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August 31, 2010

恐るべき双子たち アゴタ・クリストフ 『悪童日記』 

100830_175736このしょうもね~えブログも、これでとうとう1,000記事目です。これで・・・ ようやく・・・ 安心して終ることができます・・・ がくっ


うっそぴょ~ん(殴) すいません・・・ 最近猛暑で疲れているのです・・・ (一応)記念すべき1000記事目はこの本をご紹介いたします。その名もズバリ『悪童日記』。実はブログ開始当時続編・続々編ともにさらっとレビューしたことがあるのですが、五年以上経った今もなぜかちょくちょくアクセスがあったりします。先日久しぶりに再読したので、今度はもう少し本格的に(できんのか・・・)解説してまいりましょう。


時は第二次大戦時。ところはハンガリー。母親に連れられて田舎の村に疎開してきた双子の兄弟は、「魔女」と呼ばれる偏屈な老婆にあずけられる。過酷な環境の中で「強くならなければ」と自分たちを鍛える兄弟たち。個性的でインモラルな人々に囲まれ、移り変わっていくハンガリーの時代を目にし、やがて彼らは大人になった時、ひとつの重要な決断をくだす。


作品では兄弟が経験する多くのエピソードを、ごく短い章を連ねて語っていきます。また語り手が「双子」であるゆえか、感情描写の極力排されたいわゆる「ハードボイルド」な文体が用いられております。
この小説は同じ作者の『ふたりの証拠』『第三の嘘』へとつながり、ひとつのトリロジーをなすのですが、再読してみてあらためて思ったのは、やはりこの第一作はこれだけで十分完成された世界を築いているということでした。
逆に印象の変わった点は、前回読んだ時は主人公の少年たちがとても恐ろしく感じられたのに、年をそれなりに経た今になってみると、なぜか彼らがごく普通の子供に思えた点。まあ「普通の子供はこんなことしねえだろ」という方もおられましょうが、感情の見えないその文体の奥で、子供たちの悲しみ、怒りが前よりも見えるようになったとでも言いましょうか。


あと読み返してみてなんとなく思い出したのは、アニメ『火垂るの墓』(原作は未読ですcoldsweats01)。戦争という厳しい時代の中で、突然親と離れなければならなくなった兄弟たち。一応養ってくれる大人はいるものの、自分のことしか考えておらず、到底頼りにはできない。ならばどうやってお互いだけで生きていくか? 場所は違えど、二組の子供たちの境遇は非常によく似ています。ただ清太くんたちと違うのは、彼らがお互いに支えあい、助け合うことができたということ。そのゆえか、このお話は悲惨な境遇を扱った話でありながら、どこか奇妙な活気に満ちています。


作品で最も魅力的なのは、このハードボイルドな双子の兄弟でありますが、他の登場人物も強烈な個性を放っております。ごうつくばりで、夫を殺したのでは・・・という噂のある兄弟たちの祖母。兄弟たちには優しいけれど、ホモでマゾでプチスカトロ趣味もある美青年のドイツ将校。隣の家に体の悪い母親と住む、やりたい盛りの少女「兎っ子」などなど。
こうした登場人物と比べるとややおとなしめですが、兄弟たちに靴をプレゼントしてくれるあるおじさんのエピソードも胸を打ちます。
「どうしてぼくらにこんなにくれるんですか」
「私にはもう必要ないからさ。私はもうじき、ここを発つんだ」
「どこへ行くんですか?」
「この私には、見当もつかないよ・・・・・・・。どこかへ連行されて、殺されるのさ」


解説によるとこのおじさんはユダヤ人であることが示唆されています。そして当時の情勢や場所がハンガリーであることを考えると・・・crying
最初は「ありがとう」と言いたくないと言っていたのに、去り際に感謝の言葉を述べていく兄弟。こうしたところからも彼らが悪魔的な存在などではなく、ごく普通の感情を持つ子供たちであることがうかがえます。


作者のアゴタ・クリストフはハンガリーに育ちながら、旧ソ連の統治に反発し、やがてスイスに亡命したという経歴の方。そうした背景がラストの兄弟の決断に関わってくるのですが、この点に関しては続編『ふたりの証拠』レビューの際に語ることとしましょう。

100830_180023最近の翻訳小説というものは、出た当時は話題を読んでもわりとすぐに絶版になってしまうものが多いですけど、この『悪童日記』はハードカバーが出されて約二十年経った今も普通に入手できます。それだけの「力」がある連作ということなのでしょう。ハヤカワepi文庫より入手できますので、読書感想文の題材をお探しの学生さんはぜひ・・・ って、もう夏休み終りじゃん!

