走れ不正直者 リドリー・スコット 『ワールド・オブ・ライズ』
そろそろ公開最終週でしょうか。監督リドリー・スコット、主演レオナルド・ディカプリオの「手堅いコンビ」が贈る、中東を舞台にした諜報戦スリラーです。
今回のデカプリコはCIAきっての釣り名人。狙った獲物はだいたい逃がさない。今狙っているのは、中東のテロ組織の親玉アル・サリーム。情報を集め、策を巡らし、ターゲットに迫るカプリコ。だが獲物が近づいたその途端、育児の片手間に仕事している上司がやってきて、「いいからよこせよ」と釣竿をひったくってしまう。そして獲物を逃がす。
おまけにこの上司のマナーが最悪なため、カプリコまで漁場から入場禁止を食らってしまう。果たしてカプリコはお荷物な上司の妨害をくぐりぬけて、ターゲットを捕まえることができるのでしょうか?
・・・・・
えーとね。
『アメ・ギャン』の記事でも書きましたが、リドリー氏はわずかな例外を除けば、基本的には「男の戦い」そして「痛みの伝わる暴力」を描く方だと思います。が、共通点というと本当にそれくらいで、かなり作品によってばらつきのあるひと。燃えたぎるような感情が伝わってくる作品もあれば、徹底してクールな作品もある。ロマンスがかなり重要な作品もあれば、全く出てこない作品もある。
その辺、わたしには長年の疑問だったのですが、最近あるインタビューを読んで疑問が解けた気がしました。
「『エイリアン』『ブレードランナー』のころは全て自分でやろうとしてかなり消耗した。だからそれ以降はかなり人に任せるようにしている」
そうか・・・ ばらつきがあるのは「人任せ」のせいだったのか! たぶんストーリーはほとんど脚本家の書いた通りに作って、暴力描写だけ気合込めて撮ってるんじゃないかと。・・・ま、あくまで勝手な想像ですけど。
この作品はこれといって目新しいところが見つけられなくて、鑑賞を迷っておりました。カプリコが諜報活動って『ディパーテッド』みたいだし、中東との対テロ戦は『キングダム 見えざる敵』を思い出させるし。でっぷり太ってやさぐれたラッセル・クロウは、『アメリカン・ギャングスター』での役となんかかぶってるし。そういや最近リドリンとラッシーってやけに仲いいですよね。できてるのか?
でもまあ結局見ました さすがはベテランと芸達者。それなりにしっかりしていて、楽しめる作りになっておりました。単なる娯楽作品だけにとどまらず、社会に向けてちゃんとしたメッセージも発していますしね。
強いて目新しい点をひとつあげるとするなら、カプリコ演じる主人公がやけに親中東派である、ということ。向こうの人にも敬意を払い、親しく接し、「ここに住んでもいいかな」なんて言う。
彼みたいなアメリカ人というのはどっちかっていや少数派だと思うんですよね。実際ラッセル・クロウ演じる上司は向こうの人の命なんて屁とも思ってませんし、先に述べた『キングダム』の主人公も、ついノリで「ヤツラを皆殺しにしてやる」なんて言っちゃってましたし。
カプリコがそんな風に思うようになった理由は、はっきりと語られませんでした。恐らくそれは先の説と矛盾するようですが、リドリー監督の心情が反映されているような気がいたします。
リドリンは2001年に『ブラック・ホーク・ダウン』を中東で撮影した際、現地の人々と接していて、彼らに大いに親しみを感じたそうです。が、その公開の直前、9.11事件が勃発。アメリカと中東の関係は最悪なものとなります。
リドリー氏はそれを痛んで、2005年に『キングダム・オブ・ヘブン』を制作。アラブの人も欧米の人も同じ人間であることを訴えました。それと同じテーマが、今回でも語られていたと思います。
たぶんアカプルコ演じる主人公も、現地で生活し、共に接していくうちに中東の人々の素朴で純粋な気風に魅かれるようになったんじゃないでしょうか。なんにしても実際に接してみないとわからないものです。まあわたしも向こうの人の知り合いとかいるわけじゃないので、本当にそうなのかはわかりませんけどね
ジャイアントカプリコについても少し。最近神経をすり減らしたり、ウソばかりついてるような役が多い彼ですが、その演技には鬼気迫るものがあります。わたしにとってもてる男はすべて敵ですが、そうした頑張りぶりをみているとコイツは認めてやってもいいかな、という気がしました。
あと「認めてやる」(←偉そうだな)と思った理由はもう一つ。それは彼が筋金入りのオタクくんだからです。
「空港に降りた途端にライディーンとメカブトンを買っていった」とか、「コミコンにさっそうと現れてデビルマン限定フィギュアをゲットしていった」とかその手の話題には事欠かない彼。先日日本のコミック『AKIRA』と、アニメ『獣兵衛忍風帖』の制作を発表しました。『AKIRA』はともかく『獣兵衛忍風帖』って・・・ そんなマイナーな作品、オレでさえ見たことないぞ!?
