フランケンに会いたい ビクトル・エリセ 『ミツバチのささやき』
前にも書いたことがありましたが、わたしは中高時代ずっと『OUT』というアニメオタク雑誌を愛読しておりました。ただこの『OUT』、映画欄担当の方がややアート指向の方で、そのせいかこのころの文芸系の作品のタイトルは、一応いろいろ覚えております。『いまを生きる』『マイ・ライフ・アズ・ア・ドッグ』『バグダッド・カフェ』『霧の中の風景』『さよなら、子供たち』『トーク・レディオ』etc
その中には後に見られたものもあり、未だに見てないものもあり。あらすじだけ読んで「いいや」と思ったものもあり(笑)。まあそんな作品群の中に、今回紹介する『ミツバチのささやき』もありました。というか、たぶん1987年に公開された『カラスの飼育』と絡んで書かれていたような気がします。このほど名作の誉れ高いその作品を見る機会があったので、ちょいと足を伸ばして鑑賞して参りました。
内戦終了直後のスペイン。田舎に住む少女アナは、巡回上映でやってきた映画『フランケンシュタイン』を姉と観にいく。映画のことを尋ねるアナに、姉は言う。わたしはあの怪物を実際に見たと。村のはずれに身を潜めて住んでいるのだと。
怪物に興味を抱くアナ。映画はこの少女とその家族の日常を、淡々と追っていきます。果たして少女は怪物に会うことができるのでしょうか。
当時7歳だった主演のアナ・トレント。彼女がとにかく愛らしいという評判を聞いて、わかりやすいお話を予想していたのですが、意外や意外、お話の意味を考えようとするとかなり手ごわい映画です。
セリフは少なめ。テンポはゆったり。中盤までは特に大きな事件が起きるわけでもなく。
ただ、ひとつひとつ撮られた風景が、非常に美しく、あるいは印象的。その中でたたずむ妖精のような少女の姿が、これまたため息をつきたくなるほど絵になる。
言ってみれば、とてもよくできた風景画のような作品と言えるかもしれません。普通人は風景画にいちいち意味を求めたりはしません(・・・ですよね?)。ただその美しさを愛で、感嘆します。
・・・しかしこんな理屈っぽいブログをやっていると、どうしてもあれこれ考えてしまって。困ったものですね
この映画の一番不思議なのは、恐ろしいはずの存在、死をもたらす存在である怪物に、どうして少女は怯えもせず、あれほど魅かれるのかということ。わたしは知能の限りをつくして思索を巡らした結果、「よくわからない」という結論に達しました。 えーと、ここが「わからない」「不思議だ」からこそ、この映画は面白いんじゃないでしょうかね?(そう言って逃げる)
ただアナが異界の存在に興味を抱くのは、彼女の家族の様子と無縁ではないのでは・・・と思ったり。アナの父と母には、いつもどこかしらぎこちなく、よそよそしいムードが漂っているように感じられました。
そうしたぎこちなさというか、不安を感じさせるような空気は、映画全体をも覆っています。平和な一風景が映し出されているというのに、何か恐ろしい出来事が起きそうで、序盤からずっと観る者を緊張させます。
特に印象に残ったのは、ちょくちょく現れるゆらめく炎のイメージ。炎というヤツは決まった形がなく、はかないものです。まるで存在の限りなく不確かな精霊のように。
スペインの人は精霊というか、「目に見えない存在」に強い興味を抱いているんでしょうかね。ギレルモ・デル・トロ関連の諸作や『アザーズ』、はたまたゴヤの描く不気味な絵などを思い出すと、そんな風に感じます。
もうひとつ印象的だったのは、ガラス瓶の中を蠢くミツバチの群れ。この映画では、村以外の世界は一切描かれません。まるでそこだけが切り取られたかのように、周囲から隔絶されています。この村と外界をつなぐものは、時折行き来する機関車と、映画を載せた自動車くらいのものです。ガラス瓶はそんな切り取られた世界を表しているのか。
あるいはわたしたちは気がつかないけれど、壜を覗くアナの父親のように、実はわたしたちをいつも見ている存在がいる、ということなのか・・・・
ま、適当な思いつきということで読み流していただければ幸いです
本当に観る人によって、様々な反応・感想があるのでは、と思わせる映画。
ただ「アナちゃんが恐ろしく可愛らしい」という点では、意見は一致するかと。彼女の大きく黒々とした瞳には、思わず吸い込まれそうになります。しかし彼女の瞳がそれほどに深みを宿しているのは、それが「死」を映し出しているせいなのかもしれません。
そんなアナ・トレントもいまや43歳だそうで。実は『ブーリン家の姉妹』にも出ているそうですが、あえて思い出さないことにいたしましょう
Comments
み~ん。。。いつもすんません。。。ボクは中高時代『宇宙船』を読んでました。。。
ボクも中高生のころ反抗期で、当時チヤホヤされてたエリセとかカラックスとかになびくまいと、闘っていたんだ。。。あのときの後遺症で、これ、どうも苦手。。。こういう子どものイノセンス描写には、ボクは手厳しいんです。
ロリータ趣味のゴム彦くんにセルジュ・ブールギニョンの『シベールの日曜日』をお薦めします。ロリータ度は断トツ上。あとロメール『海辺のポーリーヌ』のアマンダ・ラングレも。
と、いうことで楽しいおしゃべりはつきませんが、わたくしのあのクソブログで近日、ショーン・ペン監督作品『イン・トゥ・ザ・ワイルド』を、ボロクソにけなさなければならないのですが、、、おたのし耳。。。
Posted by: 裏山&さん(49歳)。。。 | November 18, 2009 11:16 PM
>裏山&さん(49歳)さま
おはようさんです。ようこそおいでませ~
『宇宙船』とはこれまた懐かしい。あの本高かったでしょ?
この映画にはあの「フランケンシュタイン」が出て来るんですよ。「宇宙船」読者ならそこをチェックしなきゃだめでしょ!
っていうか中高生時代、わかる監督といったらルーカスとスピルバーグくらいのもんでしたよ・・・ み~ん
あとわたしはロリータじゃありません。ちょっとストライクゾーンが無限大なだけです(爆)
ふんふん・・・ シベールにポーリーンね ・・・ってだから違うって! 何でも好き嫌いなく食べる良い子な(略)
そして最後に恐ろしげな一文が・・・ 甘噛みくらいにしときませう
わたしはアレけっこう好きですよ。最近ジャック・ロンドンばっかり読んでるのもあの映画がきっかけだったし
Posted by: SGA屋伍一 | November 19, 2009 07:18 AM
SGA屋伍一さん、こんばんは。
トラックバック&コメントありがとうございました。(*^-^*
>時折行き来する機関車と、映画を載せた自動車くらいのものです。
動きを感じたのはそれぐらいでしたね。
確かに、風景画のような映画だったけど、
一つ一つの場面が静かな力を秘めているような気もしました。
Posted by: BC | November 30, 2009 01:27 AM
>BCさま
こちらにもおかえしありがとさんです
「映像の魔術師」と言われるだけあって、網膜というか脳裏に焼き付けられるような、そんな映像がたくさんありました。さほどショッキングな要素があるわけでもないのにね
『エル・スール』もいずれ見てみたいものです。ただこちら以上に難解だとか・・・
Posted by: SGA屋伍一 | November 30, 2009 07:38 PM