影と共に消え去りぬ 二ール・バーガー 『幻影師、アイゼンハイム』
米国でインデペンデント系でありながら口コミで火がつき、22週のロングランとなった作品。じゃあなんでこんなに来るのに時間がかかったの? 『幻影師、アイゼンハイム』紹介いたします。
19世紀末オーストリア。とある城下町に住む奇術師志望の少年は、町にお散歩に出ていた公女(プリンセス)テンコーと恋に落ちます。しかし悲しいかな身分の差はいかんともしがたく、失意の少年はかなわぬ恋を忘れるため、奇術修行の旅に出たのでした。
それから十数年後。少年はアイゼンハイムと名を改め、ウィーンで奇術師としてデビューします。その超絶的な腕前はたちまち評判を呼び、劇場は押すな押すなの大盛況。そしてその噂を聞きつけた将軍、キム・イルージョンも彼のショーに足を運ぶことになったのでした。
将軍と共に現れた女性を見てアイゼン(略)は驚愕します。その人こそは初恋の相手プリンセス・テンコーだったのです。再び燃え上がる恋。しかしテンコーはいまやキム・イルージョンの婚約者。果たしてアイ(略)はテンコーをつれて無事脱北することができるでしょうか。
原題は『THE ILLUSIONIST(奇術師、手品師)』。しかしこれでは地味だと配給会社が考えたのか、上のような洒落た邦題が付いております(追記:この題は原作小説の訳者さんのアイデアだそうです)。「幻影師」と「アイゼンハイム」の間には謎の「、」が入ってますが、これには何か深い意味があるのかなーと思い1分ほど考えてみました。が、かったるくなったのでやめました。たぶん『モーニング娘。』の「。」のようなものなのでしょう。
本作品は音楽の都ウィーンを舞台としております。けっこうがんばって当時の模様を再現したようですが、はっきしいってこの映画のウィーンは「地味!」です
そんなに華やかな装飾があるわけでもなく、灰色と茶褐色が大体を占め、異名の「音楽」がなりひびいているわけでもなく。
ただそんなどこか薄暗い町に、得体の知れないマジシャンと奇術がみごとにマッチ。そうした背景と題材、そして幻想的なストーリーがあいまって、一応現実に可能なお話でありながら、どこか変わったおとぎ話のような印象を受けます。最近の例でいうと『スウィニー・トッド』と似てますかね。こちらでは誰も歌いませんけど。
個人的に気持ちよかったのは、主人公が「奇術」を武器に国に立ち向かっていくところ。奇術というのは本来人を驚かせるだけの芸でしかなく、実用的な価値はなきに等しいもの。どころがそんな玩具みたいな特技を駆使して、国家権力を翻弄していく。そんなところがなんともバカバカしく、痛快で、かつおシャレでもありました。
またたぶんCGなんだろうけど、アイゼンが披露してくれる独創的なマジックの数々も、わたしたちの目を楽しませてくれます。
気持ちよかったといえばもうひとつ。これもまあ「オチ系」の映画なんですが、今回は「こうなったらいいのにな」と思っていたら本当にそういう方向へ話が行ってしまい、別の意味でビックリしました(笑) しかしそれは決して興ざめとはならず、むしろかえってほっと安心するような、そんなオチでありました。
役者さんではアイゼンと皇太子の間で板ばさみとなる、警部役のポール・ジアマッティが特に目をひきました。職務に対して悩む一方、マジックのネタについて不思議がるお茶目な一面も。いい年こいたオッサンでありながら、ぺカーッと輝く日光のような、まぶしい笑顔が特に印象に残っています。
ところでこの話、「オーストリア皇太子」なんてものが堂々と出てくるので、もしかして実際の事件に材を得たものかとちょいと調べてみました。すると名前は違うものの、この時代にやはり親父さんと折り合いの悪かったプリンスがいて、「男爵令嬢マリー・ヴェッツェラ」なんて人とちょっとしたスキャンダルを起こしていたことが判明。ご興味おありの方は「ルドルフ皇太子」「マイヤーリンク事件」でぐぐってみてください。
あとこの時代の欧米の人たちって、中国人ってマジで怪しい術を使える、と信じてたフシがあるようですね。推理小説のルールで知られる「ノックスの十戒」にも「中国人を出してはいけない」という項がありますし(笑) アイゼンが後半中国の方々を助手に用いていたのは、そんな効果を狙ってのことかと思われます。
まーそんなファンタジーがまだ通用する、微笑ましい時代だったということですね。昔はいかったなー


Comments
おスガさん、こんにちは~。
>「幻影師」と「アイゼンハイム」の間には謎の「、」が入ってます
ぬぉ~!!!!