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August 24, 2010

エイドリアンVSプレデター 二ムロッド・アーントル 『プレデターズ』

100824_182139あら気がついたら一週間更新さぼってた(笑) そんな間にこの映画も上映終了crying サマーム-ビーの先陣を切って、すでにその役割を終えた『プレデターズ』についてダラダラと語ります。

目が覚めたら突然空中でスカイダイブしていた傭兵のAさん。なんとか無事に着地したAさんは、似たような経緯で不時着してきた者たちと出会います。マフィア、ヤクザ、ロシア兵、イスラエル兵、サイコキラー・・・ 彼らはみな殺人のプロフェッショナルでした。お互い不信感がぬぐえない彼らでしたが、ひとまず手を組みその地を脱出することに。彼らは知りませんでした。そこが宇宙の狩りマニア「プレデター」の猟場であるということを・・・

まずわたしの『プレデター』シリーズに関する印象を。1987年の第一作はテレビでなんかやりながら見た覚えがあります。感想は「どうも盛り上がりに欠ける話だなあ」というものでした(ファンの方すいません)。まあこれは『プレデター』に限らずジョン・マクティアナン監督の特性とでも申しましょうか。『ダイ・ハード』しかり、『13ウォリアーズ』しかり。そういや最近撮ってませんね、映画。

そんで第二作は未見。わたしがプレデターさんのかっこよさに目覚めたのは2004年の『エイリアンVSプレデター』でした。槍や手裏剣など多彩な武器をひゅんひゅん操り、あの最強の宇宙生物エイリアンをさえ一刀で断ち切るその強さ。「これまで頭のゴテゴテしたダサい宇宙人とか思ってて、本当ゴメン!」と心の底から謝ったものでした。

というわけでこの度の新作『プレデターズ』。今度は未知の惑星を部隊に、人間VSプレデターの死闘が描かれています。正直言うとエイリアンさんと互角に渡り合ったプレデターさんが、いまさらホモ・サピエンスなんか相手にしなくてもねえ・・・とも思ったのですが、いやいや、なかなかやがんばってましたよ、ホモ・サピエンス(笑)。エイリアンさんが登場しない分、ストーリーにいろいろ工夫がなされていました。プレデターさんのねちっこさの描写とか、人間チームの個性の書き分けなどにね。

超科学を武器に人間どもをいたぶるプレデターさん。「大人気ないなあ」と最初は思います。でも考えてみれば人間だってこすい方法を使って、動物や鳥や魚をハンティングしたりするじゃないですか。もしかしたらこの設定は、「たまには動物さんたちの身になってみたら?」という作者からのメッセージなのかも。おお、なんかこれ、すごい高尚な映画って気がしてきたよ!?

あとですね、前半ではプレデターさんたちの方がとてもおっかなく見えるんですが、お話が進むにつれ、本当に怖いのは生き残るためには手段を選ばない「人間の心」であることも明らかになっていきます。

が(笑)、

やっぱりねえ~ ヤクザがプレデターと日本刀でチャンバラやってる時点で、そういう高尚なメッセージも宇宙の彼方に飛んでいってしまうのが悲しいですね・・・ ややこしいことは考えず、『バトル・ロワイヤル』のノリで生き残りゲームを楽しむのが正解でしょうか。はい。

主演にエイドリアン・ブロディ。わたくしこの人の映画は『キングコング』と『ダージリン急行』くらいしか見てないのですが、なんかこう、「受難の人」という印象です。いまハリウッドで理由もなくひどい目にあう人物をやらせたら、たぶんナンバー1かと。本人もそれをわかっているのか、さして嘆きもせず「はいはいまたですか」って感じで災難を受け流しております。

ウィキペディアを見てみますと、ロバート・ロドリゲス氏がかつて描いたボツのスクリプトなど出ているのですが、これがなかなか面白そうなんですよね。この辺もいつか日の目を見ないものかしら。

Krkh042まあどんな形にせよ、またいつかプレデターさんのいかした活躍がみたいものです。今度はミラクル七号や『宇宙戦争』のトリポッド、はたまた『地球が静止する日』のゴートなどを登場させて、「最強宇宙人決定バトルロイヤル」などさせてみるのはいかがでしょう。

それでは最後はこの言葉でしめましょう。「エイドリアーン!!

