そこにオイルがある限り ポール・トーマス・アンダーソン 『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』
♪ まっくろけのけ まっくろけのけけけっ
(爆風スランプ 『まっくろけ』)
本日はこれまた今年のアカデミー賞関連で話題となった、『ゼア・オイル・・・』じゃねえ、『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』を紹介いたします。
時は20世紀初頭のアメリカ。カリフォルニアで油田開発に精を出していたダニエル・プレインビューという男がいました。石油が出ると聞けばすっとんでいって、口八丁で利権を確保する彼のやり方は、当然様々な軋轢を生むことになります。特にある土地のイーライという狂信的な青年とは、利権をめぐって激しくやりあうことになるのですが・・・
原作はアプトン・シンクレアという作家が1927年に発表した『石油!』。ただPTA監督が下敷きにしているのは初めの三分の一程度だそうです。内容的にも共産思想がバリバリ入っているとのことで、映画とはかなり違う話のようです。
この映画の世界はダニエル・デイ・ルイス演じる主人公、ダニエル・プレインビュー(ややこしい)を中心に回っています。それほどに彼の存在は強烈で圧倒的であります。
異常なまでの人間嫌いのダニエルさん。その原因はどうやら複雑な家庭環境にあった模様。はっきりとは語られませんでしたが、子供が殴られることを異常に嫌がっている様子から、どうも深刻な虐待でもあったのでは・・・なんて考えてしまいます(虐待というのは親から子へ受け継がれる場合も多いようですが)。
そんなダニエルの合わせ鏡として二人の人物が登場します。
一人は息子のH.W. この子のフルネームって出てこなかったと思うんだけど・・・ どなたか知っていたら教えてつかあさい。誰に対しても強面のダニエルですが、H.W.に対してだけは父親らしい笑顔を見せます。
この子はダニエルの「人間性」を表しているのでは・・・と考えます。人間性とは、言い換えれば愛情やモラル、あるいは人恋しさなどです。そんな風に思ったのは、劇中でダニエルが「ある行動」に走ったのが、二回ともH.W.がいなくなってしまった時だったからなんですが。
もう一人はあらすじの中でも述べたイーライ。こちらはことあるごとにダニエルと衝突いたします。
彼はダニエルの「信仰心」を表しているように思えます。あんなイカレかけたアンちゃんが「信仰心」でいいものか、という気もしますが、PTAにとって信仰とは、ああいう胡散臭くてどこか狂ったものに感じられるということなのでしょう。名前の中に使徒が二人も入っているというのに、なんともバチアタリな人です。
人の愛も神の愛もいらないつもりでいても、人間である以上、家族の愛情くらいは普通に欲しがるものです。このお話はダニエルの数十年に渡る、その欲求との戦いを描いた作品ともいえます。果たしてそれすらも完全に失った時、彼はいったいどうなるのでしょうか?
あとこれは映画とはあんまり関係ないんですが。
タイトルにある「BLOOD」。わたしはこれてっきり「流血」を意味してるのかと考えていましたが、どうも違うものを指していたようで。ただなんとなく思ったのは、「石油と血液の質感って似てるよな」ということ。豪快に混ざっちゃってるシーンもあったし(笑)。
もしかしたら地球にとって石油とは、血液みたいなものなのかもしれません。そいつを吸い上げれば吸い上げるほどに、環境も生物も疲弊していっているのは明らかなわけですから。といって、一度その味を覚えてしまった我々は、いまさらそいつをすすることをやめることはできないわけですが・・・・
とまあこんな感じで思索にふける材料にはなるんですが、個人的にはこの映画、どうにも「長いなー」という思いを否めませんでした![]()
ラストでダニエルがある言葉をつぶやくんですが、その言葉がちょうどその時のわたしの心境と見事にシンクロしてしまい、思わず笑ってしまいました。いやー、今まで映画たくさん観てきたけど、こんな風に言って終わった映画は初めて観たわ(笑)
デイ・ルイスやイーライ演じるポール・ダノ(双子の兄のポールも演じていて、さらにややこしい)の青筋の立てっぷりはとっても迫力満点なので、普段役者の演技に注目して観てる方ならば、決して退屈はしないと思うんですけどね。
それにしても、ガソリン、当分安くなりそうにありませんねえ。暮らしは苦しくなる一方だ・・・・
♪しょみんは きりきり はたらけー
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ドロドロの美学に圧倒。
20世紀初頭のカリフォルニア。鉱山労働者のプレインビューは、石油採掘事業
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Comments
おおおおお、こちらにもお邪魔しますだ。
>この子はダニエルの「人間性」を表しているのでは
なるほどー。



そうそうそう、H.W.との場面では人間臭く感じましたものね。
この作品、ブロガーさんの間では前評判ほどに盛り上がっていない気もするのですが。(気のせいかな・・・)
ダニエルという人物には、何か魅せられてしまいました。
決して共感はできないし、別に一人の異性として魅力を感じたという訳ではないのですが。
何があっても挫けるということを知らない、その不屈の精神が興味深くて。
人間として黒い部分を見せられたけど、あの生命力は凄いと思いました。
何が起きても喰らいついていく。
あのハングリー精神は真似できませんが、とても印象深い作品でございました。
Posted by: となひょう | May 22, 2008 at 08:46 PM
>となひょうさま
こちらにもありがとうございまする
>ブロガーさんの間では前評判ほどに盛り上がっていない気もするのですが
そうですね・・・ とりあえずご覧になっておられる方は多いようですが、『つぐない』『ノーカントリー』に比べると「大絶賛!」という意見は少ないですかね。その二作に比べると、確かにちょっと地味だったかな、という気はします。荒野でオッサンがひたすら石油掘り返している話ですからね(笑) 女優さんもほとんど出てこないし・・・ メアリーちゃんくらい?