やられた!!
ぜっんぜん気づきませんでしたよ。
こんな「、」あったっけ?
あった?ねえ、最初からあった??
ここにコメントを残すよりも先に、自分のブログを修正しました・・・
しかもおスガさん、オチを読んでしまったなんて・・・
何で読んじゃうのよ!!
なんで「よんで」を変換しようをすると「ヨンで」が一番最初に出てくるのよ!!
あたしゃ別にヨンさまファンじゃないわよ!!
キレキレキャラになってしまったスワロでした。
Posted by: swallow tail | June 13, 2008 05:55 PM
こんにちは。
タイトルに「、」ありましたかねぇぇぇ
TB&コメントありがとうございます。
えぇぇ
そうそう、ポール・ジアマッティは印象的でしたよね。

)

公務員の苦しみ。
ノートン君の敵役は、皇太子でしたが。
ノートン君自身は、実はご財閥の御曹司なんですよねん。
いい子にして待ってれば、それなりに大金持ちの道が待っていたであろうに。敢えて、俳優という職業にチャレンジした好奇心が大好きです。
日本に留学経験があるということで、日本語ペラペラだったりとか。
(スティーブン・セガールさんの怪しい大阪弁も味があるけどネ
またノートン君の日本語が聞きたいですーーー
私は、何となく否定的とも取れるレビューになってたかもしれないけれど。
いえいえ、堪能できました。
ノートン君、大好きだもの。
次回作はハルクを演じるというのは今だに意外ですが。
是非とも来日して欲しいな
Posted by: となひょう | June 13, 2008 09:09 PM
>スワロさま
お返しありがとうございます
>あった?ねえ、最初からあった??
配給会社に聞いてちょんまげ(笑)
>何で読んじゃうのよ!!
ふふふ・・・ おれに読めないオチはないのさ・・・・
そしていかなる「、」も見逃さないのさ!
と言いつつ原題に「THE」を付け忘れていた・・・ こっそり修正しておいたのは僕たちだけの秘密だ!
それにしてもスワロさんちょっと荒れ気味?
酒でココロを癒してね~
Posted by: SGA屋伍一 | June 13, 2008 09:59 PM
>となひょうさま
お返しありがとうございます
公務員は大変そうですよね。ましてわがままな上司のもとで働くのは・・・
>ノートン君自身は、実はご財閥の御曹司なんですよねん。
なんだって~!! 映画じゃさも「庶民でござい」っていう感じだったのに・・・ だまされました。さすがアイゼンハイム(笑)
ずいーぶん前、あるテレビ番組でノートンさんのインタビュー見たことありまして
ノートン 「(英語で)アン・リーの新作見たよ。日本語ではなんてタイトルなの?」
インタビュアー 「『グリーン・ディステニー』です」
ノートン 「・・・・ (日本語で)ヘンデスネ」
味のあるヤツだ、と想いました(笑)
そういえば『ハルク』の前のヤツはアン・リーが監督してたんですよね。まあどうでもよか話ですが
Posted by: SGA屋伍一 | June 13, 2008 10:04 PM
SGA屋伍一さんこんばんは〜
うれしいコメントありがとです。
そうかぁ〜、アイゼンハイムの前に 、(てん)があるとは
気づきませんでしたよ!
