もしもノゾミがかなうなら 是枝裕和 『空気人形』
これがホントの空気ヨメ・・・・ って、このネタ絶対誰かがやってるよな。都心より三ヶ月ばかり遅れて上映。是枝裕和氏の最新作、『空気人形』ご紹介します。
それはいつ、どこで生まれたのか誰も知らない・・・ 東京のうらぶれた一角にあるアパート。男はダッチワイフの「ノゾミ」を、まるで生きている人間のように扱い、擬似的な同棲生活を続けていた。だが男がいつものように仕事に出かけたある日、ノゾミは突然自我に目覚めてしまう。何かに誘われるようにして外に出て、様々なモノを知るノゾミ。だがその心に「恋」が芽生えた時、彼女は言い知れようのない苦しみに襲われる。
まず、なぜ空っぽの人形であるノゾミに心が生じたのか? 恐らくそれに確たる答えはないものと思われます。ただわたしは、その町に生きる人々の寂しい心が、いつの間にか宙に漂い出て寄り添いあい、何か「体」となるものを欲した時、たまたまそこにあったのが「ノゾミ」だったのでは・・・・と考えています。
恥ずかしながら是枝監督の作品は『花よりもなほ』しか見たことがないのですが、小汚いものをべたつかずにさらっと描くのがうまい人だな、と思いました。だからこそこれだけ女性層からも高い支持を得ているのでしょう(リンク先と言ってることが違うような・・・)。
前半でなにが一番気になったかといえば、空気人形のスカート丈。「それじゃ短すぎだろー! パンツが見えたらどーすんですか! もっと長いのをはきなさい!」 ・・・・すっかりお父さん目線ですよ・・・・ わたしももうあんまし若くないので
それだけに彼女が持ち主のオヤジ(板尾創路)にいいようにされるシーンは、観ていてあまりに辛かったです。
でも、わたしには板尾の気持ちもわかるんですよね。てゆうか、この映画で自分に一番近いキャラは板尾だと思いましたorz いや、もちろん家にああいう人形は置いてませんよ?
しかし驚いたことに、この作品の感想を聞いたり読んだりしていると、みなさん総じて板尾氏に好意的なんですね。あんな変態一歩手前の役なのに・・・ すげえよ板尾創路。その人徳の秘訣を知りたい。
以下、どんどんネタバレしていきます。これから見ようという方はご避難ください。
特に耳に焼きついたのは「代用品」というキーワードでした。「性欲処理の代用品」「お前の代わりなんか幾らだっているんだよ!」
・・・・・・
けっこうこたえるな、これ。
人は誰しも誰かにとって、あるいは何かにとって、かけがえのない存在、唯一無二の存在になりたいと思うもの。そうなれた人には、心からおめでとうと言いたいです。しかしそうなれない人も世の中にはたくさんいるわけで。あるいはすでにそうなんだけど、どうしてもそうは思えなかったり、そのことに気づかなかったり。
代用品として作られたノゾミちゃんは、果たして誰かにとって本当に大切な存在となれたのか? なれたとして、幸せだったのか? そのあたりは、なんとも微妙なところでありました。
好きなシーンをふたつ。
ノゾミがいつも公園にいるおじいさんをお家に見舞いにいく場面。請われるままにノゾミが額に触ると、老人は「気持ちいい・・・ 手の冷たい人は心の温かいひとなんだよ。迷信だけどね」と言います(最後の一言がちと余計ですが)。
もうひとつは、ノゾミが自分を作った人形職人(オダギリジョー)の工房を訪れるシーン。ぎこちないけれど、お互いに「ありがとう」と言い合う二人。
観客としては、この二つのエピソードのおかげで、ちょっとだけ救われました。ありがとう、ジョー&ジジイ。
人は基本的に孤独で、他と完全にはわかりあえない生き物だと思ってますが、この「さびしい」という感情だけは共有できるのでは。そんな風に思わせられた映画でした。
最後に石ノ森章太郎の某作品(ムードを壊すので、あえて名を秘す)のモノローグでもって閉じたいと思います。
『コウシテ ピノキオハ 人間ニナリマシタ メデタシ メデタシ』
だけど── ピノキオは人間になって本当に幸せになれたのでしょうか……?
なんか、本当にさびしくなってきちゃったな。一杯飲んで寝ます。おやすみなさい
Comments
「空気人形」ごらんになったんですね!
