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October 06, 2008

ペプシじゃなく ましてやコカでもなく 山岸涼子 『舞姫テレプシコーラ』

081006_182559昨年の手塚治虫文化賞に輝いた山岸涼子氏の本格バレエ漫画。前々からいろんなとこで絶賛を聞いていて、「読んでみようかなー」と思っていたら先日畏友のしゅうさんが第1部全10巻を快く貸してくださいました。しゅうさん、いつもありがとうごぜえますm(_ _)m

それでは例によってあらすじから。篠原千花(チカ)と六花(ユキ)は、高名なバレリーナの母を持つ仲の良い姉妹。彼女たちも幼いころから母の厳しい指導のもと、バレエの訓練を続けていた。しかし見る見る内に上達していく千花に対し、六花は自分の才能に限界を感じていた。
そんな二人の前に、空美という謎の少女が現れる。顔立ちはお世辞にもかわいいとはいえないが、バレエに関しては目を見張る実力を示す空美。千花はそんな空美に対し競争心を掻きたてられ、六花はその素性に興味を抱く・・・・
というのが、本当に初めのほうのお話。

最初、特に1,2巻を読んだ時の印象は、「黒い・・・ 黒いよ山岸先生!」でした(笑) その黒さに圧倒されたものの、そういえば名作『日出処の天子』も、なかなか黒いところがあったよなあと。あんまし読んでない身で語るのも恐縮なんですけど、山岸先生が同年代の並び称される女性作家たち・・・竹宮、萩尾、大島先生らと明らかに違うのは、この「黒さ」にあるような気がします。
特にすごいな、と思ったのは空美ちゃんのデザイン(笑) 普通の女流漫画家はこんな顔は描けません。いや、描けるかもしれないけど、まちがってもメインキャラに据えたりはしません。
この人の描く「うつろな目」のキャラは本当に怖い。以前ブックオフで山岸先生の恐怖短編集を立ち読みしたことがありましたが、その中に出てきた大人子供の幽霊は、今思い出してもおしっこをちびりそうになります。そのくせ本人の自画像はこんなだったりするので
081006_182616まったくもって不可解な方です。

しかしもちろん黒いだけのお話ではありません。しゅうさんは子供たちを見守る親や講師陣のまなざしが、とても温かくてよいとおっしゃられてました。なるほど(ぽむ)。確かに時々悲しくて悲しくて、とてーもやーりきれーない場面もあるこの漫画の中で、彼ら彼女らの存在は一服の清涼剤のような働きをしております。 
わたしが特に好きなのは、登場人物の中で最も女性としての柔らかさを感じさせる金子先生。というか、全体的にきつい感じの女子が多いんですよね、このお話
あと「黒ヒゲ危機一髪」的な風貌の鳥山先生もなかなかの好人物。第1部ラストカットなどを見ると、明らかに一人だけ出演漫画間違えてるだろ、という気もするのですが、まあよしです。やはり男性講師の富樫先生もソフトなエエ男ですが、若いころさぞかしもてただろうというのが容易に察せられて、その辺がなんかむかつきます。

・・・・話が横道にそれました。最初にも書きましたが主人公の少女は六に花と書いてユキちゃんといいます。恐らく雪の結晶が六角形の花のように見えることからこの名がついたのでしょうが、「六」って名前的にかっこ悪いというか、どんくさいイメージがあります。そのイメージの通り、すぐに気落ちしたりメソメソしたりする六花ちゃん。わたしなんかは「かわいいな」と思いますが(ロリコンか!?)、女性読者の方の中にはさぞかしイライラする方もおられるのではないでしょうか。
しかし6というのは数字的には便利でバランスのとれた数であり、雪の結晶があれだけ千変万化の多様性を持つのは、この数をベースにしているからかもしれません。「どんくさいアヒルの子」である六花ちゃんも、時折はっとするほどの才能の片鱗を見せます。
081006_182631
果たしてその才能はいかにして大輪の花を咲かせるのか!?
『舞姫テレプシコーラ』は現在『ダ・ヴィンチ』にて第二部が好評連載中であります。

