土曜マドリード劇場 ミロシュ・フォアマン 『宮廷画家ゴヤは見た』
18世紀スペイン。宮廷で家政婦として働くことになったゴヤは、そこで王家の様々なスキャンダルを目撃する。王の乱交、王妃の不貞、ひきこもりの王女、非行に走る王子・・・ という内容ではございません。「18世紀スペイン」だけ本当です。
異端の疑いをかけられ、投獄された少女イネス。彼女に魅せられた不気味な神父ロレンソ。二人の運命の変転が、もっぱら高名な画家ゴヤの目を通して語られていきます。
「名画の数だけ、ドラマがある」(SGA屋伍一)
なんていい言葉なんだ! さすがオレ! つくづく自分の才能が恐ろしい!
・・・・・失礼しました。原題は「GOYA'S GHOSTS」。このタイトルから、今年初めに公開された『レンブラントの夜警』のゴヤ版のような話かと思いましたが、ちょいと違いました。『夜警』は一枚の絵に秘められた謎についてじっくりと迫るお話でしたが、こちらはタイトルにある『幽霊』については冒頭でちょこっと触れられるだけ。ゴヤはあくまで「目撃者」でしかなく、メインはロレンソとイネスの方。じゃあどうしてこんな題にしたのでしょう。絵の解説でも読めばわかるかな、と思い検索してみたんですが、出てくるのはこの映画に関連した記事ばっかし(笑) どうもこの絵、ゴヤさんの仕事の中でもかなりマイナーなほうみたいです。
聞いたところによるとパンフにはこんな説が書いてあるとか。「実際のゴヤは映画よりももっとしっちゃかめっちゃかな人物で、その非常識的な部分を『ロレンソ』というキャラクターとして表したのではないか。つまり幽霊とはゴヤの投影であるロレンソのことでは・・・」
・・・・そんなん、映画見ただけじゃわかんないっすよー(笑)
わたしとしてではですね、冒頭でゴヤのアトリエに、ロレンソの肖像画、イネスをモデルにした絵、そしてこの『幽霊』が一緒においてあったことが、なんだかとてもしょーちょー的に思えました。『幽霊』の絵はこれから二人を見舞うであろう恐ろしい運命とか、スペインの暗部、あるいは人間の業なんかを表しているのでは・・・なんて勝手に考えておりましたよ。
またゴヤがあの絵を虐げられた人の恨みを込めて描いたのだとしたら、その絵をからかったために、イネスは呪われてしまったのかもしれません。そんなホラーチックなことを思ってしまうのは、ミロシュ監督の名作『アマデウス』をつい念頭に置いてしまうからなのか。
異端審問の様子が生々しいゆえか、この映画を宗教・信仰を批判したものとしてとらえる向きもあるようですが、わたしはそうは思いません。なぜなら民衆を虐げているのは、あとからやってくるナポレオンの解放軍もあまり変わりないから。要するに隠れてやってるか、おおっぴらにやってるかの違いです。
人は自分が正しいと信じて疑わないとき、そしてその手に権力があるとき、いくらでも残酷なことができる・・・ そういうことだと思います。ミロシュ監督のご両親はナチの収容所で殺されているそうなので、そうした背景も映画には反映されてるような気がしました。
非情な運命と時代の荒波が通り過ぎたあとに、残るものとは果たして。
この「名画サスペンスシリーズ」(勝手に命名)、一昨年の『ダ・ヴィンチ・コード』からの流れなんでしょうかね。面白いので引き続き作っていってほしいです。
Comments
SGA屋伍一って、バルデムさんのファンですか??なんかバルちゃんのイラストがいつもより味わいあるように見えるのは私だけでしょうか??
コチラの作品、残虐な事か行われているのですが、それが恐いことに悪意というより、自分ことが正義であると思っている集団が行っているところですよね。
人間にとって、正義とは敵対するものを倒すこと支配すること、、というのも悲しいですよね
いろんな意味で ずっしり心に残る作品でした(--)
流石ミロス・フォアマン監督です
Posted by: コブタです | October 27, 2008 10:13 PM
>コブタさま
記事に初コメントありがとうございます
決してファンじゃないんですけど、あのねちっこい顔が目に焼きついて離れないんですよ~ これってもしかして恋? ドキドキ
>自分ことが正義であると思っている集団が行っているところですよね
「わたしたちは悪だ」と主張する集団って、それこそフィクションにしか存在しませんからね・・・
あと上に立つ者たちが「痛み」というものを知らないと、どんな恐ろしいことになるか・・・ということがよくわかるお話でした
>流石ミロス・フォアマン監督です
そうです! さすがフォアマン! と言いつつ、この映画で名前覚えたクチです
(『アマデウス』は見てましたが) フォアマンとゆーとむしろボクサーの方を思い出します
Posted by: SGA屋伍一 | October 28, 2008 03:43 PM
伍一さんこんばんは♪
あはは!トップの絵はゴーヤ?!
毎度笑わせてくれますね〜♪
(わたしのとこへのコメントタイトルもみて吹き出しちゃった!)
