授業の復讐忘れずに 湊かなえ 『告白』(原作)
久方ぶりの読書記事・・・ 予想以上の大ヒットで「社会現象」とまで言われてる映画『告白』。本日はその原作を紹介します。
あらすじは映画と一緒(当たり前か)なんですが、一応手短に書いておきますか。春休みを目前に控えたある中学校。終業式後のHRで教師、森口は生徒たちを前にこれが彼女の最後の授業であることを語る。これまでの人生、職を辞す理由、少し前に起きた愛娘の死・・・ そして彼女の次の一言が、その場にいる生徒たち全てを震撼させる。「愛美は死にました。しかし事故ではありません。このクラスの生徒に殺されたのです」
まず読んでおどろいたのは、最初の一章だけで見事にきれいにまとまっているということ。つまり映画でいうと最初のHRの部分ですね。日常のごくありふれた光景が次第に狂気を帯びていき、そして最後に胸をえぐるような一言が放たれる。本当にサスペンス短編のお手本のような構成。
それでウィキペディアで調べてみましたら、やはりこの作品、最初の第一章のみが一つの作品として発表されたようです。作者の湊先生は「最初は続きを書こうとは思っていなかった」とか。
そこを敏腕の編集さんが「もっとこういう風に膨らませられるんじゃないか」と言ったかどうかは知りませんが、さらに五つの章が足されることになりました。それぞれ生徒やその母親などの、独白や手紙、日記からなっていて、つまりどの章もタイトルにあるように、誰かの「告白」であります。全て一人称か二人称で書かれていて、まるでリレーのように事件の経過と真相がつづられていきます。最初の章なんかは森口先生が生徒たちにほぼ一方的に語りかけるだけなので、生徒たちの反応は最小限しかわかりません。この辺特に映画と小説、それぞれの表現の違いを感じることができます。また、どの章にも最後にはドキッとするような結末が用意されていて、先に映画を見て流れを知っているにも関わらず、いちいちショックを受けたりしました
映画の記事にも書きましたが、人は自分の気になる人に、こういう人であってほしい、こういう風に思っていてほしい、と願うものです。
原作においてはその点はさらに顕著です。美月は森口の中に「倫理感が残っていてほしい」と願い、直樹の母は息子に「本当は優しい子である」と信じ、直樹は修哉が「自分のことを認めてくれている」と信じ、修哉は母親が「いつか自分を暖かく迎えてくれるはずだ」と期待します。そしてそういった期待のずれが連鎖反応を起こして大きな悲劇を産み、さらにまた別の悲劇へとつながっていく・・・ 本当にイヤな話でありますが、その緻密に組み上げられたストーリーには舌を巻かされます。
以下、結末を割ってます。ご注意ください。
映画にはまだなにがしかのユーモアや、あるかなしかの温かみが感じられましたが、小説には一片の逃げ場すらありません。とことん登場人物をを絶望の淵に追い込みます。
映画の記事で「森口は実際には爆弾をしかけてはいないのではないか」と書きましたが、小説の森口先生はまずまちがいなくふっとばしてますね。
文庫版の巻末には中島監督のインタビューが付されているのですが、それを読むと中島氏はやっぱりそれなりに子供に親しみを抱いていると思います。「なんだかんだ言って、彼らは人が嘘をつくものだとは思いたくないんですよ。みんな優しいんですよね」
しかし恐らく湊先生は子供があまり好きではないんでないかな、と。大抵の子供たちって純真である反面、どこか小ずるい部分も持っているもの。中島監督はそういう部分も受け入れられるのだろうけど、湊先生の方はどうにもそこが許せない。そんな風に自己欺瞞や偽善、表面上しか物事を見ない人への怨念のようなものを本書からは感じました。あー 怖い
ちなみに湊先生、もっとも影響を受けた作品に島田荘司氏の『暗闇坂の人食いの木』をあげているとか。・・・なんか意外な気がしました。あちらは心理的にはそんなに深くつっこんだ話ではないので。読後感なんかむしろさわやかだったりします。たぶん影響を受けたというのは、複数の文体を駆使して、謎の見せ方を工夫したり、お話にリズムを持たせたり、そういうテクニックのあたりではないでしょうか。
そういやいわゆる「新本格」には、こういう文体に技巧を凝らした作品がいっぱいあったなあ。そういうのもっと読みたいという方は、綾辻行人氏や折原一氏などの著作をおすすめします。
夏は行楽もいいですけど、読書にも励みましょう。それではみなさん、良い夏休みを(松たか子風に)
Comments
伍一くん、キンスポー
原作本も観たんですね!!
