« アポカリプトまであと三年 ローランド・エメリッヒ 『2012』 | Main | 終らない旅、旅立ちの夜 『仮面ライダーダブル&仮面ライダーディケイド MOVIE大戦2010』 »

December 21, 2009

天まで上がる ピート・ドクター 『カールじいさんの空飛ぶ家』

091221_181035ピクサー総括記事で予告してから、はや一年・・・ ようやくこの映画について語ることができます。待望のピクサー最新作『カールじいさんの空飛ぶ家』(原題は『UP』)。「人間が主人公なのはピクサー初」ということですが、Mr.インクレディブルは人間とは認められないということでしょうか。・・・まあいいや。あらすじいきます。


冒険家マンツに憧れるカールとエリー。大の仲良しの二人は、成長してやがて夫婦として結ばれる。しかし彼らが老境に入った時、エリーはカールをひとり残して逝ってしまう。その後カールは土地をめぐるごたごたで老人ホーム行きが決定。だが彼は家に大量の風船をくくりつけ、住んでいた町から空中へ「脱走」することに成功。エリーといつか一緒に行こうと約束していた南米の瀑布をめざす。ただ、その空飛ぶ家にはカールが知らぬ間に、一人の珍客が紛れ込んでいたのだった・・・・

いろいろ意見を見て回ると、某御大(ジ○リのあの人)を初めとして、「冒頭が一番良かった」という方が多いようです。たしかに素晴らしいクォリティです。結婚から死別に至るまでの濃密な数十年を、数分の間で見事に描ききる超絶技巧。しかもセリフはほとんどなし。ただ子供たちは逆についていきがたいかも。病院でエリーが意味ありげに泣いているシーンなんて、きっとよくわからないことでしょう。
ピート・ドクター氏はそういう手法を取ることで、まず大人たちの心をつかみたかったんだと思います。そして夢を忘れた彼らに、大空を飛ぶことを思い出してほしかったのでしょう。先のような意見が多かったことを考えると、どうもこの試みは失敗した感がありますが。

ただわたしがピクサーに期待してるのは感動とかドラマよりも(この辺も毎回きちっとしてますが)、まず発想の豊かさであり、アホらしさなので、その点では今回も十分期待に応えてくれました。

そもそもこのお家に風船を着けて飛ばす、というアイデアが秀逸です。普通こんなこと思いつきませんよ。いくらヘリウムガスが空気よりカールかろうと、さすがに家までは飛ばせねえだろ・・・・などということを言ってはいけません。飛ばせるんですよ! うん!

さらにメインとなる頑固じいさんとメタボ少年とUMAと○○を○すことができる犬。こいつらがそろいもそろってキャラ立ちまくりです。この珍妙な面々がお家をひっぱってぞろぞろ行進しているだけで、たまらくおかしい。実はみんなとある事情で誰かの愛情を欲しているという、泣かせる背景があるんですけどね・・・・ でもやっぱり笑えます(笑)

ほかにも「これさえあれば大丈夫~ あっ」とか「あっ リスだ」とか「お前声が変だぞ」とか窓ガラスをきゅきゅきゅ~とか、どうしてこうもアホなことを次から次へとひねり出せるのか。その才能には脱帽というほかありません。

空飛ぶ家で楽チン楽チンと思いきや、実際はほとんどひっぱって歩くハメになる、というのもおかしいですね。まるで安住の地を確保したはずなのに、実際はその家が(ローンなどで)当人のかせとなる・・・ということを皮肉っているよう。おっと真面目なことを言うのはやめましょう。
でもまあカールじいさんが精神的に飛び立つことをとどめていたのは、やはりその家だったわけで。そのことに気づいた時、じいさんは本来の自分をようやっと取り戻します。

ピクサー作品が優れていることのひとつにクライマックスの盛り上がりがありますが、これまたこちらのテンションをガンガンあげてくれました。なんせ築何十年という家が、ぶつかったり攻撃を受けたりキリモミ状態になったりするわけです。すぐにもぶっ壊れそうで非常に不安。このあたりのアクションは宮崎アニメにも似ていますが、ナウシカでもラピュタでも、主人公の乗ってるメカはもっとしっかりしてたような。

そうかと思えば時折はっとするほど美しい映像もあり・・・ 本当に盛りだくさんで、「ピクサーよ今年もありがとう」と言いたくなる作品でした。「早く見せろやコラ」とごねておりましたけど、こんなんが毎年一本でも見られるだけ、ありがたいのかもしれません。というのは、本国での公開時こんな悲しいお話があったから。
・・・ああもう! おじさんこういうのダメなんです!!

