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June 08, 2009

起て同胞よ行け闘いに ジャック・ロンドン 『鉄の踵』

090608_171036十回に一回の読書コーナー。今回はジャック・ロンドンの『鉄の踵』を紹介します。

昨年映画『イントゥ・ザ・ワイルド』を見て以来、久しぶりにジャック・ロンドンが読みたくなってしまいました。そんな折り、某大書店でこの本を見つけました。十年以上前隣町の図書館で見かけて、いつかは読みたいナーと思ってそれっきりになっていた『鉄の踵』。奥付を見たらなんと「1987年4月20日初版2刷」とある。・・・・すごいよ紀伊○屋。
いったいこの二十年間、この本はどこをどうさすらっていたのでしょう。

さて、1907年に発表されたこの作品。当時から約十年後に書かれたある女性の手記を、700年後(・・・・)の歴史家が紹介しているという、大変ややこしい体裁をとっています。そんなわけで手記の合間合間に歴史家の入れた注釈が入っています。よく言えば凝っていて、悪くいうと読むのが面倒くさい(笑)。まあこんなスタイルでも書けるんだな、とロンドンの意外な器用さに感心いたしました。

あらすじを。富裕層に富と権力がより集中している(当時からの)近未来。学者の娘アヴィスは、自宅で開かれた夕食会で、アーネスト・エヴァハートと出会う。資本家階級を容赦なく糾弾するアーネストに、最初こそ反感を抱いたアヴィスだったが、いつしかその精神にひかれて彼を愛するようになる。
労働者の地位向上を求めて熱心に活動するアーネストと仲間たち。しかそ支配階級である「鉄の踵」は、抵抗する労働者たちを容赦なく取り締まり、二つの階級の衝突はやがて激しい武力闘争へと発展していく。

オビを見ますと「ヒトラーの到来を予言した不思議な未来小説」とあるんですが、あんましそうは思えませんでした。なぜかといえば主人公らが敵対する「鉄の踵」には、特に突出して目立った指導者がいるわけではないので。アーネストたちが戦っているのは、「一人の独裁者とその多大勢」ではなく、「資本家階級全体」なのです。だからこれはファシズムに警鐘を鳴らした作品というよりは、格差社会を徹底して批判した小説のように思えます。
このポリシーは作者が若いころ、世界恐慌のあおりを食って、食うや食わずの暮らしをしていた経験から来ているようです。
そんなわけで、作品では堅苦しい政治論がえんえんと続くことになります。はっきり言って、あんまし面白くありません。
ジャックさんよ・・・ あんたはやっぱし動物とサバイバルを書いてた方がむいてると思うよ・・・

しかしまあ、エヴァハート夫妻が逮捕されて地下活動を余儀なくされるあたりからは、多少は興が乗ってきます。変装の名人で裏切り者には容赦ない「赤い乙女」アンナ・ロイストンや、彼女に惚れてレジスタンスに仲間入りする金持ちのボンボンのエピソードは、全体からすれば非常にちょびっとではありますが、強い印象を残します。
そして労働者と「鉄の踵」の戦いが頂点に達する最終章では、それまでおさえていた野性が暴発するかのように、血・暴力・死に満ち溢れた一大カタストロフへと発展していきます。
でもそうやってお話が盛り上がるのは、本当に最後の五分の一くらい 最初っからこの調子で飛ばしていけばよかったのになあ。

というわけで、この作品個人的にはそれほどおすすめできません。ロンドンさんの本来のワイルドなお仕事に関しては、この辺に書いてありますんで、どちらかといえばそちらの方を読んでいただきたい。
また「一応こっちも読んでみたい」という奇特な方は、オンライン等で探してみてください。一応まだ流通しているようです。

090608_172723今度は口直しに『ジャック・ロンドン放浪記』を読んでみる予定。こちらは「1995年5月20日初版第一刷」とありました。さっきのに比べると多少は新しいか・・・ もちろん紀○国屋でゲットしました。

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Comments

伍一さん
「イントゥザワイルド」はわたしも気に入ったので、この本のレビュー、興味深く読んでたら、、、
イマイチだったのね〜

最近は本読む暇あったら英語の本(勉強の)読まなきゃいけないので
読書どころではないmigです

それにしても1907年に出た本読んでる伍一さん、渋いなぁ〜!

Posted by: mig | June 08, 2009 10:32 PM

>migさま

こんばんは!
いやー、この記事、てっきりコメントつかないだろうと思ってたから、大変嬉しいです

>それにしても1907年に出た本読んでる伍一さん、渋いなぁ〜!

そりゃあもう、「ダンディズムとは何か」ってことを日々探求しておりますから
仮面ライダーやロボットアニメなんて、見たこともないですよ? あれ?

せっかく読んでくださったのに、肩透かしでごめんなさい
たぶんクリス君が影響受けたのは『野性の呼び声』とか『ジャック・ロンドン放浪記』のあたりだと思います
でもmigさんは今読書どころじゃないのね
英語の勉強中・・・ もしかして留学!?
行っちゃいや!
つД`)・゚・。・゚゚・*:.。

Posted by: SGA屋伍一 | June 09, 2009 07:02 PM

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Tracked on June 09, 2009 08:31 AM

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