工場の八人 ジャン・ピエール・ジュネ 『ミックマック』
『アメリ』で大ヒットを飛ばしたジャン・ピエール・ジュネ監督の最新作『ミックマック』を、本日はご紹介します。
幼い頃、父親を地雷の爆発で失ったバジルは、いろいろ苦労した後、なんとかレンタルビデオ店の仕事を得る。ところがある夜銃撃事件に巻き込まれた彼は、脳天の微妙な位置に弾丸を喰らってしまう。命は取り留めたものの、職も住む場所も失ったバジル。彼を拾ったのは川原で廃品を修理しているプラカールという老人だった。父の命を奪った地雷。自分に埋め込まれた弾丸。偶然それぞれの製造会社を発見したバジルは、修理工場の仲間たちの助けを得て、彼らに復讐を挑む。
『ミックマック』とはイタズラの意味。そのタイトルが示すように、この作品もなんか人を食ったような映画です。まず冒頭の数分で、一気に主人公バジルの半生が語られます。あまりにもスピーディーかつ省略気味なので、この辺はしっかり見ていないと話がわからなくなってしまうでしょう。バジルが仇を見つけるくだりもかなり唐突というか、強引です(笑)
バジルがめぐり合うことになる仲間たちも、実にヘンテコぞろい。体を折り曲げられる軟体女に、人間ロケットの最長飛距離記録を持つ男。なんでも瞬時に計算できる「計算機少女」に、かつてギロチンの刃を首で受け止めた老人・・・etc。どなたもこなたも一風変わった大道芸人のような者ばかり。
さらに彼らが企む復讐の仕方というのが、またみょうちきりんであります。兵器会社の親玉たちを、殺そうとするのではなく、様々ないたずらというか嫌がらせをしかけて懲らしめようとする。ですからこの映画では、死人は本当に必要最低限しか出ません。この辺がこの映画の最も重要な部分であるかもしれません。人殺しに対して殺しで報いようとすれば、彼らと同じ罪を犯すことになってしまう。ならば暴力に対しては、イタズラ・・・あるいは羞恥プレイで裁くべきではなかろうか。そんなメッセージを、作品から受け取りました。かつて『エイリアン4』などで人をバカスカ殺しまくっていたジュネ監督ですが、その辺いったい、どのような心境の変化があったのでしょうか。
ちょうど先日の読売夕刊にジュネ監督のインタビューがあり、そこではこんなことが語られていました。「『白雪姫と七人の小人』、復讐、武器商人、長い間頭の中にあった三つのテーマが、一つになった」 武器商人と復讐はともかく、そこに『白雪姫』をくっつけてしまうあたりがすごいっていやすごいですね(笑)
さらにセルジオ・レオーネのマカロニ・ウエスタンや、黒澤明の『用心棒』、『トイ・ストーリー』や『スパイ大作戦』などもイメージにあったそうです。そのように好きなものを色々アレンジして、自分の好きなように組み合わせてしまうあたりは、まるで劇中に出てくる修理屋さんたちみたいであります。
そんな風に王道的な娯楽作品が元ネタにはあるようですが、この映画をちょっと独特なものにしているのは、先にも述べたシュールなストーリー展開と、ジュネ監督ならではの美術センス。例えばバジルたちが根城にしている工場など、廃品で溢れかえっていて、鉄骨やパイプなんかがいたるところに突き出しているのですが、妙にほんのりと輝いて見えたりします。この映画を彩っているパリの空もそう。どこか霞がかっていて黒い煙がたなびいてはいても、それはそれで美しいというか。薄汚れているんだけど汚く見えない。そういうセンスは『エイリアン4』にも確かにあったような気がします。
そんな『ミックマック』は現在主に関東の都市部で上映中。その後全国各地を回るようです。息のあったチームプレイものが大好き、という方に特におすすめします。
Comments
伍一くん、キンスコ☆
この作品、6月ころロンドンで公開されていて、すごーく気になっていた作品です。
美男美女が一人も出てないけど、みょうちきりんなメンバーがすごく魅力的なのは、さすがフランス映画な趣よね。
雑然としていてうす汚いけど、汚く見えない~、分かるなぁそのかんじ。
しかし「白雪姫~」をまぜてくるとは・・・!
Posted by: ノルウェーまだ~む | September 27, 2010 08:31 PM
そうか白雪姫なんだ…。てかなんでそうなる?(笑)
その辺が流石としかいいようがないですよねぇ。
ジュネ監督らしい映像やキャラクターがとても気に入って
るんですが、ちょっと序盤仲間と出会うまでがタルかった
かなぁ。
Posted by: KLY | September 27, 2010 11:36 PM
>ノルウェーまだ~むさん
キンスコマンタレブーです
美男も美女もでてきませんが、劇中に出てくる軟体女とメガネの馬鹿でかい娘っ子にはちょいと萌えました。マニアック?
一応アート系になるんでしょうかね。でもわかりやすくて童心に満ちているところがとても気に入りました
『アメリ』もそうらしいですけど、どうもこの監督、多分にメルヘン趣味がおありのようで。初期の作品の印象からは思いもつきません(笑)
Posted by: SGA屋伍一 | September 28, 2010 08:10 PM
>KLYさん
毎度おいでいただきありがとうございます
そうそう、その線でいくと白雪姫はあのむさ苦しいオッサンになるわけですが(笑)
そういう思いもよらないアレンジができるところが、非凡な監督であるってことなんでしょうかね
わたしは序盤は「これが俺の将来の姿か・・・」と見につまされました。まああんな素敵な軟体レディとめぐりあえるのだったら、それも悪くないかも?
Posted by: SGA屋伍一 | September 28, 2010 08:15 PM
こんばんは!
なんと!!!、白雪姫と七人の小人がバッグにあったとは・・・・
姫はいずこに・・・あのむさ苦しいオッサンとは!(笑)
ジュネ監督ならではの美術センスは今回も光ってましたよね〜。
薄汚れているんだけど汚く見えない。(笑)
ホントそうですよね〜。
衣装なんかも小汚いのに、なんか可愛いみたいな
独特な感じは結構好きです。
Posted by: ルナ | October 17, 2010 11:05 PM
>ルナさん
こんにちは~ おかえしありがとうございます
あのオッサンが姫(・・・)だとすると王子様は小人の一人の軟体女さんでしょうか。『白雪姫』がベースだとしても、もはや完全に原型をとどめていませんね(笑)
ジュネ作品は実はほかは『エイリアン』しか見ていないのですが
、『ロストチルドレン』や『デリカテッセン』などはいつか見てみたいな、と思ってます
小道具ではおじいさんが作る警報人形とか、躍る洋服なんかもよかったですね
Posted by: SGA屋伍一 | October 19, 2010 03:22 PM