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August 17, 2010

ウィンディ・シティ・コップ 『仮面ライダーW』を語る③

100817_172508強敵との闘いの中で、新たな力を手に入れていく翔太郎たち。照井竜も家族の仇であった伊坂深紅郎との決着をつける。そんな折、フィリップは少しずつ自分の過去についての秘密を知る。その衝撃も冷めやらぬうちに、いよいよミュージアムと財団Xは自分たちの計画を最終段階に移した。仮面ライダーW、決戦の時が迫る・・・

新作映画の記事をひーこらこなしてるうちに、気がつけば『W』も残り二話となってしまいました・・・ まこと時の経つのは早いものです。今回は『仮面ライダーW』における女性の描かれ方に関して少々。

漫画やアニメなどのサブカルチャーにおいて、女性が都合よく描かれることは少なくありません。どういうことかというと、「主人公がなんのとりえもないボンクラなのに、すごいカワイコちゃんが理由もなく好きになってくれる」という作品が多いこと。まあそういう作品もある種の男の子たちに夢と希望を与えるために、必要っていや必要なんですが。

ところがこの『仮面ライダーW』においてはそういう「あま~い」だけの女の子はほとんど登場しません。メインの三条陸氏がアニメ畑の出身であるのにも関わらず(笑)
どんなゲストヒロインがいたかふりかえってみると、翔太郎の人のよさにつけこんで共犯者を殺させようとしたり、復讐の片棒をかつがせようとしたり。ギャンブルや非行にはまって家族を悲しませたり。犠牲者のようなフリをして、実は影で糸をひいていたり。翔太郎たちだって一生懸命やってるのに、苦戦してると役立たず呼ばわりしたり。・・・・怨念で自分を裏切った男を呪い殺そうとしたコもいたな。

ゲストがそんなですから、レギュラーの園崎さんちなんか輪をかけてすごいです。役に立たないとわかった途端にためらいもなく夫を殺害する冴子さまに、表ではキャピキャピアイドルを装いながら、裏では始終怒りまくってる若菜姫。そしてそのお母さんがまた包帯でぐるぐる巻の復讐の権化ときたもんです。

唯一そういう毒が見受けられないのが、メインヒロインである?亜樹子ちゃん。ですが、彼女はどうも翔太郎たちから女性として見てもらってない気がいたします(笑)
ともかく、そういうドロドロした情念ばかり見せ付けられて、お茶の間のガキんちょたちが女性不信に陥ってしまわないかちと心配になりますが、一方で女性の一途な面や純粋な面が描かれたエピソードもあるので、その点はバランスがとれています。

最終決戦を前にして、気になるのがタブー・ドーパントのメモリを持つ冴子さま。復讐の対象を失いながらも、まだ目に闘志を宿している彼女がラストにおいてどのような動きを見せるのか? もしかしたらラスボスである加頭を倒すキー(ウー)マンとなるのは、彼女なのかもしれません。

100817_172535ちりばめられた謎もほぼ全て明らかになりましたかね。強いていうなら鳴海荘吉がなぜ変身ベルトとスカルのメモリを持っていたかってことですが・・・ ま、シュラウドからもらったんでしょう。
最終五話直前のエピソードとなる劇場版も現在公開中。近日中にこちらもレビューいたします。


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August 14, 2010

ニッポン救世主伝説 神山健治 『東のエデン 劇場版II Paradise Lost』

100814_183434これ見たのもう二週以上前だなあcoldsweats01 よって静岡東部でもすでに上映終了しております。今日はテレビシリーズから始まった『東のエデン』の完結編についてちょっこし書きます。オリジナルについてはコチラを、劇場版第一部についてはコチラをご覧ください。

元総理の息子という肩書きを与えられ、日本に戻ってきた滝沢。その周囲が再び騒がしくなる中、咲は滝沢に頼まれて彼の母親を懸命に探す。一方滝沢は勝利のためにはミサイル攻撃も辞さない「セレソン」の一人、物部に対抗すべく策をめぐらす。そして「セレソン」たちの生き残りゲームも終局にさしかかったその時、ずっと謎だったゲームの主催者「ミスター・アウトサイド」の正体がようやくその姿を現した・・・

