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September 14, 2010

床の下のチビ子 米林宏昌 『借りぐらしのアリエッティ』

100914_184845ぼくはあの年の夏、母の育った古い屋敷で一週間だけ過ごした そこでぼくは、母の言っていた土人の少女に出会ったー

ウラウラタンタンウラウラタンタンウラアーッ!!

失礼しました。天下に名高きスタジオジブリ最新作、『ジャングルはいつも晴れのちグゥ』ではなく『借りぐらしのアリエッティ』、ご紹介します。

病気の療養のため、祖母の屋敷にやってきた少年翔は、そこで昔から言い伝えられていた小人の姿を目にする。なんとか小人の少女と仲良くなりたいと願う翔だったが、小人たちにとって人間は脅威でしかない。しかし小人の少女「アリエッティ」は持ち前の負けん気と好奇心から、とうとう翔と言葉を交わしてしまう。

とまあこのあらすじからわかるように、今回はとてもミニマムなお話です。広いとはいえ、大体一軒のお家とその周辺に収まってしまうストーリー。けれども小人の視点からしてみれば、そんな限られた空間にもひとつの宇宙が広がっているのですね。タンスは高くそびえる絶壁であり、ネズミは獰猛な猛獣であります。また取るに足りない待ち針や角砂糖の一粒でも、彼らにとっては貴重なお宝だったりする。アリエッティと同じ目線に立って冒険したり、お宝を収集したりするのはとても楽しいじゃあーりませんか。そして失敗するととても悲しい

そんな設定を反映してか、物語もとてもささやかであります。例えば翔くんとアリエッティ、そんなに急に仲良くなれるわけではなく、序盤は一瞬目を合わせるだけとか、葉っぱごしに会話するとか、その程度の接触しかしていません。んで少しずつ歩み寄っていくのかと思ったら、中盤ではお互いキツイ言葉を応酬したりして(笑)
この翔くんの心無いことばにひいてしまう方も多かったようですが、わたしはむしろ彼の微妙なひねくれ具合が面白かったです。「君たちは滅びゆく種族なんだよ」というその言葉の裏には、同じようにか弱い命である自分に対しての醒めた視線があります。そのことに気づいて、キュンと母性愛に目覚めてしまうアリエッティ。やはり女の子の気を引くには、巧に同情を誘うのが最も有効的なようです。

冒頭にも述べられているように、これはそんなたった七日間の物語。一週間の間に出会い、すれ違い、打ち解け、そして互いに重要な存在になっていく。翔はアリエッティのためにひ弱な体にムチ打ち、アリエッティは彼に大きな勇気を与える。短い間ではあっても、そんな風に一生忘れられない思い出を作りあえるというのが、なんかすんばらし~じゃないですか。

とまあわたしはなかなかに好印象を抱いたのでありますが、どうもこの映画、ジブリ(というか宮崎駿氏)に思い入れの強い人ほど、なんかガッカリしてしまう傾向があるようで。やっぱりみんなジブリには、全身の気があわ立つような壮大なクライマックス(というかカタストロフィー)を期待してしまうのでしょうね。ただやはりあれは「世界の宮崎」だからこそできるモノであり、あそこまでイカレ・・・盛り上げられる人はそうそういるものではありません。わたしはジブリとは付かず離れずくらいの立場なんで、こういう丁寧なささやか路線でも丁寧であれば全然構わないのですが・・・ 難しいところであります。

100914_184913しかしまあ、結局夏映画でもっとも儲けたのは恐らくこの作品。そのことを考えると、ジブリブランドの力強さをあらためて思い知らされます。

そう言えば昔はこういう「小人系」のテレビアニメがちょこちょこありましたよね。『冒険コロボックル』『ニルスの不思議な旅』『とんがり帽子のメモル』『スプーンおばさん』・・・ 『アリエッティ』がヒットしたことだし、どうです、各局のみなさん。また作ってみるというのは。

