ド田舎 夏の陣 細田守 『サマーウォーズ』
『式をとける少年』というのも考えました・・・・
都内の高校に通う平凡な草食系男子・碇ケンジは、長い間音信不通だった父から、長野県の山奥に呼び出される。そこで彼は世界が謎の存在による攻撃を受け、破滅の危機に瀕していることを知らされる。
「アバ(ター)を操って敵と戦え。それがお前の使命だ」
あまりにも突然の命令に、動揺するケンジ。だが他のアバの操縦者たちと心を通わせていくうちに、ケンジの中で次第に前向きな気持ちが生まれていく・・・
はい、すいません。ほぼ全部ウソです。
本当のあらすじはこちら
http://s-wars.jp/movie/movie03.html
長野県のど田舎で世界の破滅を阻止しようとする・・・というとこだけ本当でした。
アニメ版『時をかける少女』で一躍脚光を浴びた細田守氏の最新作。前作で「いやー、細田さんって純愛ものとか、お好きだったんですね」と言われまくった氏は、「わしゃそんなんとちゃうわー!! 今度は男汁たぎる熱血バトルもんをつくっちゃるわー!!」と燃えまくったそうですが、今回も純情丸出しだったじゃないですか!! このピュアピュアボーイが!!
・・・ま、それはともかく細田さんってやっぱりうまいですね。
物語に溢れんばかりの躍動感があり、それでいてきちんと整合性がとれていて。深いテーマもあるけれど、決して押し付けがましくはなく。そして十分に観客を喜ばせ、感動させ、なにより自分も楽しんで作っている・・・というのが手に取るようにわかります。
こうした「うまさ」や、日本の懐かしい風景を素材に用いている点では、やはり東映動画の雄である原恵一氏にも通ずるものがあります。
他の作家がやったら否定的、あるいは病的になりそうなテーマを、細田氏は実にのびのびと語ります。事件の原因となるネットワークシステムの危険性について触れながら、それらを糾弾したりはしません。なぜならネットワークというものは、「だれかとつながっていたい」という人の自然な欲求により生み出されたものなのだから。
すでにできてしまったものは仕方がない。でもそれに溺れてしまって、忘れちゃいけないのはどんなことなのか・・・・ この映画では、その問いに幾つかの答えを与えています。
わたしはガイナ系の八方破れの作品も、○野・宮○ら御大の説教くさい作品も好きですけど、細田・原氏の作品はそれらに比べると明らかに大人だなあ、という気がします。
その資質は恐らく両氏がアニメファンの注目を浴びない、いわゆる「児童向け」の作品を長い間手がけてきたことにより培われたものと思われます。
その「うまさ」はもちろんキャラクター造形の面にも現れています。特にこのアニメで印象的なのが、大家族を取りまとめる約90歳の陣内栄さん。日本アニメ史上、これほどまでに魅力あるばあさんがほかにいたでしょうか?
その暖かく力強い人柄は、正直メインのヒロインを食ってしまうほどした。ああ・・・ 栄さん・・・・ あと70年早く出会うことができたならば・・・・ ってそのころまだ、わたし生まれてないですけどね
ココから先、ネタバレ領域に突入します。未見の方はご避難されてください
考えようによっては問題が起きた原因のひとつは、栄さんの養子へのフォロー不足にあったと言うこともできるわけです。でもひねた子をきちんと改心させたのも、主人公にやる気を起こさせたのも、家族をまとめて事件を収束にむかわせたのも、みんな栄ばあさんの人柄と力ゆえ。すべてが栄さんの手のひらで回っているような、そんな印象さえ受けます。
恥ずかしながらわたくしこの映画で二度ほど号泣してしまったのですが、その一つは家族の前で栄さんの○○が読み上げられるところでした。
涙をボロボロこぼしながら、「こんなエッセイみたいなこと、普通○○に書くかなあ」とも思いました。でもよくよく考えてみると、あれも「こう書いとけばみんな侘助をかわいそうがって、許してあげるだろう」というばあさんの計算なのかもしれません。まったく恐ろしいばあさまでございます。
どこにでもいそうな陣内家の人々の書き分けも、大変おみごと。普通ならみんなそれぞれにいい見せ場がありそうなもんですが、本当にただケンジの足をひっぱるだけの人もいます。そんなところがまことにリアル(笑)
ちなみにわたしも父が4人兄弟、母が5人兄弟だったため、この時期はよく家に人が集まったり、母方の実家へ行ったりしたものでした。当然のようにたくさんの人がいて、その道で成功した人もいれば、ちょっと危なっかしい人もいて。一族といえど立場も性格もてんでバラバラです。
そんな大勢の中で夏の日をすごすのは大変楽しく。いま思えばあれは一つの財産だったのだなあ・・・と思います。
おそらく今シネコンでかかっている中では、一番意欲的で一番個性的で、一番よくまとまっている映画。劇場のカウンターまで行って何を見ようか迷った時には、ぜひこちらをごらんください。
そうそう、『時かけ』でヒロインを演じられた仲里衣沙さん。こちらでは実に意外な役を演じておられます。そういうところもうまいよな~(笑)
Comments
いや~、泣かされました。
おばあちゃんはズルいですよ。
あれが出たら、泣くに決まっているじゃないですか。
妾の子、しかもかなり年が離れてるにも関わらず、侘助を養子として迎え入れるなんて、栄おばあちゃんの懐の広さが窺えますね。
それと、佳主馬を見たとき女の子かと思ってしまいました。(笑)
いや、男だろ、これは。と最初は思ってたんですよ。
でもね、声が高いし、ところどころ仕草が、なんというか色っぽいというか、あざとくてね。
「ん、これは、もしかして女の子というオチ?」と疑いが生まれたんですが、最後の家族写真で学制服を見て、やっぱり男の子だったんだな、って何か安心しました。
