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July 17, 2009

ある日の空のコインロッカー 伊坂幸太郎 『ラッシュライフ』

20080222182420映画関連で来た方すいません。またしても小説の記事です。伊坂幸太郎氏のデビューニ作目となる『ラッシュライフ』ご紹介いたします。

長年の夢をあっさり潰された元画商。父親に死なれて救いを求める青年。お互いの配偶者を殺そうと目論む不倫カップル。仕事も家族も失った中年男性。崖っぷちな彼らの四つの物語が、時にすれ違い、時に交差します。
それぞれを結びつけるのは「風変わりな泥棒」「名探偵兼救世主」「身元不明の死体」「一丁の拳銃」「みすぼらしい老犬」そして「『何か特別な日に』と書かれた高い塔」・・・・

ちょうど少し前に見た映画『バーン・アフター・リーディング』を思わせるような構成とストーリー。一つ前に読んだ『重力ピエロ』はその名の通り重ための話でしたが、こちらは全体的に軽いというか、せかせかした印象でした。

これまで他に『チルドレン』『死神の精度』『アヒルと鴨のコインロッカー』『オーデュボンの祈り』(こないだまでオーデュ「ポ」ンだと思ってたよ・・・)など読んできましたが、今日はこれら六作品から読み取れる「伊坂作品の特徴」についてダラダラと述べていきます。

one「リンク」
伊坂作品の特色としてよく挙げられるのがこの作品の枠を超えた「リンク」。ある作品の主人公が別の作品で通りすがりに登場したり、ある作品に出てきた事件が、別の作品で噂として語られていたり。
単なる遊び心なのかもしれませんが、そうした技法は実際の世界には主役も脇役もなく、それぞれの人生において誰もが主人公である・・・ということを思い出させます。
伊坂さんのこのアイデアはもともと島田荘司や夢枕獏の諸作に触発されたものだそうで。この話を知ったときはちょっと意外でした。だって三人とも作風が全然違うんだもん(笑)。ただ『ラッシュライフ』では伊坂さんにしては珍しく、島田荘司ばりの本格ミステリーに挑戦した話がありました。
『ラッシュライフ』はさしずめ四本の中篇を一本の長編とすることで、このリンク遊びを存分に織り交ぜた作品と言えます。
作品間のリンクに関しては、ファンサイトのこのページに詳しく書かれています。


two「伊坂作品によくいる人々」
頻度の高い順にあげていきます。

1:凡人
伊坂作品の重要キャラは大抵持たざるものというか、社会的地位の低い人である場合が多いです。どんなのがいるかといえばまず失業者、低所得労働者、何をやってるんだかわけのわからんヤツ、職業的犯罪者・・・・など。比較的マシなのといえば貧乏学生とかしがないサラリーマンとか。「死神」ってのもいましたが・・・
伊坂先生もさぞやお金持ちになられたことかと思いますが、この庶民派テイストを忘れないでほしいものですね。

2:泥棒 もしくは強盗
伊坂ワールドではよく盗人が登場します。で、おおむね同情的、もしくは肯定的に描かれています。彼の基準では盗みは大した罪ではないようで。その代わり(?)、弱者を虐げることは「即刻死刑にしていいんじゃね?」くらいの嫌悪感をもって書かれています。この辺からイサコー氏の善悪の基準が読み取れるような

3:もうじき死んじゃいそうな人
出てきた時点で「ああ、この人死んじゃうだろうな」的な気配を漂わせている人もよく出てきます。『死神の精度』なんてそんなキャラのオンパレードです。『ラッシュライフ』で言うと、信者たちによって着々と暗殺計画がすすめられている新興宗教の教祖様。ただ「死んじゃうんだろうな」と思わせて、たまーに生き延びたりする場合もないではないです。

4:美人・美青年
脇役にアクセントとして「すごい美人」「すごい美青年」が出てくるのも毎回のお約束。ただ細かい描写はほとんどないので、読者は自分が思う「美人」を想像するほかありません。