『AKIRA』に関しては「彼が主人公の金田を演じるのか?」という噂がありましたが、「自分は本当に納得のいくものが作りたいので、制作に徹して主演はしない」と明言しておりました。うん、なかなかわかってるじゃないか。
オタク同士がわかりあうように、人類すべてがわかりあえる時代が、早く来ればよいのですが。
Comments
伍一さん★
こんばんは〜!
そうそう、人間、正直がいちばんですよねっ
レオくんは渋い役でもハマるようになりました★
レボリューショナリーロードでの演技も良かったです。
リドリースコットは昔の作品の方が好きだったなー
そうか、最近のは「人任せ」だからなんだ〜!
(笑)
そうそう、関係ないけどわたしジャイアントカプリコのイチゴが大好きでいまだにたまに食べてます
えへへ
Posted by: mig | January 26, 2009 05:56 PM
>migさま
こんばんは! さっそくお出でくださりありがとうございます!
migさんはまだ札幌でしょうか?
『レボリューショナリー・ロード』はもとから見る気なかったんですが、みんさんの「見てて疲れた」「最後ショックだった」という感想を読んで、ますます見る気がなくなりました(笑)
本当にレオくんも苦労の多い役ばかりで。ここらでコメディに挑戦してもいいんじゃないかなーと(笑)
>リドリースコットは昔の作品の方が好きだったなー
やっぱし彼の作品で一番ファンが多いのは『エイリアン』『ブレードランナー』ですもんね。自分は『グラディエイター』が一番好きだけど
ジャイアントカプリコ・・・・ そういや最近食べてないや。なんか急速に食べたくなってきました
Posted by: SGA屋伍一 | January 26, 2009 09:41 PM
こんばんは♪
遠い昔、、、カプリコの写真集を眺めて、頬を桃色に染めていたものですが、、、先日この映画を観ながら何度もウトウト寝ちゃいそうになりました(汗)
そしてレボリューショナリー~では、「やっぱりポッチャリしている」と、そんなところばかりが気になって気になって
ところで、『異邦の騎士』を読みました~♪
一気に読んじゃった。
占星術~とは全然違う感じでした~面白かったです。
感想を書くかどうか分かりませんので(汗)、とりあえずご報告に上がりました
Posted by: 由香 | January 26, 2009 10:43 PM
こんばんは!
リドリー監督の,男の戦いも暴力も出てこない「わずかの例外作品」って
「プロヴァンスの贈りもの」とかですよね~。あ,あれもラッセル主演だけど。
リドリーの作品,特に「キングダム・オブ~」は親中東思想を感じますよね。←この作品大好き。
暴力はいかにも痛そうに描くのが上手いですし
どこかで「彼は指フェチで,指を潰したり叩き切ったりする作品が多い」と書いてるのを読んだことあります。
と・・・倒錯的!
この作品でもレオの指がすごいことになってましたね~。
Posted by: なな | January 26, 2009 10:58 PM
>由香さま
おはようございます!
お具合が悪かったのにお見舞いにも行かずすいません
(ってゆーか家知らないけど・笑)
実は昨日も『慰めの報酬』を観に、お近くを車で通り過ぎたんでございますのよ~
由香さん・・・ カプリコの写真集持ってたんだ(笑) やはり『タイタニック』で好きになったんでしょうか。あの映画はわたしも今はなきオリオン座で二回見たっけなあ
>「やっぱりポッチャリしている」と、そんなところばかりが気になって気になって
それはあなたが少女から大人の女性になったってことじゃないかしら? アンハン?
>『異邦の騎士』を読みました~♪
>占星術~とは全然違う感じでした~面白かったです。
おお! また楽しんでいただけて嬉しいです。ちょっと筋立てが強引な気がしますけど、なんとも切なく、だけどあったけえお話ですよね
一番よく覚えてるのは御手洗さんの「これが砂糖です!」(笑)
>感想を書くかどうか分かりませんので(汗)
レビュー読みたいですけど、由香さんもお忙しいですもんね。また島田作品読まれたら教えてください
Posted by: SGA屋伍一 | January 27, 2009 07:18 AM
>ななさま
おはようございます
ご返信ありがとうございます
>男の戦いも暴力も出てこない「わずかの例外作品」って
「プロヴァンスの贈りもの」とかですよね~
そうそう。まさにそれです。それくらいしか思いつかない。ちなみにわたし未見です
あ、そういえば『エイリアン』は「男の戦い」じゃなくて「女の戦い」の話でした。でもリプリーって半ば男みたいなもんだし
>「キングダム・オブ~」
わたしも好きです。みんなからさくっと忘れられちゃったような気はしますけど
あの作品も、欧米人より中東の人の方が懐が広く描かれてましたよね。サラディン、かっこよかったなー
>「彼は指フェチで,指を潰したり叩き切ったりする作品が多い」
ぎょえ
一回自分でやってみたらいいんじゃないかな・・・
ただ「指つぶし」は前にメル・ギブソンの『ペイバック』でも見たことがあったんで、それほどショックではありませんでした。最近特に痛かったのは『パンズ・ラビリンス』と『ラストキング・オブ・スコットランド』・・・
Posted by: SGA屋伍一 | January 27, 2009 07:26 AM