セレソンたちが次々と脱落していく中で、滝沢の前に最後に立ちはだかったのは「No.1」物部でありました。元官僚であり、恐らく「No.2」の辻と並んで、最も高い知力と行動力を持つ男。そして将来の日本に対する自分なりのヴィジョンもしっかり持っております。
ただ彼のヴィジョンというのがかなりクセモノでありまして。聞いているとまるで戦前の治安維持法を復活させて、全体主義的な時代に戻そうとしているとしか思えない。しかし物部の言い分にも一理あり、一方的に「悪」とも処断しがたいところがあります。主人公の滝沢ですら、「じゃあ物部さんが総理になってよ」とまで言い出す始末。
けれども、人を集団としか見られない物部と、個々の人の心に訴えようとする滝沢とは決裂することになります。

そんな二人の対決を離れたところでじっとうかがっているのがミスター・アウトサイド、こと亜東才蔵。これまでほとんどわたしたちに近い世代しか出てこなかったこのアニメですが、彼の登場により、作品世界は戦中や高度経済成長期といった日本の近代史とつながることになります。
ともかくお金を儲けなくては、ということで動いてきた戦後日本。しかし20世紀末においてその方向にも限界が見えはじめ、この国は進むべき場所を見失ってしまいました。そんなわけで用意されたのがこの「セレソン」のゲームだったわけです。
しかし作品としてははっきりと具体案は提出せず、結論としては「一人一人、真剣に考えよう」という程度のものでありました。でもわたしはそれでいいと思ってます。そんなに簡単に解決策が出せれば誰も苦労はしません。このアニメを見た若者が社会や周りの人々に対して、少しでも積極的に考えるようになれたなら、作品には十分価値があったと思います。

強いて神山氏が残したヒントを探るとするなら、それは「世代を越えた協力が必要」ってことではないでしょうかねえ。上の世代は若い世代のためにもっと道を開くようにして、下の世代はもっと社会に関わっていくようにがんばる。社会から脱落したようなわたしが言うのもなんですが、もっと多くの大人たち・若者たちがそう努力するなら、日本はもっと住みよい国になると思います。

このアニメは一応ラブストーリーの一面もあったと思うのですが、この劇場版においては、むしろそんな「日本の行く末」の方が大幅にクローズアップされてしまった感があります(笑) 滝沢と咲の恋については、はっきり決着が着いたというよりはまだまだ発展途上のような。まあそれはそれで先を想像する楽しみもあるというもの。

100814_183510「先を想像する」といえば、亜東という最強のカードを手に入れたタッ君は今後どんな活躍を見せるのでしょう。世界の各国を相手に痛快なパワーゲームでも繰り広げるのだろうか・・・ なんて考えると楽しいですね。
ともあれ『東のエデン』、全編見られて本当に良かったです。上映してくださったジョイランド沼津さまに、感謝半永久的に(ハンパ)

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August 09, 2010

ザ・コブ クリストファー・ノーラン 『インセプション』

100809_185718『ダークナイト』で一躍勇名を轟かせたクリストファー・ノーラン監督の最新作は、P.K.ディックの世界を思わせるサイバーパンクSF。『インセプション』ご紹介いたします。

裏社会に生きるエージェント・コブは、人の夢に潜入し、重要な情報を盗み取ることを生業としていた。ある時コブは大企業の社長であるサイトーの脳内に潜入するが、任務に失敗してしまう。顧客の手から逃れようとするコブを助けたのはなんとサイトーだった。彼はコブにライバル会社の跡取り息子の潜在意識にもぐりこみ、とある意識を植え付けて(インセプション)ほしいと依頼する。

今回はもう最初からどんどんネタバレしていきます。以下はできたら作品をご覧になった方のみ、お読みください。

映像作品の強みに「同時進行」というものがあります。幾つかの異なる場所で行われている事柄を、演出の妙でもってほぼ同じ時間でもって見せていくことができるという。まあ小説やマンガでもできないことはありませんが、やはり「実際に動いている」映像作品に比べると、臨揚感が格段に違います。
しかしこの「同時進行」も、下手をすると見ているものの頭をこんがらがせてしまう恐れがあります。わたしの記憶では『スターウォーズ エピソード1』の山場などは、四つの視点が絶えず入れ替わり立ち変わり進行していくので、見ていてかなりせわしなかったりしました。
で、この『インセプション』もかなりその点でややこしい構成だったりします(笑) こちらもクライマックスでは意識の階層に応じた四つの時間軸が同時に進行していきます。しかもそれぞれの世界の出来事が、他の世界にも密接に影響していくというややこしさぶり。しかしここまで徹底されるとかえって混乱するというより、感心してしまうから不思議なものです。うん、ここまで思い切った実験というかチャレンジは、なかなかできるもんじゃないです。

