ゲイは身を滅ぼす? グレン・フィカーラ ジョン・レクア 『フィリップ、君を愛してる!』
首都圏より二ヶ月ばかり遅れて上映(そしてもう終了)。『フィリップ、君を愛してる!』ご紹介いたします。
ゲイであることをひたかくしにしてきたスティーブンは、交通事故にあったことをきっかけに、自分に思い切り正直に生きることを決意する。だが恋人(もちろん男)と豪遊するうちに金が足りなくなったスティーブンは、詐欺の道に足を踏み入れる。最初はそれなりにうまくいっていたが、やがて発覚。ところが服役中のスティーブンに思いもかけない幸運が訪れる。所内でモロ好みの男性、フィリップとめぐりあったのだ。
冒頭に実にいかしたスーパーが入ります。「本当にあった話」。間をおいて「本当なんだってば」。
事実は小説よりも奇なりと申しますが、これがいかに突飛で馬鹿馬鹿しいお話であることをよく表している二文だと思いました。
ときどき興奮するとオネエ言葉が出てしまうので、一部の方からはゲイかと思われているかもしれませんけど、わたしは普通に女子が好きです。ゆえに「男同士の恋物語」にはやや腰がひけてしまうのですが、それでもなおこの映画には「見たい」と思わせるだけのものがありました。それは「脱獄」。
後半スティーブンは実に四度もの脱獄にチャレンジするのですが、脱獄ってそう簡単にできるもんじゃありませんよね。一体どんな方法でそいつに四度も成功したのか? いつか自分が何らかの理由で収監されたときに役立つかもしれない・・・ そんな風に思って鑑賞に踏み切りました。もちろんその辺も大いに楽しみましたが、見てみて一番印象に残ったのはスティーブン・ラッセルという人間の個性。本当にこの男、面白すぎです。
冒頭こそごく平凡な人生を歩んでいたはずなのに、とあることをきっかけにどんどん常人の人生から逸脱していくスティーブン。ハイテンションで、自由奔放で、次に何をやらかすのか予想もつきません。
あと脱獄や詐欺の才能には恵まれているのに、「保身」の才能がまるでなかったりします。その才能がちょっとでもあれば、逃げた端からまた捕まらなくても済んだだろうに。
まあ彼にはたとえ捕まる危険を冒してでも、どうしても恋人に伝えねばならないことがあったのですね。エキセントリックで嘘まみれな生き様の裏で、実はただ本当の「愛」がほしかった・・・ そんなごく人並みの願望を抱いているところが、また面白くもあり、物悲しくもあり。
「ゲイは金がかかる」とつぶやくスティーブン。わたしゃ門外漢ですけど、それはちょっと違うんじゃないかと思いました。実際彼が愛したフィリップは「お金なんかそんなにいらない」みたいなことを言ってましたし。
恐らく生活苦のために養子に出されたスティーブンは、「お金がなければ愛は失われてしまう」という思い込みでもあったんではないでしょうか。あと、人というのは自分にある種の才能があることに気づくと、そいつをいかしてしまいたくなるものです。たとえそれが詐欺の才能であっても。
以下、結末に若干触れています。未見の方はお気をつけください。
「自由に生きる!」ことを決意したスティーブンでしたが、皮肉なことにその生き方を追い求めた結果、彼が行き着くのは決まって刑務所。最後にはもっとも不自由極まりない生き方を強いられることになります。にも関わらず、ラストにおける彼の顔はとても晴れやかです。自由とは、状況の問題ではなく、精神の問題なのかもしれません。
それにしても、確かに詐欺は悪いことですけど、誰も傷つけていない人間(叫び屋は別として)を、懲役167年ってい不公平じゃないですかねえ。彼は満足してるかもしれませんが、なんらかの恩赦でまたスティーブン・ラッセルが日の下に出られることを、わたしは願ってやみません。たぶんそしたら周りの人間は、またいろいろ迷惑をこうむることになるでしょうけど・・・
Comments
こんばんは
そうそう、冒頭のスーパーいかしてますよね。
