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December 15, 2008

サーカスの怪盗 北村想 『怪人二十面相・伝』(原作)

081215_111632十回に一回の読書コーナー。今回も蔵出しネタ・・というか、いま書かずにいつ書くんじゃー!!という作品。今週末から映画が公開されることになっている『怪人二十面相・伝』。記事を書く前に「軽く読み直してみるかー」とパラパラめくり出したら止まらなくなってしまい、二日で読了しました。

怪人二十面相・・・ 江戸川乱歩が創作したこの怪盗の素性に関しては、あまり多くのことは知られていません(ついでに言うと、後にパワーアップして「怪奇四十面相」になることもあまり知られてません)。怪盗の代表格であるアルセーヌ・ルパンが生い立ちから何から明らかになっているのに比べ、まことに対照的です。
その正体に関して作中で語られているのは、たったこれだけ。「かつてグランド・サーカスに在籍していた遠藤平吉という男。ある団員と二代目の座長の座を争い、敗れてサーカスから去った」

そこで「わかんないなら自分で考えりゃいいじゃん!」と思いついたのが劇作家の北村想氏。かくして世紀の大怪盗の一代記が幕を開ける・・・のかと思いきや、これがなかなか一筋縄ではいかない展開でありまして。

「<彼>は市井の下駄職人の三男坊として生まれた。大正十四年のことである。」

こんな書き出しとともにこの小説は始まります。そして遠藤平吉少年の幼き日の出来事が語られていきます。
ある夜母親に連れられて平吉少年はサーカスを観にいきます。しかしそこで忽然と姿を消してしまう母親。どうやら男と逃げたらしい。父親は母親を見つけ出して刃物で刺した後、家にいた平吉に無理心中を迫ります。父親を突き飛ばして逃げる平吉。行き場を無くした彼は、警察に行くと「サーカスで働かせてほしい」と頼み込むのですが・・・

・・・暗い。暗すぎる。なんて救いのないお話でしょう。でもちょっと待ってください。本番はここからです。

遠藤サーカスに入団し、働き始めた平吉は,武井丈吉という男と出会います。独創的なアイデアを数多く思いつき、アクロバットにも天才的な腕前を見せる丈吉。平吉は次第に丈吉に心酔するようになっていきます。
丈吉は常日頃から小規模な遠藤サーカスに不満を抱き、「いつか世間をあっと言わせるんじゃ」と平吉に語ります。そしてある日サーカスから突然いなくなってしまう丈吉。それからほどなくして、巷では「怪人二十面相」と名乗る怪盗が暗躍するようになります。

あれ? 平吉少年が後の二十面相ではないのか? なまじ予備知識のある読者はここで混乱するかと思われます(笑)。まあそれはとりあえず置いといて、ここから話は俄然面白くなってきます。

世紀の大怪盗になるべく、あれこれ準備を始める丈吉。名前はどうするか、どうやったら世間をあっと言わせられるか、どうすれば厳重な警備をかいくぐることができるか・・・・ 作中にはこれらについて丈吉が丹念に書き記したノートまで登場します。こうしたくだり、読んでいてまことにワクワクさせられます。

そして当然登場する名探偵・明智小五郎。最初のシーンこそかっこいいものの、その自信満々な様子が次第にむかつくようになってきます(笑)。そして子供のくせに我らが二十面相を馬鹿にしくさっている小林少年が、さらにむかつく。あれ? 昔はわたしも明智・小林サイドでお話を楽しんでいたはずなのに・・・
とにかく、この小説を読んでいると「がんばれ二十面相! 明智なんかに負けるな!」と思わずにはいられません。

「オレは金持ちからしか盗まない。人も傷つけない。これはひとつの芸術行為」 盗人にも三分の理、などと申しますが、そううそぶく二十面相。まあそれなりに理があるにしても、いささか可愛らしい子供の論理であります。
それに対して明智は大人の論理で対抗します。「しょせん盗みは悪でしかない」という単純なテーゼではありません。「自分が『探偵』をやっているのは、知識と権力の間で自由に活動するため。それに対し権力を一方的に敵に回す君は、いずれ僕に敗れる」 この明智の立ち位置はオリジナルのような「正義の味方」にはほど遠く、それだけに興味をそそられるものであります。

知恵には知恵を。騙しには騙しを。丁々発止繰り広げられる二人の戦いはこちらをハゲシク興奮させてくれます。ですがやがて「戦争」という巨大な暗雲がその上に覆いかぶさってきます。
個人の論理など、歴史の大きなうねりの前では無力に等しい。果たしてその「うねり」が過ぎ去った後、二十面相は再び姿を現すのか。そして平吉少年は・・・・

この本を最初に読んだ十五年前、わたしはいまほど涙もろい人間ではありませんでした。しかしこの本の終章を読んだ際には、なぜか泣けて泣けてしょうがありませんでした。詳しくは申しませんが、とりあえず「テンプラ」が関わっているとだけ申しておきましょう。

さて、冒頭でも述べましたように、この『怪人二十面相・伝』、『K-20』という題になって映画公開されることになりました。が、予告編を二十秒見ればわかるように、全然違う話になっている模様(笑)。まあそちらにそちらの面白さがありそうなので、一応見に行く予定です。

081215_111754『怪人二十面相・伝』は現在続編の『青銅の魔人』(こちらはシンプルに『Ⅱ』と改題)とともに、小学館文庫より発売中。『K-20』ノベライズと並べて売っていることが多いので、くれぐれも間違われませんよう。著者は「北村想」さんです。
画像はわたしが十五年前に買った新潮社単行本バージョンです。


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» 怪人二十面相・伝 [伊東良徳の超乱読読書日記]
 遠藤曲馬団の曲芸師で動物飼育係だった武井丈吉が、30人そこそこの見物人を相手にするのは飽きて、金持ちの物を盗む見せ物をしようと怪人二十面相となり、明智小五郎とライバルとなって競うが、気球で脱出する際に小林少年が乗り込んで気球を銃で撃って気球が爆発してその後行方不明となるまでを、丈吉と遠藤曲馬団での弟子だった遠藤平吉らの視点で描いた小説。  二十面相の側から、富豪から盗むことの美学を描き、明智小五郎の欲と悪知恵、子どもを使えば手を出せまいという少年探偵団結成の狡猾さを批判的に描いています。サーカスの... [Read More]

Tracked on December 28, 2008 at 11:48 PM

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