ただ「同時進行」といっても、画面を四分割しているわけではないので、多少のズレが出てきてしまうのは否めません。DVD化の際には特典として、画面を「田」の字に区切って四つの世界を本当に同時に見せていく映像を付けるというのはどうでしょう。メーカーの方、どうぞご一考を。


ハード面の話はこれくらいにして、次にソフト面の話を。
わたしがノーラン監督の作品を見たのは『バットマン・ビギンズ』からなんですが、この『インセプション』を含む近年の四作には、多かれ少なかれ「親と子」というモチーフが使われているように思えます。
『インセプション』の主人公コブは、「子供たちの元へ帰らせてやる」という約束を信じて、難解なミッションに必死の思いで挑みます。一方コブのチームが潜入する「意識」の持ち主のロバートは、父との関係に強いわだかまりを有しています。
親でありたいと願うコブ。子でありたいと望むロバート。二人の思いが頂点に達してシンクロした瞬間、バラバラだった世界は一つになり、夢が現実のものとなる。このあたりに強いカタルシスを感じました。

で、ここでどうもひっかかるのがコブの依頼主である「サイトー」の存在。人の人生をいじくって自社の利益を図ろうとするなんて、なんてひどいヤツだと思いながら見ていたのですが、どうも見終わってみるとこの人、ロバートにいいことをしてあげたようにしか思えない。
そもそも「自分の考えで動け」という意識を植え付けたとして、本当に彼の会社が傾くかどうかは微妙なところです。別に社長自らこんな危険なミッションに参加しなくても、株やら市場やらを利用して安全かつ確実に追い落とす方法が幾らでもあるような気がするんですが。

もしかするとサイトーというのはロバートの父に雇われたエージェントで、ロバートに父の真意を伝えさせることが目的だったのかも。「普通に口で言えばいいじゃん」と思われる方もおられるでしょうが、『ロード・トゥ・パーディション』や『アイアンマン2』を見ればわかるように、父と子の関係というのはその辺、かなり面倒くさいものなのですよ。その上長年の確執があったりすると、率直に顔を合わせて言ってもなかなか信じてもらえなかったりして。
ただこの考えだと、「じゃあどうしてサイトーはコブにその目的を伝えなかったのか」という新たな疑問が沸いてきたりします。 ・・・うん、なんか事情があったんですよ。きっと。

妄想はこのくらいにして。
ラストシーン、「夢の中では回り続ける」というコマが倒れる前に映画は終りになります。若干傾いているようにも見えたんですが、それは「現実であってほしい」というわたしの願望がそう見させたのかも。
「子供の格好が夢の中とまったく同じ」ということから、全てコブの夢だった・・・と考える方もおられるようですが、実際は評論家の町山智之氏ほかがおっしゃってるように、「どっちでも取れるように作ってある」というのが真実でしょう。この辺は『トータル・リコール』や『マトリックス』(第1作)などでもわかるように、サイバーパンクもののお約束というか。
ただ衣装デザイナー担当のジェフリー・カーランド氏が言われるには、コブの子供が着ている服は、それまでとラストとで違うんだとか。そりゃ一体どういうことなんだーっ!!

100809_185749・・・・わかったぞ。そういうつつみくらますようなことを言って、もう一回見させようという魂胆なんだな!? ていうかなんだか本当にもう一回見たくなってきてしまったんですが(のせられやすい)。
ともあれ、『インセプション』は現在日米ともに大ヒット公開中。♪夢の中へ 夢の中へ 行ってみたいと思いませんか~ ・・・夢の内容によるかな。


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August 04, 2010

とーい昔の君へ リー・アンクリッチ 『トイ・ストーリー3』

100804_173211あのウッディとバズが10年ぶりに帰って来た! んだけど、今度の彼らはなんだか深刻そう・・・ 本日はピクサーの原点である『トイ・ストーリー』シリーズの完結編?をご紹介いたします。

