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July 14, 2009

天まであがる ジェームズ・マーシュ 『マン・オン・ワイヤー』

090714_174636マン・オン・ワイヤー
終わりにしない
悲しいけれど
きりがないのさ


1974年、こともあろうにNY貿易センタービル(通称「ツインタワー」)の間にロープを張って、綱渡りをやらかした男がいました。
彼の名はフランス出身の曲芸師フィリップ・プティ。プティさんはツインタワーが出来ると聞いたその時から、いつかそのてっぺんをロープで歩くことを夢見ていたのでした。これはその計画が立てられてから、いかにして実現までにいたったかを追ったドキュメンタリー映画です。

バカとなんとかは高いところが好きと申しますが、わたしは高いところが好きでして。ま、この田舎町では高いところといっても、せいぜい十回建てのビルくらいしかありませんが。そのてっぺんでお尻を緊張でピリピリさせながら、「ぐふふ・・・ 愚民どもめ・・・」と下界を見下ろすのはなかなか気持ちのいいものです。

ま、これくらいのおバカはどこにでもいる大したことないおバカであります。しかしなんたることか高度411メートルのツインタワーのてっぺんで、綱渡りをやったおバカさまがいる。そのことを知った時には感動で胸がうち震えました。当然無許可。当然即逮捕。命綱はないので、足を踏み外せば間違いなくあの世行き。しかもまったく自発的な行為なので、膨大な時間と労力を費やしながら、報酬は一切なし。まさに超ド級のおバカ。キング・オブ・おバカということができましょう。下々のおバカとしては、ただ頭を垂れるのみです。

やはり興味を抱かずにいられないのはプティさんの人間性でしょうか。「常に創造し続ける」「反骨精神を持ち続けることが大事だ」なんて求道的なことを言ったかと思えば、「意味なんかねーから素晴らしいんじゃねーか」「オレ、チャレンジって言葉嫌いなんだよね(これは『映画秘宝』のインタビューより)」なんて言って煙に巻く。
この人を食った子供のようなところに協力者たちは魅せられて、何の見かえりも求めず彼の夢の実現に力を貸したのでしょう。

そしてわたしはこの「いたずら」が、あのツインタワーで行われたということが、なんとも意義深いことに思えるのです。
まず、これと同じことは、どこの誰にも二度と出来ません。なぜなら事件の舞台であったツインタワーは、もうこの世に存在しないのですから。
そして、貿易センタービルといえば、誰でも思い出すのは2001年の9月11日に起きたあの凄惨な事件のことでしょう。しかしここで起きたのはあの悪夢のような事件だけではなくて、こんなおとぎ話のような愉快な出来事もあったんだ・・・ そんな風に思うと、少しなぐさめられるような気がします。
ちなみにこの映画の原作である『To Reach the Clouds』が書かれてる最中に、あの事件は起きたそうです。プティ氏は本の最後で「あの塔を再び建てよう」と呼びかけていますが、果たしてその夢は実現するのか・・・・

先にも述べましたが、この犯行には幾人かの協力者がいなくてはなし得ないものでした。特にプティ氏の妻と一人の親友は、長年に渡って彼を心身ともにサポートします。けれどもプティ氏が偉業を成し遂げた途端、彼らとプティ氏との距離は遠いものになってしまいます。それはもしかしたら、途方もない夢をかなえたことの、代償のようなものだったのかもしれません。

しかしその後もプティ氏は世界をまたにかけて、ワイヤーの上を歩き続けます。時にエッフェル塔とシャイヨ宮の間を。時にイスラエルとアラブの国境線をまたいで。今度は公認で(笑)
グランドキャニオンの崖から崖を渡る計画もあるそうなのですが、現場に着いた途端スポンサーが「これ、マジで死んじゃうから」と怖気づいて逃げ出したため、この計画は現在無期延期状態のようです。

090714_174708プティさんが塔のてっぺんで空中に足を踏み出す時、わたしも共に雲が浮かぶ高さを歩いているような気がいたしました。
そう、この映画を見ていると、自分もなんだか綱渡りがやりたくなってしまうんですよね。・・・・いや、やりませんけど。

『マン・オン・ワイヤー』、ぼちぼち公開終了が近づいている劇場もあるようですが、この恐怖と恍惚はぜひ映画館で味わってください。

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Comments

み~ん。感動した!! さっそく『バード・オン・ワイヤー』を見てみるよ!! ゴールディー・ホーンが出てるから!!

