帰ってきた地獄くん ギレルモ・デル・トロ 『ヘルボーイ ゴールデン・アーミー』
まずはさらっと前作のあらすじから。
第二次大戦末期、ナチスは戦局打開のために、魔界から怪物の子供を呼び出した。「ヘルボーイ」と名づけられた彼は心優しき科学者に育てられたため、いい年こいて恋にモジモジしてしまうような恥ずかしいオッサンに成長してしまう。なんとか告白に成功し、ついでに魔界の王位継承問題にもひとまずケリをつけたへルボーイ。彼にさらなる冒険が待ち受けていた・・・
いやあ、ギレルモ・デル・トロはすごいですね。『ブレイド2』『ヘルボーイ』ときて『パンズ・ラビリンス』のような作品を撮れるところがすごい。そしてまた『ヘルボーイ』に戻ってきてしまうところがさらにすごい(笑)
今回はヘルボの出自とかはあんまり関係なく、公害問題に憤ったエルフの王子様が、かつて人間を滅ぼしかけた不滅のからくり軍団を復活させようとする、というストーリー。当然ヘルボはその野望を食い止めるべく奮闘するのですが、王子から「お前は我々の側の存在なんだから味方になれよ」と言われて、ちょっと悩んじゃったりするわけです。またそれとは別に恋人のリズが抱えているある秘密も、ヘルボにプレッシャーをかけます。
本当は原作のヘルボーイは色恋のことなんかに全然興味のない、実にストイックなキャラクターでありまして。そのヘルボさんが「彼女がなんか怒っててボクどうしたらいいんだろう」なんて言ってるのには、正直違和感をぬぐえなかったりします。でも「ごつい顔してるわりにそういうところがカワイイじゃない」という女性ファンもおられるようなので、まあよしとしましょう。
それにどっちにせよ、主人公の葛藤とかはあんまし印象に残りません。なぜかといえばそれはもう画面がにぎやかすぎて、お話にあまり注意が行かないからです。
とにかく背景、小道具、クリーチャーがいちいちよく作りこまれていて。ギレルモさんにせよ、ミニョーラさんにせよ、「なにもここまでやらくてもいいのに」と思ってしまうくらいです。でもやっちゃう(笑) そんな「絵描きバカ」のスピリットがビンビン感じられて、こちらもバカ面白かったです。
そしてヘルボーイの仲間たちがまた面白い。前作から引き続き登場のおっとり系半魚人エイブ。同じく前作にも出ていたヘルボの恋人リズ。ちょっと頭に来ると周囲のものを片っ端からパイロキネシスで燃やしてしまうという、危険極まりないヒロインです。
さらに本作から登場のオリジナルキャラ、ヨハン・クラウス。地球上なのにいつも宇宙服を着ているキャラクターなんですが、顔があるべき部分にはなんとただ蒸気がもわもわ漂っているだけ。本当にお前ら、どうしてこうそろいもそろってキャラ立ちまくりなんだと。
その上メイン・脇役に関係なく、誰かが画面の中でひっきりなしにネタをやっているので、まっこと油断なりません。
そんなわけで全体的にうっかりちゃっかした内容。作り手もそんなに深い意味は込めてないだろう・・・・と思いきや、監督のギレルモ氏は「『ヘルボーイ』には僕の自伝的側面がある」なんて語っていたりします。なんですとー!
あんた、やっぱり魔界の出身だったのか! ・・・いや、もちろんそういう意味ではなく。
一作目でのヘルボと育ての親との死別。そのシーンには97年、ギレルモ氏の父親が誘拐された時の心情が反映されているとのこと。まあ氏のお父さんは無事帰ってきたそうですけど。あれ?
そして今回のストーリーには、「自分が父になると知った際の戸惑い」をそのままヘルボに再現させているそうです。ほかにも知人が見ればすぐに「ああ、あの時のあれか」とわかるようなセリフが多くあるとか。ギレルモさん、あんたやっぱし、ちょっと変わってるよ。
えー、なんかうまく書けてないですけど、とにかくこの映画面白かったです! 少なくともこんなに絵作りの点で豪華な作品はそうないでしょう。
原作については前にちょこっと書いたことがありましたが、あれからまた新刊も幾つか出たので、新たにリスト書いておきます。
第一長編 『破滅の種子』
第二長編 『魔神覚醒』
(以上小学館プロダクションより)
第三長編 『妖祖召還』
第四長編 『人外魔境』
第五長編 『闇が来る』
(以上JIVEより)
第一短編集 『縛られた棺』
第二短編集 『滅びの右手』
(以上小学館プロダクションより)
第三短編集 『プラハの吸血鬼』
(JIVEより)
特別編 『バットマン/ヘルボーイ/スターマン』
(小学館プロダクションより)
第一、第二短編集、お呼び特別編以外は、現在すべてオンラインより入手できます。
映画とはまた違ったシックな味わいな『ヘルボーイ』も、どうぞご覧になってみてください。
とりあえずは第一長編『破滅の種子』からどうぞ。
Comments
こんにちは!