ウッディが日本の博物館に送られそうになってから数年。いまや持ち主のアンディは大学進学を控え、もうオモチャで遊ぶ歳ではなくなってしまった。行き違いから彼に捨てられたと思ったオモチャたちは、自ら「オモチャたちの楽園」と噂される託児所「サニーサイド」へ向うが、そこは楽園などではなく、ぶっ壊れるまで子供たちに虐待され続けるオモチャの強制収容所であった・・・

だれですかっ こんなおっかねえ話を思いついたのわっshock

それはひとまずおいといて、前作「2」のラストを思い出してみましょう。一件落着した後、ウッディに語りかけるバズ 「いつかはアンディだってわたしたちを必要としなくなるぞ」 それに対し答えるウッディ 「仕方ないさ。でもたとえそうなっても俺にはバズという相棒がいる。それで十分さ」

・・・ってちょっと待て。いますごく重要な問題をさくっと流しただろ!

そう、いつか子供が大人になった時、オモチャの居場所はなくなってしまうのです。中にはいいトシこいてオモチャでコキコキ遊んでる大人もいますが・・・ げふんげふん
ま、ともかくこの問題に正面から取り組んで、納得のいく結論を出すには十年の歳月が必要だったということなのでしょう。

思えばこの十年でピクサーもすっかり日本に定着した感があります。実は『トイ・ストーリー』の1と2というのは日本においてはそれほど目立ったヒット作ではなかったそうですが(それぞれ15億と35億)、今回は初日の二日間だけで9億を稼ぎだすほどの快進撃。それだけピクサー、そして『トイ・ストーリー』が一大ブランドとなったということなのでしょう。
中には「いきなり『3』から見た」という方もおられるようですが、やはりここは前二作を見てからトライしていただきたい。でないと、三つ目の宇宙人たちがなぜクレーン車を見て「かみさま~」と駆け出すのかわかりません。ぶっちゃけ、ここ一番大事なとこなんで。
また前二作を見ることによって、「オモチャは子供に遊ばれてこそオモチャ」「しかしやがては捨てられてしまう身」という彼らのバックボーンが一層深みを増します。

果たして旅立つことになったアンディはオモチャたちにどんな決断をくだすのか? そしてウッディたちの運命は。

考えてみればオモチャと人だけでなく、人間同士でも大抵は必ず別れがつきまとうものです。たとえどんなに親しい間柄でも。
ここでこの「別れ」の儀式をきっちりやっておくなら、お互い次のステージへと気持ちよくステップアップできるわけですが、その辺がおざなりだったり不幸な形で済まされてしまうと、本編に出てくるロッツォ・ハグベアのように一生を左右するトラウマを負いかねない。「別れ」って大事だなあ、とつくづく感じ入ったのでございました。

とまあ深刻なところばかり語ってしまいましたが、いつものピクサー節は健在です。本当にもう、ネタ、詰め込みすぎなんですよあなたたちは!
まあなんつーかオモチャっていうのは、もう姿かたちだけで十分キャラ立ちしてるからずるいですよね・・・
仮面ライダーと思しきカマキリ男やら、おなじみのシンバルを連打するおサルやら、ウン年間逃亡生活をしている走る電話やら、不幸な過去から笑わなくなってしまったピエロ人形やら・・・ もう一度言います。ネタ、詰め込みすぎです。
なかでもはっちゃけてたのがバービーのボーイフレンドとして作られたケン人形。女の子のオモチャとして作られた男の子、という矛盾をはらんだ出自ゆえか、性格もかなり一筋縄ではいかないようで。来年のアカデミー助演男優賞は、まず彼と見てまちがいないでしょう。

さらには絶対脱出不可能なサニーサイドからどうやって脱出するのか? 脱出できたとして彼らに明日はあるのか? 最後の最後まで、本当に目が離せません。

100804_173247正直言うと最初は「なにもいまさら続編なんか作らなくても」と思ってたんですよね。作れば悲しい話になってしまうのがわかっていたから。
でも今は、ちゃんと彼らとお別れができて本当によかったと思います。これこそが最高の別れ方というものでしょう。
ちなみに次のピクサーの新作は『カーズ2』に『モンスターズ・インク2』。安易に続編を作らないところがピクサーの良いところだったのだが・・・
あと捨てられたオモチャたちにもそれなりにハッピーな毎日が待ってるかもよ?という作品には『屋根裏のポムネンカ』という素敵な作品があるのですが、こいつがどういうわけかまだDVDになっていないようで・・・ 納得、いきませんよ! というわけで、出すなら今です。「東欧版トイ・ストーリー」というコピーで売り出せば、きっとバカスカ売れますから!

