よさこい節は凍土に流れて ヴィターリー・カネフスキー 『動くな、死ね、甦れ!』
年明け一発目はとっても明るい(笑)この映画から行きます。80年代末に発表された伝説的映画『動くな、死ね、甦れ!』、参りましょう。
スターリン体制化の旧ソ連。元日本兵たちも抑留されている収容所付近の小さな村。少年ワレルカは母親と二人、貧しいながらもそれなりに無邪気な日々を送っていた。隣の家の少女ガリーヤはいつも彼のことを気にかけているが、ワレルカはついガリーヤに意地悪をしてしまう。そんなある日、ワレルカは自分がしでかした悪戯が元で、それまでにない窮地に立たされる・・・
みなさんはヴィターリー・カネフスキーという映画監督のことをご存知でしょうか。わたしもつい最近知りました 89年、監督二作目となるこの作品で脚光を浴び、以降三作を発表した後、映画界から忽然と姿を消してしまったそうです。その辺になにやら強く惹かれるものを感じ、年末横浜まで某所で行われていた特集上映に行ってきたのでした。
まず印象に残ったのは、ぎゃんぎゃんと耳をつんざくような人々の叫び声。そう、この声には「つんざく」と言う表現がよく似合います。しかしそれは決して不快ではなく。
ちょうど門外漢がロックを聞いて、わけわかんないながらも、確かなエネルギーを感じるような、そんな感覚と似ているかもしれません。
正直最初はこの作品世界に入っていくのに努力を要しました。まず画面がやけに白っぽすぎるように感じられたし(モノクロなんだから当たり前かもしれませんが)、主人公ワレルカが可愛くない。なんであんなに世話になっているガリーヤちゃんに対し、小憎らしい態度を取るのか。顔がまたマーク・ウォルバーグを一回り小さくしたようで、なおさら可愛くない(笑)
ただ、彼がガリーヤに対して意地悪なのは、好意の裏返しなんですよね。自分の中に芽生えた「好き」という感情をどうしていいかわからず、もてあましてついひねくれたことをしてしまう。そんな自分の幼き日のことを思い出すと(笑)、ワレルカにもだんだん感情移入できるようになっていきました。
ワレルカが住む村の荒涼とした景色には、少し前に見た『ミツバチのささやき』のアナの住む村とも似てるところがありました。ただアナの村には時々映画が来ていたようだけど、この村にはそれすらありません。
それでもまあ、子供たちはそれなりに楽しいことを見つけるものです。スケートとか、悪戯とか。スケート靴を取り返したワレルカとガリーヤの笑顔の、なんとまぶしいこと。わたしがこの映画の中で一番好きなシーンです。しかしやがて少年には辛い現実が待ち構えていたのでした。以下勢いでどんどんネタバレしていくのでご注意ください。
今挙げた『ミツバチのささやき』(73)、『スタンド・バイ・ミー』(86)、そしてついこないだ観た『パチャママの贈りもの』。時を違えどこうした大人向けの子供映画には、列車・レールが印象的に使われていることが多いな、と感じました。僻地に住む少年少女たちにとって、列車というのはよそからくるものゆえに、外の世界の象徴なのかもしれません。
その「外の世界」のとらえ方が、作品によってそれぞれ異なるあたりが興味深いところです。で、『動くな、死ね、甦れ!』は、それがもっともシビアに描かれた作品ではないかと。望まずして外に出た世界で、さらに追いつめられていくワレルカ。そんな彼を救ったのは、またしてもガリーヤでした。
どこまでも現実的なこの映画の中で、ただ一人不条理なのが、このガリーヤちゃんの存在です。ワレルカがピンチになると決まって現れる彼女ですが、「いったいどうやって?」と言いたくなる点が幾つかありました。そして彼女との別れは、ワレルカの中で何かが死ぬことでもあり、自分の子供時代との別れをも意味していたのでした。
さて、このインパクトのあるタイトル。わたしゃてっきりラストにおける少年少女への監督の呼びかけなのかと考えていました。ところが公式サイトによりますと、「僕は、自分の子供時代を甦らせるため現在というときの流れを止めた。そして止めることは死を物語る。さらにそれをフィルムのなかに起こすために、僕はもう一度甦ったんだ」・・・・ということだったようです。わかりづらいな。 ・・・・かようにこの映画は監督の「自伝的作品」となっているのですが、衝撃のラストを含め、一体どこまでが本当にあったことなのか、いささか気になるところであります。
『動くな、死ね、甦れ!』は、三部作と称される『ひとりで生きる』『ぼくら、20世紀のこどもたち』と合わせて、これから西日本を回るようです。東京のユーロスペースでも大好評につきアンコール上映が決定。ご興味おありの方はこの機会にぜひ。
Comments
SGAさん、こんばんは〜
>動くな、死ね、甦れ!
本当、どうしろっちゅーのよ、というタイトルですけど、
なるほどなるほど、そんな意味があったんですね。
確かに、凍結した思いを、スクリーンに蘇らせた、という迫力を感じます。一度冷凍保存したからこそ、こうして生き生きとしたまんまの形で甦ったのか、そんな荒々しさでしたよね。
カネフスキー少年も、おそらく手のつけられないほどやんちゃな少年だったんだろうなあ。
この何気なくて計算すらしていないように思えるカメラのパワーは、ワレルカ少年をキャスティングしたおかげとも言えるかもしれませんね。彼はこれが初めて出演した映画だったので、二度も三度も演技をさせると、みるみる集中力を欠いていくそうで、みずみずしい彼の演技を収めようと思ったら、最初の一発で決めるしかなかったそうです。
こんな表情よく出来るな、という瞬間が何度もありましたね。
ちなみに、「坊さんが」と入力したら、「坊さんが屁をこいた」というのが一番最初に出てきましたよ、Google日本語入力。
これってゲイシャガールズの歌詞だよね(浜ちゃんの歌うパートじゃなかった?)。
と、最後に真面目なコメントをブチ壊しにする人・・・w
Posted by: とらねこ | January 11, 2010 03:18 AM
>とらねこさま
こんばんは。おかえしサンクスです
ええ・・・ 「動くな」「死ね」まではできますが、「甦れ」はちょっとねえ
もちろん死にたくもありませんが
89年の作品なのに、あえてモノクロで撮ったのは、やっぱり「一度凍結させたもの」だからなんでしょうかね。一度凍らせた食品というのはやはり少々色あせているもの。解凍されることによって匂いと味は甦っておりますが
ワレルカ君は十三歳にしてくわえタバコで何人もの女の子をひきつれて歩いてたとか・・・ とんでもないガキ様です。それを観て「まるでかつての僕」と思った監督も監督ですね
ご紹介いただいたエピソード、子供を撮る難しさをよく物語っておりますね。それに対してディナーラちゃんには「傷つけることで演技力を換気していった」とか。これが個々の子供に合わせた指導方法というヤツでしょうか
それにしても恐るべしゲイシャガールズ・・・ 十年以上前のユニット?なのにいまだに検索1位とは・・・
ちなみに上の歌詞も「坊さんがかんざしなんか買ってどーすんだ」と思われるかもしれませんが、それには一応理由があるんですよー
Posted by: SGA屋伍一 | January 11, 2010 11:48 PM