無理を通せばドールも愛せる クレイグ・ギレスビー 『ラースと、その彼女』
首都圏より四ヶ月ほど遅れて上映。もう終っちゃいましたけどね。
舞台は雪深いアメリカの田舎町。心優しい青年のラースは、町の人々から愛されていましたが、彼は人肌に触れることを異常に恐れるという性癖がありました。
ある日彼はネットで見かけたダッチワイフに恋をしてしまい、購入した彼女を本物の人間と思うようになってしまいます。普通なら速攻で病院行きですが、田舎の人々は包容力豊かなので、町ぐるみで彼のお人形さんごっこにつきあってあげるのでした。
あらすじ読むと、どう考えたってバカ話なんですよね。だってエロ人形(作中の言葉より)を、マジメに人間の女と思い込んでしまう話なんですから。実際ラースがその人形「ビアンカ」を兄夫婦に紹介するシーンでは、笑いがこらえきれませんでした。
もの言わぬビアンカの顔が、またその場に独特の空気をかもしだしています。短編コメディ『オー! マイキー!』が好きだったわたしは、勝手に彼女のセリフを考えたりしていましたよ。
しかし意外や意外。いつしかラースの真剣な想いが奇跡を呼び、ビアンカに本物の魂が宿るようになる・・・・
というのはウソ。そんなマンガあったなあ。たしか楳図かずお先生の『ねがい』。
話が横道にそれました
この映画は笑えるだけでは終りません。物語が進むにつれ、ラースが人と触れることを恐れるのには、ある理由があったことがわかってきます。その心をときほどこうとする兄嫁カリンや、女医先生の暖かさは心にしみます。
またラースに対し、誰一人として「王様は裸だ」と言わない町の人々の優しさも胸をうちます。そうしていく内に、ラースだけにとどまらず、他の人々の中にもただのエロ人形のはずだった「ビアンカ」が、一個の人格として認められていく・・・・ まるで力石徹の葬儀のようです。
本当にまか不思議で、豊かな味わいのあるストーリー。
言うなれば、ラースは小さな花のような青年です。ぎゅっと握られたら、それだけでしおれてしまう。でもその素朴さゆえに、人々は彼を愛でずにはいられません。
そんなか弱い花も、周囲が水をやったり、日に当ててやったりすることで、いつしか丈夫になっていくものです。そして彼自身も、造花ではない、本物の花の美しさに気づくようになっていく・・・そんなお話かと。
当初わたしはこの映画を、てっきり東欧かどこかの作品かと思っておりました。いやあ、アメリカ人ってがさつで無神経でケンカっぱやい人たちばかりだと思ってたけど、こんなハートウォーミングで神経の細やかな映画も作れるんじゃないですか! 認識をあらためねばなりません。
少し前に『グラン・トリノ』を観たせいか、そちらといろいろ重なるものがあるようにも感じられました。つまり、少年が大人になるために必要だった存在が『グラン・トリノ』ではイーストウッドだったわけですが、こちらではビアンカだったというわけ。念のために言っておきますが、ラースくんの愛情はそれはもうピュアピュアなものなので、実際に可能とはいえ、人形とムニャムニャをしたりはしません。
だから特に印象に残ったのはラースと兄のこんな会話(うろ覚えですが)。
「兄さん、大人になるってどういうこと?」
「難しい質問だな。ある時、『自分は大人になった』ってなんとなく感じるものなのさ」
「それってセッ○スのこと?」
「それもあるけど・・・ 他にもいろいろなことが関係しているのさ」
・・・・本当に大人になるってどういうことなんでしょうかね(この年になってまだそんなことを言っているのか!)。
この映画や今までの経験からわたしが思うのは
他人のためにどれほど自分を殺せるかということ
他人の気持ち・痛みをどれほど深く推し量れるかということ
どういうことを言ったらこの人は傷つくか、ということをわきまえ、その上で言葉を発すること
傷ついた人のために、言葉だけではなく、そっとそばによりそってあげること
etcetc・・・・・
できてないことばっかりだな(苦笑)
ただ今の社会に、どれほどまともな大人がいるかといえば、これまた怪しいものであります。
あーあ。ちゃんとした大人になりたいでちゅ。ばぶー(痛
)


Comments
ハーイ。伍一さん
↓そうなんだ〜、そんなパンダキャラがあったとは★
わたし実はパンダラー(シャネラーではなく)なんですよ!(笑)
上海でもパンダのぬいぐるみに囲まれて写真撮りましたしね
なんて話はさておき。
オー! マイキー!は気になってたけど未だにみてません。
楳図の「ねがい」は短編映画の中で上映されたんですよ〜、2、3年前かな?