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August 03, 2010

武士のラスト15分 平山秀幸 『必死剣 鳥刺し』

100802_183701『たそがれ清兵衛』以後コンスタントに作られている藤沢周平原作映画。今回は『愛を乞うひと』などで名高い平山秀幸氏がメガホンを取った、『必死剣 鳥刺し』をご紹介いたします。

江戸時代のとある藩にて。藩主は愛妾の言うがままに暴政を敷き、民衆の不満は募る一方となっていた。そんなある日のこと、中級武士兼見三左エ門は突如城内にて、その愛妾・蓮子を刺殺する。打ち首もやむなしと思われた三左エ門だったが、彼に下されたのは一年の閉門という驚くほどに軽い処置であった。「なぜ殿はわたしに死を賜れぬのか」 三左エ門は深く悩む・・・・

まず序盤の流れですが、とてもよくできたミステリーとなっております。
一つは「なぜ三左エ門は殺されなかったのか?」という謎。藩主は自らも省みぬ忠義の振る舞いに心を動かされたのか? それともほかに何か理由があるのか?

もう一つは「なぜ三左エ門は突然そんな凶行に走ったのか?」という謎。普通に考えるなら、藩政を乱す不届き者に我慢がならず・・・ というところなんでしょうけど、三左エ門はそんなに蓮子に対して憤ってるそぶりは見せないので、あまりそうも思えません。実はこっちの謎は結局はっきりとは語られなかったのですが(笑)、三さまの身に起きた不幸を思い返してみると、もしかすると忠義というより自殺願望のようなものだったのでは・・・ と思います。

そして題名になっている「必死剣 鳥刺し」の謎。三左エ門が会得しているという究極の剣技の名前。「いまだ誰も見たことがなく」「使い手自身、それを振るう時には半ば死んでおりましょう」というその技は、いったいどんなものなのか・・・

昨年から時代劇の本数もそれなりにありますけど、どうも評判を聞くとあまりかんばしくないようですね。原因はどうも時代劇に、半ば現代的な感覚を取り入れちゃってるからだと思います。まあわたしは『GOEMON』は好きですけど。
で、まあそこへ行くとこの作品、なかなかストレートでよいんじゃないかと思いました。「新感覚」はあえて取り入れず、シンプルに日本情緒と殺陣のみを追及しております。
わたしが特に感じ入ったのは武家屋敷の機能美とでも申しましょうか。この映画同様シンプルで機能的で、無駄なものがない。そんないい意味で日常的というか「無味乾燥」な背景が、突如として凶行と惨劇の場となる。それが映像に独特の緊張感をはらませています。

以下は深刻にネタバレしていきます。ご注意ください。

chick
chick
chick
chick
chick

わたくしこの映画に山田洋次監督の「がんす三部作」にあるような和み系の空気を期待していたんですが、きつめの作品も撮っておられる平山監督のカラー・・・というかチョイスゆえか、かなり矛盾というか皮肉の利いた仕上がりになっていました。
死を願っていた三左エ門が死を許されず、ようやく生きる目的を得られたかと思ったら、その矢先に・・・という流れは、予想もしていなかったので愕然としてしまいました。実は藤沢作品は一作も読んだことはないのですがcoldsweats01映像化されている作品の中でここまで無常感漂うものはなかったのではないでしょうか。

せめてもの救いは自分の人生を弄ばれた三左エ門が、必死剣により見事「武士の一分」を見せつけるところですが、それでも武士であるがゆえに、どうしようもないバカ殿は殺すことができない。それどころかそいつを守るために心身ともに優秀な人物を倒さねばならない・・・・ この辺にも強いニヒリズムを感じました。

100802_183729それはともかく、なぜか舞台挨拶では「早くおわんねーかな、と思った」を連発していたトヨエツ氏、なかなかの熱演でありました。かつてはトレンディードラマで一世を風靡した彼でありますが、歳を経てかなりチョンマゲが似合う風貌になってきました。
気がつけばこの映画も夏の大作におされて上映は今週いっぱいのところが多い模様。ご興味おありの方はお早めに。

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