荒野の呼び声 ショーン・ペン 『イントゥ・ザ・ワイルド』
首都圏より三ヶ月ばかり遅れて上映。でもこれはまだ都心でも細々とやってるのかな? 名優ショーン・ペンが実在した青年の放浪記を映画化。『イントゥ・ザ・ワイルド』であります。
1990年アメリカ。多感な青年クリスは、大学を卒業するとすぐ、家族に行方も告げずに放浪の旅に出る。親への反抗ともって生まれた冒険心が、彼をそうさせたのだった。持ち金をほとんど捨てて、自分の力だけでアラスカへ行くこと。それがクリスの最終目標だった。その高貴な志は、彼が旅の途中で出会う様々な人々に、深い感銘を与えていく。そして旅の出発から約二年後。目的の地アラスカの荒野に分け入った彼は、打ち捨てられた一台のバスを発見する・・・
何物にも囚われず、ただひたすら自分の目標を追い求めるクリスの姿がまぶしかったです。鑑賞前にあらすじを聞いたときは、「なんて親不孝な青年だろう」と思いました。しかし見てみると、彼があそこまで両親に冷たかった理由が理解できます。そしてクリスがなぜあそこまで「金」を忌み嫌うのかも。
「金に対する愛情はあらゆる有害なことに対する根」という言葉があります。また、金というのは本来それ自体は何の価値もない交換券であります。そうは思っていても、なかなか達観できないのが人情。しかしクリスは金がもたらす不幸を小さいころから目の当たりにしてきたためか、多くの人が目標とする事柄とは違うことに目を向けていたようです。
真にアラスカで自分の力だけで生きていく自信を得たとき、クリスはきっと両親を許したんじゃないかな、とわたしは思います。そう思うと、彼がそこまでたどりつけなかったことが残念でなりません。
クリスについて考えていると、わたしは数年前中東でテロリストによって命を絶たれた、一人の日本人青年のことを思い出します。すぐ前にも似たような例があって大きな問題になったせいか、彼に対する同情の声はほとんど聞かれませんでした。「自業自得」という意見がほとんどだったと記憶しています。ただわたしは彼が生前家族に向けて語っていた、「いま行かなきゃ意味がない」という言葉が強く印象に残りました(そういえば劇中で「今やらなければいけない」と語るブッシュ父の映像が流れましたが、あれは悪い例)。たぶん彼はブラウン管を通してでなく、自分の目と耳で世界がいまどれほどひどい状態にあるのか確かめたかったのでしょう。確かに愚かだし、無謀といえます。しかしそうした純粋さが死を招いてしまうということはとても悲しいことではないでしょうか。
わたしにも本当につかの間の間でしたが(笑)、彼らと同じように感じていたころがありました。ほんの少しでも妥協したら、それまでの全てがウソになってしまうように思えたときが。そして今妥協ばかりの日々を送っているわたしに、彼らを笑う資格はないということです。
クリスも魅力的な青年ですが、彼が旅先で出会うおじさん・おばさんたちがまた素敵な人々ばかりでした。夫婦でヒッピーの生活を送るジャンとその妻。農場で荒くれ男をたばねるウェイン。心の傷を隠しながら、皮細工を生業とする元軍人のロン。ときに無礼とも思えるクリスの鋭い言葉を、彼らは笑顔で優しく包み込むように受け止めます。こういう大人になりたいものです。
自分とは生まれも育ちもかけはなれたこの青年が、ジャック・ロンドンの愛読者であったとは嬉しい驚きでした。文芸学科というところにいながら未だに文学というのものがよくわからないわたしですが、ロンドンの小説はいつもシンプルでダイナミックな興奮を与えてくれました。『白い牙』『野生の呼び声』『海の狼』・・・・ この映画を見て、また彼の小説が読みたくなってきました。実際にクリスのような旅をするのは年齢的にももう無理なので、せめて本を読むことで彼に近づきたいと思います。
最近『火を熾す』(\2205)という短編集が訳されて、注目を集めているロンドン。文無しとしてはもう少し安くしていただきたいものですが・・・・
Comments
伍一さん、こんにちは〜☆
あはは!絵、そっくり
ほんと色々と考えさせられる作品でした、、、、
ラストがもう悲しくて。
あれだけ痩せたエミリーハーシュ、拍手ものです。
「スピードレーサー」ではカッコイイと思わなかったけど、
こちらの方が良かったナ。
伍一さんそれにしてもジャック・ロンドンの小説好きって、色々読んでるんですね
マンガも小説も詳しい!素晴らしいです
最後のシベリアンハスキー?のフィギュア?
可愛い♪
Posted by: mig | November 20, 2008 11:32 AM
>migさま
おはよーございます
わたしも色々考えさせられました。ので、久しぶりにマジメに書いてしまいました
わたしは『スピード・レーサー』で、不器用そうにぼそぼそと夢を語るハーシュくんも好きですね。「車はいらない。あれが気に入ってる」というセリフには「そうだよな! キミにはマッハ号があるもんな!」と思ってしまいました(笑)
>ジャック・ロンドン
実は上に書いた三冊しか読んでなかったりして。本は好きですけど、あまり難しいのは読んでません(笑) ジャックさんの小説というのは、わたしのような単純な人間にもそれなりにわかるようにできてるんですね。感受性の豊かな人なら、さらに多くのものが得られるはず。migさんのようなね
最後のフィギュアはチョコエッグかチョコQのおまけ。んー たしか狼だったような・・・
Posted by: SGA屋伍一 | November 21, 2008 07:49 AM
こんにちは。