>ダニエルさん
こういう風に言うとわたしは『ベスト・キッド』なんかを思い出すのですが
、それはさておき
確かに彼の個性なくしては成立しえないお話でしたね
あそこまで利権を貪る理由について「人から遠ざかりたいから」と言ってましたが、それだけではなく、もっと本能的というか衝動的なものに駆られて行動しているように思えました
Posted by: SGA屋伍一 | May 23, 2008 at 08:23 AM
こんばんは。
何か、人間と言うものの嫌な部分を見たという感じでした。
原罪というか、やるせない部分を見せ付けられた様なとでもいいましょうか。
しかしどこかでダニエルに引かれる、というかダニエル的な厭世感の様なものを自分の内面に感じたのも事実で、ある意味で恐ろしい映画でした。
Posted by: ノラネコ | May 25, 2008 at 12:40 AM
>ノラネコさま
お返しありがとうございます
人間というものの嫌な部分・・・・
ダニエルは人と接する度にそいつが目につく、ということを言ってましたね
自分はそういう負の部分もひっくるめて全人類を愛する・・・なんて高みには到底達していませんけど、それでもできる限り多くの人を好きになれたらな、とは思います。これは映画に対しても言えることなんですが(笑)
とはいえ参っている時には、「みんな消えちまえばいいのに」なんて思ってしまう・・・・ダニエルのそんな気持ちもまたわかります
Posted by: SGA屋伍一 | May 25, 2008 at 08:58 PM
SGA屋伍一さん、こんばんは。
爆風スランプといえば、「しあわせ」あたりのアルバムがすげー好きでした。
爆風の言葉のセンスって意味不明でも好きだったなぁ。
電気が来たぜ♪
エネルギーって生み出すのも実に大変なんですよね。
炭鉱労働者ものの苦労映画はよく見ていたけど、石油の方もやっぱり掘るのは危険で重労働だったんですねー。
原発だって、危険だしー。
そんなわけで、液体の石油と血のテーマの重ね方がお見事でした。
今度からは、赤は血の色、黒は石油の色~♪って歌いまーす。
バターも品薄。
Posted by: かえる | May 26, 2008 at 01:50 AM
>かえるさま
お返しありがとうございます
「爆風」はどっちかというと「RUNNER」以降から入れあげてたミーハーものです
初期の歌では「無理だ!」「愛がいそいでる」「たいやきやいた」なんかが好きでしたね
「まっくろけ」は確か本人たち曰く「史上最悪の労働歌(笑)」
そうそう、エネルギーを生み出すのはまた別のエネルギーがいるんですよね
炭鉱に比べれば木っ端ミジンコになる確率は少ないかもしれませんが、油まみれで十二時間連続で働いてる労働者さんたちに頭が下がる思いで見ておりました
>赤は血の色、黒は石油の色~♪って歌いまーす
そんな『プリンプリン物語』のことなんて、わたし全然知りませんから!
♪お金さえあれば~ なんでも手に入る~
Posted by: SGA屋伍一 | May 26, 2008 at 01:38 PM
爆風スランプといえばあられちゃん♪ばいちゃ!・・・ん、Dr.スランプでしたっけ?痛っ
・・・てなわけで(笑)んちゃ!
私的にはノーカントリーよりも好きな映画でしたよ。
娯楽的要素一切なし!っていうのがとってもツボ。笑
あ、でも牧師さんのパフォーマンスはちょっと面白かったです;
そんな変な牧師さんの方がいい人で、プレインビュー氏のほうがモンスターなんてね。私からすれば逆だろーって感じっす;違うか・・・
それにしてもなんだかとっても哀れでした、ダニエルさん。
子供にはやっぱりアルコール入りミルクは与えちゃいかんと思います。
絶対大人になってからあれこれ恨まれるかと;笑
Posted by: シャーロット | May 26, 2008 at 11:29 PM
>シャーロットさま
オッス! オラ伍一! 鳥山明つながりだな! 来週もまた、見てくれよな!