タイトルは「宮廷画家」がついてなかったら
ただのコメディみたいだから
(ゴヤは見た。なんてするはずないケド)
宮廷画家で良かったです(ってイミわかんないですね)
重い話でしたね〜。
ナタリーの姿に釘付けでした。
Posted by: mig | October 28, 2008 10:46 PM
SGA屋伍一さん、こんばんは。
トラックバック&コメントありがとうございました。(*^-^*
>またゴヤがあの絵を虐げられた人の恨みを込めて描いたのだとしたら、その絵をからかったために、イネスは呪われてしまったのかもしれません。
ホラー映画にありがちな“情念”なのかもしれないですね。
>人は自分が正しいと信じて疑わないとき、そしてその手に権力があるとき、いくらでも残酷なことができる・・・
人は物事の善悪が判別つかなくなると虚しいですよね。
Posted by: BC | October 29, 2008 01:53 AM
>migさま
お返しありがとうございます
上のイラストは一時期人気を博したゴーヤーマンというキャラです
ゆるキャラブームにのっかって、また復活しないかなー
>タイトル
単に「ゴヤの幽霊」では地味ですかね・・・ ホラーと勘違いする人もいるかもしれないし(笑)
宮廷にいたのは前半だけでしたが、やっぱりこの題で良かったんじゃないでしょうか
ナタリーは痛々しかったですね。ビッチな娘役の方も、別の意味で痛かったです
Posted by: SGA屋伍一 | October 29, 2008 07:42 AM
>BCさま
お返しありがとうございます
ゴヤの作品には「情念」がまざまざと感じられますね。「我が子を食うサトゥルヌス」?とか。でも劇中のゴヤは割りと穏やかな人のように見えました
善悪の基準というのも人それぞれですが、いたずらに人を傷つけるのはやっぱり「悪」かと。そうならないよう気をつけたいと思います
Posted by: SGA屋伍一 | October 29, 2008 08:08 AM
こんにちわ。
うーん・・・深い。
いつもに増して真剣に読んじゃいましたよ。
私の場合、タイトルとかたいして気にも留めないタイプで、
邦題にいたっては最近ろくでもないものばかりなので、あまり考えたり
もしないのですけれど。
≫ロレンソの肖像画、イネスをモデルにした絵、そしてこの『幽霊』が
一緒においてあったことが、なんだかとてもしょーちょー的に思えました
なるほどですねえ~(しょーちょー=象徴 次は漢字で書けるかな?)
イネスとロレンソ、そしてそれを追うゴヤの3人が一つの画面に収まり、
カメラがすっと引いていくラストのシーン、いまだに脳裏にこびりついて
ます(ネタバレすみません)。
それにしても、ハビ様のイラスト、ウケました♪
大好き★
Posted by: 睦月 | October 30, 2008 02:52 PM
>睦月さま
お返しありがとうございまする
毎度過分なお言葉をいただき感謝でございます
「睦月さん、ぼかあ、どうも細かいことが気になるタチでしてねー」(刑事コロンボの口調で)
最近の邦題は妙にひねくったものが多いですよね。ただカタカナがえんえんと続くタイトルも辛いものですけど
ざっと思い出してみると
いい例・・・『潜水服は蝶の夢を見る』『幻影師、アイゼンハイム』
意味不明な例・・・『屋敷女』『わたしがクマに切れたワケ』
余計に付けたしなさんな、という例・・・『俺たちスーパーポリスメン』
こんなとこでしょうか
『宮廷画家ゴヤは見た』は・・・まあまあかな
>次は漢字で書けるかな?
ワタシマダ、ニポンキタバカリデ、ムズカシイカンジワカラナイアルヨ
>イネスとロレンソ、そしてそれを追うゴヤの3人が一つの画面に収まり、
カメラがすっと引いていくラストのシーン
ネタバレにはネタバレを(笑) わたしはあの周りを子供たちが歌いながらくるくる駆け回ってたのが印象的でしたね。きっとどんなにひどいこと、辛いことがあってもスペインの人たちはこんな風に陽気にたくましく生きていくんだろうな・・・と
>大好き★
て・・・照れるぜ(←オメーじゃねーよ)
「似てないよ」という声もありましょうが、この人なんか描きやすいです
Posted by: SGA屋伍一 | October 31, 2008 08:38 AM
こちらにもお邪魔します♪
観ましたよ~近所で(笑)
かなり見応えがありました。・・・・・よく分からないところもありましたが(汗)
『人は自分が正しいと信じて疑わないとき、そしてその手に権力があるとき、いくらでも残酷なことができる』
この言葉、、、なんて的を射ているんでしょう!!!
映画でモヤモヤしたところは、もしかしたらこの言葉で解消出来るかもしれない!!ありがとう!!
