映画ドラゴンへの道 ぴあフィルムフェスティバル 『くらげくん』『白昼のイカロス』
先日東京は京橋の国立近代美術館フィルムセンターで行われている「ぴあフィルムフェスティバル」へちょこっと足を伸ばして参りました。「ショートショート・フィルムフェスティバル」に引き続き、migさんの弟さんの片岡翔監督の応援に、わずかながらでも力になれればということで。
その日観た作品は片岡監督の『くらげくん』と、もう一本阿部綾織さん・高橋那月さんの『白昼のイカロス』。順番にご紹介しましょう。
☆『くらげくん』 片岡翔 (14分)
ガキ大将のコタロウくんと、いつも女の子っぽい服を着ている「くらげくん」は大の仲良し。ある日くらげくんはお母さんの都合で少し離れた町へ引っ越すことになってしまう。コタロウくんと離れたくないくらげくんは、彼に「一緒に遠くに逃げない?」と持ちかける。
この映画はまずこの「くらげくん」を見つけてきたことが大きいですね。女の子の服を着ているのにほとんど違和感がなく、とてもかわいらしい。また衣装もそれほど女の子女の子していなくて、「星から来た王子様」のように見えなくもありません。監督の片岡翔さんによりますと、三回目のオーディションでようやっとイメージに合う子を見つけられたのだとか。
わたしたちは生きていく上でさまざまな二者択一を迫られますが、くらげくんは男であることも女であることも選びません。ただ両者の間をくらげのようにたゆたっております。もしかしたら女の子になりたいのかもわかりませんが、とりあえず劇中ではそういうセリフはありませんでした。くらげくんがジャンケンが好きなのは、もしかしたら選択肢が二つだけじゃないからかも? 彼が望んでいるのは、何かになるということよりも、大好きなコタロウくんといつまでも一緒にいたい。ただそれだけなのです。
たとえばこれが「くらげくん」ではなく女の子の「くらげちゃん」だったらどうでしょう。「わたしたち将来結婚しようね!」「うん!」・・・めでたしめでたし、ということで終るでしょう。それも悪くはないかもしれませんが、それだったらわたしの心にはそんなに深くは残りません。無神経にも「うおー あぶねー 男と結婚なんてまっぴらだよー」と言い放つコタロウのアホ。でもここでくらげくんは女の子のようにワッと泣き出したりはしません。ただ寂しげにじんわりと笑います。そんなくらげくんの切ない気持ちややせ我慢がなんとも胸をうちます。
別の記事にも書いたことがありますが、子供映画の名作には列車・線路が印象的な仕方で使われていることが多いです。『小さな恋のメロディ』『ミツバチのささやき』『スタンド・バイ・ミー』『動くな、死ね、甦れ!』・・・ この映画でも道のすぐわきをオモチャのような小さな線路が続いていたり、西日のさした電車で寄り添って眠る二人の少年たちの姿が忘れがたい印象を残します。
上映終了後舞台あいさつがありました。「将来なんになりたいの?」という質問に、はにかみながら「特にありません」と答える二人の姿は、「立派な俳優さんになりたいです!」とか言うよりよっぽど劇中のイメージにあっていて思わずにやけてしまいました。
☆『白昼のイカロス』 阿部綾織・高橋那月 (83分)
田舎から友人を頼って上京して来た少女、春織。夜の雀荘で働くうちに、彼女は脚の悪い青年アランや、老カメラマン・マグチ、その愛人のアサコらと知り合う。それなりに順調に行き始めた都会での生活だったが、時折訪れる怒りや悲しみに若い魂は激しく揺れ動く。
くらげの次はイカ・・・ というわけではなく。若い女性監督二人による共同作品。これが監督二作目となるそうです。主演の春織は阿部さんが演じ、主人公の友人の役で高橋さんも出演しております。
田舎から出てきた若い女の子と雀荘というモチーフは、西原理恵子の『まあじゃんほうろうき』(漫画)などを連想させますが、こちらはあんなに過激で騒がしい話ではありません。くらげくんほどではありませんが、ヒロインの春織もまた、どこか中性的なキャラクター。一応女性のなりはしていますが色気というものが皆無で、時々ケモノのようにキレたりもします。普段ほわほわ~っとしているだけに逆上しているシーンはなかなかにインパクトがありました。
この作品に出てくる人たちはみな生命力が弱いために、日の下に出ることをいやがります。まるで日光にさらされたら溶けてしまうのでは、と思えるほどに。真夜中や明け方の街を連れ立って歩く春織たちの姿は、遠くに映る町の明かりとあいまって、一種幻想的な雰囲気をかもし出しております。
特にマグチ氏が青みがわずかにさしてきた空の下、春織を「撮ってやるよ」というシーン。あまり美人とはいえない(失礼)春織が、この時ばかりは見事に一枚の美しい絵になっている。このあたりに映像の持つ力を感じました。
鈍ければ何も感じずにたんたんと日常を送れるのに、繊細であるがゆえに周囲の悲しみや無神経さに深く傷ついてしまう。そういや学生のころ、こんな風に生きるのに不器用な友人たちが身近にいたな・・・なんてことを懐かしく思い出したりました。
こちらも上映後監督さんたちの挨拶がありました。阿部さん・高橋さんは劇中のイメージとはうってかわって鉢巻姿でボケ・ツッコミを繰り返していて、なんだかほっといたしました(笑)
恐らくあと五年もすればくらげくんはくらげくんを演じられなくなるだろうし、阿部さん高橋さんもこういうむき出しのタッチで作品を撮るのは難しくなるでしょう。そんな貴重な時間を永遠にフィルムの中に閉じ込てめておくことができるから、映画は素晴らしいです。
『くらげくん』は既に那須国際映画祭で短編賞を、東京国際レズビアン&ゲイ映画祭で観客賞を受賞しております。やはり『白昼のイカロス』と並んで7月27日の13時15分からフィルムセンターで上映されますので、ご興味おありの方は足を運ばれてください。
Comments
ごいっちゃん、ありがとう!
