モンタナの山のふもとで ニック・カサヴェテス 『私の中のあなた』
最近「わたし」とか「あなた」とか「君」とか「ぼく」とか付いた映画多いですよね。でもこの作品は、他のそういうものとはちょっと違う・・・と思います。
現在絶賛公開中の『私の中のあなた』、紹介いたします。
サラとブライアンは仲の良い夫婦。二人の子供・ケイトとジェシーに恵まれ、幸せそのものの家庭を築いていた。だがまだ幼い長女のケイトが白血病にかかっているとわかった時から、夫婦の苦悩が始まった。
「何が何でもケイトを死なせない」 そう誓ったサラは、ケイトのドナーとなるべくDNAを操作したもう一人の娘・アナを作る。
臍帯血、輸血、骨髄移植・・・・ 強い痛みに耐えながら、アナは姉のために様々なものを提供し続ける。自分の生まれた役割を懸命に果たしているように見えたアナ。ところがアナは十歳になったある日、突然「もう自分の一部を提供するのはいやだ」と宣言。両親を裁判で訴えてしまう・・・・
原題は『My Sister's Keeper』。「姉の命を保たせるもの」という意味でしょうか。そうするとこのタイトルは主人公のアナそのものを指しているのかもしれませんが、映画を見てみるとさらに幾つかの意味がこめられているような気がします。
あらすじを読むとすんごいドロドロしたお話を連想してしまうと思います。ですが予告を見ますと、姉妹はとても仲むつまじそうで、ギスギスした空気とかなんにも感じられないんですわ。それが不思議で見に行くことにしたのです。
で、とてもいい映画だし、見てみて良かったとも思うんだけど。
こんなに見ていて辛い映画もそうないですね・・・
以下は「これから見る」という方はなるべく読まないようおすすめいたします。それでは秒読み開始・・・
わたしゃ独り者ですけど、家庭というものは、みんながお互いのことを考えて自分のことを我慢すれば、たいがいはうまくいくもんんではないかと思っておりました。ですけどこの映画の登場人物は、
誰もが自分のことより他の誰かのことを一生懸命案じているんですね。だのにどうしてこれほど悲しい話になってしまうんでしょう~
わたしが割りと一番感情移入してたのは、真ん中に挟まれている長男のジェシー。言ってみればこの映画で一番要らないというか、なんでいんのかわからないようなキャラクターですよ。
妹は体の一部を提供することで姉を助けられるわけですけど、彼はただ指をくわえてみていることしかできない。おまけに家族のみんなは姉のことにかかりきりで、自分のことなど誰もかまってくれない。だのにジェシーは文句ひとつ言わず、ただじーっと耐えてるんですね。そしてひたすら家族のことを、姉のことを考え続けます。
その彼の思いが、どん詰まりに陥っていた家族に開放をもたらす。そのあたりがとても心地よかったです。
偉いといえば、アナも偉すぎるってくらい偉い。あらすじだけ読むと「ねーちゃんが死ぬかもしれないのに・・・」と、自分のことだけしか考えていないわがまま娘のように思えます。でも弁護士が「お姉さんは死んでしまうよね?」と聞くとホロリと涙をこぼします。この辺でわたしのようなニブチンにも、「ああ、なにかわけがあるんだな」と理解することができました。
前に別のドラマでも見たことがありますが、骨髄を抜き取るのってすっごく痛そうなんですよね・・・ お尻にぶっとくて長い針を思いっきり突き刺きさして抜くわけです。誰かのためとわかっていても、大人でさえ身震いするんじゃないでしょうか。だのにアナは姉のために何回も何回も何回も何回もその痛みに耐え、これまた恨み言ひとつ言わない。そして姉を心から愛している。こんないいコこの世におるんやろか・・・ とさえ思います。
一家の親父がまた懐の広いエエ男です。彼とていっぱいいっぱいのはずなのに、家族に対し感情にまかせてぶち切れるということが一回もありませんでした(同僚にはいっぺん切れてましたがw)。アナが提供を拒否したシーンでサラが怒り狂っているのに、彼はこの時点で「何かわけがあるんじゃないかなー」ということに早くも勘付いております。前にもなんかの記事で書きましたけど、相手の言葉の裏を読める・・・ そういう人間でありたいと思います。
これだけ「いいひと」たちしか出てこないと、なんだか嫌味になったり浮世離れした話になりそうなものですが、個人的にはまったくそういうものは感じませんでした。うーん、なんでだろ。やっぱし役者さんたちのみずみずしい演技の賜物でありましょうか。
家族がいるということは、いずれ大切な人の死を見なくてはいけないということです。それを正面から受け止める上で、とても考えさせられる映画だと思いました。
ちょっとネタバレくさいですけど、原作では結末がまるで異なっているそうです。興味をもたれた方はそちらもどうぞ。わたしゃそこだけ立ち読みしちゃいましたけどね・・・・(←大邪道)
Comments
こんばんは!