そういや、佳主馬の声優の谷村美月さんも「時かけ」に出ていましたね。
仲さんと一緒にこれから「細田組」としてやっていくんでしょうか?(笑)
Posted by: 大吉 | August 16, 2009 01:49 PM
>大吉さま
おはようございます
泣きますよね・・・ おばあちゃんには
「チクショー、監督の計算にのせられてる・・・」と思いながら、号泣しておりました
「おらあ行かねーぞ」と言いながらパスワードが・・・・だったワビスケおじさんのひねくれぶりにも泣かされました
犬神家の一族もこうだったらよかったのにね
カズマくんはわたしもずっと女の子だと思ってましたよ~
だいたい声がモロ女の子だし(笑) 大吉さんは正真正銘の男の子だとわかって安心されたようですが、わたしはむしろガッカリしました(爆)
谷村美月さんは昨年くらいからようやく名前覚えたんですが、その前に『時かけ』や『遊星生物WOO』でも見てた(聞いてた)ことを知ってちょっと意外でした
少年役のオファーなんてそうこないだろうから、きっと楽しんでやってたんじゃないかなー
Posted by: SGA屋伍一 | August 17, 2009 08:33 AM
SGAさん!お返事が遅れてしまってごめんなさい!
あっちこっちの甥っ子姪っ子接待でリアルサマーウォーズしてました。
ようやくネットの世界に戻ってこれた~
帰省するたび何かしら読み物を与えてくれる兄が、
今回は「海街diary」をくれました。
SGAさんイチオシのやつですよね。読むの楽しみ♪
確かに今シネコンでかかってる映画の中では、これが一番デキが良さそう。
アニメファンにもアニメファンじゃない人にも、老若男女オススメできますね。
細田監督のアニメって確かに大人。
純情丸出しの部分ですら、観ててちっとも恥ずかしくないし。
児童向けの作品を長く手掛けてきたゆえか。なるほどー。納得です。
よくまとまったストーリーとアーティスティックなアニメーション。
ほんと上手い!!
Posted by: kenko | August 20, 2009 02:19 AM
>kenkoさま
こんばんは!
いやいや、気にせんといて。リアル・サマーウォーズ状態だったなら仕方が無い(笑)
>今回は「海街diary」をくれました
なんて素敵なお兄さんなんだ! kenkoさんの感想がぜひ読みたい!
ちなみに姉妹編にウン年前に書かれた「ラヴァーズ・キス」という作品がありまして。これを共に読むと深みが増すとともに混乱したりもします(笑)
細田さんはデジモン・アドベンチャーというシリーズをずっとやってたみたいですね。明らかにポケモンの後追い番組なんだけど(笑)、それだけにとどまらないモノにしていたみたいです
あと『湘南爆走族』のOVAも手がけてたそうです
アニメのメインストリームから外れてやさぐれてたころに、運送屋のあんちゃんだかに「湘爆のアニメのつづき、すっげえ楽しみなんすよ!」と言われて偉い嬉しかったとか
Posted by: SGA屋伍一 | August 20, 2009 10:22 PM
SGAさんこんばんわ♪TB&コメント有難うございました♪
現実世界の公共機関や何やらが全てネットワーク上でまかなわれるようになると、こういった大混乱になる可能性もありますよ・・・という細田監督なりの未来への警鐘も含んでいたかもしれませんが、そうだとしても決して説教臭くなく、それでいて軽く扱わずといった感じの内容も良かった気がしますねぇ。
ちなみに自分は栄おばあちゃんが黒電話激励するシーンと逝ってしまったシーン、手紙を読むシーンとこいこい合戦、そして最後に健二が頑張るシーンで涙腺ボロボロになっちゃいましたよw
つくづく涙脆くなったと実感します・・・
Posted by: メビウス | August 21, 2009 01:44 AM
>メビウスさま
おはようございます。速攻でお返しありがとうございます
下手するとどっちつかずになってしまうんだけど、メッセージを発する時ってこういうバランスが大事だと思うんですよね。あくまで公平な視点から語るというか
そういえば『ダイ・ハード4.0』でもこういうテロがあったけど、「文明への警鐘」らしきものは何も感じなかったなあ(笑) なぜだろう
>つくづく涙脆くなったと実感します・・・
メビウスさんもいい年になったということかな?(笑) 人は年をくうと涙もろくなるものなのですよ
でも最後にケンヂががんばるシーンは、鼻血が垂れてるのについ笑えてしまいました。ゴメンナサーイ
ちなみにもう一個泣けたシーンは、ドイツの名も無き男の子が、「ぼくのアカウントをあげます」というとこでした
Posted by: SGA屋伍一 | August 21, 2009 07:43 AM
「湘南爆走族」懐かしいですねぇ〜
あれも細田監督だったなんて。意外。
いろんなお仕事されてたんですね。
「ラヴァーズキス」は前にSGAさんにおすすめしていただいて読んだんですよ〜
ちょっと前スカパで映画もやってて、つい観てしまいました。
映画はまぁまぁだったかな〜
原作にわりと忠実で、今となってはかなりの豪華キャストでした。
で、「海街dialy」もう読んじゃいました。
「ラヴァーズキス」の続編だと思ってたんですけど、ちょっと違うんですね。
吉田秋生先生の最近の絵は昔に比べるとずいぶんかわいくなってて、
ともあき君がラヴァーズキスのともあき君だとはしばらく気が付かなかった
鎌倉に住んでみたくなりました。
こんなステキなマンガをくれたステキな兄ですが、
実は一緒に「百舌谷さん逆上する」っていうツンデレマンガもくれたの。
知ってますか?