観ました??
楳図作品の映画化はどれもいまいちだけど、、、、
あ、正解の商品はいつか映画ブロガーの皆さんでお会いしたときお酒おごってもらいます(なんちゃって!)
あ、この映画のハナシしてなかった。。。
Posted by: mig | May 19, 2009 10:08 PM
>migさま
おはよーございます
migさんはパンダがお好きだったのですか。パンダーZ,まだ公式サイトがありましたよ
http://www.panda-z.net/index.html
オー! マイキーはyoutubeで検索するとぞろぞろ出てきますね。一話三分程度なので、ためしにご覧になっては
『ねがい』はたしか『漂流教室』最終巻のあまったページに載ってたんですよね。たしかお人形さんの名はモクメちゃん。いまから思えば、ほのぼのいい話だったなあ(そうか?)
映画は怖いから当然見てません(笑) そういや『漂流教室』の劇場版もかなり微妙でしたね・・・・
>正解の商品はいつか映画ブロガーの皆さんでお会いしたときお酒おごってもらいます(なんちゃって!)
で、ではそのような機会がありましたら是非におごらせていただきましょう・・・
でもドンペリとかは無理ですー
Posted by: SGA屋伍一 | May 20, 2009 07:18 AM
あはは、冗談ですよー
あ、伍一さんのもジョークか(笑)
じゃクリュッグで
Posted by: mig | May 20, 2009 10:03 AM
>migさま
自分はいつだって真剣です! 冗談なんていつもしか言いません!
で、「くりゅっぐ」ってなんだろ?
ダニエル・クレイグの親戚のようなものでしょうか? そういやこの映画の監督もクレイグなんとかだし・・・
今度最近のボンドみたいな男見つけたら、捕獲しときますね!
Posted by: SGA屋伍一 | May 20, 2009 06:04 PM
こんにちは。

TB&コメントありがとうございました。
この作品のレビューを書き終えて、余りにも自分の感想が冷たいことに愕然としたのは覚えているのですが。
作品のことは、そんなに心に残っていなかったりします・・・
都会と呼べるのはギリギリの生活圏ながらに、都会の冷たさに汚れちまったかも・・・
でもまぁ、感想は人それぞれですもんね
と、ここで頷いてもらえていると勝手に解釈しつつ。
この映画の話は、そんなになく。。。
でも、公開されて良かったですねん。
私も『オー!マイキー!』未見です。
時間があったらチェックしてみたいっす。
Posted by: となひょう | May 20, 2009 07:49 PM
>となひょうさま
おかえしありがとうございます
そうです三姉弟の真ん中です。そちらも覚えていてくださりありがとうございます
こういう風にやっと見られても首都圏の方々とは微妙な時差というか温度差が出てしまうのが、地方のつらいところですね・・・
もっとも『ラース』に関して言えば、となひょうさんは最初から冷めてらしたみたいですが
またちょくちょく時差コメントがあるかと思いますが、どうぞよろしくお願いします。あんまし覚えてない時は「あんまし覚えてません」とおっしゃってくださってかまいませんので~
ちなみに来月は『リリィ、はちみつ色の秘密』『ダイアナの選択』『フロスト×ニクソン』などがやってきます。『リリィ』『ダイアナ』はなんとかして見る予定ですが、となひょうさん一押しの『フロ・ニク』は余裕があったらかな
となひょうさんはそろそろバカンスでしたっけ。どうぞ楽しまれてきてください
Posted by: SGA屋伍一 | May 20, 2009 08:48 PM
こんにちは♪
この映画観た直後は、「えぇーそこで終わり
」って感じでポカンとしてしまって・・・
でも後からじわじわと、いい映画だったのかもしれないなぁーと思いました
SGAさんが挙げられている大人になるための条件、
自分にあてはめて考えてみると、やっぱり何一つできてないです。。。
まだまだ修行が足りんでちゅ!!
ところで最近ようやく、途中までしか観てなかった「龍騎」の続きを見始めました。(遅っ)
時間だけはいくらでもあるので、この調子で未見のライダーをどんどん見ていこうかなーと思ってます♪
Posted by: kenko | May 22, 2009 12:20 PM
>kenkoさま
おばんです。お返しありがとうございますー
わたしのラストシーンの感想は、「ラースくん、君変わり身はやすぎ・・・」でした
えー、でもしみじみいい映画だったと思います
kenkoさんは家庭を立派にささえておられる時点で、もう立派な大人だと思いまちゅ! ていうか30男がでちゅでちゅ言ってると、いい加減きもいでちゅね! ばぶー! ぴかちゅー!