この作品、人に勧めたとき『あなたの中の私』って言ってしまって、相手に間違ってると指摘されて恥かきましたよ。笑
長男はずうーと悶々としてたんだろうね。
家族それぞれの気持ちがよく描かれていて、感情移入させられました。
家族の死を受けとめることは誰でも経験すること。
悲しいけどさわやかな終わり方でしたねー。
Posted by: アイマック | October 27, 2009 11:27 PM
>アイマックさま
こちらにもどうも!
>人に勧めたとき『あなたの中の私』って言ってしまって
あははは。ところでこのタイトル、一見多重人格もののサスペンスのようですよね・・・
長男はわたしと似たような内向的なタイプだったんで、感情移入しやすかったです。理想はおとっつぁんの方なんですがね
幸いわたしはまだ本当に親しい人の死を経験したことはないんですが(恵まれてるなあ)、やっぱりいつまでもそうではいられませんよね・・・ あ。暗くなってしまった
Posted by: SGA屋伍一 | October 28, 2009 07:18 AM
こんにちは~♪
すごく良かったです~これ。
とても気に入って、友達にガンガンすすめております。
2回目の劇場鑑賞もしたのですが、その時も涙・涙でございました。
家族それぞれが愛に溢れ、、、私の琴線はブルンブルンと震えっぱなしでした・・・
また、テイラーがカッコ良かったのよねぇ~
ケイトにテイラーみたいな恋人が出来て、本当に良かった!!ううう・・・泣いちゃう
原作では結末が違っているそうですね~
ちょっと聞いたけど、私は映画の方がいいんじゃーないかなぁ~って思いました。
Posted by: 由香 | October 28, 2009 05:00 PM
>由香さま
こんばんは。お返しありがとうございます
わたしもとてもよかったですけど、由香さんは年間ベスト1に推しそうな勢いですね。『GOEMON』とどちらが良かったでしょうか(笑)
確かに、いまシネコンでかかっている中では、自信をもって万人にすすめられる映画ですね
あ、テイラーそんなに良かったですか。そちらへのコメントでは茶化しちゃってすいません
そうですね。わたしもあんなに包容力豊かで細やかな男が欲しい・・・ではなくて、そうなりたいものです。はい
>私は映画の方がいいんじゃーないかなぁ~って思いました
右に同じ。たぶんニック監督も、原作の結末に納得がいかなかったんじゃないでしょうかねー
Posted by: SGA屋伍一 | October 28, 2009 08:01 PM
伍一さんおはよう〜
>最近「わたし」とか「あなた」とか「君」とか「ぼく」とか付いた映画多いですよね。
あれ?わたしも全く同じ事別の「きみが」ってつく作品で書いてたよ〜(笑)
ほんとに最近そんな邦題多いですね
いつかは家族の死にあわなきゃいけない、
本当わたしそれが怖い、、、、
自分が先に死ねばそんなことにはならない、なんて考えるのはそれまた自分勝手なのかな?(笑)
原作のラストが違うってわたしもどこかで聞いたけど
どうなるんだろう、
今作キャストが全員よかったですね★
Posted by: mig | October 29, 2009 09:57 AM
>migさま
おはようござります。一日遅れですいません
きみぼく映画、洋画だけかと思ったら、邦画でも『僕の初恋を君に捧ぐ』というのが公開されてますね。「二人称ブーム」とでも言えばいいのかな?