ボクは映画けなしすぎかな? ゴム彦さんはダメな映画ほどいいとこ見つけて弁護しようとするその必死の詭弁具合は、いつも尊敬してますよ。。。

映画のブログをはじめてみたのだが、どこまで書いていいもんだか、わからないんだよね。面白かった映画は、ぜんぶ書いちゃうんだよ。ストーリー。どうすればいいんだろうね? やってるうちにわかるようになるのかな?

Posted by: ウラヤマアンド | July 15, 2009 11:58 PM

mixiニックネームぐり子です。
『マン・オン・ワイヤー』レビュー読ませていただきました。
グランドキャニオンの崖から崖を渡る計画なんてものがあったとは、驚きです!
でも、スポンサーがOKさえ出せば、フィリップさんの悪運でこれも成功しそうな気がします(笑)

またmixi日記の方に再度お邪魔したのですが、実は私も『ウォレスとグルミット ベーカリー街の悪夢』見に行きたいと思っています。以前見た『チキンラン』が最高に面白かったので…。
『ムーミン パペット・アニメーション』は、TokyoDomeCity内のムーミンカフェにポスターが貼ってありました、そういえば。こちらもムーミンファンとしては押さえておきたいところです。
見に行きたい映画は沢山あれど、全ての劇場に足を運ぶわけにはいかないのが現実ですが、
見た映画や興味のある映画が割と重なっているようで嬉しくなり、コメントさせて頂きました。

Posted by: 山岸史 | July 16, 2009 05:26 AM

>ウラヤマアンドさんさま

おはようございます!

さっそく見る気になってくれてありがとう! ってタイトル微妙に違うよ!
その映画時々聞くんだけど本当にタイトルしかしらない(笑) 電線にスズメが三羽止まってるような、そんな話なのかな?

いやー ウラヤマ先生とこの記事はうっとこなんかよりよっぽど面白いですよ。いいよね! この醜い癒着関係でお互いお世辞を言い合うのって!

・・・・ってそうじゃなくてマジメに面白いですよ。変に気負わずそのままのあなたでいてください
けなしすぎなんてこともないっすよ。もっとすごいブログ、いっぱいあるから(笑)

最後まで書いちゃうときは前もって「ネタバレしてます」と書いておけば、法律で罰せられることはない・・・・みたい
古くて見る機会のない映画なんかは、結末まで教えてくれたほうがありがたいこともあるしね

Posted by: SGA屋伍一 | July 16, 2009 07:40 AM

>山岸史(ぐり子)さま

こちらまで見てくださってありがとうございます!
グランドキャニオン、ぜひやってほしいですよね。金さえあれば最新設備もそろうだろうし、GPSで天候も十分チェックしておけば、なんとかなりそうな気もします。あとはプティさんの年齢次第かな・・・

『ウォレスとグルミット』はいいですよねー あれだけ面白いことを考えられる才能は、いまのところ他にピクサーのブラッド・バードくらいしかいないような気がします。わたしは月末に見に行く予定です。そうだ。そろそろ前売り買ってこなきゃ・・・

『ムーミン』もその独特な作りが面白そうなんで興味はあるんですが、モーニングショーオンリーというのがきつい・・・
わたしも色々見たき映画はあれども、地方的に単館系の作品はどうしても限られてしまうのが辛いところです。どうしても見たいものはわざわざ首都まで出張って見てるんですが