こういう映画って、繰り返し何度も観たくなる類のものではないですが、いつまでも印象に残るんですよ~観て良かったです♪
Posted by: 由香 | November 22, 2008 11:37 PM
>由香さま
お忙しい中こちらにもありがとうございます
>観ましたよ~近所で(笑)
わたしはね~ 池袋まで観にいったんですよ~
ま、他にも用事あったんでいいんですけど
由香さんのモヤモヤを少しは解消できたようで嬉しいです。でもウチの記事はだいたい思いつきとあてっずっぽうで書いてるので、眉にツバをつけつけご覧ください
>こういう映画って、繰り返し何度も観たくなる類のものではないですが、いつまでも印象に残るんですよ~
確かによだれダラダラ垂らしてるハビエルさんや、ガリガリにやつれてしまったナタポンはそう何度も見たいものではありませんね・・・
二度と見ないけど心に深く残った映画というと、わたしの場合『ミリオンダラー・ベイビー』が思い浮かびます
Posted by: SGA屋伍一 | November 23, 2008 10:26 PM
視後感が重い映画だと、
「アレは時代を映しているんだ」とか
適当な事を言う人と、「どこが面白いんだ?」
と逃げ腰な人の2通りが多いですよね。
そうやって自分流に解釈する事で安心しようとする
んでしょうかね?
ある人が鳥居耀●を、
「彼が蘭学を弾圧したのは、どうすれば目立つか?を
知っていた。そして自分が知っている蘭学でそれを実行した」
、と表現していました。
ロレンソのした事も、それと同じかもしれませんね。
町山さん、がインチキな金持ちを叩くのも、町山さん自身は
「資本主義が大好き」だからですし、村●降氏を叩くのも、
町山さんが大学時代漫研だったから、です。
知っている分野で叩く、という点では似ているかもしれませんね(笑)
Posted by: 犬塚志乃 | November 27, 2008 10:38 PM
>犬塚志乃さま
>「アレは時代を映しているんだ」とか
これは普通にそのまんまの場合もあると思いますが
自分と近しい作家に対しては手厳しくなる、というのはよくある話ですよね
ロレンソの転向に対しても様々な意見があると思いますが、あっさり拷問に屈してしまったことで粉々になったプライドを、「そうだ! 教会が間違ってたんだ!」と思い込むことで建て直したんでは・・・と考えてます
Posted by: SGA屋伍一 | November 29, 2008 08:02 AM
こんばんは
そうですねぇ,絵画をテーマにした時代劇サスペンスってとっても好きなんですよ。
「真珠の耳飾りの少女」なんかも思い出しましたね。
で,この作品は確かに異端審問も主役のひとつだと思いますが
おっしゃるように,宗教を批判したものではないですね。
誰が権力を握るかによって変わる価値観というか・・・
そんなものに翻弄される時代に生きた人々の悲劇を描いてるのでしょう,おそらく。
こういう作品を見るとつくづく思想や信教の自由な時代に生まれてよかったと思いますねー
わたしも江戸時代なんかに生まれていたら
隠れキリシタンになっていたかもしれません。くわばら、くわばら。
それにしてもハビエルってつくづく濃いですねー
お顔も雰囲気も演技も。
彼の「死に顔」の演技は素晴らしかったです。夢に出てきそう。
Posted by: なな | May 10, 2009 08:28 PM
>ななさま
おはようございます。お返しありがとうございます
ななさんの専門は確か国語と音楽だと思ったけど、美術にも深い関心がおありなんですね~
『真珠の耳飾の少女』はまだ見てないんですよ。昨年あるところで「フェルメール未来人説」というのを読み、こけました
>誰が権力を握るかによって変わる価値観
日本でも戦中は「一億玉砕」と叫んでいたのに、戦争が終るやいなや「民主主義ばんざい」になりましたからね・・・・
わが国もいろいろ問題はありますし、いわれなきことで犯罪者にされてしまうことも時々あるのでしょうけど、思想・信教が自由なのはありがたいかぎり。これは社会としては当たり前のことなんですけど、当たり前のことが当たり前になってない時代・国もたくさんありますからね
>彼の「死に顔」の演技は素晴らしかったです
あー。なんか泡をブクブク吹いてたような
『ノーカントリー』ではあんなにクールだったのにこちらでは情けないシーンが盛りだくさんで、「役者やのー」と感心しました(笑)
Posted by: SGA屋伍一 | May 11, 2009 07:50 AM
こんばんは!
ゴヤって、映画でみるより、もっとしっちゃかめっちゃかな人物だったんですねー。
まあ、冒頭からかなりきわどい挿絵とか描いていたみたいだし、
女王の顔とかも嫌みにリアルだったみたいですからねぇ〜。
ちょっと二面性がある感じですよねー。
異端審問の牢から出て来たナタリー・ポートマンの姿が
結構凄くて、衝撃的でしたが、コロコロ変わる権力者にそって
うまく時代を乗り越えていたゴヤは、案外したたかな人だったのかもしれませんねぇ〜。
Posted by: ルナ | September 08, 2009 01:14 AM
>ルナさま
すばやきお返しありがとうございます
才能のある人って性格に問題がある場合が多いようですからね
レンブラントもそうだし、ゴッホもかなり気性の激しい人だったとか・・・
女王の肖像画のエピソードは愉快でした(笑) あれはきっと彼なりに自信作だったんじゃないでしょうかね~
わたしも劇中のゴヤからは、パトロンたちにはおべっかを使っているようで、心の中では舌を出してるような、そんな強かさを感じました(笑)
Posted by: SGA屋伍一 | September 08, 2009 07:41 AM