>途中までしか観てなかった「龍騎」の続きを見始めました
それはすばらしい
『ディケイド』を見ながら、「やっぱしわしは『龍騎』が一番好きだったんじゃのう・・・」としみじみ感じ入っていたところでした・・・
16話あたりから登場する王蛇=浅倉というキャラがいるんですが、ダークサイド満載でkenkoさんの好みだと思うので、がんばって見続けてください~
Posted by: SGA屋伍一 | May 22, 2009 09:47 PM
こんにちは♪
龍騎、もう32話まで観たんですよ。早いでしょ
王蛇好き好きー♪あと、ごろーちゃんがちょっと好きです。
Posted by: kenko | May 23, 2009 01:11 PM
>kenkoさま
はやすぎでちゅ!
32話というと、ちょうどストーリーが停滞してるあたりでんな(笑)
その後は終わりまでほぼノンストップで突っ走るので、ご安心ください
あとできたらそのあたりで劇場版&テレビSPを観ておくことをおすすめします。それぞれエンドが異なるのですが、やっぱり本編でのエンドを一番最後に見て欲しいので
Posted by: SGA屋伍一 | May 23, 2009 08:23 PM
ラースを小さな花束にたとえたところは言いえて妙ですね。
ほんと誰しも他人の傷つきやすさに配慮しながら生活できたら
どんなにか,この世は暮らしやすくなるでしょうねー
わたしなんぞ,相手の傷つくツボを心得たうえで
わざとそこに塩をすりこむようなことをやってみたくなる時がありますねー
・・・いや,時と場合と相手によってですが。
・・・・なかなか大人にはなりきれないものです。
ほんと,この作品,ヨーロッパ,あるいはイギリスの作品っぽい香りがしました。
繊細で,地味なところ。
こういう作品もたまにはいいですねー
刺激の強い作品の合間に見て,癒されたいです。
Posted by: なな | May 23, 2009 08:54 PM
>ななさま
こんばんは。お返しありがとうございます
>ラースを小さな花束にたとえたところ
わたしだって下ネタばかりではなく、時にはリリカルになったりもするのですよ。うふふふふ
ナンバーワンになれなくてもいい。そのまま特別なオンリーワンなのです
たしか聖書には「自分にして欲しいことを、他の人にもするように」という言葉がありましたよね。ガンジーさんはこの言葉を全ての人があてはめるなら、争いはなくなるとかおっしゃったとか
ただこれをラースくんにあてはめる場合、ちょっと応用を利かせる必要がありますな・・・・
>相手の傷つくツボを心得たうえで
わざとそこに塩をすりこむようなことをやってみたくなる時がありますねー
女は・・・ 心の奥底に魔物を飼っているものなのね・・・・
(いい加減キモいですね)
うふふふふ
>この作品,ヨーロッパ,あるいはイギリスの作品っぽい香りがしました
アメリカ人だって、やればできるじゃん!と思いました
日本人だってできるはず?
Posted by: SGA屋伍一 | May 24, 2009 08:32 PM
こんにちは~♪
気になっていたこの映画、レンタルで観ました~
いや~~~いい映画でした。一生懸命ビアンカに話しかけるラースを見ても、戸惑いながらラースとビアンカに接する兄夫婦を見ても、街の人々を見ても、、、涙が出ました。
>ラースは小さな花のような青年です。ぎゅっと握られたら、それだけでしおれてしまう。でもその素朴さゆえに、人々は彼を愛でずにはいられません。・・・・・・・
ううう・・・SGA屋さんのこの表現いいわ~
すごくピッタリしっくりきます。
ユニークな発想ではじまったお話が、こんな温かなお話になるなんて、、、アメリカ人も侮れないわん(笑)
Posted by: 由香 | November 06, 2009 09:42 AM
>由香さま
こんばんは! いらっっしゃいまし~ん
この映画見たのはたしかゴールデンウィークのころだったかな。それからもう半年・・・ 時の経つのは早いものです
わたしもっとゲラゲラ笑える話かと思ってたんですけどねー 思いのほかしみじみとしたハートウォーミング・ストーリーでした
いまでもよく覚えているのは、カリンのあったかさと、先生の思慮深さ。どちらもラースが一皮向ける上で大切なものだったのでしょうね。同じ歳ごろの可愛い女の子も(笑)
>ううう・・・SGA屋さんのこの表現いいわ~
ありがとうございます
最近ついつい下ネタに走りがちなんで、こういうポエマーな精神を忘れないようにしないと
ま、本当に周りの傷つきやすい人には、それこそお花を扱うように接していきたいものです
Posted by: SGA屋伍一 | November 06, 2009 08:20 PM