これで両刀使い? (なんか朝からすみません^^;
さすが深読み伍一くん!
おすすめ作者の本、チェックしておきますね〜。
私は乃南アサや桐野夏生にハマったっけ。
下の子は告白は私より先に読み、
「リアル鬼ごっこ」本から作者読みしてって
「自殺プロデュース」まで図書館で借りてきてたよ。
作家がこんなすごいことを想像し小説として出すというところに感心しまくっているようです。
深読みしているのは良いのですが、チョイスがちょっとあぶなくないっ?
その純粋さ(未熟さ)ゆえに、狂気(凶器)に
かわる子もいそうですね。生まれ持った性質にあるかと思ってます。
私も何回か殺意を抱かれたことがあるそうです
下の子に(笑) 完全犯罪を妄想してたんだとか。
良かった〜今生きてて。
うちの子に限って!というのはないんだよね。
生涯味方だけど、我が子だって間違いも悪いこともするもんです。我が子に盲目は危険。
そんな親が子を追いつめる要因になるかもしれないってことも、この作品ではちゃんと表現できていて
どの角度からもみても秀作でしたね!!
長々とめんご〜。イラスト、ハラハラと涙が流れているの図?
Posted by: hino | July 17, 2010 10:00 AM
>hinoさん
キンス告白。実は前からあなたのことが!
島田荘司さんはとりあえず『占星術殺人事件』と『異邦の騎士』を
綾辻行人さんは『十角館の殺人』『緋色の囁き』あたりがおすすめです
・・・ビックリしますよ
乃南先生は新聞に連載された『ボクの町』というのだけ熱心に読みました
下のお子さん、たしかに少し心配だ(笑)。ここらでお母さんが心温まる良い本を紹介してあげましょう。『バッテリー』なんかいいですよ
そして何気に衝撃の告白ですね・・・
でも大抵のお子さんは十代のころそんな危険な気持ちになることがあると思います。あくまで「チラッと思った」どまりなんだけど
大人になると、いつしかそんなことなど完全に忘れてしまうものですけどね
hinoさんはあんなお母さんになることはないと思いますよ。だって愉快だもん(あれ?)
イラストはそういう図です。はらはら
Posted by: SGA屋伍一 | July 17, 2010 09:56 PM
こんばんは!
原作の方が、救いがなくてホントに怖いですよね〜。
特に森口センセは、人間性を感じさせないクールさが
際立っていました。
中学生は、昔から微妙な年齢ではありますが、
ちょっとでも気に入らない事があると、極端な行動に走る風潮は
今の世の中全体に浸透している感じで怖いですね〜。
湊かなえ作品は、本作が初めてでしたが、
他の作品を読む勇気が今はまだありません・・・(~_~;)
Posted by: ルナ | July 20, 2010 12:59 AM
>ルナさん
こんばんは。お返しありがとうございます
原作を読んでると、森口先生は明らかに松たか子とは違う人が思い浮かんでくるんですよね。黒ぶち眼鏡の似合いそうなきりっとした人が。じゃあどんな女優さんが・・・というと、これが案外思いつかなかったりするのですが
>ちょっとでも気に入らない事があると、極端な行動に走る風潮は
今の世の中全体に浸透している感じで怖いですね〜。
それはあると思います。少し前までは老人が事件を起こしても「最近の老人はすぐ切れる」とは言われませんでしたけど、ここ最近はあまりにそういう事件が目立つのか、よくそんな風に言われてますからね
ちょっとのことでは乱れない大きい心を持ちたいものです。・・・とまあ、クチでいうのは簡単ですが(笑)
湊先生の本、わたしは『贖罪』とか早く読みたいですけど、ハードカバーは高いので文庫になってからですね
Posted by: SGA屋伍一 | July 20, 2010 10:47 PM
伍一くん、こんばんわ☆
今日はねえねと「告白」観てきました。
私は原作を先に読んだので、このクールな原作がいったいどんな映像になるのか、ワクワクしてみちゃいました。
残忍で陰湿な事件を、ものすごく美しい映像でみせることに、賛否両論だったみたいだけど、私は、原作の『大変な事件なのにどこかクールで人事のようなサラリとした印象』を、上手く表現しているように感じました。
そうそう、オトナ会は楽しかったね♪
伍一君ワールドを体験できて、感激でした。
今日はhinoちゃんに会えたよ。
二人の掛け合いを今度ナマで見たいな。
キンスポー?
