パリの変人たち ルイ・マル 『地下鉄のザジ』
気がつけば都心の方は今日が最終日じゃないか
ぐずぐずしてるとこういうことになります。生誕50年を記念してニュー・プリント版が作られた『地下鉄のザジ』、紹介いたします。
母に連れられてパリにやってきたいたずら好きの女の子ザジ。彼女の一番の楽しみは、地下鉄に乗ること。ところが折り悪くストライキが行われていたため、地下鉄はどこも運休。
納得のいかないザジはうさを晴らすかのように、おもりのおじさんやその他の変人たちをふりまわし、パリの街を縦横無尽に駆け巡る。
この作品のタイトルを知ったのはもう何年前か。某書店の平台で原作本が目に止まったときでした。シンプルなイラストに奇妙なタイトル。「地下鉄の駅をなわばりにしているワンパク坊主の話なんかな」と勝手に決め付けて、そのまま忘れておりました。
それが最近映画版がリニューアルされると聞いて、予告編を見てみたのですが、驚きましたね。こんなにヘンテコリンなお話だとはとても思ってなかった。そのヘンテコさ・・・ 特に巨大な磁石でザジが謎のおっさんをぐい~んと引き寄せているシーン・・・に強く引かれまして、遠くまでわざわざ観にいってきたのでした。
まあそんな感じの映画なんで、あらすじもあってないようなものです。90分の間に次から次へと乱発されるヘンテコ映像のオンパレード。人やモノがぱっと消えては現れたり、なんてのはしょっちゅう。
そんな映画にふさわしく、出てくるキャラもどこかおかしい方たちばかり。わりとまともそうなおじさんの奥さん(すごい美人)も、飛行士風のコスチュームに身を包み、無表情でバイクを走らせるその姿はやっぱりなんかおかしい(笑)。
セリフも妙に観念的で、会話があんましかみ合ってないこともしばしばでした。
別のとこである方に教えていただいたのですが、この映画は「ぶっちゃけ夢である」とか。確かに始終何かに追いかけられたりとか、高いところから落ちてもまったく問題なかったりとか、モノが現れては消え・・・なんてのは、夢の中ではよくあること。
そしてその中に現れる様々なものに、なにやら隠喩が含まれているんだとか。そうするとタイトルにもある「地下鉄」にも、なんらかの意味が隠されているのでしょうか。
ただとてもぶっとんだ話であっても、一応ギリギリ「現実にあるかも」というラインは保たれています。そのせいかあまり置いてけぼりにならずに、ザジと一緒にケラケラと作品を楽しむことができました
そんなしっちゃかめっちゃかなスタイルにあって、ささやかな格調を添えているのが、古のパリの町並み。正直現在とどれほど変わっているのかはよくわからないのですが、恐らくそれなりに失われた景色もあることでしょう。
そんな50年前のパリの様々な景色を、スクリーンで見られるということは、やっぱり貴重な経験だと思います。
あと個人的に素晴らしいと思ったのは、大戦からまだ15年ほどしか経ってないのに、もうその影が微塵も見られないほど、雰囲気がファンキーであること。観光客のドイツの娘さんたちが、ザジのおじさんに「いいおとこ~ん」とまとわり付くシーンがあります。が、誰もそのことをとがめようとしません。少し前まで殺し合いを演じていた両国なのに。そう、バカは国境を越え、憎しみを打ち壊すのです。
と、いうわけで都心ではいままさに公開が終ろうとしているところですが、全国の他の箇所でも上映が決まっております。
いつかはあなたの住む町へ、ザジが行くかもしれません。
ただいまんとこ他に決まってる上映館は、ぜんぶで八つ。すくな(笑)
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