まあわたしゃ死後の世界とか信じちゃいないんですが、少女が最後に思い描いたものが、雲の上を行く小さな家のヴィジョンだったなら、それはとても素晴らしいことだと思ったのでした。

091221_181133ピクサーの次回作は日本では夏公開となる『トイストーリー3』。さらには『カーズ2』や、弓使いを目指す王女さまの話、イモリの話などが控えている模様。これからもそのどアホウな世界に期待しております。

|

« アポカリプトまであと三年 ローランド・エメリッヒ 『2012』 | Main | 終らない旅、旅立ちの夜 『仮面ライダーダブル&仮面ライダーディケイド MOVIE大戦2010』 »

Comments

やっぱ某おじさん書いて来たね(笑)!
>結婚から死別に至るまでの
>濃密な数十年を、数分の間で見事に描ききる超絶技巧。
これは割とCMで使われている技法。
>そもそもこのお家に風船を着けて飛ばす
これは確かに突拍子無いけど
そんなの素敵なら理屈など屁でもねぇ(笑)。
見てなくて何で泣けたかって・・・・・・・。
これは鍛えられた洞察力の賜物というより
何か自分とダブって見えるわけで・・・・・。
鉄道云々よりもホントは友達が欲しい自分が
判ってしまった訳で・・・・・・。
カールじいさんにとって枷が家なら
俺にとっては京阪だと言う事。
長屋の友達も段々疎遠になっているし
マトモに逢ったの一回きりで交流続いてるの
SGAやんぐらいだもんな。
だから絵本読んだら回り構わず泣いたよ(恥

これからも仲良くやっていこーね。

Posted by: まさとし3055 | December 21, 2009 11:12 PM

SGAさん昨日に続いてこんばんわ♪

気球とかならまだしも風船で空を飛ぶ・・・。しかも人1人ではなく家ごとってところからして発想が豊か過ぎる気がしますよねぇ。常識的にも考えれば可笑しいですしw
でもピクサーは今まで色んなものをキャラクターとして擬人化してきたので、今回のカールじいさんや空飛ぶ家なんかもいたってふつーに観れてしまってツッコむ事すら忘れていた気がします。

犬のドーベルマンの奇天烈な声やラッセルが飛行船の窓に張り付いて通り過ぎるシーン、そんでもってカールが対決中に腰をグキッとやってしまうシーンなど、ツボにハマッて大笑いさせてくれたシーンも多かったのも自分には好感触♪外国人と日本人の笑いのツボってズレてるとか聞いたことありますが、ピクサーアニメに関しては全然そんなことないですね。


。確かにコレって常識的に考えればおかしいそれが人1人ではなく家ごと

Posted by: メビウス | December 22, 2009 09:43 PM

あ・・・書き損じのコメント消すの忘れてました。恥ずかしっ!

Posted by: メビウス | December 22, 2009 09:47 PM

>まさとし3055さま

おばんです

>これは割とCMで使われている技法。

言われてみればそんなのもあったような・・・ ただぱっと思い出せません(笑) あとこちらのほうはさすがにCMよりはもっとじっくりやってます

>鉄道云々よりもホントは友達が欲しい自分が
判ってしまった訳で・・・・・・

自分もかつては自分だけの楽しみで映画見てたけど、最近は語り合いたいがために見てるというとこもありますね
映画ファンが見ないような映画も、自分が見たければ見るけど(笑)
ブログ始める前は映画鑑賞って孤独な趣味だったなー

まさとしさんとのお付き合いも気がつけば五年近くですか。そのころからここに出入りしてくれる人って、どれほどいるかな
これからもどうぞよろしゅうお願いします

Posted by: SGA屋伍一 | December 23, 2009 09:17 PM

>メビウスさま

こちらにもありがとうございます!

まあ常識人は普通考えますよね。「この家は土台に固定されていないのか」とか。しかしそういう細かいことにこだわっていてはピクサー作品は楽しめません。一方で「その内ヘリウムが抜ける」なんて現実的なセリフもありましたが

今回名作『モンスターズ・インク』の監督ということで、もっと感動を期待していた方も多いようです。が、このお笑いの才能ももっと評価されていいと思うんですよねえ
メビウスさんおっしゃるように、日本人にも普通に面白いというところもすごいと思う。ちなみに同行者たちは発声装置に一番うけてました

書き損じの件についてはお気になさらず。わたしも時々やります・・・

Posted by: SGA屋伍一 | December 23, 2009 10:32 PM

こんばんは!
たしかに、冒頭の回想シーンはすごく良かったけど、
子供向けではないですよね〜。
後半の犬とか鳥とかのからみは、すご〜〜く楽しかったです。
ピクサー作品って、悪者もなんとなく助けてるトコが
私は好きです。
今回も落ちて行く冒険家がちゃんといくつか風船つかんでいたし・・・。
次回作も楽しみです。

Posted by: ルナ | December 24, 2009 12:28 AM

>ルナさま

おはようございます。ご来訪ありがとうございます!