『借りぐらしのアリエッティ』はまだまだ?全国で公開中であります。

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Comments

>『ジャングルはいつも晴れのちグゥ』
?!なぜ、今時それが出る?好きなの?(いやキライじゃないけど)


毎回ちゃんと観た映画について書かれるあたり頭が下がります。

シンプルな話でしたね。
宮崎駿脚本とは思えないほど
破綻のないストーリーで(笑)。

僕としては良かったのですが
やはりヒットしているのを見ると
そんなものより
『カラフル』を観ろ、『ヒック』を観ろと言いたくなります(汗)。
(『トイ3』は言わんでも入ってるでしょうから)

小人モノとしては最近『ニルス』のBOX
2セットだったのが1セットになって復活しました。
BSでやったのを全部焼いたので買いませんが。
『メモル』が欲しいのですが
いまや中古屋でとんでもない値がついて買えません(涙)。

Posted by: かに | September 14, 2010 10:12 PM

えーと、「グ」しかあってませんが…。

そうだろうなぁ、製作費考えたら『トイストーリー3』よりこっちのが儲かっただろうな~。
まあそんなことは抜きにして私はこういう世界観とか、スケール感が大好きでして。御大のイカレ・・・盛り上げ具合が余り好きじゃないのです。(笑)
ジブリとはいえ米林監督は新人ですからね。いきなりこの結果は素晴らしいと思います。

Posted by: KLY | September 14, 2010 10:44 PM

まいどです。
「ガンダムダブルオー」おもしろいのでファーストシーズン見終った。
その余勢で1/100フラッグのプラモ買うと言う暴挙に(爆。

>みんなジブリには、全>身の気があわ立つよう>な壮大なクライマック>ス
この傾向は「もののけ姫」あたりから顕著ですね。先入観無く見ていた自分は、このあたりから最新作には背を向けてしまう事に‥‥‥‥。
「紅の豚」以外では「耳をすませば」最高!
と言えば判ってくれるかな?

と言う訳で「ポニョ」すら見てない私はこれは見てしまうかもしれません。
ともあれみんな、期待しすぎは良くないよ。

Posted by: まあくん@葛城 | September 14, 2010 11:32 PM

>『ジャングルはいつも晴れのちグゥ』

んん〜?知らない。。。
ニルス、メモル、スプーンおばさんは大好きでした
確かに最近、小さき人が主演のお話ってあんまりないですね。

翔くんのキツイ言葉は、予告でチラ見したときは何いってんの、この子・・・と思ったのですが
物語の流れの中にあると、なるほどなーと思いました。

最後のイラストがちょっと、宮崎さんに見える・・・

Posted by: kenko | September 15, 2010 09:54 PM

>かにさん

おはようござりますー
 
いや、ほら、音が似て・・・ませんね
土○といったらコレかと

たぶん他の作品も最初は破綻なくできてるんではないでしょうかね。それが絵に力をこめていくうちに段々とああなっちゃっていくのでは。憶測ですが

そうですね。男児には『ヒック』の方をみてほしいかな。『カラフル』はある意味見る層が非常に限定されそうな作品なので、あんなもんかと。もっと話題になってほしい気持ちもありますけどね

『ニルス』も根強いファンがいるようですね。やっぱり元ゴダイゴの人の主題歌がよいです
『メモル』も伝説的な作品。まあわたしはよく『メルモ』と間違えたりするんですが・・・

Posted by: SGA屋伍一 | September 16, 2010 07:33 AM

>KLYさん

細かいことはいいっこなしにしましょうや
いいですよね。こういう世界感。わたしの場合は根っこのところに『ガンバの冒険』などがある気がします。映画では『ミクロキッズ』とかもちろん『トイ・ストーリー』も

わたしの場合はストーリーとうまくかみ合ってればカタストロフしても好きだったりします
つーわけで『もののけ』『千と千尋』はOK。『ハウル』と『ポニョ』はイマイチ(笑)

