超能力カカシ 伊坂幸太郎 『オーデュボンの祈り』
『フィッシュ・ストーリー』につづき、『重力ピエロ』『ラッシュライフ』と映画化が続く伊坂幸太郎。本日はその記念すべきデビュー作である『オーデュボンの祈り』を紹介します。
会社をやめ、人生になげやりになっていた伊藤は、ある日コンビニ強盗を試みるが、あっけなく警察に捕まってしまう。それでもなんとかパトカーから逃げ出した伊藤を助けたのは、轟という男だった。彼は伊藤を自分の住む島へと連れて行く。驚くべきことに、その島はほとんど外界との関わりを持たぬ鎖国政策をとっていた。そしてさらに驚くべきことに、その島には人語を話し将来を見通す力を持ったカカシが存在していた・・・・
・・・・・えー、このお話を楽しむには、まず三つの壁を乗り越えなければなりません。
一つ目はまず主人公の伊藤くんに感情移入できるかということ。仕事をやめすべてがどうでもよくなってしまった。そこまではわかります。しかしそのあと金がほしいわけでもないのに、なぜコンビニ強盗などしてしまうのか。一応それらしい理由も書いてありますが、なんとも理解しづらく、つかみどころのない男です。まあ彼に関しては、読んでいくうちに次第になじんでくるのでとりあえずちょっとガマンしてみてください。
難しいのは二つ目の壁から。なぜ日本近海に鎖国の島が存在できるのか。海図のあやふやな江戸時代ならともかく、現代は上空に人工衛星がびゅんびゅんとびかっている時代です。それなのになぜこの島は世界各国から発見されないのか? まあ百歩ゆずって、「あるもんは仕方がない」ということにいたしましょう。
そして一番高い三つ目の壁は、人語をしゃべり予言をするカカシが出てくるということ。人語をしゃべるカカシ・・・・ わたしは『伝染るんです』に出てきたロベールを思い出しましたよ・・・・ 平助さんのいくじなし!
まあ事実は小説よりも奇なりと申します。世界のどこかに、もしかしたら日本語を話すカカシがいてもおかしくはないかもしれません(←おかしーよ)
思えばイサコーを長い間敬遠していたのは、Zくんから「カカシがしゃべるような話を書く人」と聞いていたからでした。その瞬間、わたしは『伝染るんです』みたいなとりとめもないわけのわからん作風の人なんだなーと思いこんでしまったのでした。あれ? あたらずも遠からず?
それでもなんとかこの三つの壁を乗り越えられたやわらか頭のあなた。そこから先は存分にこの奇妙な世界を楽しむことができるでしょう。
まず島の住民が、どいつもこいつも風変わりで面白い。伊藤のガイド役を務める陽気な青年日比野、外界とのただ一人の連絡役である熊男轟、反対のことしか言わない画家の園山、巨体ゆえ市場から動くことが出来ないウサギさん(人間です)、足は悪いが鳥に関しては異常に詳しい田中などなど
そしてなかでも出色なのが、美しさと恐ろしさを併せ持つ桜という青年。なんと彼はこの島において唯一公的に「殺人」を許されています。彼は悪行を犯したものしか手にかけないため、島の住人は誰か殺されたとしても「ああ、桜か」と、まるでその「処刑」を台風か地震の同類のようなものとみなします。日本国の法律の通用しないイレギュラーな世界だからこそ、存在しうるキャラクターといえます。
そんな風にヘンテコな島の住人と触れ合った後、伊藤はとうとうしゃべるカカシと相対します。なんとかその存在を受け入れたのもつかの間、今度はそのカカシが殺されてしまいます。あれ? ちょっと待てよ? カカシって死ぬのか? ・・・・・きっと死ぬんですよ。ウン。
将来を見通すことができるカカシは、なぜそれを避けることができなかったのか。そしてカカシを殺したのは一体誰なのか・・・・
意外に思われるかもしれませんが、この謎解きの部分はなかなか論理的でよくできています。そしていったいどこへ転がっていくのかわからないストーリーの行方。大変エキサイティングで、わたしは約二日で読み終わってしまいました。
デビュー作にはその作家の全てがあるといいますが、デビュー作が一番ぶっとんでるというか、ふっきれているというのはある意味すごい(笑) 伊坂作品にはも超能力者や死神が出てくるものもありますが、この『オーデュポン』の設定が一番あほらしいです。
毒にも薬にもならず、クールなようで暖かい作風は、すでにこのころから確立されています。やはりイサコー氏を語る上ではずせない一冊。
しゃくだけど伊坂作品にはまっているこのごろ。次回は映画がまもなく公開される『重力ピエロ』に挑んでみようかなー 買ったのに読んでない本、まだまだ腐るほどあるけど
Comments
おはようございます!
日曜の朝っぱらからお邪魔します
昨晩キャシャーンを観ました
・・・・・・チョイ意味不明だったけど(汗)、やっぱりGOEMONに通じるものがありますね~感想はどうしようかな~
ところでコチラ。

不思議な話でしたよね~でも結構好きかな
『毒にも薬にもならず、クールなようで暖かい作風』
そうそう(笑)そんな感じですよね~伊坂さんて。
最近読んでいませんが、、、というのも世間の絶賛を受けたゴールデン・スランバーがイマイチだったので、そこでストップしちゃったの。何でダメだったのかなぁ~もう一度読もうかなぁ~と悩み中です。
重力ピエロは面白いですよ~1番最初に読んだ伊坂作品なのでインパクト大でした。機会があれば是非ご一読を
Posted by: 由香 | May 17, 2009 07:07 AM
>由香さま
一日遅れでおはようございます。すいません・・・
マイ・ジャパニーズ・ベスト・ムービー拝見してくださり、ありがとうございます~ そちらでのレスを拝見したところ感想も書いていただけるそうで、感謝感激アメアラレです。ユキャーンがやらねば誰がやる!(敬称略)
伊坂さんって時々恐ろしくなるほどに人間の「黒さ」もお書きになるけれど(この小説でいうと城山とか)、最後はさわやかにしめてくれるのがいいですよね
『ゴールデンス・ランバー』は昨年の『このミステリーがすごい!』で確か1位になったんでしたっけ。でもこの本を貸してくれたZくんも「イマイチだった」とゆうてはりました
『重力ピエロ』は一昨日買って来ました。ク○ッセのツタヤで(笑)
レビューはいつになるかわかりませんが、気長にお待ちください~
Posted by: SGA屋伍一 | May 18, 2009 07:55 AM