イリュージョニストでよかったのになーって思います。
ノートンのハンドパワー、凄かったですネ
ラストは思ったのとは違ったけど、なかなか良かった☆
Posted by: mig | June 13, 2008 10:30 PM
>migさま
おかえしありがとうございます
>、(てん)
意外とみんな気がつかないものなんですね
それにわたしが気づいたというのが不思議だ・・・
「イリュージョニスト」でもいいと思いますが、そうすると、やっぱりみんな某プリンセスを連想してしまうんじゃないでしょうかね(笑)
>ハンドパワー
マリックさんもかくや・・・という迫力でした
ただマリックさんは霊とか出さないので安心して見られますね
Posted by: SGA屋伍一 | June 14, 2008 07:56 PM
SGA屋伍一さん、こんばんは。
>「幻影師」と「アイゼンハイム」の間の「、」
「我は幻影師、その名もアイゼンハイムでござる」ってな感じ?
あるいは、幻影師とアイゼンハイムは別の人だったのかもしれませんね。
そういえば、もう一人(お医者さんだったか)もグルじゃないかと書かれていた方がいたような。
私はあまり謎解きにこだわらないタチなので、そんなことにはちいとも気付かなかったんですが。
ハプスブルクの香りに満足。
Posted by: かえる | June 16, 2008 08:39 PM
>かえるさま
すばやいお返しありがとうございまする~
>「、」
これがないとなんだか特撮ヒーローかスーパーロボットの名前のようでもありますしね
「へんしーん!!(あるいは『がったーい!』) あいぜんはいーむ!」
なんてか
>幻影師とアイゼンハイムは別の人だったのかもしれませんね
それとは微妙に違いますけど、少年時代の彼とE・ノートンが全然似てないので、「回想シーンの彼とアイゼンハイムは別人?」なんてことを本気で考えたりしてました
ハプスブルグってどんな香りがするんだろう
ウィンナーかウィンナーコーヒーのような香りでしょうか
Posted by: SGA屋伍一 | June 16, 2008 09:04 PM
こんばんわ。
≫幻影師」と「アイゼンハイム」の間には謎の「、」が入ってますが、
ええ!?そうだったんですか?今の今まで知りませんでした(苦)。
『藤岡弘、』みたいなもんですかね?それとも細木カズコに何か
言われたのかしら?
≫キム・イルージョン
ウハハハハ!!!ウハハハ!!
なんならイリュージョンで幻影と化してくれ!って思いますよ、マジで。
アイゼンハイム→アイゼン→アイ・・・って!!
ひゃあ・・・腹よじれるほどウケました(大爆笑)。
Posted by: 睦月 | June 18, 2008 09:59 PM
>睦月さま
お返しありがとうございます~
>『藤岡弘、』みたいなもんですかね?
そんな霊、いや例もありましたね。この「、」には「継続中」みたいな意味と聞きました
そういえば「サンプラザ中野」も「サンプラザ中野くん」になったそうですが・・・ まあどうでもいいですね
>キム・イルージョン
さんはマジで某プリンセスにご執心だったようで。特撮映画も好きみたいだし、意外にファンタジー好きなのかも?
>アイゼンハイム→アイゼン→アイ・・・って!!
消えるマジックです(笑)
え? アイが残ってるって?
ふふ・・・ どんなことがあろうとも愛だけは消えやしないのさ!(赤坂二丁目のホスト風に)
Posted by: SGA屋伍一 | June 19, 2008 10:12 PM
こんばんは!
