人生いろいろ、ごはんもいろいろ 原恵一 『カラフル』
早いもんで2010年もあと三分の一ですが、先日「今年はもう越える感動はないかもな」という映画に出会ってしまいました。『クレヨンしんちゃん モーレツ!嵐を呼ぶオトナ帝国の逆襲』『河童のクゥと夏休み』などで知られる原恵一氏が、直木賞受賞作家森絵都氏の小説をアニメ化。『カラフル』をご紹介します。
「おめでとうございます! あなたは抽選に当たりました!」
罪を犯して死んだらしい「ボク」は、あの世でプラプラという風変わりな少年にそう告げられる。プラプラが言うには、「ボク」は自殺を図って仮死状態にある「小林真」という少年の人生を、半年間だけ引き継がねばならないらしい。気乗りしない「ボク」だったが、あの世の主の絶対の命令により、再び下界に舞い戻ることに。
「真」が生き返ったことに、気も狂わんばかりに喜ぶ両親。「ボク」はいぶかしむ。なぜ真は自殺など図ったのだろう・・・ しかし周りの人々の秘密を知るうちに、いつしか「ボク」は深い闇の中へと迷い込んでいく。
今回はネタバレ全開で参ります。できたら興味をもたれた方は明日にでも劇場に行って、それから以降を読んでください。
「ボク」の体験はどこか映画を見ることと似ています。他人の人生、他人の家族を、最初はただ眺めているような感じで過ごしていく。そしてだんだんと自分がなりすましている「小林真」に感情移入・・・というか、同化していきます。映画は二時間もあれば他人のストーリーから離れることができますが、「ボク」の場合はそうもいきません。興味なかったはずの人々と関わっていくうちに、いつしか精神的にがんじがらめになっていく「ボク」。風景に気を配る余裕のない彼の心の状態を表してか、前半の背景はどこか薄暗いトーンでまとめられています。そして、彼のほおばるスナック菓子のなんと味気なさそうなこと。
人の暗い色、醜い色しか見えなくなっていた「ボク」にどん詰まりから抜け出すきっかけを与えてくれたのは、一見冴えない風貌の同級生・早乙女くんでした。彼は今はもう走っていない砧線のあとをたどってみることで、物事を少し違った角度から見てみることを教えてくれます。すると「ボク」の周りの風景や食べ物が、次第に鮮やかな色合いを帯びていきます。
早乙女くんと学校帰りに食べる肉まん。父親に誘われて行った渓谷の、華やぐような紅葉の景色。その帰り道サービスエリアで「ボク」が食べるラーメン。わたしは映画の中でこれほど美味しそうなラーメンを今まで見たことがありません。小松左京先生は若き日にチャルメラの音を聞いて自殺を思いとどまったという話ですが、ラーメンには人を生きる方向に向わせる、そんな力があるようです。
ぶっきらぼうだった兄が垣間見せる、弟への思いやり。そしてそのあと家族で囲むしゃぶしゃぶの湯気。
陰鬱でしかなかった校舎の中までもが、黄昏の暖かい光で満たされていきます。
「それでも実写の力にはかなわないのでは」という方もおられましょう。しかしわたしはこうした感動をあえてアニメで呼び起こそうとしたところに、原監督のチャレンジ精神を感じました。それは写真が発明された今もなお、キャンバスに向い続けて新たなものを見出そうとする画家たちの姿勢に通ずるものがあります。
「友達と大勢で騒ぎながら学校に行ったり、帰りにどっかへ寄り道したり・・・・・・。ぼくが高校でしたいのは、そういう、めちゃくちゃふつうのことなんだよ」
ようやく家族を迎え入れることができた「ボク」は、食卓でそう語ります。しかし自分がそうした日々を送ることは決してない・・・ そんな「ボク」の心情を思うと、恥ずかしながらわたくしも「うぐえおごあ」と声を漏らして泣かずにはいられませんでした
正直5月までは、「今年は昨年と比べると、胸にズキュウウウンと来る映画が少ないなあ」なんて思っていたのですが、6月の『告白』、7月の『トイ・ストーリー3』、そして8月の『カラフル』という流れは自分的にはものすごいビッグウェーブでした。そう、『告白』で人間のえぐい面をまざまざと見せつけられてショックを受けてしまった人たちに、ぜひこの映画を見て欲しいと思います。
今回お題が『カラフル』だけにイラストも色付きにしようかと思ったのですが、大変だったので結局いつもどおり カラフルだからいいんです! モノクロじゃダメなんです!
