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August 10, 2009

長いお祭り ジェフ・ローブ ティム・セール 『バットマン:ロング・ハロウィーン』

090810_122854そういえば昨年のいまごろは、映画ファンの間では『ダークナイト』祭り状態でありましたねえ。
それなのに出版の方は相変わらず何の反応もなく、「こんなもんさ」と諦めておりましたが、今年の春になって突然(なぜ!?)ヴィレッジ・ブックスさんがやってくれました!
バットマン90年代最大の名作と言われる『ロング・ハロウィーン』、堂々の日本登場です。

バットマンが活動を始めて二年目。ゴッサム・シティを牛耳る暗黒街の帝王カーマイン“ローマン”ファルコーネは、甥のために盛大な結婚パーティーを開いていた。少し前、バットマンに煮え湯を飲まされた憂さを晴らすかのように。
だがそれから二ヵ月後、ローマンの甥のジョニーが、何者かにより殺害される事件が起きる。現場にはハロウィンを祝うかのように、カボチャのランタンが置かれていた。
以後、それを皮切りに祝祭日ごとに一人、また一人と消されていくファルコーネの一族。人々は謎の暗殺者を「ホリデイ」と名づける。ローマンは怒り狂うが、ホリデイの正体は杳としてつかめない。
法を重んじるバットマンとゴードン警部補もまた、ホリデイ逮捕に全力を傾けていた。だがマフィアを憎む新進の検事ハービー・デントは、いつしか自分が胸の内で、ホリデイの犯行にエールを送っていることに気づき始める・・・・


いやあ、これ、子供が読んでも全然面白くないよ(笑)。たぶん。
それなりにバットマンの格闘シーンもあるものの、この作品の主眼は「ホリデイは誰か」という謎解きと、ファルコーネ一族の黄昏、そして善と狂気の境界を描くところにあります。

まずホリデイ。アメコミの悪者といえば、大抵は奇妙奇天烈な格好をして、堂々と見栄を切るものですが、このホリデイ、なんと手しか出てこない。バットマンのみならず、アメコミ全てにおいて極めて特異なヴィランであります。
どうやら作中の誰かがホリデイに化けているようなのですが、ローブ&セールのつつみくらますような語り口のため、どいつもこいつも怪しく見えてなりません。その候補者はざっと十名というところでしょうか。
しかし作者は一応フェアを意識して、読者が犯人を見抜くためのヒントをあちこちに残しているようです。日本語版の解説書にはコマごとにそのヒントを指摘してあったりして、訳者の方の苦労がしのばれました。

また、このコミックは紙の上に描かれた上質のフィルム・ノワールでもあります。ホリデイのターゲットとなるファルコーネ家。この一族は実はフランク・ミラーの手がけた『イヤーワン』にて登場しているのですが、その後約十年、存在を忘れられていました(笑)
そこへDCコミックスの編集者アーチー・グッドウィンが「そういえばあの連中はその後どうなったんだろう?」と気づいたことから、この作品の骨子が決まったようです。
冒頭で盛大な結婚パーティーを開いていることからわかるように、ファルコーネ家のモデルが『ゴッド・ファーザー』のコルレオーネ・ファミリーであることは一目瞭然。ほかにも『ゴッド・ファーザー』に捧げたオマージュらしき描写が随所にあります。
己の権威を守るためなら、どんな相手だろうと情け容赦なく血祭りにあげていくローマン。そんな彼でさえかけがえのない家族を失った時には、どこにでもいる平凡な父親のように墓の前で泣き崩れます。時には悪魔のようであり、しかし我々と同じ感情も持っている。そんな「悪党」の描き方には、池波正太郎の小説に出てくる凶状持ちたちが思い出されます。

