おさかな煉獄 ピーター・ジャクソン 『ラブリーボーン』
『ロード・オブ・ザ・リング』『キングコング』のピーター・ジャクソン最新作は、ラブリーな少女の幽霊譚。怪獣の出てこないピージャクなんてピージャクじゃない! と思いつつ見に行ってきました。『ラブリーボーン』です。
1970年代のアメリカ。平凡だが皆から愛される少女、スージー・サーモンは、殺人鬼の手にかかってあえなくその生涯を終えた。だが彼女の精神は消滅せず、現世と隔たれたある場所から、家族の様子をずっと見つめ続ける・・・・
予告ではたしか「大変! 家族のためになんとかしなきゃ!」みたいなセリフがありまして、『ゴースト ニューヨークの幻』みたく現世にバリバリ関わってくるのかと思いきや、お話はそういう方向には行きません。
スージーはあの世とこの世の中間地点から、基本的には人々の様子を見守ることしかできません。まるでガラスの容器に閉じ込められたかのように。
殺された少女、隔絶された世界、あの世とこの世の境界・・・・そんなキーワードは、スペイン映画の名作『ミツバチのささやき』を思い出させないでもないですが、こちらは『ミツバチ~』よりかはまだわかりやすいお話です。
たぶんこの作品の中心にあるのは、主人公のスージーではなく、スージーの家族の方なんでしょう。スージーがなぜ成仏できないかといえば、それは家族が彼女の死からなかなか立ち直れないからであって。
無理もありません。家族がむごい仕方で死んだ・・・ それはこの世で最も深い苦しみのひとつであると思います。特に死んだのが子供であるなら、親の胸中はいったいどのようなものになるのか、想像しただけでも暗澹たる思いに包まれます。
そんな深い絶望の中から、家族たちがどうやって這い上がり、スージーの死を受け入れていくか。この映画の主なテーマは、そこにあると考えます。
もうひとつ思ったのは、この映画は「願い」でもあるということ。今の時代、悲惨な形で亡くなる子供たちは後を絶ちません。そんな子供たちにわたしたちができることは何もありません。知った時にはもう死んでいるのですから。だからせめて人々は願うわけです。完全に消滅せず、どこかに存在していてほしい。どれほどむごい死に方をしたとしても、その苦しみから解放されて、心健やかでいてほしい・・・ と。
「甘ったるい」という方もおりましょうが、なんせこの映画は『ラブリー(ボーン)』なので、そう思ったって別にいいんじゃないでしょうかねええ。
一方でピージャクは殺人犯の造形にも手を抜きません。やっぱりこの人は人間の気高い面と同じくらい、ダークサイドにも興味があるんでしょう。欲望のためにあの手この手と策を巡らすその姿に、ゴラムの影がちらついたりして。
また、スージーがとどまる不思議な空間の描写もピージャクの真骨頂であります。わたしはスノードームの中に入っていたでかいペンギンが特にツボでした。
時に幻想的であったり、時に現実的であったり。センチメンタルな部分もあれば、情け容赦ない部分もある。そんな風にいろいろ相反する要素が、いっしょくたに混ぜ合わされたような映画でした。
ちなみに家族を亡くされた方には、その人の話をあえて避けるのではなく、むしろ普通にあんなこともあったこんなこともあったと話してあげるほうがいいそうです。わたしも色々気を回したあげく、けっこうまずいことを言ってしまったりするので、なるべくならそういう場には立ちたくないものですが・・・・
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Comments
伍一さんこんばんは、
伍一さん的にはこれ楽しめたのかな?どっちともいえず?
評価割れてるんだよね、
わたしは文句もありつつ、全体的に楽しめたの〜。
まあ、最後で自分の恋(想い)を優先して成就させたのも、
少女だからかなと。
スタンリートゥイッチは今までにない気持ちワルさ出てて良かったな★
Posted by: mig | March 04, 2010 08:30 PM
おさかな煉獄(笑)いいですねこれ。気に入った!
イマイチだったという声が多いようですが、
私はけっこう楽しめた方です。
>そう思ったって別にいいんじゃないでしょうかねええ
いいですよねええ。
私もSGAさんがおっしゃってるような「願い」を感じました。
生きてる者の自己満足かもしれないですが。
スージー役シアーシャちゃんがとっても魅力的でしたが
犯人役のスタンリー・トゥッチも凄かった!
観てる間はスタンリーさんだなんて全く気がつかないほどキモかったです!
Posted by: kenko | March 04, 2010 10:19 PM
こんばんは!