いや~キャラクターがとても魅力的でしたね。
SGA屋伍一さんのオススメからも、絶対に見なくちゃとは思ってましたが、これほど楽しめるとは思っていませんでした♪拾いものです(^^)
ギレルモさんの今後のスケジュールはいっぱいとのことで、さらなる続編がいつになるかはわかりませんが、楽しみに待ちたいと思います!
Posted by: たいむ | January 21, 2009 11:34 PM
こんばんは♪
ヘルボを観たあと、むしょうにパンズラが観たくなりDVDで観たんですが

やっぱり素晴らしかった
コメンタリーではデルトロがたった一人で
2時間しゃべくりたおしてました(笑)
パンズラみたいな映画でせっかく有名になっても、
ちゃんとヘルボとかやってくれるところがデルトロのいいところ
早く「永遠のこどもたち」が観たいんだけど、こちらに来るのは
2月下旬くらいになりそうです。。。
>メイン・脇役に関係なく、誰かが画面の中でひっきりなしにネタをやっている
そうそう(笑)
ほんっとにちょっとした脇キャラにいたるまで、おもしろすぎました。
デルトロさんの頭の中では、常にああいうおもしろキャラたちが
ネタを繰り広げているんでしょうか。
Posted by: kenko | January 22, 2009 12:01 AM
>たいむさま
おはようございます
わたしが推薦したの覚えていただいて、大変嬉しいです!
このいかにもB級チックなタイトルからチープな作りを連想して、スルーしちゃうひといっぱいいる気がします。もったいねー
すでに三作目も決定した・・・という噂もちらりと聞きました。ギレルモさんが当分『ホビットの冒険』二部作にかかりきりのことを考えると、次の監督は別の人になってしまうような気が・・・・
それはイヤンと思いつつも、続きが早く見たくもあり
Posted by: SGA屋伍一 | January 22, 2009 07:19 AM
>kenkoさま
おはようございます
>コメンタリーではデルトロがたった一人で
2時間しゃべくりたおしてました(笑)
すげー(笑) 大学の先生にむいてそうな気がします。このひと
>パンズラみたいな映画でせっかく有名になっても、
ちゃんとヘルボとかやってくれるところがデルトロのいいところ
アーティストとして認められたくて、過去の作品を封印してしまう人もいっぱいいますからねー kenkoさん、『殺人魚フライングキラー』って知ってるかな。ジェー○ズ・キャ○ロンのデビュー作なんだけど、彼は「なかったもの」としたいらしいです(笑)
ちなみに『永遠のこどもたち』は芸術作品といっていい出来栄えでした
>ネタ
特に好きなのは空気さんがヘルボーイをノックアウトするシーンですかね
あと怒りの収まらないリズが本部で燃えてたりとか、エイブが特殊なスコープでヘルボを見たら「あら?」というシーンとか(以下えんえんとつづく)
Posted by: SGA屋伍一 | January 22, 2009 07:27 AM
基本的に、作り手たるデル・トロがこういうのが大好きというのがビンビンに伝わってくる作品でした。
細かい突っ込みどころは多いのですが、やはり愛の大きさに納得させられてしまいます。
愛すべき地獄くん「3」も期待してしまいますね~。
Posted by: ノラネコ | January 24, 2009 12:19 AM
>ノラネコさま
ご来訪ありがとうございます
監督があんまり趣味に突っ走ると、時々観客は置いてけぼりになったりするものですが、こちらは趣味に走りつつも立派なエンターテイメントになっていましたね
『パンズ・ラビリンス』のような作品も大いにけっこうですけど、ギレルモ氏には基本的にはこの路線を歩み続けていってほしいものです
Posted by: SGA屋伍一 | January 24, 2009 07:32 AM
コメントありがとうございました!
ヨハン・クラウスのイラスト ナイスです
蒸気吹いている感じが最高です!
でコチラの作品、脚本的には「ん?」というところもあるのですが、キャラクターがとにかくよくそれだけで満足させてしまうところありましたよね(^^)
ギルレモさん 今一番勢いというか 脂がのった監督さんに思えるのは私だけかしら?
これからの作品がますます楽しみですよね!
Posted by: コブタです | January 24, 2009 10:06 PM
>コブタさま
ご来訪ありがとうございます!
イラストもほめてくださりありがとうございます。冬場は空焚きにご注意を!
>脚本的には「ん?」というところもあるのですが、キャラクターがとにかくよくそれだけで満足させてしまうところありましたよね(^^)
最後にエルフのお姫様が○○してしまいましたが、「最初っからそうしときゃよかったんじゃね?」と思わないでもないでした(笑) でも実際にそうしてたら数々のネタも空気教授も観られなかったわけで。そこはそっと見ないフリ・・・・というか思わないフリ
ギレルモさんは自分の作品も活発にやってますが、他の人を応援するのも好きみたいですね。こないだもどっかの自主制作フィルムを「出来がいいから」ということで、お金出して仕上げてあげたそうです。『ホビットの冒険』が遅れない程度にそっちの活動もがんばってほしいですね!