ちなみにわたしも以前はバレエというものに「軟弱」というイメージを抱いておりましたが、トップクラスのバレエダンサーの脚力というのは、時としてプロの格闘家のそれに匹敵するそうです。すげえぜ。
そんなわけで『軍鶏』には元バレエダンサーのライバルが登場したりしているのですが、あれの続きっていったいどうなったんだろ・・・・(もはや諦めモード)

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Comments

え〜、「圧倒」ってそういう意味ですか!
黒い・・・かなぁ。
私は山岸作品に慣れちゃっていてコワい顔も平気になってる(すごくコワい顔も『美人』といわれればそういうふうに脳内で変換できてしまうw)せいか、「スポコン+ホームドラマ+学園ドラマ」程度の認識でしたけど。

金子先生ファンの人は多いですね。
でも金子先生の指導は厳しいお母さんやキツイ五島先生の指導があってこそ、生きるものだと思いますよ。
厳しいだけではつぶれる子も出るでしょうが、優しいだけでは強くなれない。キツかったりソフトだったり、個性豊かな指導陣がバランス良く子供たちを支えていると思いました。

他のバレエ漫画(大人向けに限る)を読んでみても、ダンサーというのは性格キツくなければやっていけない商売のようですし、それに現実の仕事の世界でだってあのくらい普通ですよ〜?

月曜日、『ダ・ヴィンチ』の発売日だったので立ち読みしようと(すいません)駅の構内の本屋に寄ったら、『ダ・ヴィンチ』のまわりに3〜4人の女性が陣取っていました。
チラと覗いてみたら全員『テレプシコーラ』を読んでいて、うれしいと同時に可笑しくなってしまいました。
みんな、やっぱ立ち読みなんだ〜(笑)
だって『ダ・ヴィンチ』高いんだも〜ん。

Posted by: シュウ | October 08, 2008 01:05 AM

>シュウさま

いやいや、黒さだけじゃなく、作品の持つパワーや面白さにも圧倒されましたよ!
重ねて御礼もうしあげます

「黒いなー」と思ったのは空美ちゃんの家庭事情とか、千花ちゃんを不幸に陥れるための伏線の周到さとかですね
現実にもある話なんでしょうけど、アマちゃんで現実から目をそむけがちなわたしには「なにもそこまでせんでもええのにー」と思えてしまうんですね。この前に借りたの『ハチクロ』だったし(笑)

ダンサー業界は厳しいし、現実はこんなものというのも重々承知してます。でもそれだけに金子先生のオアシスのような優しさが際立つんです。彼女、得な役回りですよね(笑) あとユキちゃんのお友達の蕎麦屋の子もわたしにとっての癒し系でした

あとなんでこの漫画『ダ・ヴィンチ』連載なんでしょうね・・・
恐らく編集さんに山岸先生の熱烈なファンがいて、強引に上を説き伏せたとか、そんな感じでしょうか
こんだけ人気があるのを見ると、その判断は正しかったと言わざるをえませんね・・・

Posted by: SGA屋伍一 | October 08, 2008 09:37 PM

こんばんは
山岸涼子さんって全集買ってたくらいファンだったんですよ~
この「舞姫~」は未読ですけど。「日出処の天子」なんか何度読みなおしたことか。
山岸ワールドって確かにダークですよね。
怪談もたくさん出てきますが,近親相姦とか同性愛とか,
精神を病んだ主人公とか犯罪とか,兄弟姉妹間の愛憎とか確執とか
そんなテーマが多いんですよね~
あと,人物や衣装などはうっとりするくらい耽美的なのに
背景なんかは(あの自画像なんかも)すごくあっさりしていて
たしかに不思議な漫画家さんだな~と。
でもそんな山岸ワールドの魅力というか魔力がたまらないのですけどね~。

