まんがの道は地獄道 2008年漫画家マンガいろいろ
少し前の朝日新聞の読書欄に、こんな言葉が載せられていました。
「漫画家マンガにはずれなし」
漫画家マンガというのは、わかりやすくいうと漫画家を題材にしたマンガのことです。2008年はその「漫画家マンガ」の当たり年でした。今日はそのいくつかを紹介します。先日の日記とちょこちょこかぶってるところもありますが、お見逃しください。
まずは島本和彦先生の『アオイホノオ』。1980年代初頭、大阪の美大生焔燃(ホノオモユル)くんの、ちょっとオタクな青春を描いた作品。現在連載中の『新吼えろペン』の前日談とも受け取れますが、『吼えろ』と違うのは、こちらはもろ実話(だと思う)なところ。なんせ作者の同期生だった庵野秀明氏が実名で堂々と出てきます。
アニメーターになろうか漫画家になろうか悩んだり、同期生の並外れた才能を目の当たりにして落ち込んだり。そういうのは美大生特有の悩みですけど、プロの作品を「何かが足りんのだ・・・」と偉そうに論評するその様は、まさしく等身大のマンガ好きの姿そのもの。「ファンレターでも書いてやるか・・・ きっと喜ぶぞう」と呟く目つきがまたいやらしい(笑) まあ島本先生が偉いのはたんにケチつけてるだけに終らず、ご自身もちゃんと漫画家になったってことですね。
次いでヤングマガジンに二週に渡って掲載された掲載されたちばてつや先生の『トモガキ』
40年間隠され続けていたちばせんせいの秘密が明らかにされた、すごい内容でした。
編集者の股間にふざけて「電気あんま」をしかけていた先生は、逆襲にあって頭から窓ガラスに激突。顔中にガラス片が突き刺さりまくり、生きるか死ぬかの大手術をすることになります。
大臼歯などはガラス片と激突して真っ二つに 「あと数センチずれてたら」『あしたのジョー』も『おれは鉄兵』も生まれなかったのだなあ、と思うとぞっとします。
で、当然原稿は下書きのみの未完成のまま。編集者は「トキワ荘なら漫画家がたくさんいる!」ということで、血しぶきの付いた原稿をトキワ荘へ持っていきます。しかしトキワ荘の面々もみな仕事を抱えていて手一杯。「残念ですがおひきとりを・・・」ということになりかけたそのとき、若き日の赤塚不二夫がぼそっと言います。
「違う人の絵に触れることは、我々にとっても勉強になるんじゃないかな」
その言葉にやはり若き日の石ノ森氏は「よくいった!」と答え、結局カツカツのスケジュールをやりくりしてみんなで原稿を完成させます。
あまり親交がないかと思われていたちば氏とトキワ荘グループに、こんな感動秘話があったとは驚きでした。
ヤング赤塚氏がちば風二枚目に描かれているのがなんだか嬉しい。実際若き日の赤塚先生はなかなかの二枚目で、よくもてたとか。石ノ森氏の夭逝されたお姉さんはトキワ荘のどなたかに恋心を抱いていたそうですが、わたしはたぶん赤塚先生だったのでは、と睨んでおります。もっともこの方、しっちゃかめっちゃかなエピソードにも事欠かない人なんですけど。
この作品、「ちばてつや伝」と銘打たれていたので、またそのうち掲載されるかと思います。梶原一騎氏や、ちばあきお氏との痛切な思い出なども語られるのでしょうか。
最後は先ごろ終了した小林まこと先生の『青春少年マガジン1978〜1983』。小林さんといえばわたしにとっては『ホワッツ・マイケル』で馴染み深い人ですが、それ以前に『1・2の三四郎』というマンガでも人気を博した方でした。基本的にうっかりちゃっかりした内容なんですが、終盤になるにつれ、漫画家という職業の恐ろしさとか、二人の友人に関する悲しいエピソードなども出てきます。
マガジンで連載を続けるうちに、小林さんは大和田夏樹、小野新二という漫画家友達が出来ます。彼らと小林さんが愉快にはしゃぎまわる様子は、読んでいて本当に楽しい。ですが大和田氏と小野氏、正直今ではほとんど名前を聞くことはない作家です。果たして彼らはどうなったのか・・・・ その答えは、あまりにも悲しいものでした。
ただ先にも述べたように、読んでいて楽しいマンガであります。小林氏が漫画家という過酷な職業を現在にいたるまで続けていられる理由は、その作品から感じられる「底抜けの明るさ」にあるような気がしました。
今年の漫画家マンガにはほかにもやまだないと氏の『ビアティチュード』、カラスヤサトシ氏の『おのぼり物語』などがありますが、まだ読んでません。いずれチェックしたいものです。
Comments
>40年間隠され続けていたちばせんせいの秘密
>ふざけて「電気あんま」をしかけていた先生は、逆襲にあって頭から窓ガラスに激突。顔中にガラス片が突き刺さりまくり、生きるか死ぬかの大手術
ブハハハハ。バカじゃねーの。。。ボクのしってるマンガ家マンガは『ハムサラダ君』かな? コロコロコミックの。。。ジャンプの『バクマン』読んでる?
Posted by: 世界のみ~んちゃん | September 09, 2009 10:42 PM
>世界のみ~んちゃんさま
おはやうございます
笑い事ではありませんよ・・・・ み~んちゃんさんも電気あんまをかける際にはゆめゆめお気をつけなされい
ちなみにちば先生は40年の間、「仕事疲れでもうろうとしていて、つい窓ガラスに倒れこんでしまった」ということにしていたそうです・・・・
ハムサラダ君・・・ ありましたね。藤子先生が書いていたのかと思ったらそうじゃないみたいで。『バクマン』は二回だけ読んで後は読みそびれてます・・・ おもろい?
Posted by: SGA屋伍一 | September 10, 2009 06:52 AM
いや、ボクも1巻しか読んでないんだけど、ボク的にはムカツク感じの、、、
なんとなく今回の仮面ライダーWの悲劇をみてみて、このマンガのことが頭をよぎった感じの、、、
Posted by: み~んちゃん。 | September 11, 2009 10:41 PM
>み~んちゃん。さま
むかつきましたか(笑) わたしは別にそうは思わなかったけど、漫画家マンガって、もっとこう、泥臭そうなもののほうが好きですね
『サルでも書ける漫画教室』とか、『まんが道』とか
あと自分は『W』の喜劇にはそれなりに期待しているですよ
Posted by: SGA屋伍一 | September 11, 2009 11:47 PM