トリのレビューかな、皆さん1度観ただけですごい洞察力あってびっくり。
>でもここでくらげくんは女の子のようにワッと泣き出したりはしません。ただ寂しげにじんわりと笑います。
そうそう、あの表情がまたいいんだよね。
くらげくんの方がちょっとオトナなの。
そういうの、最初に観たときはそこまでわからなかったんだよね。
なるほど、そっかぁ
確かにみつばちのささやきとか挙げてるの全部線路でるのね?
よく覚えてるなぁ。。。
アハハ、二本目のもよくぞ書きました。
最後の絵は5割美人増しじゃない☆
27日のぴあの宣伝まで感謝!
そしていつも静岡から観に来てくれて、質問係もありがとう
次回作も良かったら観に来てね〜!
Posted by: mig | July 23, 2010 11:11 PM
二本目をコレだけ好意的に書ける伍一くんを尊敬します。(笑)
私は書いては観たものの全否定どころかマイナス。ボロクソを通り越えてしまいまして、自主規制しました。油絵の方は油絵かいててください。(おっとっと…)
さーて、じゃあオトコ会やりますか。熱海で芸者さんあげて…ってどこにそんな金が!
Posted by: KLY | July 23, 2010 11:42 PM
伍一くん、こんばんわ☆
私も尊敬しちゃうぅー!
2本目をこれだけ好意的に書けるって、すごいよね。
ねえねは、せっかくくらげくんでほんわかしたのに~って、怒り心頭だったよ。
しかもその前に「トイ3」を観たのに、せっかくの感動が台無しだよっと申しておりました。
くらげくんの絵が上手♪
Posted by: ノルウェーまだ~む | July 24, 2010 12:07 AM
>migっちゃんさん
おはよっすー 先日はいろいろどうもありがとう
きっと、くらげくんは今までにもお母さんにいろいろ振り回されて何度もがまんをしてきたと思うんだよね。だからお気楽そうなコタロウくんよりも、はやくオトナにならざるをえない。その辺がまたかわいそうで
実は『ミツバチのささやき』には列車が出てくるシーンはあるのだけど、列車と子供が一緒に映ってるシーンはなかったりします そういえば『スラムドッグ$ミリオネア』でも少し電車に乗ってるシーンあったよね。あれも好きだなあ
>最後の絵は5割美人増しじゃない☆
いやいやいや・・・ いろいろがんばってたから二割増くらいサービスです(笑)
27日も盛況だといいね。また新情報がはいったらよろしく!
Posted by: SGA屋伍一 | July 24, 2010 07:43 AM
>KLYさん
毎度ありがとうございますー
まあわたしは『ゲド戦記』や『デビルマン』でさえ見るべきところがあると思ってる人間ですから ・・・ってそうじゃなくて
上にあげた点はまじめに心惹かれましたよ。たぶん527本の中からこの作品を選んだ選者の方々もそういうところに惹かれたんじゃないでしょうか
>ってどこにそんな金が!
そりゃKLYさんの懐に決まってるじゃないですか! すいません! ゴチになります!
Posted by: SGA屋伍一 | July 24, 2010 07:48 AM
>ノルウェーまだ~むさん
おはようござります。先日はどうもありがとうございました
ははははは・・・ とりあえずこのレビューがねえねちゃんの目に触れないことを祈りますです・・・
そうですねえ。日ごろ商業映画ばかり見ている者としては、たまにこういうの見るとすごく新鮮だったりするんですが
そうそう、くらげくんのイラストは我ながら会心の出来だったので、ほめていただけると大変嬉しいです
Posted by: SGA屋伍一 | July 24, 2010 07:52 AM
伍一さん
先月から立てつづけに観にきてくださって、さらに素敵なレビューをありがとうございます!
ブロガーのみなさまはどなたも、熱意をもって、受け止めようとして観ていただけるので、ほんとうに嬉しいです。
くらげのようにたゆたう、、、そうなんです!
くらげくんがうらげくんと呼ばれるのは洋服のせいだけではないんです。
とても微妙なところを感じ取ってくださいましたね。
「たゆたう」って言葉が素敵なので、こんご使わせてもらいます!
