« ヒトラー対いっこく堂 伊坂幸太郎 『魔王』 | Main | お前の罪をカウントダウン 『仮面ライダーW』を語る① »

October 30, 2009

パリの変人たち ルイ・マル 『地下鉄のザジ』

091030_191802気がつけば都心の方は今日が最終日じゃないか ぐずぐずしてるとこういうことになります。生誕50年を記念してニュー・プリント版が作られた『地下鉄のザジ』、紹介いたします。

母に連れられてパリにやってきたいたずら好きの女の子ザジ。彼女の一番の楽しみは、地下鉄に乗ること。ところが折り悪くストライキが行われていたため、地下鉄はどこも運休。
納得のいかないザジはうさを晴らすかのように、おもりのおじさんやその他の変人たちをふりまわし、パリの街を縦横無尽に駆け巡る。

この作品のタイトルを知ったのはもう何年前か。某書店の平台で原作本が目に止まったときでした。シンプルなイラストに奇妙なタイトル。「地下鉄の駅をなわばりにしているワンパク坊主の話なんかな」と勝手に決め付けて、そのまま忘れておりました。
それが最近映画版がリニューアルされると聞いて、予告編を見てみたのですが、驚きましたね。こんなにヘンテコリンなお話だとはとても思ってなかった。そのヘンテコさ・・・ 特に巨大な磁石でザジが謎のおっさんをぐい~んと引き寄せているシーン・・・に強く引かれまして、遠くまでわざわざ観にいってきたのでした。

まあそんな感じの映画なんで、あらすじもあってないようなものです。90分の間に次から次へと乱発されるヘンテコ映像のオンパレード。人やモノがぱっと消えては現れたり、なんてのはしょっちゅう。
そんな映画にふさわしく、出てくるキャラもどこかおかしい方たちばかり。わりとまともそうなおじさんの奥さん(すごい美人)も、飛行士風のコスチュームに身を包み、無表情でバイクを走らせるその姿はやっぱりなんかおかしい(笑)。
セリフも妙に観念的で、会話があんましかみ合ってないこともしばしばでした。

別のとこである方に教えていただいたのですが、この映画は「ぶっちゃけ夢である」とか。確かに始終何かに追いかけられたりとか、高いところから落ちてもまったく問題なかったりとか、モノが現れては消え・・・なんてのは、夢の中ではよくあること。
そしてその中に現れる様々なものに、なにやら隠喩が含まれているんだとか。そうするとタイトルにもある「地下鉄」にも、なんらかの意味が隠されているのでしょうか。

ただとてもぶっとんだ話であっても、一応ギリギリ「現実にあるかも」というラインは保たれています。そのせいかあまり置いてけぼりにならずに、ザジと一緒にケラケラと作品を楽しむことができました

そんなしっちゃかめっちゃかなスタイルにあって、ささやかな格調を添えているのが、古のパリの町並み。正直現在とどれほど変わっているのかはよくわからないのですが、恐らくそれなりに失われた景色もあることでしょう。
そんな50年前のパリの様々な景色を、スクリーンで見られるということは、やっぱり貴重な経験だと思います。

あと個人的に素晴らしいと思ったのは、大戦からまだ15年ほどしか経ってないのに、もうその影が微塵も見られないほど、雰囲気がファンキーであること。観光客のドイツの娘さんたちが、ザジのおじさんに「いいおとこ~ん」とまとわり付くシーンがあります。が、誰もそのことをとがめようとしません。少し前まで殺し合いを演じていた両国なのに。そう、バカは国境を越え、憎しみを打ち壊すのです

091017_182840と、いうわけで都心ではいままさに公開が終ろうとしているところですが、全国の他の箇所でも上映が決まっております。
いつかはあなたの住む町へ、ザジが行くかもしれません。