そちらのブログも見させていただきました! ポップなイラストが楽しいですね。これからちょくちょく見させていただきます

Posted by: SGA屋伍一 | July 16, 2009 07:49 AM

SGA屋伍一さん、こんばんは。
トラックバック&コメントありがとうございました。(*^-^*

「意味なんかねーから素晴らしいんじゃねーか」素敵な言葉ですよね☆
“大好きな事に関して理由づけする必要はない、綱渡りをしたいからする。”
そういうような事をプティさんは語っているのかな。
映画を観たいから観ている“映画バカ”かもしれない?私達とプティさんは似た者同士かも。^^

Posted by: BC | July 16, 2009 09:05 PM

>BCさま

こちらにもおいでくださりありがとうございます

我々はつい自分の行動に目的とか実用性とかを持たせたがるものですが、ここまで吹っ切れられるってすごいことですよね。そしてうらやましい
この辺が自由を重んじるフランスの気風ってやつなんでしょうか。あと「厳格な家庭に育った」とのことなので、その反動もあるのかも

>映画を観たいから観ている“映画バカ”かもしれない?

ははは。言い得て妙ですね。なんかフィリップさんにちょっと近づけた気がします

Posted by: SGA屋伍一 | July 17, 2009 07:18 AM

伍一さん

観たのね〜!
歩道橋すらドキドキなわたしなのでムリかな〜って思ったけど画面だったら平気なのかな??

評価されてる作品ですよね☆
あ、昨日よくみたらゴシップのところにもコメ下さってたのね、ゴメンナサイ!
あとでお返事しますね!!
最後のスパイダーマンがカワイイ。。。

Posted by: mig | July 18, 2009 10:05 AM

>migさま

こんばんは♪

見てきましたよ~ テアトルタイムズスクエアの急斜面で(笑)
あそこで見るのも、これが最後かな・・・

とっても良かったけど、高所恐怖症の人にはとてもじゃないけどすすめられません

migさん、そんなに高いところがダメなんだ・・・ それじゃデパートに行っても窓の側には行けないね・・・

あとお忙しいところいつも丁寧なレスありがとうございます!
あんだけたくさんのコメントが来たら、わたしだったらうっかり放置とかきっとやってると思う(笑)

Posted by: SGA屋伍一 | July 18, 2009 08:58 PM

こんばんは、SGAさん。
SGAさんもこちらの作品、見てくださったなんて嬉しいです
私この作品、特に気に入ってしまった作品でした。

高島屋のタイムズスクエアで映画を見たのは、SGAさんは『レンブラントの夜警』以来でしょうか?
ここの映画館ももう終わりだなんて、淋しいですねえ。
以前ここ、アイマックスシアターだったので、それが終わった時もかなり残念だったんですよ。でもまた映画館になってほっとしてたんですよね。
結構残念がってる人が多くて、私としては嬉しいです。またここ、映画館になるんじゃないかな?と期待しています。

さてこの映画ですけど、
>グランドキャニオンの崖から崖を渡る計画もあるそうなのですが、現場に着いた途端スポンサーが「これ、マジで死んじゃうから」と怖気づいて逃げ出したため、この計画は現在無期延期状態のようです。
プティさんは、もしスポンサーがGOサインを出したら、きっと何がなんでもやっていたでしょうね。

Posted by: とらねこ | August 03, 2009 07:27 PM

>とらねこさま

おはようございまする
わたしこの映画のチラシ見るまで、プティさんのこと全然知らなくて。ほんとうにおとぎ話を地で行ってる人っているんだな~と俄然興味がわいてしまったのでした

実はテアトルタイムズスクエアさんには、この映画を含めて4回行ってます
ほかは『夜警』『ペネロピ』『つぐない』。どれも思い出深いいい映画でした
わたしの記憶がたしかならば、とらねこさんはアイマックスシアターの時に自然系のドキュメンタリーをご覧になったとおっしゃってたような
閉館は残念ですが、どっかまた別のところが映画館開いてほしいですよね。でなきゃもったいない

グランドキャニオンの件は、まだスポンサー探してると思いますよ
わたしに巨万の富があれば必要経費なんかポーンと出してあげられるのに・・・・
テアトルタイムズスクエアも買い占められるのに・・・・ 

Posted by: SGA屋伍一 | August 04, 2009 07:24 AM

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