Posted by: なな | October 09, 2008 09:41 PM

>ななさま

おはよーございます

ななさんも漫画読まれるんですね。山岸作品はほかでは『アラベスク』『妖精王』なんかが有名ですよね。タイトルしか知らないんですけど
わたしがほかに読んだのはあと『黒鳥』というたぶん文庫オリジナルの短編集くらい
ちょくちょく小児性愛の話が出てくるところも「山岸先生ってダーク・・・」と思います
ただどの作品も読後感はけっこうさわやかなんですよね。本当に不思議な作家さんです
『日出処の天子』も名作ですよね。わたしはこの作品、『BANANA FISH』『吉祥天女』(ご存知かな~?)に多大な影響を及ぼしていると思うのですが、どうでしょう?

それはともかく『舞姫テレプシコーラ』、おすすめです! ぜひ読んでみたください。一冊ごとのお値段がちょい高めですが(貸してもらってよかった

Posted by: SGA屋伍一 | October 10, 2008 08:28 AM

伍一さん、
オッサンコーナーにまたもコメントありがとです♪
嬉しいデス

実はこないだこれ読ませて頂いてコメントしようと思っていながら時間なくって書いてなかったのー

マンガにも詳しいんですねぇー★
山岸涼子の『日出処の天子』
大大大好きで。
あれ読んだとき泣いちゃいました毛人への想いを訴えるシーンは今でも鮮明に覚えてます
(って文庫本持ってるから未だに何年かすると読み返してるの♪
ペプシコーラじゃなかったテレプシコーラ姫はたまたま一度読んだだけですけど

伍一さんの絵、山岸涼子のそっくり〜(笑)
最後の美少女可愛い

Posted by: mig | October 11, 2008 09:53 AM

>migさま

こちらにもコメントありがとうございます

migさんが『日出処の天子』のファンだったとは驚きですね・・・ でも楳図かずおと通ずるところも確かにあるような? あとこの漫画の人気もホント根強いなあ

わたしがよく覚えているのは皇子の体にわらわらと小鬼のようなものがむらがっている場面と、ラスト近くの「わかった、毛人。もうお主を追わぬ」という場面ですね。migさんが言ってるシーンももしかしたらここでしょうか

『テレプシコーラ』は第1部最終巻(10巻)がすごいです! まだそこまで読んでなかったらぜひ読んでみてください!

あとヘボ絵ほめてくださってどうもありがとうございます

Posted by: SGA屋伍一 | October 11, 2008 09:42 PM

こんばんは、SGAさん
これ、書いたんならTBしてくれればいいのにィー
な~んてごめんなさい。
実は私も記事書いていました。

テレプシコーラ、さすがの山岸さんですよね。
こんなストーリーテリング、普通の漫画にはちょっとないですよね。
六花ちゃんは、どんくさく思えて、実はすごく想像力豊かですもんね。

私、この物語って実は、『ガラかめ』に影響を受けているような気がします。
六花ちゃんが振付師になるまでの、壮大な大河ドラマだと。
美内先生に比べると、イマイチマイナーですもんね、山岸先生って。

Posted by: とらねこ | January 24, 2009 11:01 PM

>とらねこさま

ご来訪ありがとうございます!
そういえば他にも誰か誉めてたよな~と思ってたんですが、とらねこさんでしたか。失敬、失敬

>山岸さんのストーリーテーリング

後半はもう一気読みでした。「次はどうなんじゃー!」と。そしたら・・・・

わたしも少し『ガラかめ』を思い出しましたよ。華やかな舞台のその裏で、こんなにも壮絶で過酷な戦いがある、というところとかね
ただこの手の話だと普通は

主人公・・・貧乏 ライバル・・・金持ち

なのに、それが逆転してるところが面白いと思いました(笑)

>美内先生に比べると、イマイチマイナーですもんね、山岸先生って

ですかねー。やはり作品がアニメ化に向かないせいでしょうか
でも『日出処の天子』は漫画なんか読まなそうな人が「好きでした」と言っていたりして、驚くことがときどきあります

Posted by: SGA屋伍一 | January 25, 2009 07:13 PM

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