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January 25, 2010

鐘を鳴らすのは オーレ・クリスチャン・マッセン 『誰がため』

100125_181230時は第二次大戦時。ヨーロッパで猛威を奮っていたナチスドイツは、デンマークをもその統治下に置く。あるものたちは彼らに与したが、また別の者たちは秘密裏に組織を作り、デンマークの「裏切り者たち」をひとり、またひとりと葬り去っていく。その組織の中に、血気盛んな青年フラメンと、家庭と信条の間で揺れ動く男シトロンがいた・・・・

皆さんはデンマークというと何を思い浮かべられるでしょう。恥ずかしながら、わたしは「アンデルセンが活躍した地」くらいしか知りません しかし昨年末からCOPが開かれたり、W杯で日本と当たることになったり、いろいろ名前を目にすることが多くなってきました。そこで題材にもひかれましたが、勉強もかねて見にいくことにしたのでした。

月並みな感想ですが、これほどまでにハードボイルドを地でいくような人物・出来事が実際に存在していたことに、驚きを禁じえません。驚いたといえば、普通こういう暗殺というものは夜闇に紛れて行われるものですが、彼らは決まって白昼堂々通りの真ん中で実行していました。騎士道精神の名残みたいなものなのか・・・とわたしは考えてましたが、ある方は「夜は戒厳令下だったので、昼の方が動きやすかったのでは」と。なるほど。あと昼間の方が相手に与える衝撃も大きかったのかもしれません。
いずれにせよ姿を隠さず真正面から乗り込んでいくその姿は、大胆不敵というほかありません。

しかしこの「ナチならやってもいい」という考え方は、先の『イングロリアス・バスターズ』となんら変わるところがありません。また秘密裏に結成された暗殺者集団が、政府の高官たちを狙う・・・というあたりはスピルバーグの『ミュンヘン』を想起させます。
そして『ミュンヘン』でもそうでしたが、現実は必殺仕事人のようにきっぱり解決、というわけにはいきません。
倒すべき標的を取り逃がしてしまったり、誤った情報を鵜呑みにして無関係の者を殺してしまったり。
さらに後半では情報が錯綜して、組織のメンバーも誰が味方で誰が敵だかさっぱりわからなくなります。
それでも当初の姿勢を崩すことなく、戦い続けるフラメンとシトロン。その考え方にはいささかついて行きかねるものの、彼らの生き様が本当にまっすぐで混じりけのないものであることに、深く心打たれました。

周りの誰も信用できないような状況で、彼らがそこまで強くいられたのは、「二人だった」からでしょう。ほかの誰が裏切っても、「こいつだけは」と信じられる友。フラメンもシトロンも言葉少なですが、目で合図して死地に飛び込んでいく様子からは、彼らの信頼が絶対のものであることがうかがえました。

不思議だったのは、二人が宿敵とつけねらうナチス高官のホフマン。彼は不倶戴天の敵のはずなのに、なぜかフラメンとシトロンに親しみのような感情を抱いています。真剣に向き合ったことにより生まれる友情のようなものなのか(一本通行ですが)、それとも信条のために手を汚さねばならない苦しみを知っていたからか・・・ その辺のところはよくわかりません。

以後結末を割ってます。未見の方はご注意ください。

もうひとつ不思議だったのは、フラメンとシトロンの、自分の命に対するスタンス。二人ともいつ死んでもおかしくないような場所へひるまず乗り込んでいくのに、いざ捕まりそうになると恐るべき執念で生き延びようとします。
憶測をめぐらしますと、彼らが戦い続けたのは、途中でやめてしまったらこれまで流してきた血の意味がなくなってしまうから。そして生き延びようとしたのは、自分たちの行いは「誰がため」のものだったのか、果たしてそれを成し遂げた意味はあったのか。その答えをどうしても知りたかったのではないでしょうか。
しかし現実に彼らはそれを知ることなく、歴史の影に消えていきます。そんな残酷なストーリーに、なぜだかデンマークの美しい風景がよくにあっておりました。

100125_181257最近のニュースによりますと、デンマークは世界で一番国民の「幸福感」が高い国なんだそうです。そのことを草葉の陰でフラメン・シトロンはどう思っているのでしょう。

『誰がため』は東京ではぼちぼち上映が終りそうですが、今後全国各地で公開される予定。新選組や幕末の刺客に興味がある人たちに、強くおすすめします。

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Comments

これは凄く観たい作品なんですが
劇場にはきそうもないので
さっさと公開を終えてDVDになってくれ~~~(絶叫)
ナチもの好き,いうのもあるのですが
主役のお二人のファンなんですよ。

トゥーレ・リントハート(「天使と悪魔」とか「青い棘」とか)と
マッツ・ミケルセン(カジノ・ロワイヤルのル・シッフルですね)
大好き~~
デンマークの俳優さんも監督さんもなかなかいいですよ。
ついでに言えば,デンマークやスェーデンのミステリーも
近年とても人気が出ています。