>なぜ空っぽの人形であるノゾミに心が生じたのか
私もSGAさんとおんなじように思いました。
なぜ心を持ったのか、最初は分からなかったけど、
最後まで観て、空気中に宿っているいろんな人の想いが
雨のしずくになって、ノゾミの心になったのかな・・・って。
是枝監督の映画は「誰も知らない」と「歩いても歩いても」しか観てなくて、「花よりもなほ」は未見
かなり前にオススメしていただきましたよね?観なくちゃ。
板尾さんと言えば、初監督作品「板尾創路の脱獄王」がちょっとだけ気になります。
最後のタイトルを伏せてあるモノローグは、私も大好きなアレですね!?
Posted by: kenko | January 28, 2010 06:36 PM
>kenkoさま
おはよっす 先々週くらいに見てきました
>空気中に宿っているいろんな人の想いが
雨のしずくになって
ああ~ だから冒頭は雨のシーンなんですね! そのことは思い至らなかったです
是枝監督の作品のあらすじを読むと、ちょっと重苦しい内容のものが多い感じですが、『花よりもなほ』は例外的に?とても明るくて面白おかしい内容の作品でした
この『空気人形』も「悲しくなる」という評判を聞いていたので、最初は見る気なかったんですけど、皆さんの評判がいいのと、予告編のふわふわした感じが良かったので見ることにしたのでした
板尾さんは最近すっかり性格俳優としての地位を確立してますよね。映画のタイトルに名前がついちゃうくらいだから、大したネームバリューだわ
最後のあれはご明察どおり左右で色の違うアレです。Wじゃないよー(笑)
Posted by: SGA屋伍一 | January 29, 2010 07:16 AM
こんにちは~♪
お見舞いありがとうございました^^
スグに返事するあたり、、、そうです!今朝から気分がいい感じになってきました!!
一時は身も世もなく具合が悪くってダウンしていました、、、悪い風邪だったんですね(泣)苦しかったよぉ~
空気人形は、観たいと思っていたんです。
なんだか面白そうなんだもん。
多分DVDになると思いますが、鑑賞したらお邪魔しますね~♪
SGA屋伍一さんも風邪に気をつけてね!
Posted by: 由香 | January 30, 2010 08:20 AM
そうだ!!報告したいことがあったんだ!!
貴志さんの『クリムゾンの迷宮』と『天使の囀り』を読みました♪
天使がツボでした~♪
Posted by: 由香 | January 30, 2010 08:22 AM
>由香さま
さっきそちら覗いてきたのですが、まだ本調子じゃないようですね・・・ ひきつづきお大事に!
『空気人形』は面白いというか、やや重い映画かなあ。一見の価値は十分にありますが。あとお話は重ためですが、ムードは軽めです。どっちやねん(笑)
最近観た中では『母なる証明』がわりと面白かったです。由香さんの鑑賞リストにあったけど、消えちゃいましたね。風邪で断念されたのでしょうか
あと『かいじゅうたちのいるところ』も見ましたので、記事書いたら&そちらが復調されたらお邪魔いたします
『クリムゾン』は未読です。『バトル・ロワイヤル』に似てると聞きました
『天使の囀り』は『黒い家』とはまた違った怖さでした。ヒロインがかわいそうでかわいそうで・・・
感想気長にお待ちしてます。まずは風邪を治してください~
Posted by: SGA屋伍一 | January 31, 2010 07:56 PM
こんばんは!
「代用品」という言葉、結構きついですよね〜。
なかなか唯一無二の存在になれる人というか
そう感じることができる人は少ないですものねぇー。
わたしは、「からっぽ」という言葉がキーワードでした。
生きている人間にもからっぽな心の持ち主がいっぱいいて
なんだか切ない気分でした。
でもね私的には、正直板尾の行為は若干、キモクて・・・・。
人との関わりが面倒になってしまった気持ちはわかるのですが、
なんとなくダメで、だからやっぱり私はお子ちゃまなのかも・・・(笑)
Posted by: ルナ | February 03, 2010 12:11 AM
>ルナさま
おはようございます。お返しありがとうございます!
唯一無二の存在・・・ 難しいですね、たしかに。ただ、確実に言えるのは、子供にとってお父さん・お母さんというのは誰にも代えのきかない存在だと思います
「からっぽ」も痛いキーワードでしたね~ わたしもかなり中味のつまってないほうなので。脂肪はかなりつまってますけど
板尾さんが「きもい」というか、異常だと感じるのはむしろ正常だと思いますよ。一方で、あまりに手痛い目にあってしまったら、ああなってしまうのも無理ないかな、とも思ってしまったり
ああならないように気をつけたいものですが
Posted by: SGA屋伍一 | February 03, 2010 07:04 AM