね~ よく言えば一途、悪く言えば頑固。その姿が微笑ましくもあり、物悲しくもあり。
何もかもが洗練されているフランス側と、ノリで適当にやってるロシア側の違いなんかも面白かったですね。パリについた途端町へ繰り出して大騒ぎを繰り広げる偽ボリショイの皆さん。その姿は海外でもマイペースを貫く農協の方々とまったく一緒です。そんで翌日のリハーサルにはほとんどが顔を出さないという(笑) ・・・こいつら、本当に演奏が目的で来たのか?とアンドレイならずとも頭を抱えたくなるところ。
まあこの映画フランスで作られたうえに監督もルーマニアの人なんで、実際のロシア人が見たら「こんなんじゃないよ!」と言いたくなるかもわかりませんが・・・・

もう一つ特に印象に残ったのは、音楽の持つ力というヤツでしょうか。この映画、全体的に強引なところがあります。クライマックスの演奏シーンなども、普通なら「リハーサルもしてないのに、なんでこんなにバッチリ息が合ってるんだ!?」とか、「どうして一緒に演奏してるだけでそんな秘密までもわかってしまうんだ!?」とツッコミたくなるところなんですが、荘重に響く調べに盛り上がっているうちに「ま、細かいことか」と思えてくるから不思議です。さらにはその演奏と並行して語られる人情話に、涙までしてしまったりしてcoldsweats01

まあ、クラシック音楽もなかなかいいもんです。・・・と、ちょっと聞いただけで、こういう風にわかったような気になるヤツ、いますよね(←お前だよ)。うん、でもチャイコフスキーの「協奏曲」は、またちゃんと聴いてみたくなりましたよ。

081031_183135そんな『オーケストラ!』は、もう来月頭ごろにDVDが出ます。ちょうどそのころメドベージェフ大統領が日本に圧力をかけに来るそうですが、これさえ見とけば対策はバッチリ!(ホントかしら)


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