ゴローさんはもうあんましやる気ないようだけど、米林監督にはがんばってほしいものです

Posted by: SGA屋伍一 | September 16, 2010 07:40 AM

>まあくん@葛城さん

おはようござります

ダブルオー、劇場版公開間近で盛り上がってますよね。自分もそろそろ前売り買ってこないと

まあ全部ぶっこわしちゃうようなクライマックスは初期作品にもあったと思うのですが、『もののけ』以降はお話が非常にシュールになった分、置いてかれてしまう人も多くなったようで。毎回大ヒットしてますが(笑)

『耳をすませば』はちゃんと通して見たことがないんですが、やはり根強いファンが多いようで
こないだやはり「ベスト1」と言っていた男の子がいましたよー。意外と男性からの支持の方が多いかも?

Posted by: SGA屋伍一 | September 16, 2010 07:45 AM

>kenkoさん

おはよっすー
実は「ジャングル・・・」はわたしもよく知らないんだ・・・ 土○が出てくるということくらいしか・・・

「ニルス」「メモル」のあたりはそんなに放映年が離れてないと思いました。kenkoさんもこういうお話好きなんですね。佐藤さとる氏の童話「誰もしらない小さな国」もおすすめですよ

翔くんのきつい言葉は、好きな子につい意地悪をしてしまう、ああいう感情も含まれてるかな、と思いました

>最後のイラスト

確かに・・・(笑) そういやカオナシのモデルは米林監督だという説を聞きました。お返し?

Posted by: SGA屋伍一 | September 16, 2010 07:57 AM

作品的には、ちょっと地味でしたけど
小さい人たちの生活が結構面白かったです。
家の中にめぐらされた通路とか、良くできてましたよね。

私も、佐藤さとるの「誰もしらない小さな国」シリーズは
大好きで、全巻揃えました。
コロボックルいいですよねぇ〜。

Posted by: ルナ | September 17, 2010 12:09 AM

>ルナさん

こちらにもありがとうございます
わたし、子供のころアスレチックとか好きだったので、アリエッティの冒険にはその辺を思い出したりしてました。打たれた釘?を伝い歩くところなんかは、大丈夫だとわかっていても「足元よく見て!」と言いたくなってしまいましたよ

実は佐藤さとる氏のシリーズは最初の一冊しか読んでないのですが、あれはとても優しい素敵な世界ですよね。そしてルナさんの読書量のすごさには、本当に頭が下がりますです

Posted by: SGA屋伍一 | September 18, 2010 12:39 PM

こんにちは~♪

私の周りで、どいつもこいつも問題を起こしてくれちゃって、クソ忙しい毎日を送っておりまして、心がギスギスしっぱなしの今日この頃。
まだ公開しているアリエッティに癒してもらう必要があるかも?!(笑)

さもないお話なのですが、とても癒される映画でした~
小さなアリエッティたちの暮らしはとても大変なんだろうけど、可愛らしくて萌えさせて頂きました♪

>やはり女の子の気を引くには、巧に同情を誘うのが最も有効的なようです。
うん、、、この映画は、女の子の気を引く方法も教えてくれているんだ、、、流石ジブリ(笑)

Posted by: 由香 | September 22, 2010 09:47 AM

>由香さん

お疲れのところお返しどうもありがとうございます
いろいろ大変だったようですね・・・

わたしはアリエッチには癒されるというより、グサッときたかな
「あなたのおかげでわたしの家はメチャクチャよ!」とか。あー、わしも昔喜んでもらえると思ってプレゼントしたら、ドンびきされてしまったことがあったな・・・と。そんな苦いメモリーがよみがえりましたよ

>この映画は、女の子の気を引く方法も教えてくれているんだ

です。ただ監督がカオナシのモデルの方なので、どこまで信用できるか・・・ いや、モデルというのは外見だけで、性格までああではないのかもしれませんが

Posted by: SGA屋伍一 | September 22, 2010 08:29 PM

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