ウィー・アー・ザ・ワールドチャンピオン クリント・イーストウッド 『インビクタス 負けざる者たち』
番長グループの抗争により、校内暴力が激化の一途をたどる南阿弗利加高校。その学校へ、一人の熱血教師が赴任してくる。彼は「お前たちを愛している! 愛しているから殴るんだ!」と、わけのわからぬ理屈でラグビー部を創設。だがいつしか生徒たちも彼に感化され、一同は共に花園を目指すことに・・・ これは一人の教師による七年間の戦いの記録・・・ではなく。近年の目覚しい活躍により、いまや「世界のオヤジ」となってしまった感さえあるクリント・イーストウッド最新作。『インビクタス 負けざる者たち』紹介いたします。
90年代の南アフリカ。黒人にも平等な権利が与えられ、それまで優位に立っていた白人たちは、彼らの報復に怯えていた。だが30年獄にあり、新たに大統領となったマンデラは、白人たちにも協力を呼びかける。彼はほとんど白人で構成されたラグビー代表チーム「スプリングボクス」をそのまま残し、来るワールドカップで優勝を果たすよう願う。新たな国を築こうとするマンデラと、低迷から脱しようとするボクスのキャプテン、フランソワ。それぞれの戦いを続ける二人の魂は、次第に強く共鳴しあう。
この映画を見ていてわたしが思い出したのは、2007年の作品『ラストキング・オブ・スコットランド』でした。こちらは少々フィクションが入っているものの、やはりアフリカの実在の大統領を主題とした映画です。黒人の大統領が白人の青年と友情を交わす・・・といったストーリーも、どことなく似ています。
しかし、アミン大統領がウガンダで成したことは恐るべき虐殺行為でした。この辺からわたしたちが学べるのは、権力というものはバケモノだということです。それまでは立派だった人間が、権力を手にした途端醜く変わるといった例は決して珍しいものではありません。だからこそ、マンデラ氏がその力を報復に用いなかったことは驚嘆に値します。
あるインタビューでイーストウッド氏はこう述べていました。「人生の中で最も大事な30年間を奪われた男がどうしてそんな寛容な気持ちになれたのか? そのミステリーを解きたいと思った」
で、このミステリーの答えというのは、やはり表題となっている詩の一節にあるのではないかと思いました。それはマンデラ氏が獄中でどんぞこにあった時、彼に再び立ち上がる力を与えてくれた言葉です。
「私はいつも私の運命の主人なのであり 私はいつも私の運命の指揮官なのだ」
自分を気の遠くなるほどブタ箱にぶち込めていたのも白人ならば、彼に希望を失わせなかったのも、また白人の詠んだ詩だったわけです。この辺から、マンデラ氏は自分の真の敵が特定の人種ではなく、人々の心の中にある「憎悪」であることに気づいたのでしょう。人の真の強さとは、まず自分を制すること。そして恐怖や憎悪といった負の感情に飲み込まれないこと。そんなことをこの映画から学ばされました。
ただこの映画、個人的には昨年の
『チェンジリング』『グラントリノ』ほどには、胸に迫るものはなかったような。近年のイーストウッド作品では、人間の負の面も強烈に描かれています。だからこそ、その中にあってもたくましさや尊厳を失わない主人公たちに、強く心打たれるわけで。
しかし今回のこの『インビクタス』では、その「負の面」の描かれかたが、けっこうあっさり風味だった分、前の二作ほどのインパクトもなかったような。そんなこと言いながら、ラストで大統領とフランソワがガッキと握手するシーンでは、滝のように号泣しておりましたが(笑)
しかしラグビーってのはすごいですね・・・・ 15対15で相撲を取っているようなものです。サッカーだったら(10分限定で)それなりにプレイできる自信はありますが、ラグビーは無理です。死にます。
さて、ご高齢なのに全然休まない御大の次の作品は、フランスを舞台にした超常現象の話となるそうです。なぜここで超常現象? いや、きっと御大にはふかーい考えがおりなのでしょう。
主演にはまたしてもマット・デイモン。「硫黄島二部作」「親心二部作」に引き続き、後に「マット二部作」と呼ばれるようになるのかは、まだわかりません。
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