みなさんの厳しい目にかなうかどうか、毎回ドキドキなのですが、
これからも応援とご鑑賞、よろしくお願いいたします!
Posted by: ネコメ | July 24, 2010 06:08 PM
>ネコメさん
こんにちは。お忙しいところ律儀にコメントありがとうございます
正直に言うと先回行った動機は「お姉さんへの義理」みたいなところがあったんだけど(爆)、映画祭に参加したり、新人さんの作品を味わったり応援したりするのがこんなにも楽しいものだとは思いませんでした! 映画のまた別の楽しみ方を教えてもらいました。こちらこそありがとうございます
さりげない表現を持ち上げてくださってそちらもありがとう。この「たゆたう」という言葉は漫画『ぼのぼの』で印象的に使われていて、時々使ってみたくなるのです
ほかの皆さんはともかく、わたしの評はあてずっぽうなことも多いですよ(笑) 的外れなこと書いてたら鼻で笑ってスルーしてください また次の作品も楽しみにしてます。さすがに札幌までは応援にいけないけど
あとネコメさんにこの動画をささげます
http://www.dailymotion.com/video/x7kftf_tvoped_shortfilms
開始15秒~23秒あたりに特に注目してください
Posted by: SGA屋伍一 | July 24, 2010 07:07 PM
TB&コメありがとうございました。
記事UPスゴイ遅くなっちゃいました・・・
きゃ~! くらげくんのイラストかわいい!
ホントにこのまんまの子でしたね。
よくアノ2人を見つけましたよね!
なるほど、くらげくんは男の子と女の子の間を漂っているのですね!
素敵な表現です★
Posted by: maru | August 04, 2010 01:30 AM
>maruさん
おかえしありがとうございます
くらげくん、三回目で見つかって本当によかったですね~ 四回目でも五回目でも見つからなかったら、監督もさすがにあきらめたかもしれない(笑)
「素敵な表現」とは照れます できればくらげくんには永遠に二つの間を漂っていてほしいのですが、大きくなるにつれだんだん難しくなっていくんだろうなあ
まあ今の日本にはそんな「くらげさん」もたくさんいますけど
Posted by: SGA屋伍一 | August 04, 2010 07:26 AM
SGA屋伍一さん、お久しぶりです。
映画ブロガーさんの中には作品がかぶったら
なんでもかんでもトラックバックやコメントをする人もいて、
そういう積極的なスタンスも立派だとは思うのですが、
意見が極端に違う場合はコメントのお返事がし辛い時もあってね・・・。
SGA屋伍一さんは私がトラコメほしいなと心から望んでいる作品に
トラックバックと丁寧なコメントを頂けるのが嬉しい♪
SGA屋伍一さんとはブログ上でお話ししやすいです。(*^-^*
>くらげくんがジャンケンが好きなのは、もしかしたら選択肢が二つだけじゃないからかも?
ナルホドです☆
くらげくんにとっては選択肢が二つしかない性別は窮屈なのかもしれないですね。
永遠にコタロウくんの傍にいたいけど、
それが長くは続かない現実は子供なりに理解出来ている。
じゃんけんのツールは3つだけど、結果の組み合わせは増える。
その広がりに身を委ねたい気持ちだったのかも?
ああいう結果になってしまっても
感情を荒げたりしない大人なくらげくんの表情がせつなかったです。
Posted by: BC | September 20, 2010 06:52 AM
コチラからも何度かトラックバック打ったのですが、
届いていなかったらすいません。m(_ _)m
ハンドルネームにURL貼っておきます。
Posted by: BC | September 20, 2010 07:05 AM
>BCさん
こんばんは。ご無沙汰してたのにとても丁寧なお返事ありがとうございます
最近はだいぶ営業をサボってるわたしですが、よそのブログにお邪魔する時は、とりあげてる映画の感想というより、その人が書いた「記事」の感想を書きたいな、と思っています
うまくまとまらず、とんちんかんなコメントしなってしまうこともしばしばですが
ともあれ、BCさんとこにはもうちょっとマメにお邪魔したいと思っております。ひきつづきよろしくお願いします
>じゃんけんのツールは3つだけど、結果の組み合わせは増える
そうですよね。たった一つ選択肢が増えただけで、けっこう自由度が広がったように思えるから不思議です。まあ2次元と3次元も一個増えただけでだいぶ違うし
なんのかんの言いながら、ずっと一緒に行動してるところを見ると、コタロウ君も実はまんざらではないのかもしれませんね。ただあのくらいの年の男の子っていうのは、好きな子に素直に「好き」とはいえないものですし
きっとコタロウくんは大きくなってから、あんな心無いことを言ってしまったことを、ずっと後悔し続けるんじゃないかな・・・
トラックバックの件、お手数をかけてすいません。ちゃんとどいておりました。ブログによって時々すぐに反映されなかったりすることがありまして。そんなファジーなところが困ったココログです
Posted by: SGA屋伍一 | September 20, 2010 09:08 PM