5:芸術愛好家
作品によって音楽だったり、絵画だったり。伊坂先生の趣味が反映されているのでしょうか。氏は映画もよく見られるそうなので、映画ネタもちょくちょく出てきます。

6:動物好き
動物とそれに関わる人間の話もよくあります。上の方で「弱者を虐げるものは悪」と書きましたが、その弱者には動物も含まれます。彼の中では動物の命も人間の命も等価なのかもしれません。


なんとなく伊坂さんが好きそうな人間というのが、どんな人なのかわかってくるような。

話を『ラッシュライフ』に戻して。わたしが四つのエピソードでもっとも真剣に読んでたのは、リストラ中年の豊田さんのパート。わたしに一番近い人種のような気がして(笑) ただ身の不幸を嘆いていた豊田さんが、一匹の犬と出会うことで少しずつ変わっていく様子が心地よいです。さらに最後にはこの話で一番いいとこまでもっていってしまう。
「いいえ、既に人生は・・・・」 普通なら聞いていてどんより暗くなるようなセリフが、ここではなんともかっこよく、かつ小気味よく胸に響きます。

お話は流れるだけ流れると、やや唐突にパタッと終わりを迎えます。まるで「あとは自分で想像してよ」とでも言わんばかりに。なんつーか、450ページも読んだわりには、「だからナンなのよ?」と言いたくなるような。でもそれがかえって気持ちいいようなそんな作品でありました。

20080720195245ちなみに劇場版は四つのエピソードを、それぞれ四人の監督が担当するという実験的な試みがなされているそうです。『重力ピエロ』よりぐっと公回規模が小さいので、わたしの住む地域ではやらないようですが・・・

次は角川文庫から出ている『グラスホッパー』など読んでみる予定。殺し屋が主人公だそうで。
む~ん。のわ~~~~る~~~

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Comments

もたもたしているうちに映画の方は上映時間が縮小されてしまい、
たぶんもう観に行くタイミングないです。。。残念sweat02

『ラッシュライフ』って、物語の構成が本当にエッシャーの騙し絵みたいになってるのかなーと思い、
自分で時系列に並べてみようかなーとか考えたんですけど
根性がないのですぐに諦めました。
実際にはエピソードはキレイに並ぶみたいですね。
ほんと『バーンアフターリーディング』みたいな話で、この軽さと複雑さが好きな作品です。

伊坂幸太郎が島田荘司とか好きなのって意外。
でもファンとしてはどっちも好きだから、なんか嬉しくもある。

『グラスホッパー』も面白かったです♪

Posted by: kenko | July 19, 2009 at 08:16 PM

>kenkoさま

こんばんはっす
ただいま実家におりまして、親父のPCから書き込み中です

なんだか映画の方は『重力ピエロ』に比べるとだいぶ扱いに差がありますね。あんまし話題になってないし、レビューもほとんど見かけないし(^^;
キャスト見ましたが、堺さんと寺島しのぶはわりとイメージに近いです。板尾さんはちょっと違和感

時系列並べ・・・ 若いころはそういうの好きでややこしいミステリー読むときなんかノートに書いて整理したりしたっけなー
いまはすっかりものぐさになってしまって

わたしは『バーン~』はだめだったんですが、こちらの方は好きです。人間に対する愛情が感じられるので。

>でもファンとしてはどっちも好きだから、なんか嬉しくもある

こちらはまったく同感。あと村上春樹も好きみたいです
『グラスホッパー』も買いました。レビューはだいぶ先になると思いますが・・・・

Posted by: SGA屋伍一 | July 20, 2009 at 05:50 PM

こちらにもお邪魔します♪
この本、実はあまりお話が印象に残っていません(汗)
だいたい覚えているのですが、、、いや、、、忘れたかな(滝汗)

