誰が時計を見張るのか? アラン・ムーア 『ウォッチメン』(原作)
本日は「アメコミの最高傑作」と言われ、来月映画も公開予定の『ウォッチメン』を紹介いたします。
時は冷戦真っ只中の80年代。かつてアメリカには「スーパーヒーロー」と呼ばれる者たちが存在していた。
ワイルドな物言いと振る舞いで世間の注目を集める「コメディアン」
様々な発明品を駆使する「ナイトオウル」
超頭脳と巨万の富を有する「オジマンディアス」
素早い身のこなしの女戦士「シルク・スペクター」
過激な制裁で恐れられる一匹狼「ロールシャッハ」
そして核実験により神にも等しき力を手に入れた「DR.マンハッタン」
政府はある年、その活動が官憲の職権を侵害するという理由から、ヒーローたちに引退を勧告する。おとなしくその指示に従うもの、政府のエージェントとなるもの、あくまで己の正義を貫こうとするもの・・・・
ヒーローたちがそれぞれの道を選んで数年経ったある時、彼らの一人が何者かにより殺害される。その背後には巨大な陰謀がうごめいていた。
1986年に発表されたこの作品は、同年の『ダークナイト・リターンズ』と並んでコミック界に大きなセンセーションを巻き起こしました。それまでは限りなく一枚岩に近かった政府と正義とヒーロー。しかしこの作品は「官憲にとってヒーローたちは異分子でしかない」ということや、「政府は正義ではない」ということをはっきりと見せつけました。
それまでも同種のテーマを訴えた野心的な作品はありましたが、ここまであからさまにそれを主張したものはなかったと思います。昨年話題を呼んだ映画『ダークナイト』やピクサーの傑作『Mr.インクレディブル』も、明らかに『ウォッチメン』の影響下にある作品です。
この作品の登場以降、アメコミでも単純な勧善懲悪ものはなかなかウケなくなります。逆に「正義とは何か?」「何のために戦うのか?」といった重厚なテーマが扱われることが多くなります。
ですからこの『ウォッチメン』の登場は、まさにアメコミ史のターニング・ポイントということができます。
日本で似た位置の作品と言うと永井豪の『デビルマン』でしょうか。あのマンガ以降、少年誌では変身ヒーローものはほぼ絶滅近くにまでおいやられました。それは『デビルマン』が人間の悪しき面をまざまざと描き出し、「人類なんて守る必要ないよ」ということを証明してしまったからでありますが。
もっともアメコミはヒーローものがほとんどを占めるため、作家たちはあくまでこのジャンルの中で、もがき続けることとなります。
前にも書きましたが、わたしはムーアのこの厭世的な雰囲気があまり好きではなかったりします。しかし彼のつむぐ文章の豊穣さ、そして「世界を想像する力」は認めざるをえません。
たとえばこのコミックはぜんぶで12章からなっているのですが、わたしの持ってるメディア・ワークス版ではその合間に作品や登場人物を説明する多くのテキストが挿入されています。
ヒーローが書いた自伝、架空のコミックの評論、雑誌記事、キャラクターの診断書etc・・・・
こうした話を補足する数々の資料が、作品世界に厚みを持たせております。そしてなかなか類を見ないこうした本作りが単純に面白かったりします。
この世界に魅せられた多くのクリエイターたちが、これまで何度も映画化を試みてきました。その中には『未来世紀ブラジル』のテリー・ギリアムも含まれます。
ところがこの作品何かに呪われているのか(笑)、企画が上がっては流れ、上がっては流れ・・・ということが20年近く繰り返されて来ました。
それがとうとう『300』監督ザック・スナイダーとワーナー・ブラザーズの手により、今年とうとう実現するか・・・ と思いきや、今度は20世紀フォックスが「映画化の権利はオレたちにある」と主張し始め、前代未聞の法廷劇へと突入してしまいました。本当に呪われてるとしか思えません。
幸い裁判はひとまず決着し、いまのところ無事来月公開される予定です。でもなんせそういう作品なもんで、公開までどんなアクシデントに見舞われるのかまったく予想がつきません。
邦訳本は98年にメディア・ワークスで出されて以来、長らく入手困難になっていましたが、このたび小学館集英社プロダクションよりめだたく再発行されることが決まりました。
ああ・・・ オレのMW版、アマゾンで三万円の値が付いていたのに・・・・
←そのMW版。
ちなみに映画は原作とはラストが異なるという話。なんか納得。このラストをそのまま映像化しちゃうのはやっぱ無理があるよな~ 読めばわかります(笑)
Comments
アメコミ検索でこちらをおたずねします。
「ウオッチメン」自分も持ってます。
兄にこの本の意味をわかっているのかと言われて
今でも大事に持ってます。まさか今になって復刊するとは?
間違った世界統一が「ウオッチメン」にある。
他の記事も見せてもらいます。
Posted by: notyou | February 16, 2009 01:41 AM
>notoyouさま
はじめまして
ご来訪ありがとうございます
そういえばわたしも「この本を持ってる」という人に会ったことがありません
確か出た当時はまだ『スポーン』人気が残ってたころでしたね
さらに多くの人が読めると思えば復刊は喜ぶべきことなんでしょうけど、MW版よりちょっと安くなってるところが悔しいです(笑)
冷戦がなくなった今も、内容的に古びていないところが驚きです
>他の記事も見せてもらいます
大変嬉しいです。ありがとうございます
ただnotyouさんのブログも読ませていただきましたが、わたしなんかよりよほどアメコミにお詳しい。恐縮しちゃいますね
Posted by: SGA屋伍一 | February 16, 2009 07:50 AM
こんばんは!
映画の公開は3月8日でしたっけ?
今からめちゃめちゃ楽しみです♪
ローリーが好きー
原作本、再発行されるんですね。買ってみようかな。
最近またもやブログの更新が滞ってますが
そのうち復活します~
Posted by: kenko | February 17, 2009 07:19 PM
>kenkoさま
こんばんは
日本での公開は28日からみたいです
果たして何事もなく無事公開されるのでしょうか?ドキドキ
自分もローリーが一番感情移入できたかな
ちょっと右翼がかってますけどね、このひと(笑)
ここんとこ忙しかったのでしょうか? 復活お待ちしております!
Posted by: SGA屋伍一 | February 17, 2009 09:46 PM
ゴイチカプリコ殿♪
ちょこっとだけ。
下のコメントレスの伍一さんかわいい
ばれんたいんのイチゴカプリコお味はどうでした?(笑)
ウォッチメン、伍一さん的にもやはりお勧め?
このあいだ渋谷蔦谷の前でこれのニコちゃんに血ついたカンバッチもらいましたyo
Posted by: mig | February 19, 2009 05:33 PM
>migさま
具合悪いのにコメントどうもありがとおお



カプリコは・・・うまかったけど甘かった(当たり前か)
ぶっちゃけそろそろ血糖値とか心配なお年頃です
『ウォッチメン』はやっぱしアメコミファンとしてははずせませんよ~
なんせ二十年越しですからね。二十年越し!
わたしも血糊付きカンバッジ欲しいなあ。今度渋谷行ってもらってこよ!
Posted by: SGA屋伍一 | February 20, 2009 08:30 AM