チョコレート巨人の秘密 スパイク・リー 『セントアンナの奇跡』
黒人問題をよく扱うスパイク・リー監督の最新作。首都圏より二ヶ月ばかり遅れて上映。
現代ニューヨーク。平凡な郵便局員が、突如として客を射殺するという事件が起きる。事件を調査していた記者は、男から謎の言葉を聞いた。「わたしは『眠る男』を知っているー」
物語は第二次大戦時のイタリアへと遡る。前線で部隊からはぐれた4名の黒人兵士。彼らはその地で一人の少年と、セントアンナに住む様々な人々と出会う・・・
チラシを見ると「希望」「希望」としつこいくらいに書いてある。凄惨なぶっ殺しから始まる物語が、どうしてそこにつながるのか不思議で見に行きました。
第二次大戦末期、ムッソリーニが失脚した後、イタリアではドイツ軍・連合軍・パルチザンの三者が入り乱れていた時期がありました。この映画ではあまり語られることのないその時期のトスカーナ地方を舞台としています。
作品では前半部分でこそ黒人差別の問題が色濃く語られるのですが、お話がすすむにつれ、その種のテーマはなりをひそめ、戦争における人間の蛮行、裏切りなどの方がメインとなっていきます。
以下は例によってバンバンネタバレしていきます。未見の方はお気をつけください・・・・
やはりショッキングだったのは、中盤におけるむごたらしい殺戮の場面。ここで印象的だったのは、虐殺を指揮していた士官が、事が終ったあとで「こんなはずじゃなかったのに、どうしてくれる」と取り乱していたこと。ここを観るとその士官が非人間的な冷血漢ではなく、それなりに感情のある人物であったことがわかります。
無論後悔したからといって彼の罪が一片でも軽くなるわけではありませんが、この場面からわたしは戦争というものの恐ろしさを垣間見た気がしました。すなわち、戦争には普段ならとてもしないような残酷な行為を、人に行わせる力があるということです。
見てみて、宣伝文の意味するところはわかりました。が、あまりにもたくさんの死体がゴロゴロ出てくるので(女子供含む)、鑑賞直後は「希望」よりも虚無感の方を強く感じました。
しかし、鑑賞から時間が経つにつれ、むしろ兵士たちが村ですごした奇妙な日々の方が思い出されるようになってきました。
故郷では人並みの扱いをしてもらえなかったのに、遠く離れた異国の地で、普通に受け入れられていく主人公たち。もし仮に戦争が終ったあとで、彼らに選択の自由が与えられたなら。彼らは差別のないこの地で暮らすことを望んだでしょうか。それとも心無い扱いを受けたとしても、やはり住み慣れた故郷へ戻ることを選んだでしょうか。
幾ら考えても答えは出ないでしょうけど、ついつい物思いにふけってしまいます。
終盤では兵士たちはもちろん、彼らがともにすごしたトスカーナの人々もあっけなく銃弾の前に倒れていきます。それはとてもむごいことだけれども。だからといって彼らの生涯が暗く悲しいものということになるのでしょうか。その悲惨な結末でもって、人生のすべての評価が決まってしまうのでしょうか。
わたしはそうは思いたくありません。
確かに最後は悲しいものだったけれども、それでも彼らは一生懸命生きたし、その生涯はそれなりに輝きに満ちたものだったと思いたいです。
ひとつ難点を言わせていただけるなら、メインの兵士たちが太っちょさん以外なかなか区別がつきにくかったこと。終盤くらい来て、ようやく誰が誰なのかわかるようになってきたとういか。
これは人種差別ではありません。なぜならわたしは『父親たちの星条旗』でも同じ感覚に陥ったからです。
やはり軍服というヤツは、個性を埋没させる服なんですね。軍隊にとって個性は邪魔にしかなりませんから。
その中にあってキャラを際立たせようとしたいのであれば、この作品に出てくる太っちょさん並みの天然さが求められることでしょう。
今日からはなぜか小田原で上映。近隣で興味を持たれた方はを運ばれてみては。
Comments
伍一さん
そうなんだよね、判別がつきにくかったのが難点。。。。
それと途中までちょっとわたしは寝そうになっちゃった
オンナのアナウンスあたり、、。
でもラストのすかっと爽快な偶然。
なかなか良かったですよー、
スパイクリーの映画の中では久々に!
Posted by: mig | October 05, 2009 12:02 PM
これ観たかったのに、うまく時間が作れず泣く泣く見送りました。
でもいつかDVDで観たいから、SGAさんの感想読むのはガマン。
ネタバレ厳禁っぽいですもんね
Posted by: kenko | October 05, 2009 06:13 PM
>migさま
こんばんは!
洋画見慣れてるmigさんにも「見分けにくかった」と言っていただけるとなんかほっとします(笑) ここはやはりゴレンジャーのように色違いの服を着るべきでしたね! 後は髪型を奇抜にするとか
実はわたしも疲れていたせいもあって、序盤うとうとしてました カキ氷のシーンでいったん目が覚め、またうとうと、そんで教会のシーンで今度はくっきりと目が覚め、以後はずっと起きておりました
ラストシーン、わたしはある映画を思い出しましたよ(ヒント:モーガン・フリーマンの出てるヤツ)
Posted by: SGA屋伍一 | October 05, 2009 09:08 PM
>kenkoさま
こんばんは!
いま小田原でやってますよ! 見に来る?(笑)
確かに謎解きの要素もありますが、あくまでサブ的なものですかね。勘のいい人なら途中でわかると思います。わたしにすらわかったくらいだから
でもやっぱり前知識なしで観たいですよね。DVDが出たら、また感想お聞かせください~
Posted by: SGA屋伍一 | October 05, 2009 09:11 PM
>おばんでやんす
SGA屋伍一さん、こんばんは!
中盤の教会のシーンは、リアルで目をそむけましたよ。
戦争は人を狂わせますね・・・
黒人部隊のことは知らなかったので、勉強になりました。
ラストはさわやかでよかったっす。
>(ヒント:モーガン・フリーマンの出てるヤツ)
えーと、、原作がスティーブン・キングのヤツ?
ちがうかも、、
Posted by: アイマック | October 13, 2009 11:11 PM
>アイマックさま
またまたおばんでやんす。お返しありがとうございます
きっついシーン、けっこうありましたよね・・・
それでも黒人部隊の面々や、あのラストのせいでかあんまりトラウマな作品とはなりませんでした
なんでもスパイクさんは「『父親たちの星条旗』には黒人が出てこない!」というのが不満だったのとか。あれはあれでいいと思うけどなー
>原作がスティーブン・キングのヤツ?
たぶんそれです・・・ 『うんたらかんたらの空に』とか言ったかもしれません。似てません?
Posted by: SGA屋伍一 | October 14, 2009 08:57 PM