migさんと心がつながったような気がしましたが、正直言うと私のほうは、こないだ読んだコラムの一文をちょいとぱくったのでした(笑)
>自分が先に死ねばそんなことにはならない、なんて考えるのはそれまた自分勝手なのかな?(笑)
そんな悲しいこといわんといてつかあさい~
でもmigさんとこはとっても兄弟仲よさそうだからね・・・ そう思いたくなる気持ちも少しわかります
わたしは上であんなこと書いてますけど、実は考えても全然実感わかなかったりします。みんな殺しても死なないようなのばっかりなんで・・・
>原作のラストが違うってわたしもどこかで聞いたけど
どうなるんだろう
ここでは書くのがはばかられるので、またお会いした時にでもこっそり教えてあげます。代わりに『マーターズ』のオチを教えてください(笑)
Posted by: SGA屋伍一 | October 30, 2009 07:30 AM
SGAさんこんばんわ♪TB&コメント有難うございました♪
三人姉弟の真ん中というポジションからか、自分も長男のジェシーには人一倍共感というか注目してましたね。アナみたいにケイトの力になりたくても出来ないから、最初はてっきりジェシーってどこか傍観者的な立場にも見えたんですけど、終盤の結末を知って考えると、非行一歩手前のように町を彷徨っていたシーンなども、彼なりに姉の事で葛藤していたんじゃないかとも思えて切なくなってしまいました。
でもあの真実って、大人もそうですが子供にとっても残酷ですよね。2人とも10歳そこそことはいえ、ケイトの苦しむ姿なども長年見続けて来たから、「死」という概念を他の子供たちよりも身近に感じてたでしょうし、それを本人から口止めされひたすら耐えるというのは、観てた自分たちが思う以上に辛いはずです。
ジェシーのように耐え切れなくなってぶちまけたい!っていう気持ちも然もありなんです。
Posted by: メビウス | November 05, 2009 09:16 PM
>メビウスさま
おはよっす。こちらのお茶らけたコメントに対し、とても真摯なコメントありがとうございます
えーと、メビウスさんも三人兄弟の真ん中? わしもそうなんだよ!(笑) 真ん中はいろいろと辛いよねー 「だんご三兄弟」じゃ「自分が一番」とか歌われてるけどさ
別にひがんでいるわけではないけれど、真ん中って一番親からスルーされやすいんだよね。そんなわけでわたしもジェシーにどっぷり感情移入していたのでした
「怒られるのを覚悟で戻った」のに、またしてもほとんど反応なし。そんなところがまた悲しい(笑) もしかしたらあれはパパなりの思いやりだったのかもしれないけど
終盤の方でケイトが「あんたのおかげで全部ばれちゃったじゃないの」と言ってましたが、その笑顔はとても晴れやかで
やっぱりこれで一番良かったのだな・・・と思いました
Posted by: SGA屋伍一 | November 06, 2009 07:31 AM
こんにちは!やっと書きました
そうそう、私もじっと耐えてるジェシーの姿は見てて切なかった。
小さいころ失語症になって、両親から「私たちには助けられない」とか言われて一年間施設に預けられる・・・そんなシーンがサラッとあったじゃないですか。
そのときジェシーはさめざめと泣くの。たまりませんですよ。
原作では夜な夜な街をふらついて放火したりとか、そんなエピソードもあるとどこかで読みました。
原作の映画とは違う結末というのが気になります〜
Posted by: kenko | November 20, 2009 12:28 PM
>kenkoさま
こんばんは。お待ちしてましたよー
ありましたね、そんなシーン。ぽろぽろ泣きながら「わかった」というあたりがけなげでした
なんとか納得してもらおうと必死で説明するパパがまた痛々しくて・・・
>原作では夜な夜な街をふらついて放火したりとか
うひゃー こちらはぐれるところまでぐれちゃった感じですね・・・
どうも結末といい、原作の方はさらに痛々しいお話になっているような気がします
ちなみにジェシーというと、わたしは高見山か『ハートカクテル』に出てきた粋なオッサンを思い出します
Posted by: SGA屋伍一 | November 20, 2009 09:39 PM