はやく観たいですねぇ。

Posted by: なな | January 28, 2010 11:51 PM

>ななさま

ご来訪ありがとうございます
そうですね、この映画はななさんにはおすすめです。主役二人の間で愛が芽生えるとか、そういう展開にはなりませんが

マッツさんって、ル・シッフルだったんですか! 完全に忘れてる 彼は『シャネル&ストラヴィンスキー』にも出演してるそうですね
わたしは人の名前を覚えるのが苦手なので、カタカナの長い名前がスラスラ出てくるひとは尊敬しておりますよ・・・

>デンマーク・スウェーデンのミステリー

『ミレニアム』のことでしょうか? あれはわたしも興味あります! できれば近場でやってほしい・・・

Posted by: SGA屋伍一 | January 29, 2010 07:30 AM

再度 おじゃまします~~

>主役二人の間で愛が芽生えるとか、そういう展開にはなりませんが・・・・
そんな展開もちょっと期待したりして(嘘です)
でも,マッツはないですけど
トゥーレの方は「青い棘」というドイツ映画で
同性愛者を演じてますので,
ちょっと妄想してしまいそう・・・・
マッツはル・シッフルでもありましたが
他のハリウッド作品では
「キング・アーサー」の鷹をつれた騎士トリスタンも演じてます。
実はこのトリスタンのときからのお気に入りなんです。

>カタカナの長い名前がスラスラ出てくるひとは尊敬しておりますよ・・・
わたしは漢字がすらすら出てくる人を尊敬しますねぇ。

>『ミレニアム』のことでしょうか?
そうです,そうです,ミレニアム。
あれは原作の「ドラゴン・タトゥーの女」だけは読みました。
面白かったので映画化されたのも楽しみです。
ヒロインが型破りで魅力的ですよ。


Posted by: なな | January 30, 2010 12:24 AM

>ななさま

またまたありがとうございます!

>トゥーレの方は「青い棘」というドイツ映画で
同性愛者を演じてます

そうだったんですか。今回は彼、別方面で「マニアックだな」というところがありました
リアルでそっち方面の方に好かれそうなのは、どっちかちうとマッツさんの方のような気がします

ああ、『キング・アーサー』! わたしも好きでしたよ!クライブ・オーウェンが主演してたヤツですよね。 トリスタンのことも覚えてます。顔は忘れちゃったけど(爆)
一度は城を出た仲間たちが、アーサーのために一人、また一人と戻っていくところは男泣きでございました

『ミレニアム』は三部作でそれぞれ上下本(しかもハードカバー)という時点で、購読をあきらめました 映画のほうが手っ取り早くていいや~と(殴) あの唇ピアスの人、なかなかのインパクトですよね
近場まで来てくれるかな? 東京まで出なきゃいかんかな?

Posted by: SGA屋伍一 | January 30, 2010 07:24 AM

やっとDVDになったので鑑賞できました。
わたしはマッツとトゥーレのお顔を見ていればそれで満足でもあるのですが
当時のデンマークの政治事情を熟知していれば
もっと楽しめたでしょうね。
最初は細かい人間関係なんかがわかりにくかったし
「そこでなんでイギリスが出てくるんだ?」などど?思ってしまいました。
デンマーク本国ではこれは大ヒットまちがいなしの題材ですね。

「青い棘」などではそんなに思わなかったトゥーレが
この作品では美青年に見えた・・・・
マッツはどの作品でも美しくはないですがやはり素敵です。

私もデンマークといえばアンデルセンしか思い浮かばず
近年の「幸福度」が一番高い,ということからしても
なんだかとっても心のピュアな善人だらけのお国のような印象があるのですが
辛酸をなめた時代もあったのですね。


Posted by: なな | July 03, 2010 02:03 PM

>ななさん

こんばんは。ご覧になられましたか
いや、ちょうどこないだワールドカップで日本とデンマークが戦ってたじゃないですか。今の時期にやればもっと話題になったのにな、とか思ってましたよ

たしかにわかりにくいところもありましたかね。でもまあわたしはその辺は自己流に解釈して、もっぱら二人の行く末だけに注目して見てました。というか、フラメンとシトロンも後半は人間関係の点で相当迷わされたと思います

トゥーレ・リンハートとマッツ・ミケルソン、ちょっと年は離れてるけど、気持ち的には対等という、そんな関係が独特で印象に残っています

いまとはいろいろ気風も異なるかもしれませんが、とりあえずこの映画を見て、デンマークの人たちって生真面目なんだな、ということを強く感じました。あとかわいそうなお話が好きなんじゃないかな、と。『ダンサー・イン・ザ・ダーク』もたしかデンマーク出身の監督が撮った映画だったし

Posted by: SGA屋伍一 | July 03, 2010 08:35 PM

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