TB&コメントありがとうございました。
何か、またこの頃ココログの調子が良くない気がします。
平日でも、夜9時を過ぎると、突然重たくなる事が多いなぁなんてボヤッキーになっていたら。
またメンテナス実施するんですねー
果たして、どのくらい復活してくれるのやら。
>真にアラスカで自分の力だけで生きていく自信を得たとき、クリスはきっと両親を許したんじゃないかな、とわたしは思います。
ああ、確かに。彼の無謀さは、まだまだ世間を知らない若者という風に私には見えたけれど。

両親への気持ちは、どこか達観しきっている大人の部分があったような気もしますね。
なかなか複雑青年だなぁと思うけど。その分、魅力的にも思えます。
後半の場面なんかを思うと、エミール・ハーシュ君はよく演じたなぁと感心しました。
Posted by: となひょう | November 27, 2008 09:25 PM
>となひょうさま
おかえしありがとうございます

確かに最近夜遅くだと反映に時間がかかることが多いですよね。たまに一時間かけて書いた記事が「消えてしまったのか?!」とハラハラすることがあります
メンテは来月の3日か4日でしたっけ。覚えておこう
>両親への気持ちは、どこか達観しきっている大人の部分があったような気もしますね
映画ではそんな感じでしたね
結局本人がどう思ってたのかなんて本人にしかわからないことなんですが、最後にあえて自分の本名を書いたところに、両親へ何がしかのメッセージを送りたかったのでは・・・と信じたいところです
となひょうさんはハーシュ君の前作『スピードレーサー』はご覧になってましたっけ? こちらとはまるでジャンルの違う映画ですけど、「ひたすら夢を追う若者」「お金以外の何か」を求める点ではかなりかぶるところがありました
Posted by: SGA屋伍一 | November 28, 2008 08:19 PM
こんにちは、SGAさん、ご無沙汰しております。
お元気でしょうか?今日は雨降って、寒いですね・・。
クリスチャン・ベイルが63ポンド(約30kg)減量して臨んだ『マシニスト』に比べれば(パンフレット参照)、
今回のエミール・ハーシュ君の減量ぶりは見た目からしてもそれほどではないかなあ・・
と、見てすぐ思ってしまった自分が居ましたが(笑)
いやいやそんなことはない、彼も頑張ってましたよねー。
お金の価値って、一時期すごく自分も考えました。
誰もが疑問を感じるところと思いきや、そうでもない人が世間には結構いるなあ、なんて思ったりしたのでした。
Posted by: とらねこ | December 14, 2008 01:25 PM
>とらねこさま
こんばんは
こちらこそご無沙汰しててすいません・・・
元気にやっております。寒さの増してきたこのごろですが、とらねこさんも風邪等にお気をつけください
>クリスチャン・ベイルが63ポンド(約30kg)減量して臨んだ『マシニスト』に比べれば
・・・・・世の中、飢えには、いや、上には上がいるものですね・・・・
自分は筋肉ムキムキの彼しか知りませんでした。すごい俳優なんだなあ、クリスチャン
>彼も頑張ってましたよねー。
頑張ってましたよ! 無茶苦茶がんばってましたよ! とりあえずわたしには絶対にムリです! 増やすほうは出来ても(笑)
熱演ぶりには本当に頭が下がりますが、彼の体のことも心配になりました~ ・・・それこそ力石徹のようにならないものかと
なんかで読みましたけど、お金持ちの方々に「幸せか?」というアンケートをとってみたところ、「はい」と答えた方はかなーり少なかったそうです
だったらなんでみんなあそこまで血眼になってお金を欲しがるんだろう? そこまでして得るべきものなんだろうか? ・・・・って思いますよね
・・・と言いつつわたしもやっぱりお金好きだなあ
汚れつちまつた悲しみに 今日も小雪の降りかかる
Posted by: SGA屋伍一 | December 15, 2008 03:34 AM
こんばんは~
おお,真面目な記事だー!
・・・それだけ深い感銘を受けられたということですね。
この作品は,自分の価値観というものを
いろいろと探られるような哲学的なものを感じて好きです。
ジャック・ロンドンの「荒野の呼び声」
その昔,小学館の児童文学全集で読みました。
今となっては,シートンの「おおかみ王ロボ」とごっちゃになってますが。
でも,あのバックの物語の作者がロンドンだったのね~。
クリスが影響を受けたのも納得です。
Posted by: なな | March 05, 2009 07:53 PM
>ななさま
こんばんは! お返しありがとうございます!
>おお,真面目な記事だー!
自分はいつだって誠心誠意、真実一路です!
・・・・冗談はおいといて(おーい)、わたしだってたまには真剣に自分と向き合いたくなる時もあるんですよ~ この映画は特に皆さんマジメに語っておられるので、ここは自分もお茶ラケに逃げずに、素直に思うところを書いてみました
>ジャック・ロンドンの「荒野の呼び声」
その昔,小学館の児童文学全集で読みました。
御見それしました~ これやっぱり有名な作品なんですね
クリスがアラスカを目指した理由の一つは、この小説にあったんじゃないでしょうかね
あと『ジャック・ロンドン放浪記』の解説を読むと、ロンドンも若いころクリスと同じような旅から旅への暮らしをしていたことがわかります
トップ記事もごらんいただき、まことにありがとうございました
m(_ _)m
Posted by: SGA屋伍一 | March 06, 2009 06:30 PM