巧いよなぁ~伊坂さんて、とは思ったのですが、それだけだったのかしら?映画もイマイチ観ようって気にならなかったりして~

『グラスホッパー』は好きです!!好みでした~
SGA屋さんはどうかなぁ~

Posted by: 由香 | July 24, 2009 at 12:45 PM

>由香さま

こちらにもありがとうございます!
あんまし覚えてませんか(笑) まあ四つのお話がシャッフルされる構成は面白いけど、他の作品よりややパンチに欠けるかな・・・

映画、たしかイケメン?では堺正人さんが出てましたが、彼だけでは見に行く気になりませんか? ていうか、こっちかからないしね・・・

実は今日これから電車に乗って出かけるので、『グラスホッパー』をワクワクしながら読もうと思ってます。ジャック・ロンドンの作品を続けて二冊読んだので、レビューはそのあとかなー

Posted by: SGA屋伍一 | July 25, 2009 at 07:11 AM

こんばんは~♪
グラスホッパーは如何でしたか?

ところで!!私、今、村上春樹さんの『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』を読んでいます。
で、、、以前SGA屋伍一さんが、「伊坂さんは村上さんの影響を受けている」と仰っていたのですが、その意味が分かって興奮し、思わずコメント致しました。
どうやら私、村上さんは初体験のようで、、、
以前何か読んだ気になっていたのですが(ボケ?)、違う作家さんだったようで、、、

まだ下巻に入ったところですが、読み終わったら感想を書きたいなぁ~と思っています。

Posted by: 由香 | August 08, 2009 at 12:13 AM

>由香さま

こんちはっす
グラスホッパー、面白かったです!
ただつい読み急ぎすぎて、読み終わったあとによくわからないことがちょこちょこ出て来てしまいましたf^_^;

村上春樹ですか。人間失格といい、純文づいてるじゃないですか!
実はわたしも1Q84とかあまりに話題になってるので、これを機会にノルウェイの森でも読んでみようかとちょっとだけ思いました(笑)

最近読んだのでよかったのはジャック・ロンドンという人の「荒野の呼び声」という本(岩波文庫)
オススメです!

Posted by: SGA屋伍一 | August 08, 2009 at 06:31 PM

こんばんは~♪
グラスホッパーをお気に召したようですねhappy01
私もかなり好きでした~SGA屋さんの感想を楽しみにしていますね!

世界の終り~ですが、読み終えましたよ~
変わった話でした(汗)えらく人気があるようですが、、、よく分からなかったわんcoldsweats01

>ジャック・ロンドンという人の「荒野の呼び声」
オススメですか?SGA屋さんの薦めてくれる本はみんな読みたくなっちゃう(笑)

ところでレヘインですが、かなり面白い作家さんだと思います。好みもあるでしょうが、、、一冊てにしても損はないと思うなぁ~note

Posted by: 由香 | August 08, 2009 at 09:32 PM

>由香さま

おはようございます! またまたお越しくださりありがとうございますhappy01
グラスホッパー、感想はいつになるかわかりませんが、気長にお待ちくださいcoldsweats01 

>よく分からなかったわん

あれ!? 面白く読んでるのかと思ったら、テンション下がってる(笑)
ま~この~いろいろ想像できるというか、エンタメのように一筋縄でいかんところにファンは魅了されるんでしょうね
『ハードボイルド』といや、村上さんチャンドラーの『ロング・グッドバイ』新訳してましたね

『荒野の呼び声』、とてもよかったです。今年入って読んだ中ではベストかもしれません
お家でぬくぬく飼われてた大型犬が、アラスカに拉致られて犬ぞり犬として働かされるという話なんですが・・・ 由香さん犬好きのようなので、楽しめるんじゃないかな~ 辛い描写もあるかもしれませんが
伊○治書店に一冊置いてありましたよ(笑) レヘインは近々読んでみます!

Posted by: SGA屋伍一 | August 10, 2009 at 08:51 AM

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