Comments
こんばんは
>今年はもう越える感動はないかもな
カラフル気になってはいたけど、そんなに良いですか。
さっき特攻野郎とハングオーバーをハシゴしてきたばかりなんですが・・・
SGAさんの上の一文見て、今からカラフル、レイトショーで観にいっちゃおうかどうしようか考え中。
夜遊び主婦。。。
Posted by: kenko | September 04, 2010 11:00 PM
ごいっちゃんこんばんは、
うーん、最近映画かぶらないわ。
これ、予告篇みてちょっと面白そうかもとは思ったけどどうにもこうにもアニメって観る気がしないのよ〜
(評判いいようなので 原作読むかなと主思ったけど
やっぱり手にとるのはスティーブンキングとか)
そういえば関係ないんだけど、昔はこうみえて読書家で
赤川次郎とか、海外の話題のミステリーものばかり読んでたな〜
あ、あと日本文学ね(笑)
ってこの映画にふれてなくてゴメンよ。
明日ごいちくんこないのー?下北映画祭
KLYさんも来るよーおいで〜()
Posted by: mig | September 04, 2010 11:10 PM
そーだよーおいで♪
Posted by: KLY | September 05, 2010 12:36 AM
って映画にふれろと…。orz
いやぁ、この背景描写と人物描写のなんと丁寧なことか!
これだけしっかりやってもらうと、登場人物の人となりが凄く良く解りますよね。しかも、真の歩んでいる道は、程度の差こそあれ誰しも一度は通る道。
かーちゃん泣かしちゃいけんよ。物凄くばつが悪くて後悔するから。でも真もきっとそう思ってくれたんだと思うのよね。こうしてきっと学んでいくのだ!
Posted by: KLY | September 05, 2010 12:39 AM
>kenkoさん
まあ! 夜遊びは非行の始まりですことよ!? おくさま!
でも不良になってもいいから見に行ってほしいですね~(これこれ)
で、結局行っちゃったんでしょうか?
なんとか忙しくなる前に観ておいてほしいです!
『Aチーム』はわたしも明日見てきます。『ハングオーバー』はたぶんこっちではやってくれないのことよ・・・
Posted by: SGA屋伍一 | September 05, 2010 08:53 PM
>migっちゃん
こんばんはー 今日は結局行けずにごめんなさい
でもさっき発表みたよー W受賞すごいね!
去年の『グレンラガン』の時もそうだったけど、「アニメだから」「絵が好みじゃないから」ということではねられてしまうことも多いんだよね・・・ この壁はけっこう厚いなあ。ま、仕方ないことだけんど
赤川次郎は三毛猫ホームズばかり十二作くらい読んだっす
そちらのギャラリーともちょっと関係のある(笑)綾辻行人さんのミステリーも面白いよ~
明日は『特攻野郎Aチーム』見て来るです。でもこれはmigさんいまひとつだったんだかな
Posted by: SGA屋伍一 | September 05, 2010 09:04 PM
>KLYさん
こんばんは。そういうわけで結局行けなかったのでごんす。ごめんなさい
あー、でも今月か来月くらいにこぢんまりと集まりたいですね~ などと勝手なことを
『河童のクゥ』の時も思いましたけど、「リアルな人物描写」ということにかけては、日本のアニメではやはり原監督が随一かと
あとずっと日本の原風景を丁寧に描くこともこだわってますね
恥ずかしながら・・・ わたしも母ちゃんを泣かせたことがあったな・・・ 怒られたことはその何万倍もありますが
とりあえずお母さんが麻生久美子って羨ましすぎだと思います(爆)
Posted by: SGA屋伍一 | September 05, 2010 09:09 PM
伍一くん、キンスコティーッシュ~
この映画、みなさん絶賛してるね。
っていうより、絵 上手いね!いやー、上手いよ!