・・・・お返しありがとうございました
>そんな変な牧師さんの方がいい人で、プレインビュー氏のほうがモン>スターなんてね。私からすれば逆だろーって感じっす;違うか・・・
いや、それはあなたが正しい
この映画を見た人のうち50人に49人は、「イーライの方がおかしい」と思うんじゃないでしょうか。たぶん
「いかれてる」という意味でも、「笑える」という意味でも(笑)
>子供にはやっぱりアルコール入りミルクは与えちゃいかんと思います。
そうっすね。あれはまあ、大西部の男たちにしてみれば基本的な教育方法なんじゃないでしょうかね
ああやって幼いころから酒に慣らさせておいて、大きくなったころにはやがて立派なアルちゅ・・・酒豪になっているというわけです
Posted by: SGA屋伍一 | May 27, 2008 at 07:55 AM
SGA屋さん、こんばんは。
おー、私は『無理だ!』から爆風は好きでした。
高校の時はライブ行きました。
中野サンプラザではなかったんですが(爆;風
そして大きなタマネギでもなく・・・w
東京ドームでした。大きなタマゴ。惜しい。
タイトルが想像するのは、まさにノーカントリーのような血生臭さだったのですが、
血を求めるのと、石油を求める人間の姿とが全く変わらない表現になっていて見事でしたね。
Posted by: とらねこ | May 28, 2008 at 12:54 AM
>とらねこさま
おかえしありがとうございます
>私は『無理だ!』から爆風は好きでした
これはまたコアなお客様が来ました・・・
本人たちはこの曲のせいで完全にコミックバンドとして位置づけられてしまって、そのイメージを払拭するのに苦労していたようですね(笑)
>大きなタマゴ
で、やっていたということは全盛期のころですかねー
中野氏がDJをやっていた番組で「『あのタマネギってなんですか』とよく聞かれる」と言っていたのを思い出します
思い返せば『ノーカントリー』も金を得るために自滅していく男の話でしたが、モスやんもダニエルも「楽して暮らしたいから」というよりは、「命を燃やすための何かを求めている」という風に見えました
そういう男たちの姿というのは痛々しいながらも、ぎらぎらとまぶしく見えるものですね
Posted by: SGA屋伍一 | May 28, 2008 at 07:52 AM
こんにちは☆伍一さん
TBコメントありがとです☆
ちょっと長く感じちゃいましたけど
少年とダニエルデイルイスとの関係も良かった。
胡散くさい牧師、ポールダノもダニエルに匹敵できる演技で良かったし。
でもPTA作品って人を選びますよね〜
あんまり好きな方ではないですケド(笑)
Posted by: mig | May 29, 2008 at 10:20 AM
>migさま
おかえりなさいませ&お返しありがとうございます
>PTA作品って人を選びますよね〜
自分、PTA作品は他に『マグノリア』しか見てないんですよね
あちらよりはこの『ゼア・ウィル~』の方がとっつきやすかったです
ただ『マグノリア』を観たころは本当におバカな映画しかみてなかったので、今観たらまたいろいろ得られるものもあるかな・・・という気はします
そういえば『マグノリア』でも二組ばかし微妙な関係の親子が出てきましたっけ
Posted by: SGA屋伍一 | May 29, 2008 at 10:00 PM
こんばんわ。
≫その言葉がちょうどその時のわたしの心境と見事に
シンクロしてしまい
アハハハ。そっか、なるほど(大笑)。
たしかにちょっと長かったかなあ・・・デイ・ルイスの圧倒的な
存在感でかなり緩和されていたにしろ、やっぱり2時間半越えは
しんどい・・・。
イーライ役の彼は、『リトル・ミス・サンシャイン』でも訳の分からない
エキセントリックな役をやってましたね。
夢をかなえるまでは一言も話さないとかいう設定の青年でしたが、
今回はウザいほどにしゃべりまくって、狂いまくっていました。
それはそうと。
本当にガソリン高いですねー。
一体どこまで価格高騰するのか・・・・・(苦)
Posted by: 睦月 | June 05, 2008 at 12:11 AM
>睦月さま
お返しありがとうございますー
決して「退屈した」というわけではないんですけどね
起承転結のはっきりしたものばかり見ている身としては、ちと忍耐力を求められたことも確か
ただ、ダニエルのドス黒い人生を表現するには、やっぱりあんだけの尺が必要だったのかな、と今では思っております
>夢をかなえるまでは一言も話さないとかいう設定の青年
ははは
そりゃまたずいぶん極端ですね(笑)
今回しゃべりまくってたのはその時の反動だったりして(んなわきゃ-ない)
ガソリンはどうなったら安くなるんでしょうかね。もう国はあてにできそうもないので、いっちょテキサスあたりまで行ってきて、自分の油田でも掘り当ててこようかと思案する毎日です
Posted by: SGA屋伍一 | June 05, 2008 at 10:27 PM