DEATH SAID 伊坂幸太郎 『死神の精度』
Zくんから貸してもらった伊坂幸太郎二冊目。今年春に映画化された『死神の精度』をご紹介します。
主人公は「千葉」と呼ばれる死神。彼らは人間の姿をして、人間の中に溶け込み、「上」が決めた対象者を一定期間観察します。彼らが「可」とすれば対象者は死に、「見送り」とすれば生きながらえることになります。
大半の死神は職務怠慢で、ろくに観察もせず「可」の決定をくだしてしまうのですが、千葉は例外的に仕事熱心。対象者に積極的に近づき、彼らの人となりを知ろうと努めます。これは、そんな千葉が出会った六人の男女の物語。
OL、ヤクザ、非行少年、老婦人・・・・ 千葉が会う対象者たちは、年齢も境遇も様々。しかし皆それぞれ生きる事に一生懸命で、不思議な魅力を持っております。読んでいるうちに、彼ら彼女らに好感を抱く人たちも多いでしょう。「なんとか助かってほしい」と。
しかしさすがは死神、千葉も滅多なことでは「見送り」の決定はくだしません。普通の作家なら情にほだされて生かしてしまうようなキャラクターを、千葉、そして作者はばっさりとあの世へ送ります。この非情ぶりはなかなかのもの。「ハードボイルド」とうたっていながらメロメロな話が多い中で、この千葉の性分はまさしくハードボイルドといえるでしょう。たぶん映画のほうはもっと情に訴えた話になってると思いますが・・・・
ところが不思議なことに、読み終えてもあまり暗い気分にはならず、むしろ奇妙にさわやかな心地さえいたします。
例えるなら、一枚の美しい絵のようなものでしょうか。それを描いた画家がどんな死に方をしようとも、その絵が美しいことには変わりはありません。同様にこのお話に出てくる男女も、はかない人生だったかもしれないけれど、彼らが「いい人」「面白い人」であったことには変わりが無い・・・ そんな感じかと。ううう・・・ うまく説明できないなあ
ま、単に暗い救いのない話ではないので、そういうのが苦手な人でも楽しく読めると思います。
わたしが一番印象に残ったのは4話目にあたる「恋愛で死神」。千葉はとあるブティックに勤める青年、萩原くんを担当することになります。彼はなかなかの美青年でありながら、自分の中身をみてほしいという思いから、わざとぶかっこうなメガネをかけています。そんな彼が店にやってきた一人の女性に恋をします。最初こそ不振がられたものの、やがて徐々にうちとけていく二人。果たして千葉はいかなる決定をくだすのか・・・・
仕事にはどこまでもクールだけれど、ほんの一瞬、あるかなしかの優しさを見せる。そんな千葉のキャラがよく表れたお話となっています。
例外的なのは3話目にあたる「吹雪で死神」。このエピソードで、珍しくも伊坂氏はコテコテの「本格ミステリー」に挑戦しておられます。吹雪であるホテルに閉じ込められた数人の宿泊客。その中で一人の男が変死を遂げる。殺人なのか? ならば犯人は誰か? 動機は?
『このミステリーがすごい!』にも選ばれていることからわかるように、伊坂氏は世間では一応ミステリー作家としてとらえられているようです。
『チルドレン』もそうでしたが、どのエピソードにも謎と意外な真相が用意されていて、そういうところは確かにミステリーといっていいかもしれません。
しかし一般のミステリーと比べるとあまりに風変わりですし(なんせ普通に死神が出てくるし・笑)、謎よりも人間の心理に重点を置いているところは、素直にミステリーとは言いがたいものがあります。伊坂風エンターテイメント・・・ そう言ったほうがしっくり来るような。
やはり『チルドレン』と同じく、この作品も連作短編集となっています。単に主人公が同じというだけではなく、全部読み終えるとバラバラに思えていた幾つかのエピソードに、意外なつながりが見えてくる・・・ そんなにくい構成。ストーリーテーリングといい、こうした「仕掛け」といい、先に述べた人物造形といい、伊坂幸太郎、なかなかに「うまい」作家であります。Zくんに言わせると、いまんとこ連作短編はこの二冊だけで、ほかはみな長編らしいですが。
そういうわけで、なんだか他の作品も読みたくなってきました。次はやはり映画化され、評判のいい『アヒルと鴨のコインロッカー』がにしようかなあ。Zくん、またよろしくね~
Comments
こちらにもお邪魔します
感想をお待ちしていましたよ~
コチラの感想にも温かなものがこみ上げてきました。
それに、、、伊坂さんの文章を読んでいるような気分になった!!
・・・・・・もしかして・・・SGA屋伍一さんと伊坂さんは似た空気を持っているかもしれない!!(と、また極端な思考に走る私・汗)
これは、なかなか面白い小説だったと思います♪
伊坂さんらしいセンスが光っていました~
私は『吹雪で死神』が好きだったなぁ~何だかアガサ・クリスティっぽくって(笑)
私は映画も観たんですよ~
ええ、ええ、もちろん金城さん目当てです
でね、、、映画もなかなか良かったですよ。
ちょっと退屈はしたんだけどね(汗)、雰囲気が良かったの~
3話を上手く繋げていたと思いますし、もしかして小説よりも温かさがあったかも。
次は『アヒル~』ですかぁ~
私は、死神とアヒルで伊坂さんについてブツブツ言っちゃったんですけど、、、やっぱり気になる作家さんなのでセコセコと読んでいます(笑)
Posted by: 由香 | August 20, 2008 10:57 PM
こんばんはー。
うちは「美容院のおばあちゃん」の話が好きでしたー。
伊坂幸太郎は、「文庫になったらどんどん読む」派なんで、今までの中やと「陽気なギャング・・・」と「グラスホッパー」が好きっすね。
「アヒル・・・」はねー、「このミス」で順位が高かったんで、かなり期待すぎて、読んでちょっと「んー」ってなりましたが、「映画にするのは無理ちゃうんかな?」って思ってたんで、なってビックリしました。
また感想見に来ますわー。
Posted by: やまわき | August 20, 2008 11:20 PM
>由香さま
こちらにもコメントありがとうございますー
>SGA屋伍一さんと伊坂さんは似た空気を持っているかもしれない!!
ありがとうございます
でも自分はたぶん伊坂さんよりも情に流されやすいタイプです。自分だったら6人全員「見送り」にしちゃいますから(笑)
映画も多少興味あったんですよね。高架の上を犬と歩く金城氏のビジュアルがなんだか印象的で。でも結局スルーしちゃいました(笑) 先に原作読んでたら見たかもなあ
>次は『アヒル~』ですかぁ~
友達次第ですね
カカシがしゃべる『オーデュポンの祈り』になるかもしれません。いまなら抵抗なく読める気がします
Posted by: SGA屋伍一 | August 21, 2008 10:20 PM
>やまわきさま
こんばんはっすー 最近ご無沙汰しててすいません
そうそう、やまわきさんも伊坂さんをプッシュしてましたよね。わたしも美容師のばあちゃんの話好きです。この人があの人だとわかった時、胸にじんわりとこみあげてくるものがありました。○○くん、キミは忘れられてないんだよ~、と
『アヒルと鴨』はみなさん口をそろえて「映画の方がいい」とおっしゃいますね。そういう例って珍しいよなー
伊坂さん、映画化に恵まれてますよね。がんばって読みますんで、またよろしく~
Posted by: SGA屋伍一 | August 21, 2008 10:26 PM