これはめっぽう好みの雰囲気の作品・・・
どこがって,幻想的なところ(そこだけかよ)
あと,もちろんノートンも。
で,原作は?と気になってミルハウザーさんの原作も読みましたら
短編で,摩訶不思議なマジシャンの世界が,微に入り細に入り描かれていましたが
肝心のロマンス部分は全く存在していなかったので
映画版はかなり付け足しているんだ!と驚きました。
それでもミルハウザーの持つ独特の妖しい世界は
映画で感じたものと同じでしたね~。
Posted by: なな | August 25, 2008 11:27 PM
>ななさま
おかえしありがとうございます!
どうやら『ハルク』よりこちらの方がお気に召したようですね(笑)
幻想的でありながら、ギリギリ現実可能な範囲のお話でした
>ミルハウザーさんの原作も読みましたら
おお、さすが!
>肝心のロマンス部分は全く存在していなかったので
なんと! 驚愕の真相!!(笑)
うーん・・・ あの話からロマンスをとったらどうなるんだ!? まったく別物になってしまうのでは・・・ 短編ならわたしもがんばって立ち読みしてみようかしら(せこい)
わたしこれ東京まで観にいったんですけど、来月地元(S岡県東部)でもやることになりました・・・
Posted by: SGA屋伍一 | August 26, 2008 09:37 PM
またまたコメントを・・・
>うーん・・・ あの話からロマンスをとったらどうなるんだ!?
ソフィなんて存在してなかったわん。あ,たしかレオポルドも・・・。
だからアイゼンハイムは,恋のためにすべてを欺くロマンチックな男ではなくて
摩訶不思議な魔術(特に幽霊を出せる)を行う稀代のマジシャンで
おしまいには自分も消えちゃった~、という(だけの)お話でしたよ。
映画は全く別物ですね,ストーリーに関しては。
ミルハウザーは,その精緻な描写が魅力的な作家ですから
雰囲気だけでも酔える物語ではありました・・・。
しかし映画のストーリーそのものを期待して読んだので
読み終えた後はすんごいペテンにかけられた気分がしました。
Posted by: なな | August 27, 2008 12:38 AM
>ななさま
フォローのコメントありがとうございます! 謎が解けました(笑)
原作は映画以上に人を食った話なんですね
こういう「奇妙な味」の短編、自分はかなり好みですが、これ、忠実に映画化したら約二時間もたないでしょうね・・・
自分はミルハウザーさんという作家さん知らなくて、ついさっきウィキペディアで調べてきました
『モルフェウスの国から』『バーナム博物館』『三つの小さな王国』『ナイフ投げ師』・・・・
タイトルから想像するに、やはりファンタジックな作風の方のようで。ピューリッツァ賞も取ってたんですね、この方
Posted by: SGA屋伍一 | August 27, 2008 08:50 PM
こちらにも参上しました
あの皇太子は実在した方がモデルだったかもですね~
後でちょっと調べてみようかな♪
一応ノートンファンでもあるので(あ~~~好きな俳優が多くて忙しい・笑)、楽しみにしていた映画です。
」とか言って、目をハートにした気がします(笑)
でも、、、我慢がきかずネタばれ気味での鑑賞だったので、イマイチラストが盛り上がらなかったんです。自業自得ですよね~
何にも知らないで観たら、きっと単純に「きゃ~ロマンチック
Posted by: 由香 | December 20, 2008 03:00 PM
>由香さま
こちらにもコメント・TBありがとうございます
モデルになった事件、なんでも向こうでは有名な事件らしいです
まあ大変な騒ぎになるでしょうからね
そして雅子様の立場やいかに
こちらでも仮に皇太子様がどこぞの女性とスキャンダルなんておこしたら・・・・ゴホンゴホン
ネタバレ気味での鑑賞でしたか・・・ 毎日ネット見てると、ついついぶつかっちゃいますよね。『ミスト』の時なんてそれがイヤで、ネット見るときも必要以上に慎重になってました(笑)
きれいにまとまっていたのが良かった反面、きれいすぎてつい忘れそうになってしまう映画でした。イリュージョンですね(笑)
Posted by: SGA屋伍一 | December 20, 2008 08:50 PM