Posted by: ノルウェーまだ~む | July 22, 2010 12:16 AM
こんばんは~♪
やっぱり原作読みたいです。
映画より救いようがない…という事は読み終わって凹むかな?
でも気になるので、読む事にします。(笑)
お勧めの作家さんもチェック!!
先日は色々ありがとうございました。
こんなおばさんに(笑)伍一さんが、色々と話を振ってくれたので楽しく過ごす事が出来ました。
今後ともよろしくお願いしますね。
先日の話にも出てましたが、絵上手いんですね~☆
らくがきのパンだと猫が可愛い~♪
Posted by: にくきゅ~う★ | July 22, 2010 12:35 AM
>ノルウェーまだ~むさん
キンス告白。実は前からあなたのことも!
映画はざっと見たところ「原作には及ばない」派と「原作を超えた」派で意見が二分されてる感じです
わたしはやっぱりまず原作ありきの話で、映画は中島監督の一解釈だととらえてます。とてもよくできた一解釈だと思いますけどね
ねえねちゃんの感想も知りたいので記事の方にちょこっと書いておいてくれると嬉しいです。なんとなく辛口のような気がするw
それはともかく、先日はどうもありがとうございました。お話できてとても楽しかったです
わたしもまだ~むとhinoさんのかけあいが見たいなあ。というか、migさんも入れたキャッツアイのコスプレが見たい。ああ、逃げないでください!
Posted by: SGA屋伍一 | July 22, 2010 07:49 AM
>にくきゅう~★さん
初来店ありがとうございます!
そうですね。わたしも映画見てから原作を読んだのですが、そちらの方が楽しめるような気がします
映画でワンクッション置いてるので、その分ショックも軽いかと思います
先日はこちらこそいろいろありがとうございました わたくしの地元の友人たちはあまり映画を観ないので、じかに映画の話を出来る場があると本当に楽しいのですよ。こちらこそオン・オフ共によろしくお願いします
ヘボ絵もほめてくださってありがとうございます このキャラで一発あてられないかな~とアホなことを考えてはや四年・・・
Posted by: SGA屋伍一 | July 22, 2010 07:56 AM
こんにちは~♪
夏休みが終わる~~~!!!
昨日、我が家では、読書感想文の宿題がやっと終わりました・・・あとは問題集だ(汗)・・・終わるのだろうか?
で、、、読みましたよ~「告白」
映画は原作に忠実だったんですね~
映画の場面を思い浮かべて、かなり面白く読めました。
>最初の第一章のみが一つの作品として発表されたようです。
おお~!!そうでしたか!!
それだけでも短編としてインパクトありますよね~
>自己欺瞞や偽善、表面上しか物事を見ない人への怨念のようなものを
ああ・・・分かります。
ニュアンスは違うかもですが、私は本を読んでいて、湊さんが怖くなりましたよ(汗)文章から独特の冷たさのようなものを感じて・・・
本は気に入りましたが、「読みたい!」と言っている息子にあまり読ませたくない気持ちがあります。変に都合よく物語を解釈して欲しくなくて・・・
Posted by: 由香 | August 31, 2010 11:38 AM
>由香さん
多忙中いらしてくださりありがとうございます~ 読書感想文、無事かたづいてよかったですね(笑) 由香さんもいろいろアドバイスされたのでしょうか
で、とうとう原作読まれたんですね。たしか迷っておられたと思いましたけど
わたしは映画とはまた違った絵が思い浮かべながら読んでおりましたよん
最初の第一章、ひとつの短編として本当によくできてますよね。ただ作中で「あれではエイズは発症しない」と言われてますので、最初に発表したあとで指摘されたりしたんでしょうか
そうですね。これ中学生にはあまり読ませたくないですね。映画もたしかR15指定だったし。多感な時期に読むと人間不信に陥ってしまうやも
中学生にはぜひ『カラフル』を読んでほしいです。これ映画見たあとで原作も読んだのですが、すごい良かったですよ!
Posted by: SGA屋伍一 | August 31, 2010 07:31 PM