野生、在れ ジャック・ロンドン 『荒野の呼び声』
またジャック・ロンドンです。今回は『白い牙』『海の狼』と並んで彼の三大犬系作品と呼ばれている(というか、わたしが勝手にそう呼んでる)うちの一作、『荒野の呼び声』を紹介します。まちがってずっと勘違いしていた『太古の呼び声』についてはコチラをどうぞ。ちなみに『海の狼』には、犬も狼も出てきません。
カリフォルニアのとある判事の邸宅で、なに不自由なく暮らしていた大柄な雑種犬バック。彼はある日園丁のよからぬたくらみにより、ゴールドラッシュに沸くアラスカはクロンダイク支流へ、橇犬として売られてしまう。
そこで彼を待っていたのは棍棒による教育、仲間であるはずの犬たちとの闘争、そして想像を絶する寒さと激務・・・・
だがバックは持ち前のしぶとさでそれらの艱難を耐え抜き、いつしか橇犬として頂点を極めていく。
冒頭の一文が奮ってます。「バックは新聞を読まなかった」 そりゃそうだ。犬なんだから。
不勉強なんで確かなことは言えませんが、当時動物を小説の主人公にするというのは、かなりの冒険だったのではないでしょうか。・・・と思ったらちょうどこの三年前にシートンの『狼王ロボ』が発表されてました。ロンドンがかの作品にインスパイアされたどうかは、はっきり言って不明。ご存知の方いらっしゃいましたらよろしくメカドッグです(つか、『ジャングル・ブック』もあった・・・・)。
犬と人との関わりを描いた話というと、最近公開されている『HACHI』や『ボルト』のような心温まるお話を想像する方もおられるかもしれません。しかしロンドンにそんなセンチメンタリズムは通用しません。
相変わらずのドライ&コールド、ブラッド&バイオレンスな内容です。なんせ「こいつ重要キャラかなー」と思ってた犬が、ガブッとかまれて非常にあっけなく死んでしまう。また、バックとライバルであるスピッツ(種類ではなく固有名)との戦いはひたすらえぐくて、姑息で、容赦ないです。そしてクライマックスにはタランティーノもかくやというほどの、大殺戮が展開。犬を溺愛されてる方が読んだら絶対「犬はこんなんじゃない! ってか、犬カワイソウすぎ!」と号泣すること間違いありません。
ロンドンの犬に対する視線は、非常に冷静で客観的です。それは恐らく彼がアラスカにいたころに、実際に多くの橇犬と接した経験により培われたものでしょう。どんなに過酷な労働でも、彼らはそれをなすことに誇りと喜びを覚える・・・・なんて文章にも「なるほど」と思わせられます。先日筒○康隆先生が朝日新聞にて当作品のことを「少し犬を擬人化しすぎではないか」と評してましたが、あなたはいったいどこを読んでたんだ! フンガー
え~ ただ、犬は人になつくものであり、犬を心から愛している人というのも、またいるもの。この小説にもそれなりにそういうエピソードがあります。というか、それまでがあまりに過酷なんで、そのくだりがまたひきたつんですよね。
この物語はワン公バックの一代記でもありますが、当時のクロンダイクに生きる人々を生き生きと描いた作品でもあります。シビアな仕事に情熱を燃やす者、なんとなく来ちゃった者、一攫千金を夢見る者・・・・
なかには「勘違い」的な例もあるものの、彼らは基本的に漂白の民です。ひとつところにとどまらず、旅から旅への毎日を送る。たとえ金塊を手に入れたとしても、それでセレブなお屋敷を立てたりはせず、やっぱり放浪の生活を続けるのではないかな・・・ そんな気がいたします。中には不慮の事態で突然命を失う者もいるわけですけど、それもたぶん覚悟の上ではなかろうかと。
そんなリアルでハードな『荒野の呼び声』ですが、おしまいのわずか2、3ページのところでロマンティックが大暴走。「オオカミ」がしばし眺めたあと、悲しげに吼える「黄色い物」とは何なのか? それに気づいた時、わたしはとめどなく涙と鼻水を流し続けたのでありました。
100年前の小説なのに、メチャクチャ面白く、かつ感動するこの作品。今年読んだ中で、そしてロンドンの作品の中でも一番のお気に入りとなりました。
現在では岩波文庫版と、『野性の呼び声』のタイトルで出ている光文社古典新訳文庫版が手に入りやすいようです。
満月を見ると、吼えたくなるのはなぜでしょう? それは太古に眠らされた野性が、悠久の時を超えて呼覚まされるから。アオ~~~ン
Comments
わーい♪チョビだ
SGAさんは最近ジャック・ロンドンにはまってるんですね。
いつもネコネコ言ってますけどもちろんワンちゃんも好きです。
ワンちゃんが主人公のお話というと昔「流れ星銀」が好きでした。
「白い戦士ヤマト」も〜
(持ち出すものがマンガですみません)
今思えば銀やヤマトの闘いもタランティーノ並みにエグかったです。
Posted by: kenko | September 15, 2009 10:22 AM
>kenkoさま
こんばんは~
くれたら食べてもいい
くれたら食べてもいい
くれたら・・・
「チョビ、お食べ」
はは。最近ジャック・ロンドンに漬かってます・・・ 『白い牙』も再読し始めちゃったし、『火を熾す』という短編集も買ってしまいました。彼の作品は絶版になってるものも多いのが辛いですね・・・
『銀牙』はわたしも好きでしたよー なんか『ガンバの冒険』を彷彿とさせるものがあって。このタイトル、なにげに『白い牙』を意識してるんじゃないかな・・・と憶測しております
>今思えば銀やヤマトの闘いもタランティーノ並みにエグかったです
連中はいつも刃物むき出しで戦ってるようなものですしね・・・
関係ないですけど、kenkoさんの『悪童日記』のレビュー読みたいっす
Posted by: SGA屋伍一 | September 15, 2009 08:39 PM