ただいまんとこ他に決まってる上映館は、ぜんぶで八つ。すくな(笑)

|

« ヒトラー対いっこく堂 伊坂幸太郎 『魔王』 | Main | お前の罪をカウントダウン 『仮面ライダーW』を語る① »

Comments

こんばんは~!
いやあ、これはとっても面白い映画でしたね。
「夢オチだとかなんだかんだ」、小難しいことを言われてしまうのも分かるような、訳の分からなさで、
それは確かに認めます。が、私は、もっと映像に対して実験的な切り込みを入れるという意味で、真に革命的な映画だったと思うんですよね・・・

と、真面目に言ってみました。
おっとっと。でもね、私、この映画に関しては、そういうマトモなこと言う人は、正直あんまり好きではなくて、「単に楽しかったよ~」って楽しむことが出来る人が好きだし、そんな自分でありたい。
と、自分の解釈がどういう観点に立っているのか、そういったことを再確認することができたと言えるのではないか、と思ったりもするのです。

Posted by: とらねこ | November 03, 2009 09:12 PM

>とらねこさま

おはよっす。お返しありがとうございます

とらねこさんもいい加減ご存知だと思いますが、わたしもどっちかっていうと「むずかしいことはよくわからん!」な人間です(笑) で、いつもつまらんネタに走ってると
論理的に比喩とかメッセージを読み取れる人ってすごいな~と、いつも思います

ああいう風に表れたり消えたり、当時としてはきっと斬新な手法だったのでしょうね。
アートとして優れていると同時に、遊び心が豊かで、ゲラゲラ笑えるってすんばらしいことであります

劇場ではけっこう高年齢な方々もおられましたが、世代の差を越えてみなさん楽しそうに笑いながら見ていたのがとても素敵でやんした

Posted by: SGA屋伍一 | November 04, 2009 07:36 AM

SGA屋伍一さん、こんばんは。
トラックバック&コメントありがとうございました。(*^-^*

>ただとてもぶっとんだ話であっても、一応ギリギリ「現実にあるかも」というラインは保たれています。

地下鉄のストから始まる物語ではあるので、
自由奔放にパリを駆け巡っていてもどこか現実的でしたね。


P.S.
こちらからもトラックバック何度か打ったけど、不調で届かなかったようです。m(_ _)m

Posted by: BC | November 30, 2009 01:23 AM

>BCさま

おかえしありがとさんです

言われてみれば、「スト」って限りなく現実的な題材ですね
そしてそれが洪水のような大渋滞を招いている、という流れもリアルでした

TBが届きづらくてすいません。そういう設定にしてあるわけじゃないんですが、ブログによって「非公開」の状態で届くことがあるのです。懲りずにまたお願いします

Posted by: SGA屋伍一 | November 30, 2009 07:28 PM

Post a comment



(Not displayed with comment.)


Comments are moderated, and will not appear on this weblog until the author has approved them.



TrackBack


Listed below are links to weblogs that reference パリの変人たち ルイ・マル 『地下鉄のザジ』:

» 地下鉄のザジ(ニュープリント) ▲149 [レザボアCATs]
'60年、ルイ・マル原題:Zazie Dans Le Metro監督:ルイ・マル原作:レーモン・クノー脚本:ルイ・マル、ジャン=ポール・ラプノーカトリーヌ・ドモンジョ  ザジフィリップ・ノワレ  叔父ガブリエルカルラ・マルリエ  叔母アルベルティーヌユベール・デシャン  トルーラ....... [Read More]

Tracked on November 03, 2009 08:56 PM

» □『地下鉄のザジ』□ ※ネタバレ有 [〜青いそよ風が吹く街角〜]
1960年:フランス映画、ルイ・マル監督、カトリーヌ・ドモンジョ主演。 ≪DVD観賞≫ [Read More]

Tracked on November 29, 2009 10:46 PM

« ヒトラー対いっこく堂 伊坂幸太郎 『魔王』 | Main | お前の罪をカウントダウン 『仮面ライダーW』を語る① »