あのスーパーでもうこの映画好きだったかも。
ジム・キャリーとユアン・マクレガーがカップルってだけで
おもしろすぎるんだけど、脱獄のアイデアには脱帽。
これが映画的に脚色されたものじゃないなんて。
青空の下、笑いながら走り抜けるラストシーンには
拍手したくなっちゃいました。
Posted by: kenko | June 09, 2010 12:32 AM
>kenkoさん
おはようございます。毎度ありがとうございまする
冒頭のあのスーパー、まさに「つかみはOK!」というヤツでしたね
そして冒頭とラストがあの雲でつながるという・・・ セクハラかしら・・・
日本でも「絶対脱獄不可能」といわれた三つの刑務所から脱獄した方がいるんですけど(こないだ板尾さんが演じた人?)、その人の方法に比べると、スティーブンのやり方はかなりおバカというか、笑えます
これ、考えようによっちゃかなり悲惨な結末といえなくもないですけど、わたしもあの笑顔でだいぶ救われました・・・
Posted by: SGA屋伍一 | June 09, 2010 07:12 AM
はーい、ごいっちゃん。(笑)
TBコメありがとうー
この映画大好き。
実話ってところがまた凄いと思う☆
ジムも、珍しく可愛いユアンもハマってたし。
もう最近時間なくって〜
いよいよ明日でblog5周年、ゼロ年代映画、やろうと思ってたのに何にも考えてなかった
もし出来たら 読まないでおいた下の記事にあそびに行くね☆
Posted by: mig | June 14, 2010 09:44 PM
>migっちゃんさん
おはようござります。お返しありがとう
「実話をもとにした話」も本当にいろいろ見てきたけど、ここまで型破りな映画はちょっと思いつかないね・・・
ユアン・マクレガーは『トレイン・スポッティング』のころの情けない感じを思い出しました。そういえば、もともとはこういうナヨナヨっとした役が多かった気がする
一足先に五周年おめでとう。ゼロ年代ベストが完成するように祈ってます(笑) 18日もよろしく
Posted by: SGA屋伍一 | June 15, 2010 07:07 AM
お久しぶりです。
最近放置気味の拙ブログを心配してくださって
先日はご訪問ありがとうございました。
嬉しかったですよ~~
で,久々に作品が被ったのでお邪魔しました。
もちろんこれは私の好きなジャンルの作品なんですが
SGAさんは「脱獄」に惹かれて鑑賞とは・・・わははは。
しかしいろんな意味で面白く
万人が楽しめる作品ですよね。
これが実話っていうのが一番すごいですわ。
ゲイは金がかかる・・・って
私も違うな~って思いました。
ゲイでなくても相手によっちゃ金かかるし
つましいゲイもいますよねぇ・・・・。
Posted by: なな | November 17, 2010 08:47 PM
>ななさん
こんばんは~ 最近お疲れでしょうか。どうぞマイペースで・・・と言いつつも、なじみのブログの更新が乏しいのはさびしいものです。あ、でもホント無理されずに(どっちなんだ・・・)
いや、わたしはゲイ映画を映画館で見たのはこれが初めてかもしれない。でもゲイ映画というよりは、「一人の奇人の奇想天外な半生」として見ておりましたよ
ちょっと濃厚な描写もありましたが
、10人に9人はこのお話を知ったらおったまげると思います。上のコメントにも書きましたが、日本にも「昭和の脱獄王」と呼ばれた人がいたんですけどね。吉村昭さんがそれを題材に『破獄』という本を書いてます
ななさんのとりあげてたゲイ映画のレビューを見る限りでは、大抵のゲイカップルはつつましかった気がします。やはりお金でつながってるような愛は本当の愛ではないのよ!
スティーブンはさすがにもうそれに気づいたでしょうか
Posted by: SGA屋伍一 | November 18, 2010 11:04 PM