基本は子供向けながら、大人の現実を絡めてくるのがピクサー流ですよね。子供たちは大きくなってからまた見て欲しいと思います

>ピクサー作品って、悪者もなんとなく助けてるトコが
私は好きです

そうですね。驚いたのは『バグズライフ』。てっきりトリに食べられたのかと思ったらエンドロールで・・・(笑)
例外は『Mr.インクレディブル』くらいでしょうか

Posted by: SGA屋伍一 | December 24, 2009 07:17 AM

メリークリスマス
クリスマスですね~如何お過ごしですか?

カールじいさん、面白かったですぅ~
冒頭の感動シーンも好きだけど、冒険シーンが好きー
>どうしてこうもアホなことを次から次へとひねり出せるのか
そうなんですよね~クスッと笑わせるところが多い、多い。
ワンちゃんの首輪なんてツボでございました。しかもワインなんか注いでいるし(笑)
あの首輪ゲットして家のワンコにつけたいです

Posted by: 由香 | December 24, 2009 08:42 PM

聖なる夜におじゃまします

冒頭の例のシーンにはほんと泣かされました。
飛行シーンの映像も素晴らしく、あっさり目的地付近に着陸しちゃったのは意外な展開だったけど、その後のジャングルクルーズも楽しかったです。
予想通りの展開なんてピクサーらしくないですもんね。

ギャグも冴えてましたね!特にワンちゃんネタには笑いました。
窓をきゅきゅきゅ〜〜!も良かったです(笑)

それから本編前の短編アニメも、今回のはすっごく気に入りましたよ♪

全然カンケイないけど、今日の検索フレーズ9位
「タラちゃんがデスノートをひろったようです」にウケた

Posted by: kenko | December 25, 2009 08:58 PM

>由香さま

こんにちは! ご来訪ありがとうございます!

クリスマスは実家で親と焼きそば食ってました(笑) いつもとなんら変わりありません・・・

>冒頭の感動シーンも好きだけど、冒険シーンが好きー

おお、少数派。そして同志!
犬好きの由香さんにはいろいろ楽しいところがあったかと思います
わたしはネコ派ですけど、ダグのけなげさにはちょっとウルウルきたなあ
「どんなに賢くても、犬はしょせん犬だな」と思ったところもありましたが

Posted by: SGA屋伍一 | December 26, 2009 12:21 PM

>kenkoさま

こんちはっす。最近そちらに出向くのが遅くてすいません・・・

冒頭のシーンは音楽もよかったですね。このテーマ、その後も重要なシーンやラストシーンでも流れてましたが、その度に涙腺を刺激されました

>予想通りの展開なんてピクサーらしくないですもんね。

これにつきます・・・・ 『トイストーリー3』のあらすじもすでに読んだのですが、あまりにシビアすぎて、どうハッピーエンドへもっていくのか、今から気になって仕方ありません

今回のギャグですけど、全体的にまったりしてるというか、「ぽかーん」としてしまうものが多かったような。その辺もツボでした

>「タラちゃんがデスノートをひろったようです」にウケた

あー、なんか面白くないひととか片っ端から殺されそうですね・・・ わたしはもちろん大丈夫・・・ うっ 急に胸が!

Posted by: SGA屋伍一 | December 26, 2009 12:36 PM

伍一さん
明けましておめでとう〜
新年そうそうから笑えるコメントありがと☆

今年も宜しくネ。

ここにいれてなかったようなので。

>「人間が主人公なのはピクサー初」ということですが、Mr.インクレディブルは人間とは認められない...

そりゃ超能力持ってる超人は人ではないんでしょう

ウチのDVD機械が昨日ついに壊れたみたいで
新作をせっかく半額で借りて来たのに観られずに今日返却です。悲しい。。。。

新年から熱は出すし
でもきっと最初にひどいことあったほうが
今年いい年になるよね?きっと!

どこまでも前向きなわたし。
カールじいさんには負けない〜★
って意味わかんないコメになっちゃった。
伍一さんも風邪には気をつけてねー!

Posted by: mig | January 04, 2010 10:00 AM

>migさま

新春からお越しくださりまことにありがとうございます 今年もよろしくお願いします

>そりゃ超能力持ってる超人は人ではないんでしょう

ひどいです! そんなことを聞いたらウルヴァリンやスパイダーマンやハルクが泣きますよ! ・・・まあハルクはわたしも人間じゃなさそうな気がしてますけど

それはともかく、年明けから熱が出たとは大変でしたね。タイとのあまりの環境の変化で体が音をあげちゃったかな? DVDデッキも残念でしたね・・・ ちなみにウチでは未だにVHSが大活躍です

>でもきっと最初にひどいことあったほうが
今年いい年になるよね?きっと!

