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January 23, 2009

水島精二を語りたい 水島精二 『機動戦士ガンダム00』セカンドシーズンその1

090123_171708人知れぬソレスタルビーイングの犠牲により、世界統一を成し遂げた人類。だがそのあとに訪れたものは、急進派「アロウズ」による圧政であった。そしてなおも虐げられる弱者たち。そんな世界の歪みを正すため、4年の歳月を超えて再びガンダムが姿を現す・・・・

早くも折り返し地点を過ぎた『ガンダム00』セカンドシーズン。今回はちょっと趣向を変えて、監督水島精二氏の作品の特徴について考えてみます。

水島作品によく見られるのは「政府×組織ー個人」という図式。そして「テクノロジーがもたらすもの」であると考えます。代表作三作品から、それらの点がどのように用いられているか述べてみましょう。

最初は99年に制作された『地球防衛企業ダイ・ガード』(全26話)。三作品の中では最も健康的で、最も知名度の低い(笑)作品。
近未来、「ヘテロダイン」と呼ばれる巨大生物が頻繁に姿を現すようになった日本。巨大ロボット「ダイ・ガード」を駆使して、ヘテロダインを鎮圧する「21世紀警備保障」の活躍を描いた作品。
このアニメでは、「政府」はもっぱら「自衛隊」という形をとって現れます。彼らは民間の主人公たちに仕事を任せることを良しとせず、実にえげつないやり方で横槍を入れてきます。そして自分たちの力でヘテロダインを倒そうとするのですが、柔軟性にかけるためうまくいかず、結局主人公・赤木たちに頼らざるを得なくなります。ただ共に仕事をしている内に「政府」の中にも赤木らに共感を抱くものたちが増え始め、最後には手を取り合って危機に立ち向かいます。
主人公・赤木は最初こそ「ロボに乗りたい」というそれだけで21世紀警備保障に入社した軽いイメージの若者。しかし政府・会社とぶつかりあっていくうちに、やがて自分の真にすべき仕事を見出していきます。

この作品における「テクノロジー」は、巨大ロボット、ダイ・ガードに集約されています。様々な形状、性質で日本政府を翻弄するヘテロダイン。その度に赤木らはデータを集め、対処法を見つけ出し、新装備を開発してことにあたります。「ヘテロダインは自然を破壊する人類への警告」という見方もできるものの、ここでの科学技術は生き残るため、未来を切り開くために必要なものとして描かれていました。


二つ目の作品は水島氏の名前をメジャーにした『鋼の錬金術師』アニメ版(全51話)。この物語の大筋は原作者荒川弘氏が考えたものですが、便宜上(笑)ここでは水島精二作品として語ります。
こちらでは「政府」はアメストリス軍全体、「組織」は主人公の直接の上司であるロイ・マスタング大佐の一派として描かれます。両者は当初こそ限りなく一枚岩のように見えましたが、終盤に向かうにつれその対立は明らかなものとなっていきます。主人公エドはマスタングよりの立場ではありますが、彼には直接的には協力せず、自分の目的を果たすことを第一として行動します。
この作品におけるテクノロジーは、ちょっと魔法に近い気もする「錬金術」。「ダイ・ガード」に比べるとやや暗めの描かれ方です。人々の生活を潤すこともできるけれど、使い方を誤ったためにエドは体の一部を、弟のアルは肉体すべてを失います。また錬金術が軍事目的や人体実験に用いられたり・・・という描写もよく見られました。この「夢を果たすために開発された技術が軍事用に使われる」というテーマは、劇場版『シャンバラを征く者』において一層顕著なものとなっています。

このあと水島氏は『大江戸ロケット』という作品もてがけているのですが、自分はキー局の関係でほとんど見られませんでした。詳しい方、気が向いたら解説よろしくお願いします。
こちらは科学技術の研究が政府により禁じられた時代・・・天保年間を舞台に、花火の技術で月にロケットを飛ばそうとする若者の話です。


そしてこの度の『ガンダム00』。前二作とは違い、こちらでは「政府」と「組織」は最初からぶつかりあっております。ただ組織・・・・ソレスタル・ビーイング(以下CB)が目指すのはその打倒ではなく、「それらの本質を変えること」であるのが独特な点。主人公、刹那・F・セイエイは「戦争根絶」を掲げるCBの理念に賛同し、その一員として行動します。
『00』で扱われる技術は「太陽光発電」ならびに「太陽炉」。太陽光発電はエネルギー問題を解決するものの、それを保有する大国のエゴにより、国家間の格差は大きくなり、また利権をめぐる紛争をも拡大させることになってしまいます。
そこへさらに進んだ技術である「太陽炉」が開発されます。CBの面々はこのテクノロジーを、争いを激化させることなく、また公平な仕方で国々に分け与えるため、ガンダムを駆って「戦争根絶」を目指すわけです。

赤木、エド、刹那はそれぞれ組織に所属していますが、盲目的に従属しているわけではありません。彼らは自分の目的を果たすために組織の力を利用しているわけで、自分の理念が組織の方針が食い違ってしまったなら、きっぱりと組織から離れる道を選ぶでしょう。

刹那とエドは「罪びとである」という点でも共通しています。二人は少年特有の純粋さから取り返しのつかない過ちをおかしてしまいます。しかし決して自暴自棄にはならず、時に迷うこともあるものの、全身全霊をかけて贖罪の方法を探し続けます。普通の若者が持つ喜びも全て犠牲にして。「ほかに生きる道が見つからない」と語る刹那。
そのけなげな姿に、おぢさんは涙するわけです。

090123_171741半年間の休止を挟んで再開された『ダブルオー』も、いよいよ残りあとわずかとなってきました。人類は果たして科学をコントロールすることができるのか。そして主人公たちは人間らしい生き方を取り戻すことができるのか。水島監督の描く「未来」に期待したいです。

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Comments

ただ今『大江戸ロケット』再鑑賞中。
DVDお貸ししましょうか?

Posted by: かに | January 28, 2009 04:44 PM

>かにさん

おお! ありがたいです!
ただ全26話見るのにはかなり時間がかかりそう。それでよければお願いします・・・

Posted by: SGA屋伍一 | January 28, 2009 08:58 PM

『大江戸ロケット』再鑑賞終わりました。
ご指摘の通り、まさに
「政府×組織ー個人」「テクノロジーがもたらすもの」
そういう話でした(笑)。

家にあるのDVDは商品ではなく
地上波放送を録画したDVD−Rですが
それで良ければ
14日のアニメ上映会のときにお持ちします。
傑作です。

Posted by: かに | February 06, 2009 03:15 PM

>かにさま

こんばんは

ははは。あてずっぽうが当たりましたか
少し前の冨野作品だと「政府」×「政府」という構図がよく見られましたけどね。要するに戦争・・・・
組織の個人の関わり方も、また違ったような

DVDの件、ありがとうございます! がんばって鑑賞させていただきます
かにさんもこの辺で紹介したもので、何か読みたいものあったらおっしゃってください。まだ所有してたら当日持って行きます

Posted by: SGA屋伍一 | February 06, 2009 08:44 PM

『GANTZ』!
は大変だから
『海街diary』お願いしてもいいですかね。
この間、『マンガノゲンバ』でやってて
興味を持ちました。

Posted by: かに | February 06, 2009 11:00 PM

>かにさま

了解しました! 姉妹編の『ラヴァーズ・キス』(全一巻)とあわせてもって行きます!
『GANTZ』はこないだ処分しちゃったんですよね・・・ かにさんにあげればよかった

Posted by: SGA屋伍一 | February 07, 2009 07:21 AM

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