やっぱ、そうかなと思っていたけど、そうだったんだ?(何が?)
だんだんと、この映画観たくなってきたから、後半は読まないことにしたの。
伍一くんでさえ、母ちゃん泣かせたの?
私、今泣いているよ。
Posted by: ノルウェーまだ~む | September 06, 2010 02:17 AM
伍一くん
キンスコティッシュ フォールド
キンスコ挨拶、浸透しつつある〜(祝)
まだ〜む、嬉しい〜
イラストが、可愛い!!美しい描写も出来るんだねー。
河童〜はうちの子供達がTVで2回くらい観てたよ。
生まれ故郷の岩手だし!!
実際、河童の川や、座敷童のところ行ったけど、何も感じなかったなあ。実際見れたらいいのに。
この夏!!
告白とカラフルの原作読みと、トイ3サイコーが共通なところが嬉しいわい。
蠢きシリーズは、おかげさまで読破したくなりました〜。
Posted by: hino | September 06, 2010 07:56 PM
>ノルウェーまだ~むさん
三年B組キンスコ先生です
ヘボ絵ほめてくださってありがとうございます いや、細部は荒いし手抜きもいいとだし、何よりわたしは胸から下が書けなったりするのです・・・
ご興味もっていただけたのは嬉しいです。DVD化はまだまだ先でしょうけど、感想お待ちしてます
>私、今泣いているよ。
う、すいません(なぜお前が)
でもそれもいつか喜びの涙に変わるときが来ると思いますよ~
とりあえずお子様たちにそっとこの作品すすめてみてください・・・・
Posted by: SGA屋伍一 | September 06, 2010 10:09 PM
>hinoさん
中学生日キンスコです。どんどん苦しくなっていくぜ!
いや、この挨拶使ってるの三人くらいだと思うよ・・・ まだ~むさんがいるおかげでかなりワールドワイドにはなってますが
『河童のクゥ』、お子さんたちが見られたということですが、お母様は見られたのでしょうか
あれもね~ 映画館で涙と鼻水とヨダレにまみれて見ましたよ。なかでも「オッサン」という名の老犬には著しく紅涙をしぼりとられました。ラスト間際でまたこの名前が出てくるのですが、そこでまたダメ押しのようにぶわーっと
本の方でもいろいろかぶってて嬉しいですね。その辺の感想も近いうちまた直に語り合えたら嬉しいでやんす
Posted by: SGA屋伍一 | September 06, 2010 10:17 PM
SGA屋さんの涙腺を崩壊させた作品、どんなんだろーと先週末観てきました。はい、なかなかよかったですよ!でも私の中ではこの夏のアニメは「ヒックとドラゴン」がやっぱり不動のベストではあります(笑)。
舞台になった等々力や二子玉川って実家のすぐ近くなんです。「にこたま」は高校が近かったので、学校帰りによく寄り道したりして。「ホテル二子」が実際あるかどうかは知りませんが、川沿いとかの風景とかすごく懐かしかったです。
おっしゃるとおり、食べ物のシーンが秀逸でしたね。私は鍋よりも早乙女君とはんぶんこした肉まんが好きでした。ほくほくの肉まんでマコト君は変化したようなものですからねー。若干声優陣の演技がヘタクソだったのは気になりましたが、最初からいけ好かない存在だったヒロカちゃんの声がアッキーナだとエンドロールで知って、やっぱりこの女は大嫌いだって思いました(笑)。
Posted by: かおる | September 07, 2010 10:32 AM
結局ナイトショーには行かず、翌日観ました。
深夜の映画館って好きなんですけどね。ダンナに止められた
ナカナカよかったです。でも河童のクゥのほうが好きかな。
