オマケの9太郎 シェーン・アッカー 『9 ~9番目の奇妙な人形』
あ、また世界滅亡後の話だw ティム・バートン&ティムール・ベクマンベトフの二大オタク監督が、俊英のCGアニメをプロデュース。『9 ~9番目の奇妙な人形』紹介いたします。
たぶん近未来なんだろうけどどこかレトロチックな世界。とある家のテーブルで目を覚ました一体の人形。彼の背中には大きく「9」の字が刻まれていた。生き物の気配がまったくしない中、さまよい出た「9」は自分とよく似た姿の「2」と出会う。友情を深め合う間もなく、二人は奇怪な鉄の怪物に襲われる。
最近は「人類滅亡」をうたった話も珍しくないですが、そう言いながらも、大抵はちょびっとくらいは生き残りがいたりするもんです。ところがこの『9』では回想以外、本当にひとっこ一人出てきません。恐らくマジで死に絶えてしまったのでしょう。よくぞそこまでふっきったものです。
その代わり地表を歩いているのは、1から9まで番号をふられた奇妙なお人形さんと、同類を生産する奇怪なマシーン。なんか感情移入の難しそうな世界かと思いきや、そうでもありません。
ここには確かに冒険があり、友情があり、生死があって喜び・悲しみがある。たとえ人間不在でも、そういうものがそろっていれば十分に血湧き肉踊る一大活劇となりうるのです。個人的には小さな主人公たちや、ほとんど人間が関わってこないという設定などから、名作アニメ『ガンバの冒険』を思い出していたりしました。
思い出したと言えばもうひとつ。「9」の声をイライジャ・ウッドがあてているのですが、そのことから9人というのは『指輪物語』の「旅の仲間」の数と一緒であることに気づきました。実は監督のシェーン・アッカー氏は、『ロード・オブ・ザ・リング』のCGパートを担当していた方だそうで。もしかしたら監督は『LOTR』のSFアニメ版としてこの映画を作ったのかもしれません。
『LOTR』ではエルフたちの時代が終り、人間たちの時代が盛りを迎えますが、この映画では人間たちの時代が終り、「次なる者たち」が冒険を繰り広げます。
「指輪」に相当するものも一応出てきます。機械の悪魔とも言える存在に、強大な力を与える謎の装置。お話はこの装置を軸に進行していきます。
海外アニメもすっかりフルCGが主流になってしまいましたが、この作品が他のCGアニメと違うのは、やはり世界観やキャラデザインがダークなこと。背景は最初から最後まで日の光がささないままだし、お人形さんたちには傷跡のような縫い目があったり、脳みそや内臓がはみ出ているように見える箇所も。悪者のモンスターにいたっては言わずもがなです。
ただ人形たちに関して言えば、大きなメガネのようなまん丸の目で不気味さが中和されている気もします。この映画、上映時間は決して79分と長くはないのですが、活かしきれなかったキャラもあるとはいえ、この九人?の個性をきっちり描ききった点は見事でした。
この「人形に魂を吹き込む」というアイデアは、本来動かないものを動かすアニメーターだからこそ出てきた着想かも。人間らしい感情を持つ人形たちと、無感情に動き回るマシーンたちの対比は、作り手の「効率(儲け)だけ考えて機械的に作品を作るのではなく、ちゃんと魂・感情をこめなきゃダメだ」というメッセージのような気もしました。
少々ネタバレになりますが、この映画の結末について何人かの評者は「あまりにもあっけなく、肩透かし」と述べました。確かに普通のエンターテイメントに比べると、いささか不安や謎が残る結末ではあります。しかしこてこてに明るいエンドよりかは、作品にかなりマッチした閉め方だと感じました。同じように感じている方も多いのか、割とアート系の映画を好む人たちからの支持が高いような気がします。
そんな『9 ~9番目の奇妙な人形』はまだ全国を細々と巡回中。チェコアニメやティム・バートンの世界がお好きな人におすすめです。
今夏はすでに「人形アニメ」の決定版である『トイ・ストーリー3』も公開されていますね。夏休みは小さな連中の大冒険に手に汗握りましょう。
Comments
とにかく素晴らしく美しい映像、何せあの麻布の質感までもが伝わってくるようなところが強烈に印象に残っていますが、ストーリーは全くと言っていいほど平板で印象にないです。しいて言えば、ラストの魂が解放されるところぐらい。