Posted by: SGA屋伍一 | January 25, 2009 07:04 PM
こんばんは~、SGAさん
おや!ノリノリだったんですね。
SGAさんは、原作も大好きですもんね~☆
しかし、原作好きの人には、結構厳しい意見の人も居るみたい。ですが、SGAさんはそんなことなく、楽しめたんですね。
私は、エルフ族の相続争いのところとか、結構ジックリ見たかった気がするんですよね・・・。
原作ではその辺、どうなってるんでしょ?
Posted by: とらねこ | January 26, 2009 01:01 AM
>とらねこさま
再びご来訪ありがとうございます
もう~最初の人形アニメ?のあたりからノリノリでした。今年はこれを越える映画に幾つ出会えるか・・・って感じですね
>SGAさんはそんなことなく、楽しめたんですね。
わたしは前作でヘルボさんが恋煩いをしてる時点で、「もうこれは別バージョンだな」と割り切ってましたから(笑)
今回のお話は映画の完全新規オリジナルなので、あのエルフのご一家は原作には登場してないんですよ。ただ、人間の繁栄を快く思ってないエルフの王様みたいのは短編で出てきました。あんなかっこいいルックスではなく、変わったお坊さんみたいないでたちで
やることも人類殲滅とかではなく、その辺の赤ん坊をさらってきたりとか
せこい(笑)
Posted by: SGA屋伍一 | January 26, 2009 08:32 AM
へるー
え?原作には、リズとの色恋は描かれていないんですか?
それともテンションが違うだけ??
基本的に私は、映画は映像が最重要と思っているので、この仕事ぶりには大満足でありました。
お話もおもしろかったじゃんね??
『ミスト』に出てきたクリーチャーの風貌の平凡さが物足りなかった私の消化不良をギレリーが見事に解消してくれました♪
ボーイが葉巻を吸う姿はチェを彷彿とさせましたー(?)
Posted by: かえる | February 02, 2009 12:51 AM
>かえるさま
素早いご返信ありがとうございます
原作にもリズがピンチに陥ってヘルボが懸命に助けようとするエピソードがありますが、基本的に彼は「大切な同僚」くらいにしか思ってないみたいです。はっきりいうとエイブとほぼ同格扱い
ギレルモさんは本当に始終怪物さんのことを考えつづけているみたいで、「毎日なにかしら思いつく」と語っておられました。すごいですね。ちょっと心配にもなりますが(^^;
元ネタもいろいろあるんでしょうけど、ちゃんと自分なりのアレンジをほどこしてオリジナリティ溢れるものにしてますよね
>ボーイが葉巻を吸う姿はチェを彷彿とさせましたー(?)
そういえばあの葉巻キューバ製だっけ?
嫌煙家ですがうっかり落としちゃったシーンには「カワイソー」と思いました
Posted by: SGA屋伍一 | February 02, 2009 08:34 AM
こんにちは。(*゚▽゚)ノ
ブログ再開した早々、TB&コメントありがとうございました。
>いい年こいて恋にモジモジしてしまうような恥ずかしいオッサンに成長してしまう。
ふふふっ、私は完璧で欠点なんかない男性よりも、よっぽどこういうキャラの男性の方が好きでっす。



男性はちょっと不器用なくらいの方がキュンとなったりなんかして。
とはいえ、レッドよりもエイブの方がお気に入りなんすけどね。
エイブも初めての恋に戸惑っている素振りが本当に愛らしかったです。
ヨハン・クラウスも魅力的なキャラクターでしたよね。
彼がこんな風になってしまうまでのサイド・ストーリーが見たいです。
とにもかくにも、とても楽しませて頂きました。
よく知らない人には、B級ヒーローもの程度のイメージかもしれないけれど。
割り切って、ディテールにこだわった映像は、もうグレートとした言い様がなかったです。(*≧m≦*)
Posted by: となひょう | February 05, 2009 07:31 PM
>となひょうさま
おかえりなさいです! そしてお返しありがとうございます!
>男性はちょっと不器用なくらいの方がキュンとなったりなんかして。
んーと、じゃあやっぱり高倉健さんもお好きなんでしょうか
「不器用ですから・・・」
自分もかなり不器用な方です。ただ自分の場合は「ぶきっちょ」と言った方がより正確かも・・・
エイブもレッドも不器用そうですよね(笑) あんな手で細かい仕事は大変そう(そういう意味じゃないか)
ちなみにエイブが甘~いラブソングを隠れて聴いているところ(大音量だったけど)は、監督の経験に基づくものだそうです。ギレルモ氏は若いころハードロック派を公言していたそうですが、好きな女の子が出来た時にはこっそり甘甘な曲を隠れて聞いていたとか
見た目で「B級?」と思ってしまう人にも、ぜひ見て欲しい作品でした!
Posted by: SGA屋伍一 | February 06, 2009 08:12 AM