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October 28, 2009

ヒトラー対いっこく堂 伊坂幸太郎 『魔王』

091028_173420十回に一回の読書コーナー。今回はまたしても伊坂幸太郎氏の作品です。

平凡な社会で、弟と二人平凡に生きるサラリーマン安藤。しかし彼はある日、自分が思ったことを他の人間にしゃべらせることのできる「腹話術」能力を有していることに気づく。
折りしも、政界では流星のごとく現れた未来党党首・犬養が注目を集めていた。はっきりした物言いと果敢な行動力で、急激に支持を集めていく犬養。だが彼の台頭と同時に、世間では外国を排斥する傾向が高まっていく。
いつしか安藤は考え始める。自分のこの能力で、世の中を変えることはできるのか・・・

この本は二部構成となっております。第一部「魔王」は安藤を中心とした物語。第二部「呼吸」はそれから五年後、安藤の弟・潤也を中心として語られたお話となっております。

たったひとつの特異な能力を武器に、圧倒的に巨大な権力に立ち向かっていく主人公。そういう話って好みなんすよね。どういう意図かはわからねど、第一部と第二部で主人公が異なるという構成にもなにやらひかれるものがありました。

が・・・・・

個人的には、今までの伊坂作品で一番微妙だと感じました(笑)。まあ伊坂先生のこったから「燃え上がる対決もの」にはならないだろうと思ったけど。
わたしが面食らったのはこの作品、政治に関するうんちくや論議がけっこうえんえんと展開されるのですね。先生は別に何かを訴えたかったわけではなく、「今までに影響を受けてきた小説や音楽には、たいがい、社会や政治の事柄がよく含まれていて、そこから滲んでくる不穏さや、切迫感や青臭さがとても好きだったので、だから、自分の書くものにもそういう部分を含ませたくなってしまうのかもしれません」とのこと。だけんどこれまで読んできた七作品には、そういう要素はほとんど感じられなかったけどなー

この安藤の持つ「腹話術能力」というのが大変独特なアイデアだけに、もっともっと話を面白くしようがあったのでは、と思ってしまったのでした。

ただひとつ考えさせられたのは、社会の右翼化ということ。
近隣諸国はよく日本が「また戦前のような軍国主義に戻るのでは」ということを、ことあるごとに警告します。実際にこのふにゃらけた国に生きてる者としては、「そんなことあるわけねーだろ」と、つい鼻で笑ってしまいますが。
この本を読んでいて、果たして「絶対にない」と言い切れるか、少し自信がなくなってしまいました。
それほど現代日本で独裁者が生まれそうなプロセスが、非常に説得力を持って書かれておりました。少なくとも、政治をよく知らない者にとってはそう感じられました。

ここんとこ少し落ち着いているようにも感じられますが、アジア諸国から攻撃的な発言があると、最近の世論というのはすぐに青筋を立ててしまうような傾向があると思います。そのほうが本が売れるからマスコミも大衆を煽るんでしょうけど、もしこのままそうした傾向がエスカレートしたなら・・・と思うと、空恐ろしいものがあります。

人っていうのはどうしても周りから影響を受ける生き物ですが、時代がもし狂っていくのであれば、安藤のようにその奔流の中にあって、じっと踏みとどまれる、そういう人間でありたいものです。


さて、先ほど「もっと面白くできるのでは」と書きましたが、同じことを考えた方が他にもおられたようで、この作品、少年サンデーGEXにて大幅にアレンジを加えられた漫画版が先日まで連載されておりました。副題は「JUVENILE REMIX」。こちらでは安藤は高校生となっており、「リミックス」の名の通り、他の伊坂作品『グラスホッパー』の登場人物も多数登場しております。
今度こそ本当に面白そうだ・・・と思い、先日書店でお試し版を読んでみたのですが、どうも絵がピンと来なくて結局買いませんでした(笑) わたしの器量も狭くなったものだ・・・・ 
ただアマゾンのレビューなんか読むとかなり評価が高くて、「やっぱし読んでみようかな」と思ったりすることもしばしば 全十巻というあたりがキリよくまとまってて好感がもてますしね。

081227_182311文庫本で未読の伊坂作品も、残すところ『陽気なギャング』二部作と『終末のフール』のみとなりました(ただ『フィッシュ・ストーリー』が近日発売とのこと)。
ちょっとここらで、伊坂作品から離れてみようかな、と思います。そんなこと言いながら、またすぐ戻ってきてしまうかもしれませんけど

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Comments

確かに伊坂幸太郎の作品の中ではちょっと盛り上がりに欠ける作品かも。
そしてマンガだと絵は重要ですよね(笑)
そういえば私「陽気なギャング」と「死神の精度」は読んでないです
「フィッシュストーリー」は近日発売なのかぁ。
久しぶりに読んでみようかな。

Posted by: kenko | November 01, 2009 10:47 PM

>kenkoさま

ども。さびれた記事に続けてありがとう(笑)
kenkoさんも『マ王』読んでおられましたか。そういうのは伊坂さんっぽくないと思いつつも、もっと「宿命の対決!」みたいな感じでもりあげてほしかったなあと

漫画版は表紙絵はなかなかかっこいいんですが、中味を見ると「あれ?」みたいな(笑)。でもやっぱり読んでみようかな。ブック○フあたりを探して

実はこの作品、『死神の精度』の主人公がちょい役で出てるのですよ。わたしは次に読むとしたら、『終末のフール』かなあ
『ゴールデンスランバー』も気になるけど文庫待ち・・・

Posted by: SGA屋伍一 | November 02, 2009 07:30 PM

タイトルで思いっきり吹き出してしまったんでコメントします。

私も伊坂さんの作品の中では微妙だと感じました。
年々オチが弱くなっているような気がします。

Posted by: 通りすがり。 | November 11, 2009 06:01 PM

>通りすがりさま

コメントありがとうございます。なるたけならいっこく堂に勝ってほしいものです

>年々オチが弱くなっているような気がします

わたしは伊坂作品はここ一年の間にばーっと読んだのですが、なるほど、ずっとおっかけてきた方の中には、そのように感じられる方もおられるのですね

まあ、秀逸なオチを考え続けるのって、大変なことですよね~

Posted by: SGA屋伍一 | November 11, 2009 08:10 PM

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