ぶっちゃけ短編より画質ははるかにハイクオリティ、でもストーリーの質は落ちた、そんなふうに受け止めてます…
Posted by: KLY | July 14, 2010 11:40 PM
>KLYさん
毎度ありがとうございます

麻布・・・ え!? この町って「あざぶ」がモデルなのか? ・・・と一瞬思ってしまいましたよ。「あさぬの」ですよね。アホにもほどがあります
ストーリーは確かにあっさり風味でしたが、一編の童話というか寓話と考えればいいかと。深読みしようと思えばそうできるところもいろいろあると思いました
もとの短編はたしかyoutubeで見られるんでしたっけ。あとで見てみよう
Posted by: SGA屋伍一 | July 15, 2010 07:35 AM
ゆうつべで見られた短編をわざわざ観に行ってしまいましたが、それはそれでよかった。
同じようだとも言われますけど、観た時の印象がやっぱり残るんですよね。
発展形と言うか次回作はないと思いますが、この世界観はいいよね。
Posted by: rose_chocolat | July 17, 2010 10:46 AM
>rose_chocolatさん
そういや先日の上海アニメとか、以前行ったチェコアニメの特集上映も、あとでようつべで調べたらけっこうあがってるものがあったりしてorz
まあほかにも色々見られたからいいのさ・・・
「この世界は僕らが守る」ってどういうことなのか、このまま人形たちだけがあの世界に生きていくのか、それとも人間たちにわずかな復活のチャンスが残されているのか・・・
いろいろ考えてしまいましたよ。でもそれは受け手が考えるべきことであって、お話はあそこで終わって正解だと思います
Posted by: SGA屋伍一 | July 17, 2010 10:01 PM
こんばんは(^_^)
キモ可愛い人形良かったですよね〜。
それに世界観も結構好きでした。
ストーリーは、まあよくあるパターンでしたが
結構楽しめる作品でした。
短編見れるんですね〜。私も見てみようっと・・・。
Posted by: ルナ | July 18, 2010 12:14 AM
>ルナさん
こんばんは
上にもちょこちょこ書いてますけど、あのちょっとグロ入った造形はチェコの人形アニメを意識してるんでは、と思いました。バートンの『ナイトメア・ビフォア・クリスマス』にも不気味なようで可愛らしい人形が色々出てきましたよね
今日『トイ・ストーリー3』を見てきたんですが、「お人形さんの話」ということで比較して見てみるとなかなか楽しかったです
Posted by: SGA屋伍一 | July 19, 2010 07:11 PM
私はこの映画の結末も含めてお気に入り。
明るすぎないエンドは、この作品に合ってますよね。
人間がひとりもいなくて、お人形とマシンだけの世界というのもいいです。
植物や動物や、いろんな命が少しずつ復活していく世界を
ちいさな人形たちが何万年も守っていく・・・
そういう未来を想像しました。
そっか、9人といえばサイボーグ。
石ノ森章太郎リスペクトもあったかもですね
Posted by: kenko | July 20, 2010 09:13 PM
>kenkoさん
こんばんは
お返しありがとうございます
荒廃した世界を人造物が復興させる・・・というと『WALL・E』ラストを思い出しますが、あちらが人間との共同作業だったのに対し、こちらは完全に見捨てられてる感じでしたね(笑)
でも不思議とそんなに暗くはなく。この地球の長大な歴史を思うと、人間もつかの間にとどまり、やがて消え去っていくそういう存在なのかな・・・とふと思ったりして
とりあえずあの人数だけで復興させていくのは難しいでしょうから、9たちの当面の課題はなんとかして人手というか人形手を増やすことでしょうか
>石ノ森章太郎リスペクトもあったかもですね
む・・・ それはどうでしょう(笑) バートン氏は日本のサブカルでは怪獣系にやけにくわしいと聞きましたが
Posted by: SGA屋伍一 | July 20, 2010 10:57 PM