こちらはあんまりステキとは言えない内容です
Posted by: kenko | August 21, 2009 11:10 PM
>kenkoさま
こんばんは
>あれも細田監督だったなんて。意外。
そうだったんですよ。っていうか、kenkoさんが『湘爆』を見ていたというのも意外だ(笑)
でもたしかあれの4巻だかは、アニメ誌でもやけに評判高かったですよ
劇場版『ラヴァーズ・キス』はまあまあでしたか。わたしはyoutubeで予告を見たのですが、皆さんそれぞれ、イメージと微妙に違うな~と
ただ宮崎あおい演じる妹ちゃん(名前忘れた)だけは、なんか魅かれるものを感じましたです
>「百舌谷さん逆上する」
・・・・もしかして重度のツンデレを患う女の子の話でしょうか。ちょっと親切にされただけで相手を半殺しにしてしまうような
お兄さんの漫画の趣味はさっぱりわかりません
Posted by: SGA屋伍一 | August 22, 2009 10:10 PM
こんにちは~♪
ちょっとご無沙汰しておりました。あれ?そうでもないかな?
変な虫に足を刺されてから、10日程ボケーっとしていたら、どんどんボケちゃって、、、ブログも放置しておりました。いかんいかん
SGA屋伍一さんはこの映画をお気に召したようですね~
ホント評判がいいのよね、これ。私は何でのれなかったのかなぁ~
クスッと笑ったり、ジワッと泣けたりしましたが、イマイチ好きになれなかったのですぅ~残念だわん。『時かけ~』は好きだったんだけど。
ケンジといえば20世紀少年を思い出すなぁ~今週末ですね、第3章
Posted by: 由香 | August 23, 2009 05:32 PM
>由香さま
おはようございます
えーと、前にお越しいただいたのは地震のときだったかな(笑) その節はご心配いただきまことにありがとうございました
由香さんとこはすぐにコメントいっぱいたまっちゃうから、本当大変ですよね~
わたしはこの映画、きっと由香さん気に入るんじゃないかな、と思ってたんですが、わたしのカンもつくづくあてにならんな(笑)
やっぱりお母さんの立場としては「ゲームばっかりやってないで、家のことも手伝って!」と言いたくなるかもしれませんね
もう一人のケンヂくんの活躍も楽しみですね! 来週中には見に行きたいなー
Posted by: SGA屋伍一 | August 25, 2009 07:19 AM
OZって、民間の企業が提供しているんですの?
人工衛星コントロールの機能は絶対そのネットワークに関連させないと思うんだけどなぁ。
ケンジくんは絶対に最初から大学生に見えないと思うんだけどなぁぁ。
その他非現実的!と思う点が多数ありましたが、書くのが面倒なので省略ー。
アニメだもんねー
ご都合主義な設定が多すぎるのでウマい!とは思えなかったのですが、とにかくパワフルで面白い!って思いましたー。
というわけで、おススメしていただき見てよかったですー。
Posted by: かえる | September 01, 2009 01:36 AM
>かえるさん
おかえしありがとうございまする
どうでもいい話ですが、わたしの弟が大学時代ブラジルに留学してた際、小学生に毛が生えた程度にしか見えなかったらしく、実年齢を言ったら「冗談はよせ」と大笑いされたそうです
非現実的なところは多々ありましたね。たまたま帰ってきたおじさんが某プログラムの開発者だったとか(笑) どんな偶然なんだよ、とも思いましたが、そんなところもひっくるめてどこかおとぎ話的な感じが気に入ってます。お池に船を浮かべたりとか、隣の山にそんなものが落ちて来たりとか、普通ありえん。でもそこが楽しかったです
かえるさんにもその面白さがわかっていただけたようで、とても嬉しいです。宮崎御大もいよいよ引退の現実味が増してきたので、日本アニメはこのパワーを失わないでほしいですねー
Posted by: SGA屋伍一 | September 01, 2009 12:37 PM