先々週くらいから社会復帰しまして、映画観る時間なくなっちゃうかなーと思ったんですけど、ガンガン観てます。
ただブログに感想書く時間があんまりない。
なのでそのうち、感想UPしますー
そういえばオトナ帝国まだ観てないわ。
Posted by: kenko | September 07, 2010 06:44 PM
>かおるさん
mixiよりおいでいただきまことにありがとうございます! そしてこの映画見ていただき、ありがとうございます! 『ヒックとドラゴン』の記事もようやく書きました。よかったら覗いたってください
実際にこの風景知ってるとは羨ましいですね~ ただ思うんですけど、二子玉川ってちょっと名前まずくありません? だってほら、タマが二個・・・ なんでもありません・・・
早乙女くんはいいヤツでしたね! わたしだったらチキンをもらっても肉まんは一口ぶんしかあげませんよ! だからわたしには友達があまりいないのかな!
声優陣のあれは下手にうまい(どっちなんだ)よりも、不器用な感じでいいな、と思いました。アッキーナもアイドルなのによく援交少女なんかやったな・・と思いましたよ。まあアイドルだからこそああいう役がふさわしいともいえますかね
Posted by: SGA屋伍一 | September 07, 2010 08:36 PM
>kenkoさん
こんばんは。旦那さんにとめられましたか! 麗しき夫婦愛ですな!
わたしもレイトのあのたるんだ空気好きですね。気をつけないと猛烈な眠気に襲われたりして・・・
『河童のクゥ』と本作と『オトナ帝国』、どれが一番いいかとなると、まことに甲乙つけがたい・・・ 『戦国大合戦』だけがちょっと落ちます(あくまでわたしの中で)
職場復帰おめでとうございます。無理のない範囲でがんばってください。映画は無理してでもガンガン見てください(おーい)
Posted by: SGA屋伍一 | September 07, 2010 08:41 PM
あら?私ここにコメント書くの3回目か
中二スピリットを忘れてしまったのか、思いのほかハマれなかったんですが、
たぶんハマれなかった理由のひとつは声優さんかなーと思います。
小林真とプラプラくんの声が、なんか最後までダメで。
そのほかの人はよかったんですけど。
アッキーナはゲゲゲにも少女マンガ家の役で出演してて、最近にわかに好感度UP
電王ムービーに出てたこともありましたよね。
それとー、カンケイないけど、最近アランムーア『スワンプシング』を買って読みました!
SGAさん、『フロムヘル』は結局どうしました?
Posted by: kenko | September 27, 2010 12:14 AM
>kenkoさん
二度アルことは三度アル、ゆうことで。お返しありがとうございます
そう、声がダメ、という方もおられますね。わたしも最初は違和感アリアリだったのですが、見ているうちにその不器用というか、微妙に無感情なしゃべり方がなんだか作品に合っているような気がしてきて。NHKの『中学生日記』を見ているような感覚でしょうか
まあそんな風にモロにはまってしまうと、欠点のあれこれも気にならなくなってしまうタチなのです
アッキーナの演技は評論家の柳下さんもほめてました。あの辛口の柳下さんがこの映画を「本年度ベスト」と言っていたのは、正直意外でした~
情けない話ですが、まだ『フロム・ヘル』買ってません 最近はヴィレッジブックスというとこが出してるアメコミをおっかけるのに精一杯で(X-MEN、アヴェンジャーズ、バットマンなど)
kenkoさん、スワンプシングともどもレビューしてくだされ
Posted by: SGA屋伍一 | September 27, 2010 08:06 AM