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August 31, 2010

恐るべき双子たち アゴタ・クリストフ 『悪童日記』 

100830_175736このしょうもね~えブログも、これでとうとう1,000記事目です。これで・・・ ようやく・・・ 安心して終ることができます・・・ がくっ


うっそぴょ~ん(殴) すいません・・・ 最近猛暑で疲れているのです・・・ (一応)記念すべき1000記事目はこの本をご紹介いたします。その名もズバリ『悪童日記』。実はブログ開始当時続編・続々編ともにさらっとレビューしたことがあるのですが、五年以上経った今もなぜかちょくちょくアクセスがあったりします。先日久しぶりに再読したので、今度はもう少し本格的に(できんのか・・・)解説してまいりましょう。


時は第二次大戦時。ところはハンガリー。母親に連れられて田舎の村に疎開してきた双子の兄弟は、「魔女」と呼ばれる偏屈な老婆にあずけられる。過酷な環境の中で「強くならなければ」と自分たちを鍛える兄弟たち。個性的でインモラルな人々に囲まれ、移り変わっていくハンガリーの時代を目にし、やがて彼らは大人になった時、ひとつの重要な決断をくだす。


作品では兄弟が経験する多くのエピソードを、ごく短い章を連ねて語っていきます。また語り手が「双子」であるゆえか、感情描写の極力排されたいわゆる「ハードボイルド」な文体が用いられております。
この小説は同じ作者の『ふたりの証拠』『第三の嘘』へとつながり、ひとつのトリロジーをなすのですが、再読してみてあらためて思ったのは、やはりこの第一作はこれだけで十分完成された世界を築いているということでした。
逆に印象の変わった点は、前回読んだ時は主人公の少年たちがとても恐ろしく感じられたのに、年をそれなりに経た今になってみると、なぜか彼らがごく普通の子供に思えた点。まあ「普通の子供はこんなことしねえだろ」という方もおられましょうが、感情の見えないその文体の奥で、子供たちの悲しみ、怒りが前よりも見えるようになったとでも言いましょうか。


あと読み返してみてなんとなく思い出したのは、アニメ『火垂るの墓』(原作は未読です)。戦争という厳しい時代の中で、突然親と離れなければならなくなった兄弟たち。一応養ってくれる大人はいるものの、自分のことしか考えておらず、到底頼りにはできない。ならばどうやってお互いだけで生きていくか? 場所は違えど、二組の子供たちの境遇は非常によく似ています。ただ清太くんたちと違うのは、彼らがお互いに支えあい、助け合うことができたということ。そのゆえか、このお話は悲惨な境遇を扱った話でありながら、どこか奇妙な活気に満ちています。


作品で最も魅力的なのは、このハードボイルドな双子の兄弟でありますが、他の登場人物も強烈な個性を放っております。ごうつくばりで、夫を殺したのでは・・・という噂のある兄弟たちの祖母。兄弟たちには優しいけれど、ホモでマゾでプチスカトロ趣味もある美青年のドイツ将校。隣の家に体の悪い母親と住む、やりたい盛りの少女「兎っ子」などなど。
こうした登場人物と比べるとややおとなしめですが、兄弟たちに靴をプレゼントしてくれるあるおじさんのエピソードも胸を打ちます。
「どうしてぼくらにこんなにくれるんですか」
「私にはもう必要ないからさ。私はもうじき、ここを発つんだ」
「どこへ行くんですか?」
「この私には、見当もつかないよ・・・・・・・。どこかへ連行されて、殺されるのさ」


解説によるとこのおじさんはユダヤ人であることが示唆されています。そして当時の情勢や場所がハンガリーであることを考えると・・・
最初は「ありがとう」と言いたくないと言っていたのに、去り際に感謝の言葉を述べていく兄弟。こうしたところからも彼らが悪魔的な存在などではなく、ごく普通の感情を持つ子供たちであることがうかがえます。


作者のアゴタ・クリストフはハンガリーに育ちながら、旧ソ連の統治に反発し、やがてスイスに亡命したという経歴の方。そうした背景がラストの兄弟の決断に関わってくるのですが、この点に関しては続編『ふたりの証拠』レビューの際に語ることとしましょう。

100830_180023最近の翻訳小説というものは、出た当時は話題を読んでもわりとすぐに絶版になってしまうものが多いですけど、この『悪童日記』はハードカバーが出されて約二十年経った今も普通に入手できます。それだけの「力」がある連作ということなのでしょう。ハヤカワepi文庫より入手できますので、読書感想文の題材をお探しの学生さんはぜひ・・・ って、もう夏休み終りじゃん!

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Comments

感想をアップされたんですね~
この猛暑の中、お疲れ様でございました!

私、この本にはかなりの衝撃を受けまして、、、スグに再読した程なのですが、前にもコメントしましたが、ふたりの証拠、第三の嘘と読み進めると、何が何だか分からなくなっちゃって・・・
ホント不思議な小説ですよね~

Posted by: 由香 | August 31, 2010 11:47 AM

>由香さん

こちらにもありがとうございました
いや~ 最近仕事から帰ると飯も食わず風呂にも入らず(キタナイ・・・)寝てしまう日々が続いておりました・・・ おまけにPCはどんどん調子悪くなるし。そんなわけでなかなかそちらにうかがえず、本当に申し訳ありません

わたしもなんとか『第三の嘘』まで読み終わりました! そしたらちゃんと内容を把握してたと思ったのに、なんだか頭の中でこんがらがってきちゃって(笑) これは・・・また読み返さないといけないのか?

Posted by: SGA屋伍一 | August 31, 2010 07:37 PM

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        『悪童日記』        アゴタ・クリストフ        早川書房【comment】       凄い本を読んでしまったぁ〜本書は、いつもお世話になっている『SGA屋物語紹介所』のSGA屋伍一さんのコチラの記事を拝読させて頂いた時に密かにチェックしていた本だ。本の帯には、≪読書界を震撼させた、名作中の名作≫と書いてある。 -内容-戦争が激しさを増し、双子の「ぼくら」は、小さな町に住むおばあちゃんのもとへ疎開した。その日から、ぼくらの過酷な日々が始まった。人間の醜さや哀... [Read More]

Tracked on August 31, 2010 11:39 AM

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