戦闘兵器はカブト虫の夢を見るか 塚本晋也 『鉄男 THE BULLET MAN』
日本映画界において常にエッジの鋭い意欲作を送り出している塚本晋也監督。その出世作となった『鉄男』が、監督自らの手でイングリッシュ・バージョンとしてセルフリメイク。『鉄男 THE BULLET MAN』、紹介いたします。
愛する妻と息子に囲まれ、幸福な日々を送っていたアンソニー。だが彼は夜毎自分が鋼鉄と化していく夢に悩まされていた。そんなある日突然現れた謎の男たちの手により、アンソニーの息子はその命を絶たれる。
自分を揺さぶる感情を懸命に抑えるアンソニーだったが、男たちのさらなる襲撃にあった時、彼の悪夢は現実のものと化した。
まずお話ですが、まあいかにもどこかで聞いたような話です。『狼よ、さらば』『マッドマックス』『パニッシャー』etc。最近では『マックス・ペイン』なんてのもありました。まあ監督はストーリーは映像を引き立たせるために、最低限必要なものがあればいいと思ったのでしょうね。そんなわけでこの映画のキモはやはりグニグニかつゴツゴツとした独特のビジュアルにあります。
あと文字通り重金属というか重低音のサウンドが、ものすごい音量でかかっていました。わたしがいままで見た映画の中では、最も大音量の作品でした。
んでこの映画、中二男子(特にオタク系)にありがちな欲望・衝動・願望をこれでもかと再現した映画だと思いました。
中二のころというのは、心身に生じる変化をもてあまして、さまざまな妄想をつのらせることがあります。
まず何かをぶっこわしたい・暴れたいという気持ち。平たくいえばエネルギーの発散ですね。これが健康的な方向にいくと、スポーツに情熱を注いだりできるわけですが。あとこの衝動は、割りと大人でも抱えていることが多いような気がします。
ここからはややアブノーマルな領域に突入します。二番目は膨張したいという気持ち。これはイソップ童話に出てくるカエルと似たような心情かも。少しでも自分を大きく見せたい、強くみせたい、という気持ちが高じて、巨大な怪物になりたい気持ちを抱く子もいます。コミック『ハルク』『ARMS』『AKIRA』なんかもこの妄想を表現した作品ではないでしょうか。
膨張を続けていけばいつかは派手に破裂するものですが、そんな酸鼻な最後にさえ、奇妙なあこがれを感じたりして。
三つ目は「変身したい」という気持ち。これはもしかしたら日本人に特に固有のものかもしれません。アメリカのヒーローというのは、大抵変身といってもコスチュームやマスクをつけるだけで、中味自体は普段と変わっていません。
しかし日本のヒーロー・怪物の場合は中味からまるごと別の物質に変化してしまう、というものが多い。いわゆるひとつのメタモルフォーゼです。「変身」というか「変質」といったほうがいいかも。
実は自然界にもそういう変身を遂げるものがいます。それは昆虫。彼らは幼虫から成虫にいたる段階で、内臓その他の器官が一度ドロドロに溶けて、まったく別の器官に作り変えられるんだそうです。日本のサブカルチャーにそういうのが多いのは、わが国の男子たちが幼い頃から昆虫に普通に興味を抱いているからかもしれません。
中二のころというのは、自意識過剰な反面、極端な自己嫌悪に陥ったりもします。いい加減自分に嫌気がさして、まったく別物に生まれ変わりたいと願うわけです。
最後は「固くなりたい」という気持ち。・・・なんか下ネタくさいですけど、そういう意味ではなく、硬質化したいというか、頑丈な無機物になりたいというか、そんな感情。多感なころというのは、様々なことで深く傷ついたりするものです。しかし鉄のような体になれば、どんなことにも傷つかないし、動じることもありません。心無い悪意をぶつけられても、何も感じることはありません。それでそんな体になりたい、と思う少年もいるわけです。
大人になるにつれそういうとんがった衝動は、いつしか薄らいでいくというか、磨耗していくものです。しかし何かの拍子で・・・例えばストレスが昂じたりすると、そんな気持ちが甦ることもあり。そういう時は、こういう映画でも見て発散できればいいんですけどね。
そんな『鉄男 THE BULLET MAN』は本会場シネマライズでは既に上映を終了 ご興味を抱かれた方は、お近くの町にでも来た時にどうぞどらんください。
« 適当掲示板97&体を夏にシテ過激にさあ行こう夏を制する者だけが恋を制するもう覚悟をきめちゃって | Main | バンディッツ・オブ・アラビアン マイク・ニューウェル 『プリンス・オブ・ペルシャ/時間の砂』 »
Comments
映像のセンスや、こだわりの爆音は好きです。
しかしこのストーリーのセンスはつまらない、そう思いました。
まあこういうこというと熱狂的な塚本ファンが怒るか、あるいはお前になんか解らないって言われるのがオチなんですけどね。(苦笑)
Posted by: KLY | July 04, 2010 08:59 PM
>KLYさん
わたしもそれなりに楽しませてもらいましたが、なんかPVをえんえんと見せられているような感はぬぐえませんでした
第一作の『鉄男』のあらすじ読むと、こちらはなかなかに面白そうなんですが
そんなわけで昔の『鉄男』もいつか見てみたいと思ってます
Posted by: SGA屋伍一 | July 05, 2010 07:37 AM