そうそう。なんせこの映画、原題が『UP』ってくらいだし(笑) これからぐんぐん上がっていくに違いない!

あとお気遣いありがとう わたしはおりこうさんなんで風邪はひきません(笑)

Posted by: SGA屋伍一 | January 04, 2010 09:22 PM

Post a comment



(Not displayed with comment.)


Comments are moderated, and will not appear on this weblog until the author has approved them.



TrackBack


Listed below are links to weblogs that reference 天まで上がる ピート・ドクター 『カールじいさんの空飛ぶ家』:

» カールじいさんの空飛ぶ家 [Akira's VOICE]
喪失と再生の優しい人間ドラマ。   [Read More]

Tracked on December 22, 2009 03:48 PM

» カールじいさんの空飛ぶ家 [ルナのシネマ缶]
ピクサー作品は、幸せな気持ちにさせてくれるから大好きです。 ホントは、3Dで観ようと思ったのですが、吹替しかやっていなかったので、 2Dで鑑賞しましたが、充分に美しい映像でした。 いつか世界を旅して回りたいと思っていたカールも、今や78歳。 最愛の妻は亡くなってしまい、夢をかなえるには年を取り過ぎている。 しかし、開発の為家を追い出されそうになり、 数千の風船を家に結びつけ、家ごと冒険の旅へと出発するのだが・・・・。 冒頭のカールとエリーの回想シーンだけでも すご〜〜く良... [Read More]

Tracked on December 24, 2009 12:28 AM

» カールじいさんの空飛ぶ家 [★YUKAの気ままな有閑日記★]
最近お気に入りの3Dで鑑賞(吹き替えです)―【story】最愛の妻を亡くしたカールは、数千の風船を家に結びつけ、空高く飛び立つことに成功。偶然居合わせた8才の少年ラッセルとともに冒険の旅へと出発するが―     監督 : ピート・ドクター 『モンスターズ・インク』【comment】偏屈そうなおじいさんが主役―ということで、イマイチそそられないなぁ〜というのが正直なところだったのですが、去年のPIXAR作品『WALL・E/ウォーリー』に続いてとてもいい映画でした〜一緒に観た子どもともども満足して鑑賞を... [Read More]

Tracked on December 24, 2009 08:36 PM

» 映画<カールじいさんの空飛ぶ家> [美味−BIMI−]
カールじいさんの空飛ぶ家、観てきました! とにかく”切ない”映画です・・・。 愛する妻が死にました。だから私は旅に出ます。 TVから流れるこのナレーション。 世界で最も大切な人を失ったとき、あなたならどうしますか? 私なら?????なんて想像しながらの視聴でした。 とにかく始まってすぐ、ウルウルくる、みゅうみゅう。。。 子供の頃、冒険が好きだからこそ出会えたカールとエリー。 結婚してエリーが亡くなるまでのストーリーは、ほんの数分でした。 台詞は、ほとんどなし・・・。 音楽のみで流... [Read More]

Tracked on December 28, 2009 12:52 PM

» 映画:カールじいさんの空飛ぶ家 3D [よしなしごと]
 2010年、2本目は ディズニー映画のカールじいさんの空飛ぶ家を3D字幕版で観てきました。  3D字幕版はやっている映画館が少なく、数少ない映画館でも1日1上映だったりしますので、お正月休みのなか会社に行くよりも早起きして映画館に行ってきました。... [Read More]

Tracked on January 12, 2010 07:57 AM

» カールじいさんの空飛ぶ家 [★★むらの映画鑑賞メモ★★]
作品情報 タイトル:カールじいさんの空飛ぶ家 制作:2009年・アメリカ 監督: ピート・ドクター、ボブ・ピーターソン 出演:エドワード・アズナー、クリストファー・プラマー、ジョン・ラッツェンバーガー、ジョーダン・ナガイほか あらすじ:冒険に憧れる少年カールは1軒の空き家で同じく冒険好きな少女エリーと出会い、意気投合する。成人した二人はやがて結婚し、初めて出会った空き家を新居とした。二人の間に子供は授からなかったものの、”伝説の滝”パラダイス・フォールについて語り合い、いつかそこに行こうと約束する。... [Read More]

Tracked on August 06, 2010 01:45 AM

« アポカリプトまであと三年 ローランド・エメリッヒ 『2012』 | Main | 終らない旅、旅立ちの夜 『仮面ライダーダブル&仮面ライダーディケイド MOVIE大戦2010』 »