ホントに子供を失った人が、どこか(天国)で幸せにしていると思うだけで
救われることってある気がしますね〜。
そんな「願い」が込められているのかもしれませんね〜。
観たあとすぐは、ちょっとモヤモヤが残ってしまったのですが、
落ち着いて考えてみると、いろいろと違った思いがでてきて
考えさせられる作品でした。
Posted by: ルナ | March 05, 2010 12:06 AM
>migさん
こんばんは
いろいろ腑に落ちないところはあったんだけど、マーク・ウォルバーグに思い切り感情移入しながら見てたので、彼が落ち着いたのならそれでいいかな、ってところです(笑)
結局事件がきちんと解決することよりも、それぞれの気持ちの整理が大事ということだったんでしょうね
スタンリーさんに関してはあんまりよく知らないんですけど、彼も三人のお子さんを持っていて、この役をひきうけるかどうか、とても悩んだとか
Posted by: SGA屋伍一 | March 05, 2010 08:19 PM
>kenkoさん
こちらにもありがとうございます

「お魚煉獄」気に入っていただけましたか? 生け作りのお魚さんなんか、そんな気分かも
わたしが見た限りでは、わりと好印象な記事が多いですよ。大絶賛、というのも見ないけど(笑)
極端なことを言ってしまうと、やっぱり慰めが必要なのは死んだ人じゃなく、生きてる人たちなんだと思います
わたしはスタンリーさんよくご存じないんだけど、鬼気迫る演技でしたね~ あのキャラは一方でごく普通の一市民にも見えるというところがまた怖かったです
Posted by: SGA屋伍一 | March 05, 2010 08:39 PM
>ルナさん
こんばんは。お返しありがとうございます
本当に最近子供に関するやるせないニュースが多いですよね・・・ そうとでも思わないとやりきれんです
いかにも、といった伏線が全然使われなかったりとか、いろいろはぐらかされるところの多い映画でもありました(笑) なんとなくそうなっちゃったのか、あるいは全て監督の計算なのか。わたしはな(略)だと思います
Posted by: SGA屋伍一 | March 05, 2010 08:44 PM
こんにちは♪
またまた風邪を引いてグズグズしている間に「闇よ~」がアップされてる
で、、、この映画ですが、SGA屋伍一さんはわりと好意的に観られたようですね~
私はダメだったなぁ~
LOTRは好きなんですよ。3部作を数え切れないほど観てるの。
でもキングコングはダメだったの~訳分かんなかった・・・長過ぎると思ったし。
コチラもキングコング並みに訳分からなかったなぁ~「へっ?なんでそうなる?」の連続でイラッとしたのでした~
Posted by: 由香 | March 07, 2010 02:42 PM
>由香さん
おはようございます。お返しありがとうございます

実はわたしは、『キングコング』が一番好きです(笑) ピーター・ジャクソンは怪獣・怪物を出してナンボの人だと思ってるので
その線でいくとこちらなんかかなり物足りない作品なんですが、マーク・ウォルバーグとシアーシャ・ローナンちゃんがあまりにも可哀想だったので、これはこれでいいかと許すことにしました(適当)
幻想世界の描写も面白かったし
ダメだったという人の気持ちもわかりますけどね。特に映画にカタルシスを求める方には向かない作品ですな~
Posted by: SGA屋伍一 | March 08, 2010 07:42 AM
マーク・ウォルバーグに泣けましたよね。
カッコいい、いいお父さんの役もすんなりコナセるなんて、
やっぱり彼はいい役者ですよ~!
私もこれは結構好きでした。
こういうちょっと風変わりなタッチの描き方もいけるなんて、
ピージャクさすがだな、って改めて・・
ありがちに思えてしまいそうな物語を、全くそう感じさせないんだものね
Posted by: とらねこ | March 11, 2010 10:26 AM
>とらねこさん
おはようございます。長旅お疲れでやんした
とらねこさんって、ウォルバーグ好きだったんだ。彼、やけに70年代の髪型が似合うなと思ったら、確かデビュー作(『ブギーナイツ』)がそれくらいのころの話でしたもんね
ピージャク氏って「特撮スペクタクルの人」というイメージの人でありましたが、考えてみたら一貫して「愛
」(恥ずかしいな・笑)をテーマにし続けている人でもあるんだな、と気がつきました。『バッドテイスト』とかはさすがに違うと思いますが
Posted by: SGA屋伍一 | March 12, 2010 07:54 AM