そしてアメコミにおいて何度となく問われてきた「正義とは何か」というテーマ。ファルコーネ一族は世間的にいえばまぎれもない「悪」であります。何度官憲の手に引き渡されても、その都度法の網をくぐりぬけて白日の下を歩いている。では法を超えた手段でもって葬るしかないのか?
それに異をとなえるのが我らがバットマン。その考えに魅入られていくのがハービー・デント。
まるでどこかの映画みたいじゃないですか(笑)。
実際序盤、バットシグナルを囲んでバッツ・ゴードン・デントが語りあうシーンなどは、まんま同じシーンが『ダーク○イト』にもありました。『ダ○クナイト』原案を担当したデビッド・S・ゴイヤーなどは「この映画が公開されたら、僕が一番『ロング・ハロウィーン』の影響を受けているってバレちゃうだろうな」とまで言っています。この正直者!
というわけで、『ダークナ○ト』の源流に何があったのか知りたい方には、ぜひともおすすめいたします。何度も同じことを書いていて恐縮ですが、あの作品は決して突然変異の鬼っ子のようにして出来たものではないのです。戦前から続くアメコミ60年の歴史の積み重ねがあって、当然のようにして生まれたものなのであります。

090810_123010ただこの『ロング・ハロウィーン』、先も述べたように『イヤーワン』の後日談という体裁を取っているため、できたら先にそちらを読んでおいたほうが良いでしょう。『ロング~』は二分冊なので、三冊合わせると福沢諭吉さんが一名ほぼ消滅してしまうという恐ろしい額になります。
しかし作品の質のことを考えれば、決して高くはない! むしろ安い!

絶版になる前に! そしてヤフオクでべらぼうな値段が付く前に! ぜひご購入を!

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Comments

SGAさーん

今朝起きたら、SGAさんがお住まいの地域で大きな地震が!
無事ですか?

台風も来てるしtyphoon

Posted by: kenko | August 11, 2009 at 09:42 AM

こんにちは!
記事に関係ないことですが、、、大きな地震がありましたが、大丈夫でしょうか。
こちらもスゴク揺れました。怖かった・・・

Posted by: 由香 | August 11, 2009 at 10:05 AM

>kenkoさま

お気遣いどうもありがとおおおおお
つД`)・゚・。・゚゚・*:.。
愛してます! って、ああ!逃げないで!

実はその豪雨と地震の中仕事してました(笑)
ちょうどエレベーターに乗ろうとしたら、その瞬間ガタガタっと揺れて、エレベーターが止まっちまいましたよshock
地震でエレベーターが止まる瞬間というものを初めて見ました・・・

とりあえずいまは雨もおさまり、津波警報も解除されて一安心というところです。お気遣い本当にありがとうございました!

Posted by: SGA屋伍一 | August 11, 2009 at 11:04 AM

>由香さま

お気遣い心より感謝いたします! 
うう・・・・ ううう・・・・
人の情けが身にしみる・・・
つД`)・゚・。・゚゚・*:.。

>記事に関係ないことですが、、、

かまいません! バットマンもきっと許してくれます!

実はちょうどエレベーターに(上のコメントをごらんください)

この辺も20年以上前から「必ず大地震が来る!」と言われながら、ずーっと来てないわけですが、ええ、本当にこのまま永遠に来ないでほしいものです・・・
というわけで無事です。ありがとうございました!

Posted by: SGA屋伍一 | August 11, 2009 at 11:10 AM

静岡といったら伍一さん!!
地震、大丈夫だった!?
東京も今朝震度4でベッドから飛び起きて、逃げる準備しちゃったよ~!

コメントいま携帯からだけど…
まだ余震とか油断ならないから気をつけてね~!

バッドマン好きとしては興味深い記事でした~☆

Posted by: mig | August 11, 2009 at 02:42 PM

>migさま

お外からわざわざどうもありがとおおお
。゜゜(´□`。)°゜。
migさんにも心配していただいて、わしゃ幸せもんじゃ・・・・
おかげさまで怪我等はまったくございませんでした
実はそのときエレベーターに(二つ上のコメントをご覧ください。携帯からだと二つ下になりますが)

東京も4あったんですね。さぞびっくりされたことでしょう。migさんとこの職場は大丈夫だったでしょうか・・・・

>バッドマン好き

migさんは悪い男がお好きなんでしょうか・・・
ってここは普通スルーしてあげるもんですよね。すいませんcoldsweats01
でもmigさんのそういうところが可愛らしいなあ~

Posted by: SGA屋伍一 | August 11, 2009 at 06:56 PM

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